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江西省九江青陽腔「白兎記」

第2節  精神障害をもつ人の置かれている状況

以上のような近年の政策的な流れの中にあって、精神障害をもつ人の置かれている状況はどうなっ ているか。厚生労働省の調査によると、日本における障害をもつ人の数は、身体障害者366万3000人、

知的障害者54万7000人、精神障害者320万1000人となっている。ただ、複数の障害を併せもつ人も いるため、単純な合計数にはならないものの、「およそ国民の6%が何らかの障害を有していること になる」5)という。

なお、精神障害に関しては、他の障害のような実態調査が行われていないため、医療機関を利用し た精神疾患の患者数から推計しているのが実情である。そうした中で精神障害をもつ人の具体的状況 について、以下見てみたい。その際の具体的な数値について、特に出典を明記しない場合には「平成 25年版障害者白書」に拠っている。

(1)年齢階層別の精神障害者数と精神疾患の種別

精神障害をもつ人の中で、入院以外の、つまり外来の人は約287万8000人といわれ、その年齢の内 訳は、20歳未満が17万6000人(6.1%)、20歳以上65歳未満が172万4000人(59.9%)、65歳以上が97万 4000人(33.8%)となっており、この間全体として高齢者の占める割合が高くなってきている点が目 につく。すなわち、65歳以上の割合の推移を、2005年から2011年の6年間で見ても、その割合は15%

余も上昇してきているのである。

また、同じく外来の精神障害の疾病別の内訳を見ると、最も多いのが「気分(感情)障害(躁うつ 病を含む)」で全体の32%余を占め、次いで「神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害」

の19%余、「統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害」の18%余そして「てんかん」が7%余 などとなっている。これをこの間の経緯で見ると、「統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害」

は、ほぼ横ばいなのに対し、「気分(感情)障害(躁うつ病を含む)」は1.5倍近く増えているという 点から、今の社会状況の問題が見てとれると思われる。

それに対して、入院している精神障害をもつ人は約32万3000人といわれ、そのうち「統合失調症、

統合失調症型障害及び妄想性障害」が半数以上を占めているのが特徴となっている。その中で、特 に本人の意思に反した強制入院の割合が40%を占めており、これに対して国連の拷問等禁止条約委員 会から「強制入院乱発国家」と批判されたことは記憶に新しい。

入院期間については、2009年段階で1 ~ 3か月未満が全体の26%余と、比較的短期の入院患者が増 えているものの、10年以上が36%余を占め、そのうち20年以上が12%余となっているのである。6)

前述した退院支援の取り組みによって、この間2000人余減少したとはいえ、依然としてかなりの数 にのぼっていることがわかる。

そしてそれは、そのまま日本の精神科病院の病床数の多さという問題に連動しており、その数は国 際水準に比べて桁はずれに多いことが指摘されている。すなわち、2010年6月段階で、全国の精神

科病院数は1671か所、その病床数は約35万床となっており、ピーク時の1994年段階での36万3000床 に比べれば徐々に減少してきているとはいえ、全病院の病床数の約2割を占めているのである。

なお、こうした精神科の医療機関では、精神科訪問看護やデイケアを行うところも多く、特に前者 については、2010年段階で精神科病院の71%余で実施されている。そしてこの間訪問看護を行うこ とができる職種も、看護師、保健師、作業療法士などに加え、精神保健福祉士も含められるようになっ た。また、後者については、1994年に診療報酬として認められて以降、実施機関数および参加者数 は確実に増加し、広がってきている。しかしながら、一方でその効果については必ずしも明らかでは なく、地域移行・地域定着支援という流れの中で、欧米では、例えば後述する米国の取り組みのよう にチームを組んで行うアウトリーチ活動への関心が高まってきているといわれている。

(2)生活と就労の状況

外来の精神障害をもつ人は、ほとんどが家族と同居しており、独居生活をしている人は2割弱と なっている。家族の内訳については、配偶者のある人が34%余で、そのほかの多くの人が親や兄弟姉 妹といっしょに暮らしている。つまり、精神障害をもつ人を支えているのは、主にこうした家族であ り、ここに家族支援の大きな問題がある。このほかグループホームやケアホーム等を利用している 人、さらに高齢のためのいわゆる老人福祉施設を利用している人もいる。

地域で暮らしをしている精神障害をもつ人にとって重要となるのが、ホームヘルプサービスである が、その利用状況を見ると、この間増えているとはいえ、利用者数は、約292万人といわれる在宅の 精神障害をもつ人のうちのわずか1%に過ぎないという。7)そうした点で、このサービスの充実が 大きな課題となっている。

また、障害をもつ人が暮らす上での経済的支えの一つとして年金があるわけであるが、その受給状 況は、外来の人では、障害年金の受給者が25.7%、障害年金以外の年金の受給者が11.2%となってい る。ただ、その中でも統合失調症の人の4割が障害年金を受給している。このほかの収入として、定 期的給料を受け取っている人は21.8%に止まり、定期収入なしが18.1%など、家族の援助や生活保護 に依存する人も少なくない。特に精神障害の場合、継続的に働くことが困難なため親などに世話にな りながら生活するケースが多い中で、親の高齢化にともなって経済的に厳しい状況となり、結果とし て「最後のセーフティネット」といわれる生活保護に頼らざるを得ないケースが、今後さらに増えて いくことが予想されるのである。

そのような状況にあって、精神障害をもつ人の就労についてはどうなっているのだろうか。2006 年の障害者雇用促進法の改正等で、精神障害をもつ人も他の障害と同じように法定雇用率にカウント されるなどの制度的改善により、法定雇用率に満たない企業や地方自治体に対する行政指導が強めら れる中で、雇用数は確実にのびてきている。障害者雇用促進法は、障害者雇用率制度に加え、障害を もつ人の雇用に伴う事業主の経済的負担を調整する目的で障害者雇用納付金制度を設けている。この 制度では、法定雇用率未達成の民間企業(常用雇用労働者数200人超)から納付金を徴収するととも に、一定水準を超えて障害をもつ人を雇用している企業に対しては、障害者雇用調整金や報奨金を支

給するというものである。さらに2013年4月からは、民間企業の法定雇用率がそれまでの1.8%から 2%に引き上げられたことにより、今後のさらなる進展が期待される。

こうした中で、2011年6月段階での障害をもつ人の雇用状況は、雇用者数が8年連続で過去最高 を更新し、366199人(前年度比12%余増)となっている。障害別に見ると、身体障害が284428人、

知的障害が68747人そして精神障害が13024人で、三障害とも前年より増加している。特に精神障害 に関しては、前年度比29%余の増加と大きく伸びてきている点が目につく。しかも障害のあることを 事業者側に伝えずに働いている人も多いといわれており、実質的には先の雇用者数はもっと多いこと が推測される。

このように、精神障害については、この間の雇用者数の伸びに比例して新規求職者数も増えてきて いる中にあって、例えばハローワークでは2011年度から「精神障害者雇用トータルサポーター」な どの専門職員(精神保健福祉士や臨床心理士の有資格者ならびに精神障害をもつ人への相談等の実務 経験者)による個々の障害特性に応じた支援が行われるようになる。そこでは、窓口での相談やカウ ンセリング等に加え、就職にむけた準備プログラムと就職後のフォローアップ、さらには企業への雇 用に関する啓発等の働きかけなども行う。段階的に就業時間を延長しながら常用雇用をめざす、精神 障害者等ステップアップ雇用奨励金や精神障害をもつ人が働きやすい職場づくりをしている民間企業 への奨励金(精神障害者雇用安定奨励金)の支給なども行われている。

また、医療機関等を利用している人などを対象に、仕事や就職への意欲を高めて就職に向けた準備 ができるように、ハローワークの職員が精神科病院や診療所、精神保健福祉センター、保健所、障害 福祉サービス事業者などの関係機関を訪問し、就職活動の知識や方法についてガイダンス(「ジョブ ガイダンス事業」)を実施している。2011年度は、全国の377か所の医療機関でこのガイダンスが行 われたという。8)

一方、民間レベルの取り組みとしては、2002年から始まった障害者就業・生活支援センターの取 り組みがあげられる。これは、就職を希望する、あるいは在職中の障害をもつ人の仕事と生活を総合 的に支援する目的で社会福祉法人等での事業として位置づけ、その設置が進められてきている。2012 年4月段階で全国に315のセンターが設置されており、センターの利用において、この間精神障害当 事者の割合が高くなってきているという。9)

(3)地域生活支援の取り組み

精神障害をもつ人の生活支援の中核を担う都道府県および市町村での支援の現状はどうか。都道府 県と政令指定都市などは、精神福祉・保健・医療に関する施策の柱となる計画の立案と事業の実施の ほか、精神科病院など関係機関への指導・監督が主な仕事となっている。それに対して、具体的な生 活支援に関わる取り組みは、相対的に市町村にその主要な役割がシフトしてきている中で、とりわけ 先に述べたホームヘルプなどの居宅支援や相談事業も含めた日常活動支援は重要となってきているの である。

それらを支援機関の種類で見ると、都道府県レベルでは保健所と精神保健福祉センターがまずあげ

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