4・1 緒言
第 3 章では,キンク損傷と引張強度の関係,キンク損傷の形状と引張強度の 関係について明らかにした.この結果よりPBO繊維の引張強度はキンク損傷の 数が増えるに従い強度低下が大きくなることを示した.また,キンク損傷を形 状でとらえたとき,引張強度の低下に大きく影響を及ぼす形状は 2 本のキンク 損傷が交差しているように見えるV型及びX型であることを示した.このこと よりキンク損傷が引張強度において内部欠陥として働くことが考えられるが,
キンク損傷が引張強度の低下に対して個数に依存するものか形状に依存するも のかは明らかにされていない.この場合I型のキンク損傷が2つのときの引張強 度とV,X型のキンク損傷が1つのときの引張強度が同じであるか分からない.
そこで,本章では,キンク損傷を導入したPBO繊維の引張強度についてワイ ブル統計解析を行うことで,キンク損傷を欠陥とした場合の欠陥強度や欠陥密 度について検討を行った.また,破面観察を行うことでキンク損傷が引張破壊 のき裂進展にどのような影響を及ぼすかついて考察を行った.
4・2 供試材料
供試材料は3・2 供試材料と同様であるためここでは省略する.
4・3 単繊維引張試験方法
キンク損傷の導入方法,単繊維引張試験片作製方法および試験方法は第 3 章 と同様であるためここでは省略する.
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4・4 結果および考察
4・4・1 ワイブル統計解析結果および考察
第3章においてPBO繊維のキンク損傷による引張強度の低下の割合を評価す るために残存強度比を定義した.第 4 章においても引張強度の評価にこの残存 強度比を用いた.
ここで,同じループ直径でキンク損傷を導入してもキンク損傷密度がばらつ いているため,引張試験で得られた残存強度比を統計的に整理することは難し い.そこで繊維方向への発生するキンク損傷の分布は一定であるとした上で,
ループ直径ごとに得られた残存強度比に対してキンク損傷密度をそろえ残存強 度比のワイブル解析を行った.以下に手順を示す.まず,同一ループ直径にお ける残存強度比に次式の2母数ワイブル分布を仮定する.
Ve R R
b m
R
P ( ) 1 exp /
(4-1)ここで,Ve,Rb,mはそれぞれ有効体積,尺度母数,形状母数である.このとき,
同一材料において,平均残存強度比は(4-2)式のように表すことができる.
m
V R
R
b
e 1/m 1 1 /
(4-2)このとき,形状や寸法の異なる試験片の平均残存強度比として,式(4-2)より体 積効果を表す関係式が導かれる.
V
eV
e
mR
R
2/
1
2/
1 1/ (4-3)ここで,R1,R2は平均残存強度比,Ve1,Ve2は有効体積である.ここで,ワイブ ル解析は材料内部に存在する欠陥のうち最弱欠陥で破壊するものに用いられる.
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よって,有効体積 Ve1,Ve2は有効体積内の欠陥の個数 S1,S2と見なすことがで き,次式が導かれる.
S S
mSR
R
2/
1
2/
1 1/ (4-4)ただし,mSは欠陥の個数に関するワイブル分布の形状母数である.ここで,破 壊がキンク損傷で生じると仮定すると,式(4-4)の有効体積内の欠陥の個数はキ ンク損傷の個数とみなすことができ,それぞれのループ直径におけるゲージ長 さが同じためキンク損傷の個数をキンク損傷密度に置き換えることができる.
ゆえに平均残存強度比がR1,R2 のときのそれぞれのキンク損傷密度を D1,D2 とすると,式(4-4)は次式のように表すことができる.
D D
mDR
R
2/
1
2/
1 1/ (4-5)ただし,mDはキンク損傷密度に関するワイブル分布の形状母数である.このmD
はそれぞれのループ直径でのmDである.また,式(4-5)は次式のようにも書ける.
CDは定数である.
D
D
D C
m
R 1 / log
log
(4-6)図4-1~4-4にそれぞれループ直径5,2.5,1.25,0.65 mmにおける残存強度比
とキンク損傷密度の関係を両対数紙上にプロットした結果を示す.ここで,平 均キンク密度相当の残存強度比を求めるためには,それぞれ図中に矢印で示す ように勾配-1⁄mD の直線に沿って図の各点を所定のキンク損傷密度まで平行移 動させればよい.しかし,実験では一定のキンク損傷密度での残存強度比は得 られていないためmDは未知である.そのため,ここでは図中の回帰線の傾きを 式(4-6)中の-1⁄mD とし,平均キンク損傷密度相当の残存強度比を求めた.
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1 5 10
0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
Kink band density n/100, μm
Residual strength ratio
D=2.6 1.5
15
1 5 10
0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
Kink band density n/100, μm
Residual strength ratio
D=4.7 1.5
15 Fig. 4-1 Relationship between residual strength ratio for diameter
of fiber loops of 5.0 mm and kink band density.
Fig. 4-2 Relationship between residual strength ratio for diameter of fiber loops of 2.5 mm and kink band density.
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1 5 10
0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
Kink band density n/100, μm
Residual strength ratio
D=8.2 1.5
15
1 5 10
0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
Kink band density n/100, μm
Residual strength ratio
D=6.2 1.5
15
Fig. 4-3 Relationship between residual strength ratio for diameter of fiber loops of 1.25 mm and kink band density.
Fig. 4-4 Relationship between residual strength ratio for diameter of fiber loops of 0.65 mm and kink band density.
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図 4-5~4-8 に各ループ直径において平均キンク損傷密度相当の残存強度比を
ワイブル確率紙上にプロットした結果を示す.縦軸は累積確率を,横軸は平均 キンク損傷密度相当の残存強度比であり,▽,○,△,□はそれぞれループ直 径,5,2.5,1.25,0.65 mmのときの繊維の残存強度比を示している.図より,
各ループ直径における残存強度比は 2 母数ワイブル分布で近似できることが分 かる.また,表4-1に各ループ直径における尺度母数と形状母数を示す.強度代 表値である尺度母数は,キンク損傷密度の増加と共に小さくなっておりキンク 損傷が欠陥として働いていることが分かる.形状母数はループ直径が2.5,1.25,
0.65 mmにおいてほぼ同じ値を示した.
図 4-9 にワイブル解析で得られたそれぞれのループ直径における尺度母数と キンク損傷密度の関係を両対数グラフにプロットした結果を示す.▽,○,△,
□はそれぞれループ直径が5,2.5,1.25,0.65 mmのときの尺度母数を示してお り,キンク損傷密度の値はそれぞれのループ直径における平均キンク損傷密度 を示している.また,●はキンク損傷の発生していないPBO繊維の引張強度の データを示している.図より,キンク損傷密度 4 までは強度低下はほぼ見られ ず,キンク損傷密度 4 以降では大きく強度低下を起こしていることが分かる.
ループ直径2.5,1.25,0.65 mm では,キンク損傷密度の増加によって強度低下 が起きているため,キンク損傷が欠陥として作用しているといえる.最小二乗 法によりループ直径2.5,1.25,0.65 mmの3点をから強度低下の傾きを求める と0.12となり,式(4-6)に当てはめると mDの値が 8.21となる.ループ直径 2.5,
1.25,0.65 mmは形状母数がほぼ同じ値を示しており,図4-9の強度低下傾きか
ら得られるmDの値と近い値を示している.そのため,ループ直径2.5,1.25,0.65 mmにおいては,キンク損傷が欠陥として働き,引張強度は有効体積の概念で説 明できると考えられる.また,キンク損傷密度が4より小さいループ直径5.0 mm の形状母数は他のループ直径の形状母数と異なり,引張強度の低下もほぼ見受 けられない.これは,前章で示したようにループ直径5.0 mmではキンク損傷の 形状はI型が多く,I型のキンク損傷は強度低下に与える影響が小さいためであ ると考えられる.
よって,キンク損傷の発生したPBO繊維の引張強度はキンク損傷密度4をし きい値として,キンク損傷密度 4 まではキンク損傷は強度低下に影響を及ぼさ ず,それ以降では,キンク損傷の数が増加するに従い強度低下を起こしている
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ことが分かる.前章の図3-15と図3-17においてI型,X型のキンク損傷による 引張強度の低下を見るとI 型のキンク損傷密度 6の引張強度と X 型のキンク損 傷密度3の引張強度が同程度であるためこの結果は妥当であると言える.なお,
前章において,V型とX型ではX型の方が引張強度の低下に与える影響が僅か ながら大きいと結論付けているが,本章では,引張強度の低下はキンク損傷の 個数に依存し有効体積の概念で説明できると結論付けている.前章の結果より,
厳密にいえばV型とX型では引張強度の低下に与える影響はX型の方が僅かな がら大きいと言える.しかし,図3-16,3-17のデータのばらつきが大きいこと,
V 型とX 型の引張強度の低下に与える影響の差が僅かであること,ワイブル統 計解析結果から損傷密度 4 以上では有効体積の概念に従うことから,キンク損 傷の数で強度低下を評価する上ことは妥当であると言える.
0.5 1.0 2.0 3.0 50.0 90.0 99.0 99.9
Cumulative probability Pi , %
Residual strength ratio 5.0
95.0 80.070.0 60.0 40.0 30.0 20.0 10.0
0 0.5 1.0 2.0
Fig. 4-5 Weibull plot of residual strength ratio for diameter of fiber loops of 5.0 mm.
- 66 - 0.5
1.0 2.0 3.0 50.0 90.0 99.0 99.9
Cumulative probability Pi , %
Residual strength ratio 5.0
95.0 80.070.0 60.0 40.030.0 20.0 10.0
0 0.5 1.0 2.0
Fig. 4-6 Weibull plot of residual strength ratio for diameter of fiber loops of 2.5 mm.
0.5 1.0 2.0 3.0 50.0 90.0 99.0 99.9
Cumulative probability Pi , %
Residual strength ratio 5.0
95.0 80.070.0 60.0 40.0 30.0 20.0 10.0
0 0.5 1.0 2.0
Fig. 4-7 Weibull plot of residual strength ratio for diameter of fiber loops of 1.25 mm.
- 67 - 0.5
1.0 2.0 3.0 50.0 90.0 99.0 99.9
Cumulative probability Pi , %
Residual strength ratio 5.0
95.0 80.070.0 60.0 40.0 30.0 20.0 10.0
0 0.5 1.0 2.0
Fig. 4-8 Weibull plot of residual strength ratio for diameter of fiber loops of 0.65 mm.
Diameter of fiber loops, mm
Shape parameter m Scale parameter Rb
5.0 12.12 0.97
2.5 10.96 0.98
1.25 10.88 0.96
0.65 10.51 0.91
Table 4-1 Shape and scale parameters of for each diameter of fiber loops.
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4・4・2 破面観察結果および考察
4・4・1 節で,PBO 繊維の引張強度においてキンク損傷が内部欠陥として作
用していることを明らかにしたため,破面観察を行いキンク損傷がき裂進展に どのような影響を及ぼしているか調査を行った.
図4-10(a)~(e)に,キンク損傷を生じさせていない繊維,ループ直径5.0 mm,
2.5 mm,1.25 mm,0.65 mmでキンク損傷を生じさせた繊維の破断面をSEMで
観察した様子を示す.キンク損傷を生じていない繊維は繊維方向に裂けるよう に破断しているが,キンク損傷の生じている繊維は繊維の破断面が短くなって いることが分かる.ループ直径0.65 mm でキンク損傷を生じさせた繊維の破断 面に注目すると,き裂の進展方向は繊維直径方向でありキンク損傷に沿った形 で破断が進んでいるように見受けられる.
ここで,き裂進展についてPBO繊維の内部構造から考える.PBO繊維の内部 構造は第1章で前述したように,北河らによって明らかにされている1), 2).PBO 繊維の内部構造は重要なデータであるため再記する.図4-11にPBO繊維の繊維
0.7 0.8 0.9 1
Kink band density n/100, μm Scale parameter of residual strength ratio
RbDiam eter of fiber loops
∞ 5.0 m m 2.5 m m 1.25 m m 0.65 m m 1.3
0 5 10 18
Fig. 4-9 Relationships between scale parameter of residual strength ratio for each diameter of fiber loops and kink band density.