第 2 章 とうもろこし・大豆の基礎知識
第 4 節 穀物流通と穀物取引
第 1 項 アメリカの穀物流通
1. アメリカの穀物流通
アメリカの農家は、収穫された穀物を近隣のカントリー・エレベーター(産地倉庫)に販売する。買い付けられた穀物は、
その後集散地にあるターミナル・エレベーターやリバー・エレベーターを経て、輸出港にあるエクスポート・エレベーターに運び 込まれて本船に積み込まれる。
穀物の輸送手段として、農場から近隣のカントリー・エレベーター、穀物加工工場、フィードロットなどへの短距離輸送に は大型トラックなどが用いられる。一方、ターミナル・エレベーターやリバー・エレベーターからエクスポート・エレベーターなどへ の長距離輸送には主に貨車とバージ(艀)が利用されている。
ミシシッピー河口の大穀物輸出基地であるルイジアナ州ニューオーリンズへはミシシッピー川の水運を利用して穀物をバ ージ単位にまとめて運搬している。アメリカの西部太平洋岸のポートランド、カラマ、タコマ、シアトルにも穀物の輸出基地 があり、大量の穀物が日本、韓国、台湾、中国などへ積み出されている。この場合、穀物はユニット・トレイン(1 貨車 100 トン、110 両編成)と呼ばれる列車で中西部の穀倉地帯からロッキー山脈を越えて太平洋岸まで運ばれていく。
穀物の輸送は「規模の利益」を得ることが容易なので、輸送量が大量になればトン当たりの輸送コストはそれだけ安上 がりになる。
2. 海上輸送
ミシシッピー川の河口に位置するニューオーリンズのエクスポート・エレベーターで本船(穀物の海上輸送のほとんどは、
パナマックス型と呼ばれる 5 万 5000 トン級の本船とハンディマックスと呼ばれる 4 万 8000 トン級の本船が利用される)
に積み込まれた穀物は、メキシコ湾を南下してパナマ運河を通り、太平洋を横断して日本へ到着する。ニューオーリンズ から日本までの航海日数は約 33 日である。
アメリカ西部太平洋岸のポートランドを出航した大型船もベーリング海を渡り、アリューシャン列島沿いを南下して日本 へ到着する。ポートランドから日本までの航海日数は約 17 日である。
ブラジルのサントス港で船積みされたとうもろこしは、大西洋を横切って東へ進み、喜望峰を回ってインド洋に入る。イン ド洋を横断してマラッカ海峡を通過し、南シナ海を北上して日本へ到着する。航海日数は 42 日程度である。
アルゼンチンのブエノスアイレス港でとうもろこしを積み込んだ本船は、多くはブラジル大豆と同じ航路を通って日本へ到 着する。しかし、たまにマゼラン海峡を抜けて太平洋へ入り、太平洋を北上して日本へ到着することもある。その場合の航 海日数は 45 日程度である。
日本から南米までは距離が遠いため、海上運賃が値上がりすると価格競争力が失われやすいという問題点がある。
3. 海上運賃
日本向けの穀物の海上輸送の主力はパナマックス型の本船である。この型の本船の運賃は 2014 年 10 月には、ニュ
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ーオーリンズ・日本間がトン当たり 46 ドルになっている。(ロングトンも用いられることがある。1 ロングトン=2240 ポンド、
1 ロングトン=1.016 メトリックトン)
海上運賃は 2002 年くらいまではおおむね 20 ドルから 24 ドルくらいの範囲であったが、中国の鉄鋼生産が急増による 原料の鉄鉱石と石炭輸入の急増により、船腹需給がタイトになり、2003 年春に 30 ドルを超えてから急速に値上がりし 始め 2007 年 10 月には 135 ドルと史上空前の値上がりを記録した。その後は、リーマンショックに伴う世界的な景気後 退による需要不振と船腹の供給過剰から値下がりした。
4. 穀物輸出の担い手
アメリカと世界の穀物輸出の担い手は穀物メジャーと呼ばれる大手穀物商社である。大手穀物商社は年間を通じて 農家から穀物を集荷、輸送し、価格競争力のある価格で世界市場へ供給している。世界の穀物取引は大手穀物商 社による寡占化が進んでいる。代表的な大手穀物商社にはカーギル、ADM、バンゲ、ルイ・ドレファスなどがある。大手穀 物商社は全米に穀物集荷網を張り巡らしている。その集荷網を通して穀物を集荷し、輸送し、販売し、輸出に回してい る。大手穀物商社は世界中に販売拠点を持っており、これらの拠点を通して穀物を輸出している。なお、日本への輸送 については、総合商社や全農によって行われている。
大手穀物商社は穀物事業のほか、穀物加工事業や畜産業へ進出して経営の多角化を推し進めており、現在ではカ ーギル、ADM、バンゲなどは世界的な搾油業者に成長している。なお、カーギルは全米屈指の製粉・畜産業者であり、
ADM は全米最大のエタノール製造業者でもある。
大手穀物商社は、1990 年代以降、大豆生産量が急拡大している南米に積極的な投資を開始した。輸出エレベー ターを買収したり、建設したりしているだけではなく、生産地で集荷網を拡張し、地元企業と戦略的同盟を結ぶなどして 大豆の供給力を飛躍的に高めている。2000 年代以降、中国が世界最大の大豆輸入国になり、南米は中国向け大 豆の供給基地になっている。
なお、日本の総合商社も、アメリカの穀物商社の買収を行ったり、南米で穀物集荷網を拡大するなど存在感を高めて いる。
79 第 2 項 穀物取引の実際
1. ベーシス価格とフラット価格
穀物取引ではある地点における現物価格を表現する方法が二つある。一つはフラット価格で現物価格を「$3.50/bu
(ブッシェル)」のように絶対価格で表現する方法であり、もう一つはベーシス価格で現物価格を「CBOT とうもろこし先 物 3 月限価格($3.00/bu)より$0.50/bu オーバー」のように「基準となる先物価格±α」として先物価格との価格差 で表現する方法である。
この現物価格と先物価格の価格差であるαはベーシスと呼ばれており、品質格差(等級格差等)、空間的格差(あ る場所から先物市場で指定された受渡場所までの輸送コスト)、時間的格差(現在から先物市場で指定された受渡 日までに要する保管料及び金融費用)などが織り込まれている.米国では,各地のフラット価格、ベーシス価格、ベー シスなどの情報が USDA や大学などから発表されており、農業関係者は経営判断の材料に利用している。
2. 穀物取引と価格決定
米国の穀物取引において、集荷流通部門は厳しい集荷競争と価格リスクに晒されているため、農協や穀物商社など の集荷流通業者は農産物先物市場を積極的に利用して価格リスクをヘッジするとともに、常に一定のマージンが確保で きるように価格決定についても先物部分とベーシス部分を意識したオペレーションを行っている.
(1)フラット価格での集荷及び販売の例
生産地の集荷流通業者は、農家から穀物を確定価格で買い付けると直ちに買い付けた穀物に等しい量の先物を売 って値下がりリスクをヘッジする。このヘッジ行為はフラット価格を先物部分とベーシス部分に分解されたベーシス価格に変 換することにもなる。なお、このような生産地でのベーシスのことを「生産地ベーシス」と呼ぶ.
集荷流通業者が買い付けた穀物を顧客である加工業者にフラット価格で販売する場合も、その時点の先物価格と 販売先への輸送コストや販売マージンを加味した「販売ベーシス」を念頭に価格決定を行う。そして,実際に販売した時 に、買い付け時に売りヘッジしていた先物売りポジションを買い戻してヘッジを解除する。このようなオペレーションによる集 荷流通業者の利益は,販売時のフラット価格と買い付け時のフラット価格の差額に先物取引の損益を加えた額となる が,これは「販売ベーシス」と「生産地ベーシス」の差額に等しくなる.
現物価格(フラット価格)-先物価格=ベーシス 現物価格(フラット価格)=先物価格+ベーシス
現物価格(フラット価格):$3.50/bu
ベーシス:$0.50/bu
ベーシス価格:CBOT とうもろこし先物 3 月限価格よりも$0.50/bu 上
($0.50/bu over CBOT March Corn futures)
先物価格:CBOT とうもろこし先物 3 月限価格($3.00/bu)
分解
80 表 39.集荷流通業者の確定価格による集荷及び販売の例
農家 集荷流通業者 加工業者
現物 現物 先物 ベーシス 現物
11/15 売:$3.15/bu 買:$3.15/bu
売:$3.35/bu 生:-$0.20/bu
11/25 売:$3.05/bu 買:$3.05/bu
買:$3.00/bu 販:+$0.05/bu 損益 損:-$0.10/bu 益:+$0.35/bu 計:+$0.25/bu
(2)ベーシス契約での集荷及び販売の例
集荷流通業者は,買い付け先である農家と販売先である加工業者の双方とベーシス契約を締結してベーシス取引 を行うこともできる。
例えば、11 月 1 日に集荷流通業者は農家と加工業者の双方との間で「11 月中に CBOT とうもろこし先物 12 月 限を用いて指値するベーシス契約」を締結し,それぞれ生産地ベーシス(-$0.20/bu)と販売ベーシス(+
$0.05/bu)を決定したとする.11 月 15 日になって先に加工業者の方からその時点の先物価格である$3.00/bu で 指値するよう指示があり、「販売ベーシス」を加えた$3.05/bu で販売価格を確定した。同時に、集荷流通業者は農家 から買い付ける価格が将来値上がりするリスクに備えて「買いヘッジ」を行い先物買いポジションを持った。その後、11 月 25 日になって先物価格が$3.35/bu に値上がりしたので農家から指値の指示があり,「生産地ベーシス」を加えた
$3.15/bu で買い付け価格を確定すると同時に先物の買いポジションを転売してヘッジを解除した。この場合、買い付け 価格よりも販売価格の方が安くなるが、先物取引の利益を加えることでトータルでは$0.35/bu、すなわち「販売ベーシ ス」と「生産地ベーシス」の差額を利益として手に入れることができる。つまり、ベーシス取引を締結し、販売ベーシスが生 産地ベーシスを上回っている限り、その後の先物価格がどのように変化しようとも(従って実際の買い付け価格や販売価 格がどうなろうと)必ず利益を確保することができる。
表 40.集荷流通業者のベーシス価格による集荷及び販売の例
農家 集荷流通業者 加工業者
現物 現物 先物 ベーシス 現物
11/1 販:+$0.05/bu
生:-$0.20/bu
11/15 買:$3.00/bu ←値決め指示
売:$3.05/bu 買:$3.05
11/25 値決め指示→ 売:$3.35/bu 売:$3.15/bu 買:$3.15/bu
損益 損:-$0.10/bu 益:+$0.35/bu 計:+$0.25/bu
このように,米国の農産物流通において一般的であるベーシス取引は,全ての取引当事者が基礎となる先物部分と 取引条件によって異なるベーシス部分に価格を分解することによって明快な価格決定を可能にしており,価格決定の時 期を取引先に自由に選択させるオプションを与える便宜を図りながらも,価格リスクは先物市場でヘッジして価格動向に 関係なく「販売ベーシス」と「生産地ベーシス」の差額を利益として確保できるという利点がある。