A-加群M に対して,A-部分加群V ⊂W ⊂M をとってA-加群W/V を M のA-部分商と呼ぶ.簡単な性質として
命題A.6.1 単純A-加群E とA-加群の完全列 0→L−→α M −→β N→0
に対して,M がEと同型なA-部分商をもつならば,L又はN がE と同型 なA-部分商をもつ.
[証明] A-部分加群 W ⊂M と全射 A-加群準同型写像 f : W → E がある.
f(Im(α)∩W)̸= 0ならばf◦α:α−1(W)→E は全射となり,L がE と同 型なA-部分商をもつ.f(Im(α)∩W) = 0 ならば
Ker(β)∩W = Im(α)∩W ⊂Ker(f) となるからA-加群の全射準同型写像
(∗) :W/Ker(β)∩W ∋x˙ 7→x˙ ∈W/Ker(f) が定義され,これはA-加群の同型
W/Ker(β)∩W→˜ β(W)⊂N, W/Ker(f) ˜→E
よりA-加群の全射準同型写像(∗) :β(W)→E を与えるから,N がE と同 型なA-部分商をもつ.
A-加群M のA-部分加群の列
(∗) :M =M0M1· · ·Mr−1Mr= 0
でMi/Mi+1 が全て単純A-加群のとき,(∗)を M の組成列と呼び,
{M0/M1,· · · , Mr−1/Mr}
を組成列(∗)の組成因子,rを組成列(∗)の長さと呼ぶ.単純A-加群Mi/Mi+1
の同型類を[Mi/Mi+1] と書いて
JH0(M) ={[M0/M1],[M1/M2],· · ·,[Mr−1/Mr]}
とおき,JH0(M)の相異なるもの全体をJH(M)と書く.命題A.6.1から次 の系を得る;
系 A.6.2 組成列をもつA-加群M が単純A-加群E と同型なA-部分商をも つならば,Eは M の組成因子の一員と同型である.
命題A.6.3 A-加群M に対して,M が組成列をもつ必要十分条件はM が ArtinかつNoether A-加群なることである.
[証明]M が組成列
M =M0M1· · ·Mr−1Mr= 0
をもつとする.Mi/Mi+1 は単純A-加群だからArtinかつNoetherA-加群 である.よってMi+1 が ArtinかつNoetherA-加群ならば Mi も Artinか つ Noether A-加群となる.Mr = 0は Artin かつ Noether A-加群だから,
M =M0 はArtinかつNoetherA-加群である.逆にM がNoetherA-加群 とすると,M のA-部分加群の列
M =M0M1· · ·
でMi/Mi+1 は全て単純A-加群になるものがとれる.更に,M がArtin A-加群とすると,Mr= 0なる番号rがある.
A-加群M が組成列をもつとき,組成列の長さは一定であり,組成因子は順 序と同型を除くと一意的である(Jordan-H¨older の定理[4,定理7.42]).そ こでA-加群M に対して,
lA(M) =
M の組成列の長さ :M が組成列をもつとき
∞ :M が組成列をもたないとき とおき,lA(M)をA-加群M の長さと呼ぶ.
基本的なことは次の二つの定理(Artin-Weddeburnの定理)である;
定理A.6.4 半単純環A と単純A-加群M に対してD= EndA(M)は斜体 で(命題A.1.2),M は自然にD-加群となる.このときdimDM <∞であ る.更にAが単純環ならば
1) dimDM =lA(A)<∞,
2) a ∈ A に対して fa(x) = ax (x∈ M) とおくと,a 7→ fa は A から EndD(M)の上への環同型写像である.
[証明]まずdimDM <∞である.実際,部分集合 S⊂M に対してa(S) = {a∈A|aS= 0} はAに左イデアルとなる.命題A.5.4よりAはArtin環 だから
F={a(S)|S⊂M :有限部分集合} ̸=∅
は極小元a(S0)∈ F をもつ.S0 ⊂M で生成されたD-部分加群を N ⊂M とする.N M として x0 ∈ M は N に含まれないとすると,f|N = 0, f(x0)̸= 0 なる f ∈ EndD(M) がある.Jacobson-Chevalley の稠密性定理
(定理A.1.6)より任意のx∈S1={x0} ∪S0に対してf(x) =axなるa∈A がある.このときa∈a(S0)かつa̸∈a(S1)だからa(S1)∈ F,a(S1) a(S0) となりa(S0) の極小性に反する.よって M =N となりdimDM < ∞ で ある.
更に A が単純環ならば,定理 A.1.6 から a 7→ fa は A からEndD(M) への環の同型写像である.そこで M の D-基底を{x1,· · ·, xn} とすると,
a7→(ax1,· · · , axn)は Aから直和Mn の上へのA-加群同型を与える.よっ てlA(A) =n= dimDM となる.
定理A.6.5 D を斜体として,有限次元D-加群M ̸= 0をとる.このとき 1) A= EndD(M)は単純環かつ半単純環でlA(A) = dimDM <∞, 2) M は単純A-加群,
3) a ∈D に対して fa(x) = ax (x∈ M) とおくと,a7→ fa は D から EndA(M)の上への環同型写像である.
[証明] 0̸=x∈M とすると
Ax={α(x)|α∈EndD(M)}=M
となるから,M は単純A-加群である.ここでM のD-基底{x1,· · · , xn}に 対して,a7→(ax1,· · · , axn)は A から直和 Mn の上へのA-加群同型を与 える.よってAは半単純でlA(A) =n= dimDM となる.更に,
Z(A) =Z(EndD(M)) =Z(Mn(D)) =Z(D)
は体だから,命題A.5.5 よりAは単純環である.3)は定理A.1.6よりよい.
命題A.6.6 有限生成半単純A-加群M に対してB= EndA(M)は半単純環 である.更にAが半単純環ならばM は有限生成B-加群となり
A∋a7→[x7→ax]∈EndB(M) は全射である(定理A.1.6).
[証明]命題 A.4.2 と命題A.6.3 からlA(M)<∞だから,M は有限個の単 純 A-加群の直和である.まず M =
⊕r
N なる単純A-加群 N があるとす る.このときD= EndA(N)は斜体で
B= EndA(M) ˜→Mr(D)
は単純環かつ半単純環である(定理 A.6.5).更に A が半単純環ならば dimDN <∞(定理A.6.4)だから,M =
⊕r
N は有限生成B-加群となる.
次にM =M1⊕ · · · ⊕Mn なるA-部分加群Mi ⊂M は同型な単純 A-加 群の直和であるとする.このときBi = EndA(Mi)は単純環かつ半単純環で あって,b∈Bi を
[M −−−−−−→projection Mi−→b Mi−−−−−→inclusion M]∈EndA(M) =B
と同一視して部分環Bi,→Bとみると,i̸=jならばBi◦Bj= 0である.また b∈B に対して,bMi ⊂Miだからbi=b|Mi∈Biとおけばb=b1+· · ·+bn
となるから,B=B1+· · ·+Bnである.よってB =B1⊕ · · · ⊕Bn となり,
B = EndA(M)は半単純環である.更に Aが半単純環ならばMi は有限生
成Bi-加群だからM =M1⊕ · · · ⊕Mn は有限生成B-加群となる.
A.7 加群の指標
以下,K は標数0の体として,Aは有限次元K-代数(1をもつ)とする.
有限生成A-加群M をとったとき,a∈A に対してfa(x) =ax(x∈M)と おくとfa ∈EndK(M)だから,fa のK 上の跡をχM(a) = trfa∈K と書 き,χM をM の指標と呼ぶ.
補題A.7.1 有限生成半単純A-加群M に対してD= EndA(M)とおくと EndD(M) ={fa∈EndK(M)|a∈A}
であって,EndD(M)は半単純K-代数である.
[証明] dimKM <∞よりM は有限生成D-加群だから,Jacobson-Chevalley の稠密性定理(定理A.1.6)を用いれば,補題の前半は明らかである.後半 を示すために,まずdimKEndD(M)<∞だから EndD(M)はArtin環で ある.よって定理 A.5.3 より J(EndD(M))r = 0 なる 0 < r ∈ Z がある.
M =M1⊕· · ·⊕Mrなる単純A-部分加群Mi⊂Mをとって,Di= EndA(Mi) とおく.補題の前半からMi は M のEndD(M)-部分加群で,f 7→f|Mi は EndD(M)からEndDi(Mi)の上への環準同型写像となる.よって命題A.2.5 から f ∈ J(EndD(M)) ならばf|Mi ∈ EndDi(Mi))となる.ところが定理
A.6.5よりEndDi(Mi)は半単純環だから,命題A.5.4よりJ(EndDi(Mi)) = 0.
よってJ(EndD(M)) = 0 となる.よって命題A.5.4 よりEndD(M)は半単 純環である.
定理A.7.2 互いに同型でない単純A-加群M1,· · · , Mrに対して,χM1,· · ·, χMr
はK 上一次独立である.
[証明]M =M1⊕ · · · ⊕Mrは有限生成半単純 A-加群だから,補題A.7.1 よ り,D= EndA(M)とおくと,EndD(M)は半単純K-代数で,Mi⊂M は
単純EndD(M)-加群であって互いに同型でない.よって A は半単純である
と仮定して証明すればよい.するとA=A1⊕ · · · ⊕ArをAの単純分解とし て1 =e1+· · ·+er (ei∈Ai)とおき,ai⊂Ai なる単純左イデアルai ⊂A をとってMi=ai であるとしてよい.Ai·Aj= 0 (i̸=j)だから
χai(ej) =
dimKai :i=j 0 :i̸=j
である.よってχ=λ1χa1+· · ·+λrχar = 0 (λi ∈K)とすると 0 =χ(ei) =λidimKai
からλi= 0を得る.
定理A.7.3 有限生成半単純A-加群M, N に対して,M と N が A-加群と して同型である必要十分条件はχM =χN なることである.
[証明]十分性のみが問題である.互いに同型でない単純 A-加群M1,· · · , Mr
を用いて
M ≃
⊕r i=1
Mimi
, N ≃
⊕r i=1
Mini
(0≤mi, ni∈Z)なるA-加群同型がある.このとき
χM =m1χM1+· · ·+mrχMr, χN =n1χM1+· · ·+nrχMr
だから,χM =χN とすると定理A.7.2 より mi =ni,よってM と N は A-加群として同型である.
応用上の便利のために上の定理A.7.3 をもう少し一般化しておく.A を 可換とも 1 を持つとも有限次元とも限らない K-代数とする(K は標数 0
の体).A-加群の単純性や半単純性は,定義A.1.1 や定義A.1.3と同様に定
義される.A-加群 M と a ∈ A に対してfa ∈ EndK(M) を fa(x) = ax (x ∈M) により定義する.更に dimKM < ∞ のとき,A-加群 M の指標 χM をχM(a) = tr(fa)∈K (a∈ A)により定義する.このとき
系 A.7.4 K上有限次元なる半単純A-加群M, N に対して,M とN がA-加 群として同型なるための必要十分条件はχM =χN かつdimKM = dimKN なることである.
[証明]必要であることは明らかだから,十分条件であることを示す.L=M⊕N として,{fa ∈EndK(L)|a∈ A}と1∈EndK(L)で生成されたEndK(L) のK-部分代数を Aとすると,Aは有限次元 K-代数で, Lは半単純A-加 群となる.そこでA-加群M の指標をχM と書くと
χM(fa) =χM(a) (a∈ A), χM(1) = dimKM
である.よってχM =χN かつdimKM = dimKN ならばχM =χN とな
り,定理A.7.3よりM とN はA-加群として同型,従ってA-加群として同
型となる.
A.8 K- 代数の Jacobson 根基
以下,Aを K-代数(Kは体でA は1をもつ)とする.a∈Aに対して (∗) :K[X]∋f(X)7→f(a)∈A:K-algebra hom.
はK-代数準同型写像で
Im(∗) =K[a] ={λ0+λ1a+λ2a2+· · ·+λnan |λi∈K}
は A の K-部分代数となり,Ker(∗) = (φa(X)) (φa(X) ∈ K[X])とおく.
φa(X)̸= 0のとき a∈A はK 上代数的といい,monic なφa(X)を K 上 のaの最小多項式と呼ぶ.このとき{1, a, a2,· · · , an−1}(n= degφa(X))が K[a] のK 上の基底となる.特にdimKK[a] = degφa(X)である.又
1) K[a]×={f(a)|f(X)∈K[X] s.t. (f(X), φa(X)) = 1}=K[a]∩A×, 2) λ∈K に対してa−λ∈A× ⇔ φa(λ)̸= 0.
[証明] 1)f(X)∈K[X] に対してf(a)∈A× として,f(a)c=cf(a) = 1な るc∈Aをとる.
(f(X), φa(X)) =d(X), φa(X) =d(X)h(X) (h(X)∈K[X]) とするとf(a)h(a) = 0 より0 =cf(a)h(a) =h(a),よってφa(X)|h(X)だ からdegd(X) = 0となる.
2)a−λ̸∈A×⇔(X−λ, φa(X))̸= 1⇔X−λ|φa(X).
命題A.8.1 a ∈A と相異なる{λ1,· · · , λr} ⊂ K とって,a−λi ∈A× か つ{(a−λi)−1}i=1,···,r か K 上一次従属ならば,a ∈ A は K 上代数的で degφa(X)< r.
[証明]まず
∑r i=1
ci·(a−λi)−1= 0, (c1,· · ·, cr)̸= (0,· · · ,0) なるci∈K をとって
f(X) =
∑r i=1
cc(X−λi)−1·
∏r i=1
(X−λi) =
∑r i=1
ci
∏
j̸=i
(X−λj)∈K[X]
とおく.c1̸= 0とするとf(λ1) =c1·∏
j̸=1
(λ1−λj)̸= 0より,f(X)̸= 0.更に
f(a)·
∏r i=1
(a−λi)−1=
∑r i=1
ci(a−λi)−1= 0
よりf(a) = 0.よってa∈AはK 上代数的でdegφa(X)≤degf(X)< r.
命題A.8.2 a∈J(A)がK 上代数的ならばar= 0 for some 0< r∈Z. [証明]まずK[a]⊃a·K[a]⊃a2·K[a]⊃ · · · でdimKK[a] = degφa(X)<∞ だからam·K[a] =am+1·K[a]なる0< m∈Zがある.そこでam=am+1b (b∈K[a])とおくと,a∈J(A)より1−ba∈A× かつam(1−ab) = 0,従っ てam= 0 となる.
定理A.8.3 ♯K×>dimKAならば
J(A)⊂ {a∈A|ar= 0 for some 0< r∈Z}.
[証明] a∈ J(A) とすると,任意の λ∈ K× に対して1−λa∈ A× だから a−λ∈A× となる.よってaがK 上代数的でないとすると命題A.8.1より {(a−λ)−1}λ∈K× はK上一次独立となり,dimKA≥♯K× となって矛盾す る.よってaは K 上代数的で,命題A.8.2 より上の通り.