◆第6章 結論
6 結論
6.1 各章における論考の要約
本論文では、まず第一章で研究の背景として、基盤未整備地区が広範に残存 する東京区部において、幅員4m未満細街路に接する住宅数が区部全体の3割 を超える現状であること、また 1993 年から 2003 年までの 10 年間にその数が全 体として減少していないこと、さらには4m未満接道住宅割合が高いところが 2度にわたるスプロールで市街化された地域と重なっていることを確認した。
これらを踏まえ研究の目的は、東京区部の細街路整備の現状と課題を実践面 から網羅的に把握し、時間軸および地域間による比較・考察を行うことにより、
市街地の地域的特徴を考慮した、防災性能向上に役立つ細街路整備諸施策のあ り方への示唆を得ることであることを示した。
第二章では、まず本論文で用いる用語の定義ならびに概念規定について整理 した。
また、2時点における調査概要を整理するとともに、調査結果の分析の枠組 みは、スポット的細街路整備に関する分析と、エリア的細街路整備に関する分 析との両輪によるものであることを述べた。
さらに、2時点調査の意義は、都市計画・まちづくり関連諸制度が地域と市 民に密着した実践を促す方向へと大きく舵を切った時代の変化の流れの中で、
各自治体の取り組む細街路整備がどのような変化したのかを把握し、今後の整 備へ向けた教訓を得ることであることを述べた。
第三章では、スポット的細街路整備に関連し、次の2点を明らかにした。
①建築確認や不動産売買の事前調査等における行政実務の中で、防災上危険な 4m未満道路の固定化を招く 1950 年にさかのぼることを前提とする判定問題が
依然として存在し、住民相互間および住民と行政間における合意形成が不可欠 のまちづくり事業部門にマイナスの影響を及ぼしていること。
これに対し、法制度や規制誘導手法を弾力的運用し建て替えを可能にする事 例の蓄積が、東京区部では未だ十分でないこと。
②狭隘道路整備事業に関する経年比較の結果より、中心から2mの道路空間を 将来的にも確保し得る事業誘導方策と、それを大胆に進め得る事業推進体制の 確立が、狭隘事業本来の事業目的を達成させる鍵であること。
第四章では、先述の「狭隘道路整備事業」と、エリア的細街路整備の一つで 区内全域を対象とした整備である「区内全域の生活道路網計画による細街路整 備」に関する、区レベルでの分析を行った。
第五章では、もう一つのエリア的細街路整備で地区別の整備である「街づく り事業による細街路整備」に関する、地区レベルでの分析を行った。ここでは 新たに東京区部の街づくり事業地区に焦点を当て、ヒアリング調査を実施した 結果について分析・考察した。
分析にあたっては、まず都市基盤形成経緯の重なり方のパターンにより東京 区部の既成市街地を地域分類し、次にヒアリング調査の結果に基づき細街路整 備手法の類型化を試みた。
第四章、第五章を通じて得られた知見は、次の通りである。
第四章の区レベルでの分析からは、細街路問題への取り組み方として、4m 未満の解消を主目的とする狭隘道路整備事業を先行させ解決を図る取り組み方
(スポット的細街路整備先行パターン)(図6-1中a.)と、幹線・補助幹線 道路より細かいレベルの生活道路レベルまでをも含めた区内全域の道路ネット ワーク整備を先行させ解決を図る取り組み方(エリア的細街路整備先行パター ン)(図6-1中b.)とがあり、前者は、スプロール地域を抱える区と、旧・
江戸の街として形成され震災でも戦災でも被災を免れた地区を内包する区にお いて進められ、後者は、耕地整理施行区域や旧緑地地域の指定・解除がなされ
た経緯をもつ周辺区部において進められていることを明らかにした。
第五章で新たに行った地区レベルでの分析結果を踏まえると、本研究により 得られた知見は以下のようにまとめられる(図6-2参照)。
(ア)個別敷地の前面道路の問題を抱えたスプロール地域と旧・江戸のエリア(図 6-2中、東京区部模式図の内側部分)においては、個別敷地の建て替えごと に建築基準法の最低幅員を確保するスポット的整備(図6-2「a.狭隘道路 整備事業による細街路整備の現況写真」参照)が全域で進められ、細街路整備 の土台となっており、そのうえで、なお不足する地区内の骨格道路を、街づく り事業により確保する取り組み(図6-2「b.街づくり事業による細街路整 備の現況写真」参照)が進展している。その際の手法は、敷地単位の働きかけ を基本とする、用地買収先行型(図6-1中②)と建て替え誘導先行型(図6
-1中④)が中心であり、前者が最も迅速に目に見えた整備を実現させる方法 であるが、それが選択できない地区に関しては、後者の手法で地道な取り組み を行うことが望ましい。
(イ)一方、耕地整理等や旧緑地地域の指定・解除の経緯があった周辺区部(図6
-2中、東京区部模式図の外側部分)においては、全区的な道路ネットワーク 形成に重点を置いたエリア的整備(図6-2「c.区内全域の道路網計画図」
参照)を先行させることにより、個々の街づくり事業地区の細街路整備につい ても、様々な計画的アプローチが可能となっている。すなわち、個々の街づく り事業地区においてもきめ細かな細街路網計画を描きだし(図6-2「d.街 づくり事業地区の細街路網計画図」参照)、それを実現するため、敷地単位の働 きかけにとどまらず、街区整備型(図6-1中①)や不接道行き止まり解消型
(図6-1中⑥)、壁面空間のみの整備を働きかけるやり方(建て替え誘導先行
(用地買収無)型、図6-1中⑤)等、豊富な働きかけの選択肢の中から地区 状況に合った手法を選び取り、細街路整備を展開するやり方が進展していると いえる。
以上、本研究では、東京区部の街づくり事業地区に着目することで、市街地 の地域的特徴に応じた細街路整備のパターンが大きく2つに分かれ、その中に
図6-1 分析の枠組みと結論の枠組み
スポット 的細街 路整備
エリア 的細街 路整備
区 レ ベ ル 分 析
地 区
レ ベ ル 分 析
区内 全域を 対象
地区 別を 対象
「区内全域の道路 網計画による細 街路整備」
「街づくり事業 による細街路 整備」
「狭隘道路整 備事業による 細街路整備」
a.スポット的細街路整備 先行パターン
b.エリア的細街路整備 先行パターン
①街区整備型
②用地買収先行型
③用地買収先行(部分)型
④建替誘導先行型
⑤建替誘導先行(用地買収 無)型
⑥不接道・行き止まり解消型
⑦路地保存型
(分析の枠組み) (結論の枠組み)
図6-2 本研究により得られた知見
スプロール地 域、旧・江戸 のエリア
耕地整理等や旧緑地 地域の指定・解除の 経緯をもつ周辺区部
<東京区部の模式図>
・「スポット的整備」が土台
・不足する骨格道路を街づくり事 業により確保する取組が進展
・敷地単位の働きかけを基本とす る、用地買収先行型と建て替え 誘導先行型が中心
a.狭あい道路整備事業による細街 路整備の現況写真
b.街づくり事業による細街路整備 の現況写真
+
・「エリア的整備」が先行
・街づくり事業地区で も、きめ細かな細街 路 網 計 画 を 描 き だ し、地区状況に合っ た手法を選び取り細 街路整備を展開する やり方が進展
c.区内全域の道路網計画図 d.街づくり事業地区の細街路網計画図(円内)
6.2 本論文の結論
本節では、以上各章での論考を通じ得られた知見を総括し、本論文の結論に ついて述べる。
6.2.1 求められる判定問題への対応
防災上危険な4m未満道路の固定化を招く
1950
年にさかのぼることを前提 とする「判定問題」が依然として存在し、住民相互間および住民と行政間にお ける合意形成が不可欠の、まちづくり事業部門にマイナスの影響を及ぼしてい る。判定問題が深刻なところほど、問題状況が固定化される傾向にあるため、早 急な対応策が求められているが、現在(本研究調査時点)までのところ、解決 策の事例は未だ得られていないのが実状である。
判定問題を乗り越えて「42条2項以外の適用や、その他の規制誘導手法を 弾力的に運用し建て替えを可能にする」解決策の事例の蓄積が求められている といえる。
6.2.2 市街地防災性能向上のための細街路整備の方向性
各細街路整備先進地区の中で最も整備が進んでいる路線・箇所を「細街路優 先整備路線・箇所」と定義し分析対象として取り上げた結果、整備が進捗して いる事例としては、地域分類と整備類型との間に大きく2通りの対応関係が見 られた。これらの先行事例においては、当然のことながら各々の自治体の財政 事情による制約を受けながら整備手法の選択を行っている。その財政基盤の上 に選択され、進捗が芳しい先行事例の細街路整備類型と地域分類との対応関係 が大きく2通りに区分できることから、今後の展開としては次のような方向性 が考えられる。1つ目はスプロールエリアと旧・江戸のエリアにおける方向性 であり、2つ目はその外側の周辺区部における方向性である。
①スプロールエリアでは、「都市計画の(中略)暗黒の時代」注6-2)とされる 第一次スプロール期に無秩序な市街化が進み、その後の第二次スプロール期に 木賃アパートベルト地帯が形成された経緯がある。
これら都市計画の「マイナスの遺産」をもち、すでに建込みが進行したスプ ロールエリアにおいては、個別敷地の建て替えごとに建築基準法の最低幅員を 確保する狭隘道路整備事業が細街路整備の土台となっており、そのうえで災害 時における避難・救援活動空間の柱となる地区内の骨格道路を敷地単位の働き かけを基本とする用地買収先行型と建て替え誘導先行型の整備手法で確保する 取り組みが進展している。
このことから、スプロールエリアにおける今後の展開としては、スポット的 整備を行政区域全体で推進することにより市街地性能の全体的な底上げを図り ながら、地区内の骨格道路を用地買収先行型と建て替え誘導先行型で確保して いく取り組みを地区計画の策定と並行して進めることが、既成市街地全体の防 災性能をより迅速に向上させる方法であると考える。ここで鍵となるのが、関 係権利者を中心とした地域住民の合意であるので、計画策定段階からの合意形 成に留意すべきである。
さらに市街地全体の防災性能向上のためには、「街づくり事業地区の骨格道路 整備」という地区別の問題を、「災害時に有機的に機能する道路ネットワークの