第三章において、「少子化による生徒数の減少」、「公立高校の学校数の減少」、「通信制 高校の生徒増加」について述べたが、これらは、総括して言えば、社会の変化、生徒の多 様化等の問題に起因する。このためにも、「地域のニーズに応える学校・学科等の設置」、
「生徒数の減少が著しい地域での学校再編」、「各学校の特色・特長を明確化」、「学校経営 の適確なミッションの策定と実現」等が必要である。
第一章で述べたように、文部科学省は、各学校の管理職に対して学校教育目標を定めさ せ、SWOT分析を行い、その前提として内外の環境分析を求めているが、管理職ができる 分析範囲は限られている。しかも、小・中学生の生徒やその保護者がもつ高校に対する要 望等を正確に掴むことが学校経営には不可欠であるが、各高校において同様な調査・分析 を行うことは教職員の仕事量や知識等から考えただけでも難しく、また可能だとしても学 校改編、それに伴う人事権、財源等の問題もある。
また、地域住民の生涯学習を含めた学校教育に対する要望や、各学校の有効活用を考慮 する上で、管理職だけではなく都道府県レベルのリーダーシップが必要となる。
そこで、本章では私案として、公立高校の学校組織改革とより良い学校経営を行うため に、現在用いられている経営学的手法の SWOT 分析、PDCA にくわえて、第四章で述べ た、同手法のマーケティング、BSC、シック ス ・シグマの学 校教育へ の導入を 提案する 。
第一節 学校組織マネジメントの私案
図 10 の「2001年~2009 年までの学校組織図」、図 11 の「2009年~2015 年までの学 校組織図」、図 12 の「2015 年からの学校組織図」、図 13 の「私案に基づく学校組織図」
を用いながら、公立高校における経営学的手法を用いた学校組織と学校経営の改革を提案 する。
図 11 は、文部科学省による教育行政が行われ、文部科学省から都道府県の教育委員会 へ、指導・助言又は援助だけでなく是正の要求・是正の改善の指示が行われていたことを 示している。
図 12 は、現在のものであり、都道府県知事の教育行政に関する権限が強化されている ことを示し、図 10~13 までは、経営学的手法として SWOT 分析と PDCA が用いられて
91 学校経営が行われていることを示している。
図 13 は、既存の経営学的手法に加え、経営学的手法のマーケティング、BSC、シック ス・シグマを導入していることを示している。
第一段階として、都道府県レベルに経営学、分析に関する知識・技術を有する専従職員 が所属する部署を設置する。当該部署は、全県下における教育に関するマーケティングの 実施と分析を行う。このことで、継続的かつ広域的な学校教育に対するステークホルダー のニーズの分析が可能となり、それにより新たなニーズを生み出すことも可能となる。
第二 段階 とし てこ の分 析結 果に 基づ き、 都道 府 県及 び市 町村 教育 委員 会を 中心 とし て BSCを用いた教育全般の戦略を策定、実行し、マーケティングと補完し合うことで、ニー ズを意識した都道府県の教育組織改革や改善等を行う。
第三段階として、各公立学校の管理職は従来のSWOT 分析と、都道府県及び市町村教育 委員会を中心とした教育に関する戦略に基づき、各学校のビジョンや教育目標等を決定し て全教職員に伝達し、目標を達成させる。全教職員は、都道府県の教育に関する戦略と各 学校のビジョンや教育目標等を鑑み、学年・校務分掌等の単位で従来の PDCAだけではな く、シックス・シグマを導入・実施し、学校経営改革や改善を行う。
この章では、公立高校の学校教育にマーケティング、BSC、シックス・シグマを用いる ことで、ステークホルダーのニーズを把握して、各都道府県の教育方針や努力目標等を設 定し、公立高校は、各学校の特長・特色を生かした、継続的で、中・長期的な組織改革や 学校経営が可能であることを検討する。
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なお、私案に関しては、以下の内容を包含している。
第一は、都道府県の部署に学校改革推進部門の拡充と体制づくりである。
現在、都道府県知事が策定した「教育大綱」に基づき、首長と教育長・教育委員による
「総合教育会議」と、都道府県内の各教育委員会と連携して諸問題の解決に尽力すること が求められている。これに対処するためには現在の都道府県に設置している学校改革推進 部門の部署を拡充して、マーケティングの実施と分析、分析に基づいたBSC による戦略 策定、その戦略に沿うシックス・シグマによる改善が行えるだけの人員・施設・設備等の 予算確保を行うことが大切となる。
また、県内・県外を問わず、小・中・高校、大学、短大、専門学校等の各学校や、民間 企業との緊密な連携可能なシステムの構築、公立の小・中・高校におけるマーケティング、
BSC、シックス・シグマが導入可能な体制づくりを行う。
第二は、人材の確保と育成である。
学校教育へのマーケティング、BSC、シックス・シグマ導入当初には、経営学・統計学 の知識を有する職員を採用し、その後、これらの手法を継続して実施するための資格取得 の推進を行わなければならない。それ故、都道府県は職員や教職員に対し公費による大学 院入学や資格取得、講習受講等を積極的に行わせ、教職員の場合には、学校においてその 知識を活用させ、また、後に管理職として各学校の改革に取り組ませる。
第三は、マーケティング、BSC、シックス・シグマによるプロジェクトである。
各学校に関する諸問題解決のため、生徒とその保護者等のステークホルダーを対象とし てマーケティングを実施し、客観的なデータの収集・分析を行うことにより、潜在化して いる問題も可視化させる。なお、ステークホルダーに関しては、生徒とその保護者(PTA も含む)以外に、地域住民、卒業生(同窓会)、教職員、地域企業、地域の学校、生徒が就 職した企業(進学後も含む)、等が学校に関係するステークホルダーであり、彼らを「顧客」
と見立てて、マーケティングを行い、顧客満足度を高めるための課題を設定する。
その後、都道府県レベルで、マーケティングや BSCによるデータ分析や戦略策定後、
公立高校の設置・統廃合、管理、教職員の人事等を含めた諸問題解決のプロジェクトを実 行し、より良い解決方法を模索する。また、都道府県は、教育委員会を通じて各学校の校 長へ報告する。各学校の校長はマーケティングやBSC によるデータ分析基づき、学校教 育目標等を作成し、その地域に根ざした学校独自の学校経営を行うことが可能となる。
第四は、マーケティング、BSC、シックス・シグマの継続的発展である。
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シックス・シグマは「顧客中心主義」を掲げているが、学校教育においては顧客である 生徒とその保護者等が学校に求める真の価値を知り、それを提供するためには何をすれば よいかを考えることで、教育の本質を高める作用が機能する。そのためには、継続的な実 施が必要であり、また、学校は、一人の先生が担任・副担任、学年、生徒指導・進路指導 等の校務分掌、部活等、重層的な構造となっているために、学校組織に適応したマーケテ ィング、BSC、シックス・シグマの発展が必要となる。
特に、シックス・シグマに関しては、校務分掌や学年等の各主任を中心にした継続的な 実施が必要であると考えられる。
第二節 マーケティング導入による学校組織改革
現在、マーケティングは、民間企業等の営利分野だけではなく、公共・非営利分野にお いても導入されているが、企業のマーケティングを学校教育の場に直接導入することは不 可能であろう。
しかし、非営利組織におけるマーケティングに関して、小原(2011)は、アメリカでは マーケティング導入は一般化し、理論的な体系も確立され、大学で授業科目ともなり、日 本においても今後マーケティングの新領域として大きく浸透していくであろうと述べてい る 1。実際、私立高校を対象にした学校マーケティングを含めたコンサルティングを行う 企業があり、そのHPにはその実績を示している。また、私立高校等の広報担当者を対象 とした講座等を開設している企業も存在している。
しかし、先行研究に関しては、教育機関 へのマ ーケティング の研究の 多くが高 等教育 、 特に大学に関する研究が多く、組織研究をマーケティング視点により論究する研究が大半 を占めているため 2、私立高校のマーケティングに関する先行研究でも、ほとんどない状
1小原(2011)235ページ.
2穐原(2014)5ページ.
大学に関する先行研究に関して以下のように述べている。
「大平は、まず、非営利組織の構成概念を明らかにし、非営利組織がマーケティングを展開する際に、
非営利組織の特性から、従来のマーケティングとは異なったものであるという事を論究した。この大 平の研究視点には、コトラー(1989)が非営利組織へのマーケティング的思考の適用可能を示した研究 が基盤となっており、コトラーが非営利組織の持つ組織的特性として、「取引」と「公衆」の2つの点 を拡張した所に、マーケティング戦略が生まれる生存箇所があると示した点から生まれた研究である。
そして、非営利組織へのマーケティングの適用を試みたコトラーの研究は、組織の活動領域、そし てその役割、特性、供給する財の性質の4つを無視して拡張したものであると批判的考察を行い、こ れらのマーケティング活動の異質な側面に対して、大平はより深く研究を進めたものであった。
次に三宅(2007)は、非営利組織のマーケティング戦略のあり方について、私立大学をモデルケースと
して取り上げ、営利組織だけではなく、非営利組織においても、マーケティングマネジメントの概念