第7章 米国における中小企業の財務諸表に対する信頼性付与
7.1 はじめに
わが国の会計監査は,公認会計士法の制定後,とりわけ米国における上場企業の監査を 参考として,金融商品取引法(証券取引法)監査を中心として発展した特異的なものとい える。たとえば,「「監査業務を行う者こそが公認会計士」という理解は,歴史的な経緯 をまったく無視した誤った理解といえ,監査業務以外の業務に重きを置かない,あるい は,できるかぎり独占業務として理解されるように,あらゆる類似業務を監査業務に取り 込もうとする姿勢は,100年以上の歴史をもつ職業会計士の姿勢としてはきわめて消極的 な姿勢と評することができる。」(那須,松本,町田2015,21)といった指摘である。
そこで,本章では,わが国における監査以外の保証領域に対する公認会計士の業務領域 の拡大の可能性に関し,米国における,最新の会計とレビューサービス基準書第21号を題 材として,レビュー,コンピレーションに加えて新たに示された,プレパレーション業務 の内容を検討することにより,公認会計士が提供する会計関連サービスをいかに展開して いくべきか,米国を事例として,その方向性を検討していきたい。
7.2 米国における保証業務と非保証業務の区分
日本の会計監査人を巡る法的枠組みについては,「アメリカ合衆国においては,会社法 上,公認会計士による監査は要求されておらず,証券諸法により公認会計士による監査が 要求されている一方で,ほとんどのヨーロッパ諸国では,従来のEC会社法第8号指令の下 で,会社法上,法定監査人(外部監査人)による監査が要求され,それとは別に,証券取 引法による監査が年度計算書類について要求されるあるいは規定されるということはなか ったことと対照的である。」(弥永2015.,2)とされ,諸外国と比しても法的に特異なも のである。との指摘がある。そこで,まずわが国と米国の監査・保証を巡る違いを理解す るため,AICPAが発行する,最新の財務諸表サービスガイド(コンピレーション,レビュ ー,及び監査)(AICPA2015b.)を概観してみたい。米国における保証業務と非保証業務 の区分は以下の,[図7‑1]の様になっている。
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保証に関する理解
会計士は,財務諸表が財務報告のフレームワークに従っているかどうか,「保証」のレベ ルを得ることができる。会計士は証拠を入手することにより,保証を得る。これは会計士 が得ることができる,全くの非保証から,最も高いレベルの保証である監査までの,異な ったレベルの保証を示したものである。保証のレベルは,一般的に融資の金額,担保及び 全体的なリスクの決定をもとに,融資機関によって要求される。
会計士の保証のレベルが要求される,良くある他の状況としては,(事業)結合やリース の実行が含まれる。特定の取引の債権者,外部の投資家,あるいは積極的にビジネスに関 与していない家族オーナーも,あなたの財務諸表に保証のレベルを要求,あるいは必要と する場合がある。もしあなたが要求されている内容が不明確であるという,多くの場合,
あなたの会計士は融資機関あるいはその他と,彼らの要求を満たすサービスのレベルにつ いて話すことができる。
[図7‑1] 保証に関する理解 UNDERSTANDING ASSURANCE
(AICPA2015b.,4頁を筆者和訳)
米国において,監査を頂点としたレベルに応じた保証業務が必要とされる最も大きな理 由は,金融機関からの融資によるものであり,要求される保証のレベルは融資機関等の要 求に伴って決定されるとしている。この点に関し,わが国の実務においては,融資の際に 公認会計士や税理士の保証を求められるという実務は存在しないため,まず前提となる中
監査
レビュー
コンピレーション
財務諸表の プレパレーション
記帳代行,会計と税務
保証
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小企業を取り巻く実務環境,とりわけ金融機関の融資慣行そのものが,米国と大きく異な るといえよう。
次に,財務諸表のプレパレーション,コンピレーション,レビュー,監査という会計士 が財務諸表に対して行うサービスの違いについては,以下の様にまとめられている。
[表7‑1:サービスの比較]
財務諸表の
プレパレーション
コンピレーション レビュー 監査
財務諸表に対 して重要な虚 偽表示を有し ないことに関 する保証水準
会計士は,財務諸 表に対して重要な 修正を必要としな いことに関して,
保証を提供する,
あるいは入手した 証拠でもって確証 を得ることはない
(1)。
会計士は,財務諸 表に対して重要な 修正を必要としな いことに関して,
保証を提供する,
あるいは入手した 証拠でもって確証 を得ることはない
(1)。
会計士は,財務諸 表に対して重要な 修正を必要としな いことに関して,
限定的な保証を得 られる。
会計士は,財 務諸表に重要 な虚偽表示が あるかどうか に関して,
(完全ではな いが,高い水 準の)合理的 な保証を得ら れる。
目的 財務諸表のプレパ レーションは特別 目的の財務報告の フレームワークに 準拠する。
会計と財務報告に 専門的知識を適用 し,財務諸表の表 示において経営者 を支援する。
会計士が,報告す るための基礎とし て,主として質問 や分析的手続の実 行を通じて,適用 できる財務報告の フレームワークに 従い,財務諸表に 対して重要な修正 を必要としないこ とについて限定的 な保証を得るこ と。と。
全体としての 財務諸表に重 要な虚偽表示 があるかどう かに関して,
合理的な保証 を得ること。
それによっ て,会計士 は,適用でき る財務報告の フレームワー クに従い,監 査人の調査結 果に基づき,
財務諸表に報 告を行うこと で,財務諸表
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がすべての重 要な点につい て適正に表示 しているかど うかに関する 意見を表明で きる。
会計士の独立 性の要求
要求されない。 要求されない。−
しかし,もし会計 士が独立性を欠い ている場合は,独 立性を欠いている ことを会計士のコ ンピレーション報 告書に示す必要が ある。
✔ ✔
会計士が事業 体の内部統制 の理解及び不 正リスクの評 価を得る必要 性
✔
会計士が質問 と分析的手続 を実行する必 要性
✔ ✔
会計士が検 証・実証手続 を実行する必 要性
✔
会計士が財務 諸表に公式な 報告書を発行
✔ ✔ ✔
異なったレベ ルのサービス が必要とされ
事業のオーナー自 身が,事業の財政 状態に関する最新
一般的には,初期 または少額の金融 あるいは信用供与
一般的にふさわし いのは,ビジネス が成長し,より多
監査が一般的 にふさわし い,あるいは
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る状況 の情報を知り,事業上の決定に利用 するため。大会社 における社内の管 理者,あるいはCFO が経営者に提供す るのと同じような ものである。財務 諸表は第三者が利 用する場合もあ る。
が求められている 場合,あるいは重 要な担保が供され ている場合に適合 する。部外者は,
公式な調整報告書 により簡潔に明ら かにされること で,会計士と事業 との関連性を理解 することができ る。
額のあるいは複雑 なレベルの金融,
あるいは信用供与 を求める場合。ま た,事業のオーナ ー自身が,結果を 評価し,重要な経 営判断を行うため に,より大きな信 頼を財務諸表に求 める場合に有用で ある。
しばしば要求 されるのは,
複雑ないし高 いレベルの金 融あるいは信 用供与が求め られる場合で ある。また,
外部の投資家 を求める,あ るいは事業売 却や合併を検 討している場 合にもふさわ しい。
それぞれのサ ービスのレベ ルにおけるコ ストの違い
提供される財務記 録によって異な る。
会計士が公式な報 告書を作成する業 務に費やした最小 の時間。
コンピレーション 以上に時間を費や すが,実質的には 監査よりは少な い。
最も多い仕事 の量が含まれ る,従って,
最も公認会計 士の時間を使 う。
(AICPA.2015b.,8〜9頁を筆者和訳)
会計とレビューサービス基準書第21号により追加された,財務諸表のプレパレーション の最大の効用は,アカウンティング業務とレポーティング業務の間に,明確な線引きが行 われたことにある。すなわち,プレパレーション,レビュー,監査はレポーティング業務 として,会計士がそれぞれの保証のレベルに応じて,報告書を発行するのに対し,財務諸 表のプレパレーションは,何らの報告書も発行しない。また,会計士の独立性についても 求められないため,単一の事務所においてサービスの提供を完結させることが可能であ る。なお,会計とレビューサービス基準書第21号では,財務諸表のプレパレーションのさ らに前段階のレベルとして,専門家判断が介在しているか否か。を判断基準として,財務 諸表のアシスタンス(AICPA2014. para.A19)を示している。つまり,財務諸表のプレパ レーションは,何らの保証も行わない,非保証サービスではあるが,会計士による専門家 判断が介在しているという点において,一定の信頼性が付与されているという点に留意が 必要である。