第4章 バースト層モデルの開発
4.3 実験の概要
強風下吹送流の海面境界過程の解明とそのモデル化のために,二重床風洞水槽および階層的相 関法を用いた水理実験を行った.本節では,その概要について述べる.
4.3.1 実験装置
(1) 風洞水槽
水理実験は,図-4.10に示す3面ガラス製の吸込式風洞水槽(長さ=15.4m,幅=0.4m,高さ=1.0m) を用いて行った.表-4.2にその仕様を示す.この水槽の構造は,消波側に設置された軸流ファン 型送風機によって造波側の吸込口から空気を取り込んで風を発生させ,その風によって生成され る波を風下の水槽端部に設置された消波マットによって消波させるものである.さらに,この水 槽内に流量の連続性を部分的に満たすために,アクリル製管路(長さ=9m,幅=38cm,内径高 hc=10cm)を循環路として設置して二重床構造の水槽とした.この管路は,水槽両端の閉境界条件 に支配される戻り流れを下段水路の流れとして風上側に循環させ,その流れを上段水路に補償流 として与える機能を持つ.これによって,流量の連続性が部分的に満たされるだけでなく,下段 水路内より戻り流れを検出することが可能となる.
Wind
Absorber
15.4m
9m
Wind Inlet
0.6m
Duct
Wind
Absorber
15.4m
9m
Wind Inlet
0.6m
Duct
図-4.10 二重床風洞水槽
表-4.2 風洞水槽の仕様
吸込整流部 整流機構;吸込縮流ノズル,ハニカム,整流網等,造波部境界の隔 壁複合断面より波浪水面上に直接風洞移行型
風速制御 専用インバータによるファン回転数のシーケンス制御 送風機 軸流ファン型;動力 AC220V,60Hz,3P,3.7kW 送風機構 下流屋外吐出式
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(2) 撮影装置
水粒子の計測には,実験水槽内にトレーサー(ナイロン製,比重;1.02,φ;50μm)を投入し,
最大出力5.0Wの半導体レーザー(発光波長:532nm,Millennia;Spectra Physics製)とシリン ドリカルレンズによって造られたレーザーシートを水槽底面から照射することによって可視化さ れた鉛直2次元場の流体運動を高速度ビデオカメラ(Motion Scope;Redlake Imaging製)で連続 撮影する.そして,撮影されたアナログ画像は,A/D 変換ボードを内蔵したPC によってデジタ ル画像に変換されて保存される.
(3) 流速解析装置
水粒子速度の算出には,微小変動量の解析が可能な階層的相関法(小笠原ら,2004)による PIV 解析を用いた.画像解析時に必要となる撮影画像に対する実測値との比を計算するために calibration boardを用いた(図-4.11).このとき,点と点の間隔は5cmであり,実測値とpixel数 の比を計算したところ,水平・鉛直方向共に382μm/pixelとなった.
4.3.2 実験方法
実験は,基準風速Urを6.7,10.4および12.0m/sの3通りに変化させて風波場を再現して行っ た.計測は,PIV 解析によって水粒子速度を計測するための風波砕波画像の撮影と水面波形の時 間変化を同期させて行った.画像の撮影は,前述の高速度ビデオカメラを撮影範囲が4cm被るよ うに左右に2台並べ,左右のカメラの撮影開始と終了を同期させることによって,4096枚(約32.8s
~68.2s)の連続撮影を行った.撮影範囲は,平均水面から水面下約40cmまでとし,d3(z = 2cm
~13cm),d2(z =11cm~26cm),d1(z =24cm~39cm)の鉛直3断面に分けて撮影した.フレーム レートおよびシャッタースピードは,流速のダイナミックレンジを考慮し,各風速・断面毎に表 -4.3のように設定した.高速度ビデオカメラは,水槽ガラス側面から23.5cm の距離に設置した
5.0cm 5.0cm
5.0cm 5.0cm
図-4.11 calibration board
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(図-4.12).これにより,画面の高さと幅は約15×15cmとなった.また,水面の散乱光を避ける ために,水面を写す上段のカメラには偏光フィルターを取り付けた.水面波形の時間変化は,風 洞用容量式波高計を測点 W03に設置し,サンプリング周波数を100Hz に設定して180s間の計 測を各風速について行った.
4.3.3 実験条件
乱流統計量を求めるためには,計測時間が測定対象の時間変動よりも十分に長く,サンプリン グ数が十分に多いことが必要である.PIV 解析に関して,撮影間隔を短くすると,撮影画像中の 粒子像の変位等が少なくなる結果,解析の精度は上がり,得られる流速はより瞬間値に近くなる と同時に,より時間スケールの短い速度変動を捉えることが可能となる.しかし,CCDカメラの 記録容量の制約により全体の撮影時間が短くなることが問題となる.得られた流速からスペクト
表-4.3 各風速の撮影条件
風速Ur Case フレームレート シャッタースピード d1 60 fps 60 fps d2 60 fps 60 fps 6.7m/s
d3 125 fps 125 fps d1 60 fps 120 fps d2 60 fps 120 fps 10.4m/s
d3 125 fps 250 fps d1 60 fps 120 fps d2 60 fps 120 fps 12.0m/s
d3 125 fps 250 fps
Wind
Tracer
Motion Scope Motion Scope
High speed video camera Duct
Laser sheet
W03 : 8m
9.16m
60cm Wind
Tracer
Motion Scope Motion Scope
Motion Scope Motion Scope Motion Scope
High speed video camera Duct
Laser sheet
W03 : 8m
9.16m
60cm
図-4.12 画像の撮影方法
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ル解析を行う際,高周波成分については,この撮影時間の短縮はほとんど影響しない.逆に低周 波成分は元々波数成分が少ないため,撮影時間が短くなることの影響は大きい.このため,1 ケ ースの計測だけでは局所的な現象を捉えている可能性もあることから,低周波成分については数 ケースの撮影を行い,定常性を仮定した上でアンサンブル平均によってその成分帯を考察する必 要がある.以上より,実験は強風時の水面直下の計測のみ,撮影のフレームレートを125fps,シ ャッタースピードを250fpsに設定し,高精度,高解像度なPIV解析を行い,高周波成分を高精 度に算出する.また,各風速について数ケースの撮影を行い,これらのアンサンブル平均によっ て撮像機器の記録容量に依存する低周波成分の不確実性を補うことにした.そして,水槽の全水 深を60cmに固定し,風洞入口での基準風速Urを6.7,10.4および12.0m/sの3通りに変化させ た.Ur=6.7m/sは水面全体が非砕波(白波が発生しない)状態,Ur=10.4m/sは測点W03で白波砕 波が発生する状態であり,Ur=12.0m/sは測点W03で白波砕波が頻繁に発生する状態である.ま た,各風速での撮影ケース数は,Ur=6.7m/sを5ケース,Ur=10.4m/sを18ケース,Ur=12.0m/s を18ケースとした.この時の波形諸量を表-4.4に示す.ここで,u*aは大気側の摩擦速度,u*wは 水側の摩擦速度,Hsは有義波高,Tsは有義波周期,C は波速,fpはピーク周波数,Lは波長,Cw は波齢である.また,表-4.4のu*aは,Wu(1980)の実験式
( )
u*a 2=(
0.8+0.065U10)
×10−3×U10 (4.3)を用いて求めたものである.ただし,U10は海面上10mでの風速(m/s)であるが,ここではU10 =Ur
と仮定した.