先に述べたように、高校進学率が 2017年(平成29年)には 98.8%に達しており、高校 は、「準義務教育機関」となり、しかも社会の変化等に伴い多くの問題を抱えている。その 問題とは、中途退学者の増加、不登校生徒の増加、教育困難校の増加、偏差値による輪切 り入学者の増加、大学等の進学希望者の増加等で、以前とは異なる問題が発生している。
そこで、この章では、第一節と第二節において、全国的の高校の変化と現状から「ニー ズを考慮していない高校」と「ニーズを考慮している高校」とに区別し、その成り立ちや 変化を確認し、第三節おいて、地方公共団体の一例として長崎県の公立高校の現状を確認 する。
第一節 ニーズを考慮していない高校
全国の高等学校の生徒数は、図4にあるように、1990 年(平成 2 年)の約 577万人か ら 2018年(平成 30年)には 330万人を切る状況である。また、図5にあるように全国の 高等学校数は、1988年(昭和 63年)では5,525校を数えたが、生徒数の減少に伴い 2018
年(平成 30 年)には 4,897 校と減少している。しかし、私立高校の減少は、ここ数年ほ
とんどない状況から、国公立高校が 500校以上の統廃合が行われたことが推測される。
図4 全国の高校生徒数の推移 1
1学校基本調査より筆者作成。
都道府県別の全日制生徒数に関して、杉野(2014)は「大きな特徴として次の3点がある。第1に、全 2,000,000
2,500,000 3,000,000 3,500,000 4,000,000 4,500,000 5,000,000 5,500,000 6,000,000
40
図5 全国の国公立高校と私立高校の推移 2
第一項 普通科高校と専門学科高校
高校には、普通科高校と、工業や農業等を専門とした専門学科高校がある。その生徒の 割合は、1955年(昭和30年)では、普通科高校が 59.8%、専門 学科高校が 40.1% 3で、
ともに卒業後に就職する生徒の割合は高かった。しかし、生徒数増加と普通科志向の高ま りを受け、各都道府県は普通科高校を中心に学校数やクラスの増加等の拡大を図り 4、多 くの普通科高校では、大学進学を目的とした画一的教育課程を編成・実施 5して大学等の 進学者を増加させたことから、卒業後の就職率は、昭和 30年代 6の約40%から平成21年 都道府県において平成元年あるいはその若干前の年に生徒数のピークをなしているが、特に大都市圏の 都府県ではピークの山は鋭い。第2に、しかし鹿児島県、秋田県、山形県のように、このピーク時の生徒 数よりも昭和50 年の生徒数の方が多い県がある。これらの県では、ピークは大きな生徒減少の流れの 中での小さな山であった。第3に、大阪府、愛知県、神奈川県、東京都、埼玉県、千葉県、京都府などの 大都市圏の都府県を中心に、平成20年前後から生徒の増加もみられる。」と述べ、都道府県により生徒 数の変動の違いを指摘している。杉野(2014)5ページ.
2学校基本調査より筆者作成。
3中央教育審議会初等中等教育分科会高等学校教育部会(2014)9ページ.
4中央教育審議会初等中等教育分科会高等学校教育部会(2014)9ページ.
5中央教育審議会初等中等教育分科会高等学校教育部会(2014)9ページ.
61951年(昭和26年)5月に設置された「政令改正諮問委員会」は、同年11月に「教育制度改革に関す る答申」を発表した。この答申は「国力と国情に適合する」教育制度の確立、「画一性の打破」「実際 社会の要求に応じうる」ことを主張し、第1次アメリカ使節団報告書を基調とした日本の戦後教育制度 の改変を志向した。この中で、高校について「高等学校の課程も、中学校の課程と同様、地方の実情に 応じ、各校ごとに、普通課程に重点をおくものと職業課程に重点をおくものとに分かち、後者において は、専門的職業教育を行うものとすること」、「総合高等学校はこれを分解し、普通課程学校または職 業課程学校のいずれかに重点をおいてその内容の充実強化を図ること。学区制は原則として廃止するこ と」と述べている。
また、同年6月には、国の産業教育への財政補助を強化し、振興する「産業教育振興法」が公布された。
この当時、1950年(昭和25年)に起こった朝鮮戦争による「特需」や、アメ リ カ の 復 興 援 助 等 に よ り、
1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 4,000 4,500
公立高校 私立高校
41
から 8%台と減少し、平成29年には8.4%であった。
このような状況の中、大学入試を目的とした画一的な教育の問題点が指摘されようにな り、1975年(昭和50年)に都道府県教育長協議会・高校問題プロジェクトチームが組織 され、新しい高校のあり方が討議された。二年後の 1977年(昭和 52年)に出された報告 書「高校教育の諸問題と改善の方向」では、学校は漸次その個性を失って、人間形成の場 となり得ていない傾向がみられること、高等学校教育に対する旧態依然たる意識を改め、
教育課程の効果的かつ弾力的運用を図るばかりではなく、さらに思い切った新しいタイプ の高等学校を開発することにより、教育課程の弾力化のみでは達し得ない教育の個性化を 進めることが求められた。
1991年(平成 3年)の中央教育審議会(以下中教審)答申 7等においても、このことは 議論され、それに伴い、生徒の一人ひとりの個性を伸ばすことを目標とし、なお且つ、国 際化・情報化社会等の社会の変化に対応可能な人材育成の高校改革が実施されるようにな った。このような状況の中、専門学科高校の生徒も 1970年(昭和45年)に85%を超えて いた卒業後の就職率は、2013年(平成25年)には約 50%と減少し、その一方で進学率は 45%と増加した。
なお、表1と表2は、2009年(平成 21年)と2017年(平成29年)の普通科高校、専 門学科高校、総合学科高校の学校数と生徒数とその割合を表しているが、普通科高校は学 校数、生徒数ともに減少しているが、全体に占める割合は上昇しており、専門学科高校は、
学校数、生徒数、全体に占める割合も減少していることがわかる。
軽工業中心から重工業・電気・化学工業を基盤とする工業化が進み、日本の製造工業の生産指数は、第 二次世界大戦前水準の2.3倍となった。
このような経済情勢を反映して、日本経済連合会は、1956(昭和31年)に「新時代の要請に対応する 技術教育に関する意見」を、翌年には日本経済連合会技術教育委員会は「科学技術教育の振興に関する 意見」を発表した。この中では、「今後の経済発展に対 応する技術者・技能者の計画的養成教育」、「こ れを充足するに必要な専門大学の設置、法文系学生の圧縮と理工系学生の増員、工業高校の充実、勤労 青少年の技術教育の刷新、小・中学校の理科職業教育の推進」が基本的な考え方であり、「工業高校の 拡充」とあわせ「中学校と結びついた6年制工業高校構想」を提案した。
1961年(昭和36年)に経団連と日経連は「技術教育への画期的振興策の確立推進に関する要望」にお いて、「工業高校ならびにこの度創設された高等学校専門学校への積極的な助成施策」を求め、中級技 術者を多量に供給し得る新しい学校制度の創設を要望した。
また、1963年(昭和38年)には、経済同友会は「工業化に伴う経済教育についての提案」を行い、技 術教育と均衡のとれた教育効果を求めた。また、同年に文部省は、中央教育審議会に「後期中等教育の 拡充整備について、①期待される人間像について、②後期中等教育の在り方について」を諮問した。こ の第20特別委員会(後期中等教育の在り方)の審議課程で、日経連教育特別委員会は「要望書」を提出 し、「技能に関する学科の新設」「コース等の多様化」「教育内容の充実」「中学校における進路指導 の充実」「企業内教育の技能高校への移行」「通信制6 課程、定時制課程の改善」など、後期中等教育 全般への提案を示し、1960年代に高度経済成長による高校の教育改編が行われた。
7文部科学省 中央教育審議会「新しい時代に対応する教育の諸制度の改革について答申」
平成 3年4月13日.
42
他方、1994年4月(平成6年)に創設された総合学科高校は、学校数、生徒数ともに 増加しており 8、しかも学校数と生徒数の割合は、ともに約 5%であり、統計上において 総合学科高校の生徒とその保護者等のニーズを考慮していると推測される。
普通科高校 専門学科高校 総合学科高校
2009年(平成21年) 3,928校(56.0%) 2,744校(39.1%) 338校(4.8%) 2017年(平成29年) 3,770校(56.3%) 2,558校(38.2%) 369校(5.5%)
表1 全国の普通科高校・専門学科高校・総合学科高校の学校数 9
普通科高校生徒数 専門学科高校生徒数 総合学科高校生徒数
2009年(平成21年) 2,430,528人(72.3%) 757,473人(23.0%) 172,100人(5.1%) 2017年(平成29年) 2,388,509人(73.0%) 706,362人(21.6%) 175,529人(5.4%)
表2 全国の普通科高校・専門学科高校・総合学科高校の生徒数 10
総合学科高校に関し、中教審の初等中等教育分科会高等学校教育部会の審議まとめにお いて、「多くの学校や教育委員会は、自己の将来の生き方・働き方や進路について自覚を深 めることや、生徒の多様な興味・関心、学ぶことの楽しさや成就感の体験などを成果とし て掲げており、ほとんどの学校において、導入当時に期待されていた教育の特色を理解し た活動が実施されていることがうかがえる。」と記載されており 11、数字もそれを示して いる。
このことは、家庭環境、生活環境、地域性、進学費用等の経済問題、その他様々な要因 もあり一概には判断すべきではないが、普通科高校と専門学科高校では、学校数や生徒数、
全体に占める割合を比較した場合、生徒・保護者等のニーズに合った学校経営が行われて いないと推測される。
第二項 定時制高校
定時制高校は、戦後の教育改革の中で1947年(昭和22年)に制定された学校教育法第45
8専門学科高校が総合学科高校に校種を変更した場合も考えられる。
9学校基本調査を基に筆者作成。
10学校基本調査を基に筆者作成。
11中央教育審議会初等中等教育分科会高等学校教育部会(2014)15ページ.