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紙の新体制―「用紙規格規則」―

ドキュメント内 鮎川信夫と『新領土』(その (ページ 81-114)

 1940年11月7日、商工省令「用紙規格規則317」が公布された。日本文化出 版協会のための第一回創立委員会が開催された翌日のことである。

 その前文にいう。「昭和十二年法律第九十二号第二条ノ規定ニ依リ用紙規 格規則ヲ左ノ通定ム」。すなわち、省令の根拠は、1937年の事変議会で成立 し9月10日に施行された「輸出入品等ニ関スル臨時措置ニ関スル法律」にあっ た。「用紙規格規則」は、前年6月の商工省令「新聞用巻取紙供給制限規則」

と同じように、この法律を背後にして、拘束力が与えられたのである。

 この年、7月22日の商工省庶務課長会議で示された7月18日付資料「用紙規

格標準化要綱案」は、「製紙業者」にたいしては「規格版ママ用原紙以外ノ抄造 ヲ禁ズル0 0 0コト」とし、一方、印刷・出版・製本・雑誌業者、および文房具製 造業者にたいしては、その「仕上寸法」は原則として「紙ノ仕上寸法ニ関ス ル日本標準規格ニ據ルベキコトヲ命ズル0 0 0コト」とした。この「要綱案」にも とづいて作成されたのが、同日付「用紙規格規則案」であった。商工省令「用 紙規格規則」は、この文言を整理したものであった。

 「用紙規格規則」は二つの条項からなる。第一条は製紙業者にかかわる原 紙の寸法を定めたものであり、第二条はこの原紙を用いて製造する業者にか かわる。

 第一条は、「商工大臣ノ指定シタル用紙ハ左ニ掲グル規格ニ非ラザレバ之 ヲ抄造スルコトヲ得ズ0 0」とした。その「用紙」の標準寸法は、巻取紙と枚葉 紙、いずれもA列とB列とされた。これは、1931年2月10日の商工省告示に示 された日本標準規格第92号の、書籍と雑誌を主な用途とする「原紙ノ標準寸 法」に準拠したものであった。しかし、いま、かつて産業合理化のための役 割を果たしてきた日本標準規格が、省令によって新たな国策となったのであ る。

 定められた標準原紙を用いて、物品がつくられる。その「紙ノ仕上寸法」

すなわち大きさについては、日本標準規格がA列B列ともに0番から12番まで について寸法を定め、他方、具体的な物品に適用される大きさについては、

用紙標準化委員会が、その系列と番号をそれぞれ定めていた。それが、「用 紙規格規則」第二条の根拠となった。

 第二条は、物品の仕上寸法について、その「製造ヲ為ス者ハ其ノ仕上寸法 ヲ商工省用紙標準化委員会決定ノ規格(事務用紙仕上寸法、事務用封筒寸法 及荷札寸法)ニ定ムル寸法ト為ス」とした。この規格の対象となるのは、「事 務用紙仕上寸法」による書籍、雑誌を含む25種の品目と、「事務用封筒」と「荷 札」。合わせて27品目。「事務用紙仕上寸法」は、すでに1936年7月28日に、「事 務用封筒寸法」と「荷札寸法」はそれぞれ1933年の1月18日と7月19日に、用 紙標準化委員会が決定していたものである318

 もちろん、例外はある。但書は、「輸出註文(関東州、満州国又ハ支那向 キノモノヲ除ク)ニ係ル場合」、そして「特別ノ事情ニ依リ地方長官ノ許可

ヲ受ケタル場合ハ此ノ限ニ在ラズ」とした。しかし、例外は例外である。「仕 上寸法」もまた、省令によって遵守されねばならない。

 同日、11月7日、商工省は告示によって、用紙規格規則の第一条の「商工 大臣ノ指定シタル用紙」を指定した。「印刷用紙」「筆記用紙」「図用紙」「雑 種紙」の四種。そのうち、「印刷用紙」については、「印刷紙」「模造紙」「更 紙(新聞用巻取紙ヲ除ク)」、そして「アート紙」の四種とされた319。これら は、用紙標準化委員会の決定を受けて日本標準規格となり、ついで、前年 1939年7月25日に臨時日本標準規格として制定されていたものであった。そ の規格が、あらためて、法令化されたのである。7月22日の商工省庶務課長 会議で樺島繊維課長が「用紙規格ノ標準化ニ関スル件」を説明したときに「今 回ハ仕上寸法ニ付取扱ヒタルモ紙質ニ関シテハ追テ考究致シ度シ」と述べた 懸案事項が、これもまた、いま決定をみたのである。

 確認しておくべきことは、これら「印刷用紙」の四種が「洋紙」であり「和 紙」ではないことだ。印刷用の紙には和紙は使えない。

 11月7日に公布された商工省令「用紙規格規則」は、附則に、施行日を翌 1941年1月1日とした。

 「用紙規格規則」は出版業界に大きな影響を与える。『印刷雑誌』を刊行す る印刷雑誌社は、『規格判早わかり』を発行した。刊行日は未詳だが、この 商工省令の公布にあわせたものであろう。表題はもちろん、10月12日に発売 されて広く読まれた、あの『週報』特輯、「新体制早わかり」の後塵を拝す るものである。

 「用紙規格規則」によって、製紙業では、従来の菊判や四六判のための原 紙を抄造することが認められない。他方、書籍や雑誌業界にあっては、指定 された四種の、いずれかの用紙を使用して、A列、B列いずれかの、定めら れた寸法で仕上げねばならない。日本標準規格にもとづいて用紙標準化委員 会が定めた書籍と雑誌の仕上寸法は、先に見たように、書籍はA列4・5・6判、

B列5・6判の五種、雑誌はA列4・5判、B列5・6判の四種であった。これ以外 の判型は、「特別ノ事情」があり「許可」を受けたものでなければ許されない。

 「用紙規格規則」は、業界ばかりでなく一般の日常生活にも関わる。しかし、

一般にはA列B列とする寸法はまだ馴染みのないものであった。

 1940年12月4日の『週報』は、「規格を統一される書物と紙(日本標準規格 の話)320」を掲載した。傍点は引用者。

 去る十一月七日の官報で「用紙規格規則」といふものが公布され、来 年の正月からは雑誌とか帳面あるひはレターペーパーなども、規格以外 の大きさのものを作つてはならない0 0 0 0 0 0 0 0ことになりました。

語り口は穏やかである。もちろん、「用紙規格規則」には「輸出入品等ニ関 スル臨時措置ニ関スル法律」の罰則規定が控えていたが、一般には関係のな いものであった。

このことは私どもの日常生活にも極めて密接な関係があることですか ら、この規則の出たのを機会に、書物や紙の標準規格について簡単に説 明することにしませう。

 これまで見てきたところを再確認するためにも、この記事が語るところを 聞こう。

 書物や用紙類の大きさが大小長短まちまちだと、整理や保存が不便である。

「日本中の会社や銀行、あるひは役所などで使ふ用紙が、てんでんばらばら のものですと、事務の能率がいかに低下するかは、すぐ想像できることと思 ひます」。一方、「紙や本を作る側からいつても、製品が単純化されれば、同 種のものを沢山作ることができますから、自然生産能率を増進して値段も安 いものができます」。さらに、「印刷所、製本屋、郵便局、図書館などで受け る利益」も少なくない。これらの理由から「商工省では、その道の専門家と 相談して、紙の日本標準規格といふものをずつと前につくつた」が、「今後 いよいよその規格が広く適用されることになつた」と。そのとおりである。

紙の日本標準規格は、産業合理化政策の一環として定められたのであった。

 記事は、規格判の解説をはじめる。

 この緑の『週報』の裏表紙の下の方を御覧になりますと、「本書の大

きさは国定規格A5判」と書いてありますが、これはA列5番の大きさと いふことです。

 A列は、「ドイツ、スウェーデン、ベルギー、オランダなどメートル法を 採用してゐる国々に広く用ひられ」ているものであり、B列は「わが国独特 のもの」である。ただし、共通するその横と縦の比、1:√2は「わが国で 諧和矩形」と呼ばれるものであって「見た眼に非常にいゝ感じを与へる形」

である。

 1:√2の矩形などといふと、何だか外国の模倣のやうに考へる人もあ るかもしれませんが、実はこれはわが国で昔から好んで用ひられてゐた 寸法に戻つただけのことなのです。わが国では古くから、書籍の大きさ は大工の持つ指金(曲尺)を使つて、横は表尺で計り、縦は裏尺で計り、

共に同寸法にするといふのが通則だつたのです。横が表尺の五寸なら縦 は裏尺の五寸といふわけです。これは、表尺よりも裏尺の方が伸びてを り、表の目盛が1ならば裏の目盛は1.4くらゐになつてをりますから、書 物の横縦の比が、ちやうど先に申し上げた1:√2の寸法になつてゐたの です。

説明はつづく。

 ところが、明治になつて、西洋流の印刷製本の方式を無暗に取り入れ たので、今の菊判の書籍のやうな、細長くて黄金截(黄金分割)に類す るものが行はれるやうになつたのです。それを規正[ママ]して、わが国の 古来の寸法に合せてゆかうといふのがこの標準規格なのですから、ぜひ とも日本全国に普及させたいものだと思ひます。

この標準規格を従来の寸法と比較してみれば、A判は菊判に近く、B判は 四六判に近い。規格判は少しずつ小型になる。

ドキュメント内 鮎川信夫と『新領土』(その (ページ 81-114)

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