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結合モデルの有用性の検証

第3章 大気-海洋-波浪結合モデルの開発

3.5 結合モデルの精度検証

3.5.3 結合モデルの有用性の検証

64 第 3 章 大気-海洋-波浪結合モデルの開発

図-3.9は,湾奥の観測点SB3における水面下2mの水温を観測値と計算値で比較したものであ る.これより,計算開始から 9日までは,両スキーム間でほとんど差がないことがわかる.9 日 から19日では,Blackadarスキームに比べてEtaスキームの水温の日変化が大きくなり,19日 を過ぎるとBlackadarスキームの過小評価が顕著になってくる.本計算において内湾の温度場は,

外洋境界条件(外洋水の進入),気象場からの影響である短波放射とQ0,およびそれらの輸送によ って決定される.今回の比較計算では,両スキームの外洋境界条件は同条件であり,ここでは図 示しないが短波放射は両スキームでほぼ同じ値となることを確認していることから,温度場のス キーム間の差異はQ0によるものと判断できる.そして前述したようにBlackadarスキームのQ0は,

19日において大気への熱の放出量が大きくなっており,このためBlackadarスキームの水温は過 小評価になったとものと考えられる.また,両スキーム間のQ0に差が見られない 19 日過ぎにお いても,Blackadarスキームの水温の過小評価は改善されていない.このことから短期間のQ0の 差であってもその後の計算結果に大きな影響を与えることが明らかとなり,Q0を決定する大気境 界層スキームは海洋場の計算においても重要なものと言える.

図-3.10は,湾奥の観測点SB3における水面下2mの塩分を観測値と計算値で比較したもので ある.この図から,Eta スキームは塩分の変動の傾向を精度良く表していることがわかる.これ に対してBlackadarスキームでは,9日から20日にかけての過大評価が顕著であり計算精度が悪 いことがわかる.この観測点SB3は,木曽三川の影響を強く受ける場所であり,現に4日から7 日の観測値の低塩分は,木曽三川の河川流量が増大し河川水プリュームが観測点まで伸びてきた ためである.そして,両スキーム間で差が生じていた流速・温度分布等が河川水プリュームの発 達・破壊に影響し,その結果,塩分分布にも両スキーム間で差が生じたものと考えられる.

以上の結果から,BlackadarスキームとEtaスキームの比較計算では,いずれのスキームが良 いとは断定できなかったものの,大気境界層スキームが海洋場に与える影響は非常に大きいこと が明らかにされ,その取扱いの重要性が示された.

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デルの海面境界条件に入力して計算を行うものである.今回の計算では,図-3.11 で示した名古 屋,津,伊良湖の気象観測所で観測されたデータ(1時間間隔;日射,降水量,気圧,気温,湿度,

雲量)をクレスマン補間によって空間内挿し,表-3.3 に示したバルク式によって摩擦速度,潜熱,

顕熱および長波放射を算出してCCMへ入力するものとした(日射,降水量,気圧に関してはバル ク式を用いる必要がない).ただし,風速に関しては陸上と海上で大きく異なるため,MT局の海 上風のデータ(10 分間隔)のみを用いることにした.このため風速に関しては空間的に全く変化の ないものとなっている.

(2) 計算結果

図-3.12は,観測点SB3(図-3.11)での1日1回(午前中)の水温と塩分の観測データから密度を 求め,計算値と比較したものであり,表-3.4はこれらのBIAS(平均密度のずれ)およびRMSE(二 乗平均誤差の平方根)を示したものである.夏季において,Case1では7月16日過ぎの観測値の 変動の傾向を良く表しているのに対して,Case2 では過小評価傾向となっており計算精度が悪い

図-3.11 計算領域と観測点

表-3.3 気象観測値を用いた海洋モデルにおいて海面物理交換量の算出に用いたバルク式 海面物理交換量 算出に用いたバルク式 バルク式に必要となる

気象観測値 摩擦速度 Wuのバルク式(1982) 風速

顕熱 近藤(1994)の係数を用いたバルク式 風速,気温

潜熱 Bowen比 気温,湿度

長波放射 Bruntのバルク式 気温,湿度,雲量

66 第 3 章 大気-海洋-波浪結合モデルの開発

ことがわかる.また,7月12日~16日の木曽三川の河川流量増大に伴う低密度の再現性が両ケ ース共に悪くなっており,このため冬季に比べて夏季のBIASおよびRMSEは悪くなっている.

よって,河川流量やその取扱いを改善していく必要がある.冬季において,Case1 では全ての計 算期間中において観測値の再現性が良いのに対して,Case2 では過大評価傾向となっており,特 にCase2のBIAS がCase1に比べて非常に悪くなっている.以上より,夏季,冬季共にCase2 に比べてCase1の方が計算精度が良いことが示された.これは,Case1では結合計算によって大 気安定度などの海面相互作用が正確に考慮され,しかも面的・時間的に詳細な情報が海洋モデル に与えられているのに対し,Case2 では面的・時間的に粗い気象データが海洋モデルへ一方的に 入力され海面相互作用が簡略化されているためだと考えられる.

10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 14.0

15.0 16.0 17.0 18.0 19.0 20.0

密度 [σt]

日付 [7月,8月]

観測値 Case1 Case2

(a) 夏季

1 3 5 7 9

2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28

22.0 23.0 24.0 25.0

密度 [σt]

日付 [2月]

観測値 Case1 Case2

(b) 冬季

図-3.12 SB3(図-3.11)における水面下2mの密度の観測値と計算値の比較 表-3.4 図-3.12に対するBIASおよびRMSE

Case1 Case2

BAIS [σt] 0.300 -0.578 夏季

2001710日~89 RMSE [σt] 1.294 1.502 BAIS [σt] 0.030 0.433 冬季

200221日~28 RMSE [σt] 0.417 0.612

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図-3.13は,夏季の2001年7月23日~8月8日に伊勢湾第四号灯浮標(図-3.11のST4)におい て実施された第四管区海上保安本部および京都大学による ADCP 観測(第四管区海上保安本部,

2002)の水面下1mの流速を東西成分と南北成分に分けて計算値と比較したものある.この図より,

東西成分ではCase1とCase2で大きな差は見られないものの,南北成分ではCase2はCase1に 比べて過小評価となっており再現性が悪いことがわかる.観測点ST4は,東西成分の流速が潮汐 の影響を強く受ける湾央であることから,両ケース間の海面相互作用の評価方法の違いが流速の 計算結果にそれほど反映されなかったものと考えられる.しかし,南北成分の流速は,潮汐の影 響に加えて夏季の伊勢湾の特徴である南風の影響を受けるために両ケース間で違いが表れており,

海面相互作用を精度良く評価できるCase1の方がCase2に比べて再現性が良くなっている.

図-3.14は,冬季の2002年2月18日~26日に前述の図-3.11の領域Aにおいて(財)電力中央 研究所によって観測されたVHFレーダ観測値と計算値を観測期間平均して比較したものである.

また,VHFレーダは表層の流速を観測するため(坂井ら,2002),計算値も最上層の選点の値を用 いて比較した.この図より,観測値は冬季伊勢湾の特徴である北西風と木曽三川の河川プリュー ムに起因する成層のために南向きの流れが卓越しており,Case1 ではこの南向きの流れが良く再 現されていることがわかる.これに対してCase2では流速の過小評価が顕著であり計算精度が非 常に悪くなっている.Case2の計算精度の悪さの原因は,湾中央付近に位置するMT局の強い風

24 26 28 30 32 34 36 38

-0.4 -0.2 0.0 0.2 0.4

流速 [m/s]

日付 [7月,8月]

観測値  Case1  Case2

(a) 東西成分

1 3 5 7

24 26 28 30 32 34 36 38

-0.4 -0.2 0.0 0.2 0.4

流速 [m/s]

日付 [7月,8月]

観測値  Case1  Case2

(b) 南北成分

1 3 5 7

図-3.13 ST4(図-3.11)における2001年7月23日~8月8日の水面下1mの観測値と計算値の比較

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(a) Case1 (b) Case2 (c) 仮想数値実験

図-3.14 領域A(図-3.11)におけるVHFレーダ観測値と計算値の観測期間(2002年2月18日~

26日)平均の比較;白のベクトルが観測値,黒のベクトルが計算値を示す.

10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 0

0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

有義波高 [m]

日付[7月,8月]

観測値 Case1

(a) 夏季

1 3 5 7 9

2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

有義波高 [m]

日付[2月]

観測値 Case1

(b) 冬季

図-3.15 MT局における有義波高の観測値と計算値の比較

69 速が平均的に風速が弱まる湾奥の木曽三川付近でも用いられ,その結果,木曽三川付近での海水 の鉛直混合が強まり河川プリュームがほとんど発達しなかったためである.現に,Case2 と同条 件であるが図-3.11 の領域 B の風速を 0 とした仮想数値実験の結果(図-3.14 の(c))では,Case2 に比べて流速が大きくなっており,河川プリュームの発達に関わる風速の空間的変化が非常に重 要であることが示された.

図-3.15は,前述の図-3.11のMT局において観測された有義波高を計算値と比較したものであ る.ただし,Case2 では有義波高を計算することができないため観測値と Case1のみを示した.

この図から,計算値は観測値の変動の傾向を良く表していることがわかる.また,夏季と冬季を 合わせた相関係数は0.64,BIASは0.14m,RMSEは-0.06mであった.大気-海洋-波浪結合 モデルは,有義波高など波浪場の情報も同時に知ることができる.このことは,海面境界過程の 解明のための研究や高波等による自然災害に対する防災上の観点において重要である.また,有 義波高の情報は第 4 章で述べるバースト層モデルに必須となる.

以上の精度検証の結果,大気,海洋,波浪場を1つの系として海面相互作用を直接的に扱い,

面的・時間的に詳細な海面物理交換量を算出できる大気-海洋-波浪結合モデルは,従来の主な 海洋場の計算手法であった気象観測値を用いた海洋モデルの単体計算に比べて計算精度が大きく 向上することが明らかとなった.そして,大気-海洋-波浪結合モデルは,観測値を必要としな いことから予測計算が可能であり,高潮や赤潮等による自然災害の予測や対策に役立つものと考 えられる.