FASID 国際開発研究センター主任 渡邉 恵子
要 約
都市化だけでは経済発展をもたらすものではないが、都市化なしに経済発展した開発途上国はない。
経済発展は都市から始まっており、都市の重要性は明らかである。しかしながら、サブサハラアフ リカ(SSA)では1970年代から1995年にかけて「経済成長なき都市化」が起こり、SSAの都市が経 済成長や構造変革の原動力にはならず、都市化が都市の貧困を蔓延させたとする理解が広がった。
現在では、都市の貧困問題は都市化にあったのではなく政治的、制度的な能力が限られているとこ ろに原因があったと認識を改め、都市はSSAにとっても経済成長の牽引役であり、経済成長にとっ て都市の重要性が再び注目されてきている。一方、2030年にはSSAの都市と農村の人口が逆転する と予想されているなど、都市に急速な人口増加が見込まれており、経済成長のためには効果的な都 市の運営管理が緊急の課題となっている。
本稿では、SSA の都市化の特徴をあげ、経済成長に必要な都市の役割を論じている。また、ケニア の都市化の現状を事例に、現場で何が起きているのか、ケニアの都市を経済成長の原動力にするた めに何が必要かを考察した。その結果、①民間セクターの活用も含めた戦略的な都市開発計画の策 定、②都市化の問題と経済成長戦略とのリンク付け、③インフラ整備、人材育成、フォーマルセク ターの雇用創出などの経済成長のための都市機能の強化、④政府の能力の向上と政府の体制の整理 を提言として挙げている。
5-1 はじめに:進展する世界の都市化
近年世界の人口において都市化が急速に進展している。1900年に2億2、000万人(世 界人口の13%)だった都市人口は、1950年には7億3、200万人(世界人口の29%)に、
2005年には全世界で32億人(世界人口の49%)に達した1。2008年は、都市人口が農村人 口を上回るという記録的な年となり2、現在、世界人口約66億人のうち、半数の33億人以 上が都市に暮らしている。このような急速な都市化の傾向は現在も続いており、今後 25 年のうちには、人類の3分の2が都市に居住することになると考えられている3。しかも途 上国の都市の新しい居住者のほとんどが貧困層である。都市人口の急速な増加は、都市問 題を増大させる恐れがあり、かつてないほど多様かつ大きな影響を及ぼす恐れがある。し かも、都市の人口増加の約95%が開発途上国で起きており4、特にアフリカおよびアジアに おいて最も顕著である。先進国においては、すでに都市化が進んでいることもあり、都市 化の進行率は比較的緩やかであるが、アフリカ、アジアにおいては、2000年から2030年 の30年間に、都市の人口が2倍になると予想されている。そして、その人口増加は従来の
1 UN World Urbanization Prospects, 2005
2 UNFPA, State of World Population 2007
3 UN-HABITAT (2008), State of the World’s Cities 2008/09
4 UN-HABITAT (2008)、同上
128 農村から都市への人口移動によるものではなく、都市における人口の自然増加の方が多い と言われている。
サブサハラアフリカ(SSA)においては、すでに人口の3分の1が都市に暮らしている とされ、30年後には農村と都市の人口割合は同じになると予想されている。さらに、都市 人口の72%が現在スラムに居住している5という現実からも、都市問題がいかに国の発展お よび貧困削減のために重要か推測に容易い。
一方、経済成長は都市から生まれるとされるが、都市を有効に維持管理していく政府の 能力やそのためのインフラの整備がなければ経済成長も難しい。このような要素が弱い開 発途上国においてで、都市に人口が急激に増加すれば、これまで以上に都市の問題が深刻 化することは明らかである。グローバリゼーションの影響もあり、今や国と国との空間的 距離が近くなり、都市化の問題は一国内の問題であると同時に地域的な問題、そして国際 開発という文脈でもますます大きな意味を持つようになってきている。
本稿では、特に急速な都市化が進んでいるアフリカの現状を人口の動きを中心に問題を レビューしながら、中でも都市化の進展が著しいナイロビに焦点を当て、ナイロビにおけ る都市化の現状と課題を考察する。特にケニアにおいては、2008年連立新政府樹立を機に、
新たに首都圏問題を扱う「ナイロビ首都圏開発省」(Ministry of Nairobi Metropolitan Development)を設立し、ナイロビをケニアのみならず地域の中心都市として更に有効に機 能させようとする政治的意思が見られる。このような新たな動きを注視しつつ、経済成長 を促進させるために政府が都市へどのような対策を行っているのか、最近の都市問題の現 状と取組み、そして国際社会からの取組み状況を検証する。そして国際社会としての都市 化への支援のアプローチを模索する。
都市化は、水、衛生、電気、教育、医療など市民への公共サービスの提供、火災や災害 への対応、スラムや治安対策など多様な課題を包括しており、平和な社会の実現とその維 持において大きな課題を提示している。また、最近では、気候変動による都市の貧困層へ の影響を警告する報告もなされており6、急速な人口増加による途上国の貧困層への影響が 懸念されている。
このような都市化による問題に対し国際社会は、まず1960年代にスラム内の安価な住居 の提供を始めた。1970年代に入り、スラムの環境改善に焦点を当て、1980年代は都市の運 営能力向上、1990年代は都市インフラの民営化支援とともに住居および土地市場改革、そ して最近では、都市同盟(Cities Alliance)7や他国際イニシアティブによる都市開発戦力を 実施している8。しかし、気候変動による都市への影響など新たな対応も迫られており、国 際社会はいかに効果的に都市化の問題に介入できるのかが問われている。2009年の英国議
5 UNFPA、同上(2007)
6 UNFPA(2009)やUNDP(2008)などにおいて、世界の多くの都市が海岸沿いあるいは河川沿いにあり、気
候変動による洪水やハリケーンによる影響を受けやすいなどの影響を指摘している。
7 都市同盟(Cities Alliance)とは、都市と開発パートナーからなるグローバルな連合組織。都市の貧困削減 政策の成功例を取り上げ、その規模拡充に努力している。
8 World Bank (2009c)
129 会の国際開発委員会(International Development Committee)の報告9では、特にアフリカ都市化 の問題は、急激な人口増加による貧困問題の悪化、雇用問題、社会秩序、治安など深刻な 課題に直面しており、これまでの英国開発省(DFID)の都市化へのアプローチは、インパ クトを与えたものもあるが、都市化の問題が様々であることからばらばらに対応しており 効果的ではないと批判している。また、世界銀行による世界開発報告200910においても、
多くのドナーや援助機関がスラムの問題など都市化の負の部分に焦点を当てており、経済 発展をもたらす可能性としての都市の集積に対する効率化への対応をしてきていないと指 摘している。そして、昨今の急速な人口増加による深刻な都市問題を「都市問題」として 包括的なアプローチとして取り組むことを提言しており、都市化への新たな援助アプロー チが模索されている。それと同時に都市化の問題は複雑でありアクターが多様であること から、当事者政府の強い「政治的意思」が求められている。
スラム問題や都市の混雑問題など都市化による負の影響に対して政府を始め国際社会は 力を注いでいる。しかし、都市化による負の影響が懸念される一方、都市化なしには飛躍 的な経済成長を経験した国はなく、都市化を肯定的に捉えることが重要である。都市への 貧困層が集中する一方、UNFPAの 25カ国を対象とした調査11では、都市化による経済成 長が貧困削減を実現させたと結論付けており、都市への人口集中が経済成長を生み、貧困 を削減する原動力にもなることも示唆している。世界レベルでは、GDPの約75%は都市か ら生産されており、開発途上国の将来の経済は、急増する都市の人口がいかに高い生産性 を産むかにかかっていると言える12。経済発展をもたらす可能性として都市における経済 の集積に対する効率化が必要であり、集積の経済効果を国レベルで発揮させるには、都市 を生産的かつ持続可能に維持管理していく必要がある。
5-2 サブサハラアフリカの都市化の特徴
国の発展が進むにつれ、農業から工業、そしてサービス業へと経済構造が移行し、製造 業やサービス業のGDPに占める割合が高くなる。その生産、効率性を高めるためには、豊 富な熟練労働、巨大な消費者市場、関連企業網が集まった人口密度の高い地域が必要であ り、そこで都市化が進展する。日本をはじめ、アジアの経済成長を支えた一つは、このよ うな産業の集積を伴った都市の成熟化が挙げられる。しかし、アフリカにおける都市化と 持続的な成長との関係はこれまでとは違う様相を呈している13。ここでは、SSA の都市化 の特徴をいくつか挙げてみる。
まず、通常経済成長と都市化率は正の相関関係になるはずであるが、アフリカの場合、
図表1にみられるように、経済成長が滞っていた時期においても都市化が進展している。
9 International Development Committee (2009)
10 World Bank (2009b)
11 UNFPA, State of World Population 2007
12 WB Urban & Local Government Strategy, Concept & Issues Note, April 15, 2009
13 世界銀行(Fay, Opal)やUNFPA, UNHABITATでの研究調査。Fay (2000), UNHABITAT (2008)など。