第 4 章 従業員の職務満足と継続就業意思の経年変化とその因果関係の解明 44
4.2 調査方法
継続就業意思の調査は,従業員数約6,000名の中国生産拠点において,2012年 12 月,2014年7月,2015年12月に1.5年間隔で3回行われた.この生産拠点では,複 写機,プリンターなどのドキュメント機器の製造が行われている.
4.2.1 調査対象者
当該生産拠点における職位は技術職コースと管理職コースに大別されるが,本章で は,技術職コースの従業員を調査対象とした.調査年度毎に組立部門を中心として6 部門から各100名,部門内では3つの職位(工員3級,工員2級およびマイスター)か らほぼ均等に30名〜40名,合計 600名が無作為に選ばれた.調査対象者の属性を表
表4.1 調査対象者の属性
性別 男性:51.6%,女性:48.4%
部門 モジュール組立:4部門,最終組立:1部門,工場内物流:1部門 勤続年数 1年未満40.5%,1年〜3年未満:36.3%,3年以上:23.2%
職位 工員3級:28.2%,工員2級:39.0%,マイスター:32.8%
年齢層 20歳未満:42.8%,20歳〜25歳未満:44.2%,25歳以上:13%
配偶者 有り:29.0%,なし:71.0%
転職経験 有り:53.1%,なし:46.9%
4.1に示す.職位は,工員3級,工員2級,マイスターの昇順で段階的に高くなる.工 員3級の職位は試用期間修了者に与えられる.工員2級およびマイスターへの昇格は,
所属長の人事評価,職務遂行能力などを基に社内規準により決定される.工員3級,2 級およびマイスターは,担当できる作業の範囲が異なる.例えば組立部門の工員3級 は,組立ラインの単一工程を担当でき,工員2級は複数の工程を担当でき,マイスター はすべての工程を担当できる.一般的には工員3級,2級,マイスターの順に平均勤 続年数が長い.工員2級から昇格する際に,技術職コースのマイスターまたは管理職 コースを選択できる.調査対象者の年齢層は25歳未満の割合が87%であり,転職経 験者の割合は53%であった.
4.2.2 職務満足向上施策
従業員の職務満足の向上を目的として行われた主な対策を以下に述べる.
1. 妊婦および産後の1年間は時間帯を指定せずに毎日1時間の休憩を与えること で,フレックスタイム制度に近い運用を可能にした.
2. 企業の印象が入社前と入社後で大きく変わることを抑制するために,入社面接 時に職場の様子をビデオで紹介した.
3. 国内の複数の高等学校にインターンシップ講座を開講し,研修生の受け入れが 開始された.仕事内容の実態を理解した上で就職を希望する者は積極的に採用 した.
4. 文化,スポーツ関連のレクリエーション充実を計るために,活動時間および支 援額が増やされた.
5. 昇進機会等の公平感を高めるために現地管理者化が進められた.
対策(a)は,2012年度以前から,他の対策は2012年度から行われている.
4.2.3 質問紙の作成
継続就業意思に関して3項目を設定した.職務満足要因は,MSQ短縮版に記されて いる20項目[37]およびHerzbergが示した16項目[36]を基にし,両方に共通する項 目はまとめ,表4.2に示す29項目を設定した.紙面の制約により,表4.2では各項目 は短縮して示している.ちなみに,項目Q6,Q9〜Q14,Q16,Q18,Q23,Q27,Q28, Q31からなる13項目はMSQ短縮版由来,項目Q5,Q7,Q8,Q17,Q19〜Q21,Q25, Q32からなる9項目はHerzberg由来の項目であり,他の7項目はMSQ短縮版および
Herzbergが示した項目の両方に共通している.各項目に対する回答には,4件法によ
る順序尺度が用いられており,満足感が大きいほど4に近い選択肢,不満足感が大きい ほど1に近い選択肢が選ばれるように設問を記述した.例えば,質問項目Q15(人事評 価の公平感)の回答欄には,1(不公平),2(どちらかといえば不公平),3(どちらかと いえば公平),4(公平)という表現が用いられている.また,継続就業意思に係る項目 Q1および項目Q2では,特定の選択肢に回答者が集中することを避けるために,2012 年度までの離職者の勤続期間を鑑み,1(3か月以内),2(3か月から半年),3(半年か ら1年),4(1年から3年以内),5(3年以上)の選択肢からなる5件法を用いた.
この調査は無記名とし,調査データは本論文以外には用いないことも明示した.
表4.2 設問概要
大分類 項目
継続就業意思 Q1:今の会社に勤めたいと考えている期間 Q2:今の仕事を続けたいと考えている期間 Q3:仕事への意欲
職務満足要因 Q4:仕事の単調感
Q5:仕事を遂行するための事前研修の満足感 Q6:技能・技術研修制度の満足感
Q7:業務分担の明確さ Q8:職務拡大願望
Q9:自身の能力活用の満足感 Q10:貢献感
Q11:達成感
Q12:職場環境の快適感 Q13:報酬に対する満足感 Q14:昇進機会の公平感 Q15:人事評価の公平感
Q16:文化・体育・レクリエーション活動支援への満足感 Q17:休憩時間に関する満足感
Q18:休日数の満足感
Q19:残業時間に関する満足感 Q20食堂に関する満足感
Q21:社会的地位に関する満足感 Q22:仕事内容の道義性に対する満足感 Q23:創造性発揮機会に関する満足感 Q24:上司との信頼関係に関する満足感 Q25:同僚との人信頼関係に関する満足感 Q26:同僚との協力関係に関する満足感 Q27:身体的疲労感
Q28:精神的疲労感 Q29:仕事の難易度
Q30:仕事で生じる問題の解決難易度 Q31:職務遂行に求められる知識水準 Q32:担当業務の重要性
図4.1 継続就業意思構造モデル
4.2.4 継続就業意思構造モデルの提示
参考文献[36]から,職務満足は多面的な職務満足要因からの影響を受けると仮定さ れている.その上で,主成分分析により低次元空間に情報を縮約し,複数の職務満足 要因(Q4〜Q32)が持つ情報を抽出する.次に,主成分分析により得られる少数の主成 分から職務満足に影響が及ぶことを表すパス,さらに職務満足から継続就業意思に影 響が及ぶことを表すパスを仮定する.継続就業意思は,表4.2における項目Q1,Q2, Q3により確認する.項目Q1 では,全体的な継続就業意思を問い,項目Q2 は個別の 仕事に対する継続就業意思,および項目Q3 は継続就業意思を間接的に尋ねた.そのた め,項目Q1,Q2,Q3の間には相関関係が生じる可能性があり,相関関係を表すパス を設定する.また,各主成分から職務満足へは,正の影響を仮定する.各主成分は直交 するため,主成分の間に相関関係を表すパスは設けない.以上の仮定を基に,構造モ デルを図4.1のように示す.本章では,Chen[51]等の共分散構造分析の研究を参考に し,図4.1における各パスの影響を推定する.分析のためのソフトウエアには,Amos ver.22を用いた.