3. 経験学習
3.2 経験学習理理論論
「知識が重要か、経験が重要か」という問いがあります。「様々な社会現象から どういう知識を作り、それを取り込むかということが重要だ」と主張する人がい ます。その一方で「知識は常に限定的であり、ある条件下でいえることなので、
その場の経験や背景・歴史・文脈のもとで、どのような経験が起きているのかと いうことの方が重要だ」と主張する人もいます。このように対立した見方があり ます。
しかし、私たちは常に具体的な経験の中にいます。生きている限り新しい経験を しています。その経験を積み重ね、それが変容され、個人の知識が創出されると いうサイクルを繰り返しているようです。これがKolbの「経験理論」のアイデア です。
Kolbの経験学習理論(Experiential Learning Theory)は、具体的経験が変容さ れた結果、知識が創出されるプロセスをダイナミックなサイクルとして定義した ものです。Kolbは、経験に基盤を置く、連続的変換的なプロセスに焦点をあて、
学習にとって大切なのはこのプロセスであると主張しました。「知識が重要か、
経験が重要か」という二分法的な従来の考えとは一線を画す理論です。
学習サイクル
経験学習理論によると、学習のプロセスは、次の4つのステップからなるサイク ルです。
• 具体的経験(Concrete Experience):具体的に経験する
• 反省的観察(Reflective Observation):経験を振り返って内省する
• 抽象的概念化(Abstract Conceptualization)
:理論や仮説として概念化する
• 能動的実験(Active Experimentation)
:立てた理論や仮説を実験してみる
学習サイクル
反省的観察(RO) Reflective Observation 能動的実験(AE)
Active Experimentation
具体的経験(CE) Concrete Experience
抽象的概念化(AC) Abstract Conceptualization
まず、具体的な経験をします(具体的経験)。その経験したものを、あらためて こんなことがあったと反省的に振り返り、それを観察します。「今日こんなこと
があったけどあれは何だったのか」ということを考えます(反省的観察)。考え たあと、「これはきっとこういう大きな概念・理論に集約できるものだ」という ことを頭の中で考えます(抽象的概念化)。この概念や理論を用いれば、今度同 じような場面に出会ったときに、このようにしたらいいのではないかというアイ デアが浮かび、それを実験します(能動的実験)。経験をし、それを反省的に観 察し概念化して、その概念を使って実際に実験をしてみるというサイクルになっ ています。
たとえば、今日仕事をして、こんな失敗をしてしまったという体験があります
(具体的経験)。自分の家に帰り、あの失敗は何だったのだろうということを振 り返って考えます(反省的観察)。もしかしたらこういう表面的な失敗だけでな く、失敗が起こりやすい形になっていたのではないだろうかということを概念化 します(抽象的概念化)。その失敗になりやすい形を改めてみようと新たに実験 をしてみます(能動的実験)。その後、実際にどうであるかをみます(具体的経 験)。
このようにサイクルになり、日々の体験から新しい知識を作り出し、人が成長し ていきます。経験をしていても、考えることがなく、概念化も理論化もせず、そ こから実験も行わないとすると、その人は日々同じことを繰り返しているだけで す。同じように成功したり、同じように失敗したりするだけで、何も変わりませ ん。この状態は、学習が起こっているとはいえません。そうではなく、経験を観 察し、それを概念化して、新しい提案をして仮説を立て実験をしてみることに よって新しい経験ができます。良くなるか悪くなるかはやってみないとわかりま せんが、このようにして知識を作り出していく人は学習しているといってもいい でしょう。
学習モード
学習サイクルの中には、次の4つの異なる学習モードが存在します。
• 情動的(affective)
• 認知的(perceptual)
• 記号的(symbolic)
• 行動的(behavioral)
情動的 affective
記号的 symbolic
認知的 perceptual 行動的 behavioral
学習モード
反省的観察(RO) Reflective Observation 能動的実験(AE)
Active Experimentation
具体的経験(CE) Concrete Experience
抽象的概念化(AC) Abstract Conceptualization
具体的経験をする段階では、その人は情動的なモードで学習します。経験の中に いるため、びっくりしたり、焦ったり、怖いと思ったり、うれしいと思ったりす るように感情が動きます。
反省的観察の段階では認知的なモードになります。認知的とは頭の中で考えると いうことです。あれこれと頭の中で考え、体験を言葉に変換します。
抽象的概念化をする段階では、記号的なモードになります。体験を言葉に変換し たものを記号的に操作して、より抽象的にします。このような原因があれば、こ のような結果になるという、仮説・理論・概念のレベルで記号的な操作をしま す。
能動的実験をする段階では、行動的なモードになります。記号的なモードで作り 出された仮説・理論・概念について、実際に検証を試みることで行動的になりま す。
学習モードも学習サイクルと同じように循環します。