第 2 章 とうもろこし・大豆の基礎知識
第 3 節 米国政府機関による提供情報と価格変動
第 1 項 米国農務省(USDA)報告と価格変動
穀物相場は、「需給に始まり需給に終わる」といわれる。需給予測は様々な調査機関からも公表されているが、情報 量と迅速度の両面で、USDA の報告書に勝るものはない。USDA の統計情報は膨大であり、とうもろこしや大豆の生育 ステージを含めて毎月のように様々な情報が提供されるが、相場にインパクトを与える重要性が高い情報として以下の報 告が挙げられる。
表 29:USDA の重要報告
公表データ名 重要度 発表頻度
1 世界需給予測(WASDE) ★★★ 毎月 10 日頃 2 全米穀物在庫(Grain Stocks) ★★★★ 年 4 回
1 月中旬,3 月末,6 月末,9 月末 3 作付意向面積(Prospective Planting) ★★★★ 年 1 回、3 月末
4 最終確定面積(Acreage) ★★★★ 年 1 回、6 月末
5 生育状況(Crop Progress) ★★★ 4 月~11 月、毎週月曜 6 輸出成約高(Export Sales) ★★ 毎週木曜、必要に応じて随時 7 輸出検証高(Grain Inspection) ★★ 毎週火曜
表 30:とうもろこしの生育ステージと USDA の重要情報発表時期
1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月
米国
播種・発芽
タッセリング
シルキング 受粉
ミルク ドウ デント 成熟 収穫
世界需給予測 ● ● ▲ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
全米穀物在庫 ● ● ● ●
作付意向面積 ●
最終確定面積 ●
生育状況 作付進捗率 収穫進捗率
作況
輸出成約高 毎週木曜日、必要に応じて随時
輸出検証高 毎週月曜日
61 表 31:大豆の生育ステージと USDA の重要情報発表時期
1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 米国
播種発芽
開花
着莢
収穫
ブラジル
播種・発芽
開花
着莢
収穫
世界需給予測 ● ● ▲ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
全米穀物在庫 ● ● ● ●
作付意向面積 ●
最終確定面積 ●
生育状況 作付進捗率 収穫進捗率
作況
輸出成約高 毎週木曜日、必要に応じて随時
輸出検証高 毎週月曜日
1. 世界需給予測(WASDE、World Agricultural Supply and Demand Estimates)
発表機関:World Agricultural Outlook Board (世界農業需給予測委員会、WAOB) URL :http://www.usda.gov/oce/commodity/wasde/
発表頻度:月次
発表日 :毎月 10 日(休日の関係で 2、3 日ずれることがある)
原則として毎月 10 日に発表。世界及び米国の小麦、とうもろこし、大豆、大豆粕、大豆油、粗粒穀物、コメ、砂糖、
畜産物、綿花などの最新予測が掲載されており、統計の信頼性が高いので、世界中の市場関係者が注目している。5 月の世界農産物需給予測からは、その年に収穫予定の新穀の需給予測が公表される。この 5 月以外にも、特に以下 の月の情報が重要である。
月 内容
1 月 前年の秋収穫された穀物の最終確定生産高が発表される。
5 月 新穀の需給予測が発表され、単収の傾向値が示される。(3 月発表の作付意向面積に基づく生 産予測)
7 月 6 月発表の確定面積に基づく生産予測が発表になる。
8 月 とうもろこしの受粉が終わるので、とうもろこしのおおよその生産高の見通しがつけられる。
9 月 とうもろこしの受粉期と登熟期が終わり、大豆の開花・着莢の時期が終盤に差しかかるので、実際 の単収に近い生産見通しが示される。
10 月 とうもろこしや大豆の収穫が進み、実際の単収が生産見通しに反映される。
11 月 とうもろこしや大豆の収穫が概ね終了しているため、かなり正確な生産見通しが発表される
62
生産量は面積に単収を乗じて計算することが出来る。USDA による、とうもろこしや大豆の生産量見通しに用いられ る面積や単収は以下の通り・
【面積】
5 月と 6 月の予測では 3 月末に公表された作付意向面積が基礎。
7 月以降は 6 月末に公表された最終確定面積が基礎。
【単収】
5 月から 7 月までは机上計算モデルを使った単収見通しが用いられる。
8 月以降は中西部の主要生産州での実地調査の結果に基づく単収が用いられる。
2. 全米穀物在庫(Grain Stocks)
発表機関:National Agricultural Statistics Service (農業統計局、NASS)
URL :http://usda.mannlib.cornell.edu/MannUsda/viewDocumentInfo.do?documentID=1079 発表頻度:年 4 回(1 月、3 月、6 月、9 月)
発表日 :1 月中旬、3 月末、6 月末、9 月末
USDA は、とうもろこし、大豆、小麦等の全米穀物在庫を年 4 回(1 月、3 月、6 月、9 月)発表している。これは、
3 月、6 月、9 月、12 月の各月の前半 2 週間に、それぞれの月の 1 日現在の生産者在庫及び非生産者在庫に関し て行った調査結果をまとめたものである。3 月、6 月、9 月はそれぞれ月末に発表しているが、12 月の在庫は月末が年 末年始に重なることから 1 月に発表している。
この調査において、とうもろこしや大豆は 9 月、小麦は 6 月の全米穀物在庫が前穀物年度の期末在庫の確定値、つ まり当穀物年度の期初在庫となる。
全米穀物在庫は四半期という節目での在庫確認であり、生産者の販売状況や消費動向の目安となる重要な役割 を果たす。
3. 作付意向面積(Prospective planting)
発表機関:National Agricultural Statistics Service (農業統計局、NASS)
URL :http://usda.mannlib.cornell.edu/MannUsda/viewDocumentInfo.do?documentID=1136 発表頻度:年 1 回
発表日 :毎年 3 月末
USDA は 3 月末にとうもろこし、大豆、小麦、コメ、綿花等についての生産者の作付け意向面積を発表する。これは、
3 月初めに全米各地の 8 万 3500 戸以上の生産者に対して行った、3 月 1 日時点の生産者の作付け意向面積調 査をまとめたもので、その後の生産者の作付け変更の参考になる。
注意すべきは、作付意向面積と実際の作付面積は 4 月中旬から 5 月末までの作付け期の天候と価格関係によって 変わる可能性があることである。4 月に好天が続き、作付けが順調に進んでいるところへとうもろこし価格の上昇が加われ ばとうもろこしの作付けが増加する。逆に 4 月中旬から 5 月上旬まで長雨に見舞われて作付けが遅れているところへ大 豆価格の上昇が重なれば、単収低下リスクの大きいとうもろこしの作付けを諦め大豆に転換する動きが出てくる。
この 3 月末の作付け意向面積の発表を受けて、4月から本格的な天候相場が始まる。
4. 最終確定面積(Acreage)
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発表機関:National Agricultural Statistics Service (農業統計局、NASS)
URL :http://usda.mannlib.cornell.edu/MannUsda/viewDocumentInfo.do?documentID=1000 発表頻度:年 1 回
発表日 :毎年 6 月末
USDA は、6 月末に、とうもろこし、大豆、小麦、コメ、綿花等の作付面積について最終確定面積を発表する。これは、
6 月前半 2 週間において、調査官が全米約 9900 箇所、7 万戸以上の生産者に対して行った調査結果をまとめたも のである。4 月以降の天候及び価格変動により、3 月末の作付け意向面積に対してどの程度の乖離が生じたのかが注 目される。
最終確定作付面積に対する収穫面積の比率を収穫率と呼ぶ。一般に米国における収穫率は、とうもろこしが 92.0%、大豆が 98.6%、小麦が 84.4%程度である。最終確定作付面積がわかれば、収穫率を乗じることにより収 穫面積を予想することが出来る。そして、この予想収穫面積に予想単収を乗じることで予想生産量を算出することがで きる。なお、USDA の世界農産物需給予測では、5 月及び 6 月は作付意向面積を基に予想生産量を算出するが、7 月以降の需給予測はこの最終確定面積を基にして算出される。
5. 生育状況(Crop Progress)
発表機関:National Agricultural Statistics Service (農業統計局、NASS)
URL :http://usda.mannlib.cornell.edu/MannUsda/viewDocumentInfo.do?documentID=1048 発表頻度:毎週(ただし、生育期である 4 月から 11 月まで)
発表日 :毎週月曜日
USDA は 4 月から 11 月末まで 8 カ月余りにわたって、毎週月曜日にとうもろこしや大豆等の作付進捗率、開花率、
収穫率等のデータのほか、作況(5 段階評価)や土中水分等を発表している。
(1)作付け進捗率(Corn Planted、Soybean Planted)
USDA は、とうもろこしについては 4 月中旬から 6 月中旬まで、大豆については 5 月上旬から 6 月下旬までの毎週月 曜日に、主要生産州における発表日前日(日曜日)時点の作付け進捗率を発表する。
とうもろこしは平年であれば 5 月 10 日までに 75%以上が作付けされることが望ましいとされており、5 月 11 日以降に 作付けされるとうもろこしは1日遅れるごとに単収が少しずつ減少するといわれている。播種が早めに終わると収穫までの 全ての段階において天候からの悪影響を避けることができる。大豆は 5 月 25 日までに 85%以上作付けが終了すること が望ましいとされている。
作付進捗率の発表に続いて発芽率(Corn Emerged、Soybean Emerged)も発表される。作付け終了後の 気温が高く、土中水分が多いときは発芽率が高くなり、逆に気温が低く土壌が乾燥しているときは発芽率が低くなる。
64 図 27 作付進捗状況と単収(とうもろこし)
100 120 140 160 180 200
0 20 40 60 80 100
2010 2011 2012 2013 2014 2015
bu/エーカー
進捗率(%) 作付進捗状況と単収(とうもろこし)
6月4週 6月3週 6月2週 6月1週 5月5週 5月4週 5月3週 5月2週 5月1週 4月4週 4月3週 4月2週 4月1週 単収
図 28 作付進捗状況と単収(大豆)
40 42 44 46 48 50
0 20 40 60 80 100
2010 2011 2012 2013 2014 2015
bu/エーカー
進捗率(%) 作付進捗状況と単収(大豆)
6月4週 6月3週 6月2週 6月1週 5月5週 5月4週 5月3週 5月2週 5月1週 4月4週 4月3週 4月2週 4月1週 単収
(2)収穫進捗率(Corn Harvested、Soybean Harvested)
とうもろこしは 8 月下旬、大豆は 9 月上旬から、収穫進捗率(Corn Harvested)が発表される。
アメリカ最南部では 8 月半ばから少しずつとうもろこしや大豆の収穫が始まるが、中西部の穀倉地帯で大豆の収穫作 業が本格化するのは 9 月 20 日以降で、10 月半ばには概ね終了し、とうもろこしは 10 月 5 日以降に収穫作業が本 格化して、11 月半ばまでに概ね終了する。
米国の生産者は大豆の収穫をとうもろこしに優先させる。大豆は収穫期に鞘が乾燥し過ぎると弾けて豆が地面にこぼ