「街づくり事業による細街路整備」に
関する地区レベル分析
5 「街づくり事業による細街路整備」に関する地区レベル 分析
5.1 本章の目的
東京区部では、全住戸数の3割超が、幅員4m未満の細街路に面して建築さ れている。第一章でも述べたとおり、こうした細街路は防災上の問題注5-1)を抱 えており、これらを解決するための細街路整備諸施策のあり方に関する研究は 1980 年代に始められ、高見沢邦郎ら(1996)5-1)や、井上隆(2001)5-2)によ る先駆的研究がある。さらに近年では、中林一樹(2008)5-3)が、密集市街地 における細街路整備の新たな促進手法を提唱している。一方、東京区部の細街 路整備の現状を実践面から明らかにし、市街地の特徴に応じた整備のあり方を 論じた研究は未だ行われていない。そこで本論文では前章までにおいて、アン ケート調査の結果から、スポット的細街路整備の現状と課題を整理するととも に、エリア的細街路整備の区レベルの展開状況を明らかにし、分析を行った。
その結果、各区の細街路問題への取り組み方は、市街地の地域的特徴と関係し ており、狭隘道路事業先行型で解決を図るパターンと、道路ネットワーク先行 型で解決を図るパターンとがあることを確認した。
これを受けて本章では、細街路整備のあり方と市街地の地域的特徴との関係 を地区レベルでみるために、新たに街づくり事業地区に焦点を当てヒアリング 調査を実施した結果について分析・考察する。
分析にあたっては、まず第一に、都市基盤形成経緯の重なり方の種別により 東京区部の既成市街地を地域分類する。第二に、ヒアリング調査の中から浮か び上がってきた共通のテーマである細街路整備の「整備形態」、「整備の範囲」、
「整備に関する行政側の働きかけ方」の種別に基づき、各地区の細街路整備に 関する取り組み内容の類型化を試みる。第三に、第一の地域分類と第二の類型 化の結果との突合せを行うことで、両者の対応関係を考察する。
このように、詳細な地域分類と類型化した細街路整備のあり方との対応を分 析することで、市街地の特徴に見合った細街路整備手法を探り、首都直下地震 への備えを迫られる東京区部における今後の整備のあり方への示唆を得ること を目的とする。
5.2 調査方法
第一章で述べたとおり、東京 23 区自治体行政を対象に、1996 年と 2009 年に アンケート調査を行っている。本章ではさらに、街づくり事業地区での細街路 整備の取り組み内容について、アンケート調査回答からは読み取りきれなかっ た点について、補足のためのヒアリング調査を実施した注5-3)。ヒアリングを行 った日時と場所および対象者については表5-1のとおりである。ヒアリング 項目は、事業地区の範囲、事業期間、細街路整備の推進箇所、細街路整備の手 法を中心に聞き取りを行った。
表5-1 ヒアリング調査諸元一覧
調査対象 対象者 調査日時 調査場所等
江戸川区 江戸川区土木部区画整理課推進係担当 2009年8月18日15 時30分~17時
江戸川区役 所
中央区 中央区都市整備部建築課調査係長、同指 導係長
2009年8月20日14 時~15時
中央区役所 杉並区 杉並区都市整備部まちづくり推進課まちづ
くり調整係担当
2010年8月25日午 前中
電話及び郵 送にて 板橋区 板橋区都市整備部市街地整備課住環境整
備事業係長
2010年8月26日8時 30分~8時45分
電話にて 北区 北区まちづくり部まちづくり推進課主査 2010年9月1日9時
30分~10時
北区役所 足立区 足立区都市建設部企画調整課企画調整担
当、開発指導課細街路係長
2010年9月1日 11 時~12時
足立区役所 葛飾区 葛飾区都市整備部街づくり推進課密集地
域整備担当係長
2010年9月1日15時
~15時30分
葛飾区役所 中野区 中野区まちづくり推進室地域まちづくり分野
まちづくり事業推進担当係長
2010年9月2日9時 30分~10時
中野区役所 練馬区 練馬区環境まちづくり事業本部都市整備部
東部地域まちづくり課まちづくり担当係長
2010年9月2日11時
~12時
練馬区役所 墨田区 墨田区都市整備部都市整備課密集担当主
査
2010年9月1日14時
~14時30分
墨田区役所 台東区 台東区都市づくり部地区整備課地区整備
担当係長
2010年9月1日16時
~16時30分
台東区役所 新宿区 新宿区都市計画部地域整備課地域整備主
査
2010年9月7日11時
~12時
新宿区役所 世田谷区 世田谷区世田谷支所街づくり課担当 2010年9月7日15時
30分~16時
世田谷区役 所支所 荒川区 荒川区都市整備部住環境整備課管理・住
宅係担当
2010年9月7日10時 15分~
電話及び メールにて 大田区 大田区まちづくり推進部都市開発課防災ま
ちづくり担当
2010年12月1日15 時~16時
大田区役所 品川区 品川区防災まちづくり事業部防災課防災整
備担当
2013年1月8日11時 30分~12時
品川区役所 目黒区 目黒区都市整備部都市整備課住環境整備
係担当
2013年1月31日10 時30分~11時30分
目黒区役所
5.3 調査結果
5.3.1 細街路整備先進地区の概況
細街路整備先進地区における目標幅員別取り組み状況、事業開始年度、補助 制度活用の有無および地区まちづくり協議会の有無は表5-2のとおりである。
これによると、細街路整備先進地区全 18 地区注5-4)のうち 15 地区で、地区の中 に幅員6m以上の路線を確保しようとする取り組みが行われており、この幅員 が現在進められている細街路整備の目標幅員の中心であるといえる。このうち、
若葉・須賀町地区と江古田北部地区については、8m以上の幅員の路線を確保 する取り組みも同時に進められており、谷中二・三・五丁目地区と荒川五・六 丁目地区および関原1丁目地区については、幅員4m以上の路線を確保する取 り組みが同時に進められている。一方、4m未満を目標幅員とする取り組みが 行われている地区は、月島地区のみであった。月島地区では、道路率が高く道 路基盤が整っている地区特性を前提に、「前面道路の幅9尺」とする地域住民の 総意を背景として、地区計画による建築条例で安全性を担保しながら現状の 2.7 m幅員のままでの建て替えを可能としている。
同じく表5-2より、事業開始年度は、1980 年代からが最も多く 7 地区あり、
次いで 1990 年代からが 6 地区、2000 年代からが 4 地区となっており、20 年か ら 30 年近く事業を継続している地区が中心であるといえる。
また、2地区以外のすべてが、住宅市街地総合整備事業(密集型)や都市防 災総合推進事業等の補助金を活用して、細街路整備を進めている。現状におい ては、これら修復型まちづくり関連補助制度を財政的裏付けとして、整備を進 めている地区が大半を占めているといえる(表5-2)。
同じく表5-2右端より、細街路整備先進地区ではほぼ全ての地区(全 18 地 区中 17 地区)において、地区まちづくり協議会が設立・運営されている。この ことから、個々の敷地の所有者である関係住民の合意が大前提の細街路整備に とって、地区まちづくり協議会の存在・活動が、合意形成過程における重要な 役割を果たしていることが読み取れる。
路線 指定具体化 方策路線 指定具体化 方策路線 指定具体化 方策路線 指定具体化 方策 新宿若葉・須賀町地区有有有有1993有有 台東谷中二・三・五丁目地区有有有有2002有有○ 板橋仲宿周辺地区有有有1990有有 中野平和の森公園周辺地区有有有1994有無○ 豊島東池袋4・5丁目地区有有1983有有○ 北上十条三・四丁目地区有有1994有有○ 葛飾東四つ木地区有有1998有有○ 墨田京島地区有有有1983有有○ 杉並阿佐ヶ谷南・高円寺南地区有有2010有有○ 荒川荒川五・六丁目地区有有有有1987有有○ 世田谷若林3・4丁目地区有有1988有有○ 練馬江古田北部地区有有有有1992有有 足立関原1丁目地区有有1987有有○ 品川荏原北・西五反田地区有有1985有(2007年~区単独)不明○ 目黒林試の森周辺・目黒本町地区有有1985有有○ 大田大森中・蒲田・糀谷地区有有2012有有○ 江戸川篠崎駅西部地区有有2004無有 中央月島地区有有2004※3無有 ※1住宅市街地総合整備事業(密集型)、都市防災総合推進事業等による補助金を指す。※2調査時点で活動継続中を有とした。地区の一部に協議会が設立されている場合も有とした。※3 建築基準法第42条第3項道路指定年度を表す。
区名細街路整備の先進地区名
事業地区内の細街路整備の取り組み状況 事業開 始年度修復型まちづくり関連 補助金※1 活用の有無 地区ま ちづくり 協議会 の有無 ※2
地区内の 主要道路主要な 区画道路区画道路その他 幅員8m以上幅員6m以上幅員4m以上幅員4m未満 東京都防災 都市づくり推 進計画で指 定された整備 地域にかかる 地区 (○印)
表5-2細街路整備先進地区の概況
5.3.2 細街路整備先進地区の分布
「細街路整備先進地区は東京区部の中でどのような分布を示しているのか」
を見るために、都市基盤形成経緯の重ね合わせ図上に、その位置を表示したも のが図5-1である。図5-1より、細街路整備先進地区は、第一次スプロー ル地域とその周縁部外側に多く分布していることがわかる(18 地区中 14 地区)。 これは、かつて「木賃アパートベルト地帯」と呼ばれ、現在も防災上の課題を 多く抱えたエリアにおいて、優先的に細街路整備が進められていることを示し ている。