1937年11月20日、商工省は日本雑誌協会と東京出版協会の代表を招請して、
用紙の大量消費者である出版業者の自制を求め、二割を節減するための具体 案を諮問した197。
日本雑誌協会はその会員でもある大手取次店もまじえて対策を研究し、12 月6日に商工大臣宛「答申書」を提出した198。その節約案は、減頁と附録の 節約、印刷部数の調整、返品の調整、包装紙の節約あるいは廃止、荷造用紙 の節約、事務及原稿紙の節約、など8項目にわたるものであった。荷造用紙 については、「従来使用ノハトロン紙ヲ節約シ能フ限リ古新聞ヲ使用ス」と されていたが、取次店側は事変後はハトロン紙の不足のために、すでに古新 聞に切りかえていた199。
東京出版協会も11月20日の諮問について、「時局柄甚だ重要案件なること を認め」会員の意見を徴し研究のうえ、12月15日、商工大臣宛「答申書」を 提出した200。9項目の節約案は、出版物の荷造用包装紙の節約、宣伝用ポス ター、内容見本、チラシ広告等の節約など、日本雑誌協会と類似のものが多 い。
ただし、この用紙節減のための9項目からなる「答申書」で注目すべきは、
「出版物印刷頁面ノ利用増加(頁面文字収容量ノ増大等)」についで、「出版 物ノ形態ヲ規格判トシテ統一スルノ案」が掲げられていることである。
1938年2月23日、東京出版協会は、商工省商政課長を招いて用紙節約に関 する講演会を開いた。講演につづく懇談会は、なるべく並製とすること、実 用に差支えない限り紙質を落とすこと、ボール箱、カバーを着けないこと、
出版物はなるべく売り切りを原則とする、などを含む用紙節約の方策のため の八項目を「決議」した。その二つの項目。
五、印刷頁面ノ余白利用ニツキ
一、版を大キクシ余白ヲ少ク致シタシ 二、字間ノアキヲ廃止致シタシ
三、行間ノアキハ成ルベク狭ク致シタシ そして、
六、原則トシテ規格判ヲ使用シ型ヲ統一致シタシ201
東京出版協会は、この決議項目の「六」について、「規格判用紙の採用は 最も緊要にして其の実現に依り優に前年度消費額の二割を自然節約し得るも のと推定し」、用紙節約のための規格判の実行方策に集中することとし、日 本標準規格を解説したパンフレット「書籍雑誌用紙規格寸法」を会員に配布 し、意見を求めた202。
4月12日、東京出版協会は商工大臣宛に「上申書203」を提出した。同協会 の特別委員会が2月23日の決議、八項目のなかで「最モ重要ナル規格判使用
ノ件」にかんする実行方法の検討にもとづいたものであった。
この「上申書」によれば、規格判の使用を実行するために「製紙会社ニ対 シ規格判用紙供給方ヲ依頼スル」としても、現在の用紙は「多種多様」であ り、「一律ニ規格判ニ変更方ヲ希望スルハ実現不可能」である。一方、用紙 の種類が多いことは「需要者トシテノ出版業者ニ於テモ不便不利ノ点」が多々 ある。この現状にもとづき、特別委員会は、会員が現在使用中の四六判の用 紙の品種から、五種を決定し、「用紙生産額ノ主位ヲ占ムル王子製紙会社」
にこの五種を「規格判トシテ抄造供給セシムルトキハ需要者トシテモ大体ニ 於テ実務ニ何等支障ヲ生ゼラルノミナラズ用紙消費節約ノ国策ノ線ニ幾分ナ リトモ副ヒ得ルモノト認ム」とした。商工大臣に宛てたこの「上申書」は、「御 省ニ於カレテモ有効適切ナル方策ニ出デラレムコトヲ冀フ」と結んだ。規格 判用紙の抄造と供給については需要者側の権限を越えるものであり、商工省 側からの強制力が必要であった。
5月7日、中等教科書協会の会長は商工省統制局合理課長の招命をうけ、「用 紙節約のため規格紙使用方について懇談」した204。
5月9日、商工省の外局として「臨時物資調整局」が設置された。同局は商 工大臣の監督の下に「時局ニ緊要ナル物資ノ需給ノ調整ニ関スル事務ヲ掌ル」
ことになった。長官を商工大臣とし、次官以下、専任事務官のほかに、陸海 軍の将官を2名以下とし、佐官と尉官を含む8名の事務官によって構成され た205。のち、6月24日の閣議が「一般国内需要に付使用制限を強化す可き主 なる資源」として指定した、33の「使用制限品目」について、制限のための 方策をはかるのが、この臨時物資調整局であった。
商工次官は、5月14日付、日本雑誌協会と東京出版協会宛「書籍雑誌ノ用 紙標準化ニ関スル件」で、規格判によるべきことを再度、通牒した206。一方、
製紙業者にたいしては、商工次官は同日、社団法人日本製紙聯合会宛通牒「書 籍雑誌ノ用紙標準化ニ関スル件」に、「紙ノ大量使用者タル書籍雑誌及中等 教科書業者ノ組織スル団体」へ宛てた通牒を添えていう。「貴会所属業者ニ 於テモ此際特別ノ理由ナキ限リ規格判原紙ノミヲ抄造シ用紙ノ標準化ヲ一層 速カナラシメ以テ用紙ヲ節約シテ非常時局ニ対処相成度此段及通牒候也207」 と。
6月30日、文部省図書局長は、中等教科書の「製本仕上寸法の規格化」に ついて、中等教科書協会に通牒した。「現下ノ時局ニ鑑ミ資源ノ愛護竝ニ物 資の消費節約ハ国策上極メテ緊要ニシテ教科書用紙ニ就キテモ可及的之ガ使 用ノ合理化ヲ図リ節約ヲ励行スルノ方法ヲ講ゼラルベカラス依テ此ノ際教科 書ノ寸法ノ規格化ニ関シ左記事項ヲ実施シ之ガ実効ヲ挙グルヤウ努メラレ 度」と。備考として添えられたのは、1931年2月10日付「商工省令告示第 十一号」に示された「日本標準規格」である208。
用紙標準化について対応を検討する間、当局から用紙消費節約に関して内 示を受けた日本雑誌協会は、7月9日、緊急臨時総会を開催した。午後一時か らはじまった総会は、内示に関する報告のあと質疑応答にうつり、申合を決 議して、五時に閉会した。
政府当局ガ雑誌使命ノ特殊性ニ鑑ミ用紙ノ使用ニ特別ノ考慮ヲ払ハレ ツゝアルニ対シ本協会ハ誠心誠意一致協力以テ国策ニ応ヘンコトヲ期 ス209
日本雑誌協会は臨時総会ののちに意見をまとめ、7月25日、企画院と商工 省に、6項目からなる「答申書」を提出した210。
五、左の方法を以て用紙の節約を図る (イ)配給の合理化、発行部数の調節 (ロ)頁の削減又は紙質の低下
(ハ)印刷機械の改善を俟つて漸次規格判を採用
代表者が答申書を携えて関係官と会見した結果は、7月27日付「用紙問題 に関する報告書」として会員に発送された。
政府としては雑誌用紙の節約に就いては本協会の自治統制に依りその実 効を挙ぐべきやうに要望し、本協会側の決意を求められ、若し本協会に 於て自治統制の実績を挙げ得ざる場合は、厳重なる統制令を発表するの
止むなきに至る旨を漏らされたり211。
田代金宣によれば、「紙の統制」は、新聞用紙からはじまった。この年
1938年8月12日、輸出入品等臨時措置法にもとづく「商工大臣命令212」によっ
て、王子製紙、北越製紙の両社にたいして、新聞用巻取紙の供給制限が実施 されることになった。いわゆる「新聞用紙供給制限令」である。実施日は9 月1日213。8月13日付新聞によれば、12日の「命令は予想された省令に代わる べきもので」あった。制限令の公布と同時に、物資調整局次長は、「九月以 降明年六月までは前年同月に比し月一割二分の供給制限を行う」など細目を 規定した通牒を、製紙会社ならびに各地方長官宛てに発した214。30日、『讀 賣新聞』は用紙供給一割二分削減に対応して、9月1日から広告面2頁を廃止 することを伝えた215。
新聞用紙の供給制限が雑誌の用紙供給に波及することは、必至であった。
新聞用紙の供給制限を伝える8月13日の新聞は、雑誌類については商工省が
「近く雑誌協会代表者を招致し、同協会をして九月印刷分より昨年下半期の 約二割方節約を自主的に行わせるはず216」と報じた。
田代がいう、雑誌用紙の供給制限は、9月3日付、製紙会社、日本雑誌協会、
公益団体雑誌協会宛、臨時物資調整局次長の「依命通牒」が最初であっ た217。
臨時物資調整局次長は、日本雑誌協会に宛てた9月3日付依命通牒、「雑誌 用紙ノ使用節約ニ関スル件218」にいう。「貴所属会員ニ於テ本年九月一日以 降印刷ニ附スル雑誌ニ付左記事項実施相成様致度、尚製紙会社ニ対シテハ雑 誌用紙ノ供給ニ関シテ別紙写ノ通通達致候条貴会員ニ対シ右周知セシムル様 御取計相煩度依命此段申進候也」。
かねて内示があったとおり、用紙使用量制限の基準は上限を二割とするも のであった。そして、用紙については、「已ムヲ場合ザル場合ヲ除クノ外左 ノ通日本標準規格ニ依ルコト」とした。
(イ) 従来ノ菊判又ハ菊倍判ハ夫々日本標準規格A列五番又ハA列四番ト スルコト