旅行後の心理・行動過程
第
7
章観光経験に対する評価が旅行満足に与える影響
第t節 問 題
本研究の目的は、観光経験に対する評価が旅行満足に与える影響を明らかにすることで ある。より具体的には、個人差変数として過去の旅行経験を取り上げ、その棺違によって、
旅行満足を規定する要閣がどのように異なるのかを明らかにすることを目指す。
(1 )観光経験の評価と満足
旅行満足についての既往研究の多くは、観光資源に対する評価から旅行の全体的満足を 予測しようとするものでありWegre& Garau, 2009; Kozak & Rimmington, 2000; Pizam, Neumann & Reichel, 1978)、どのような観光地が旅行者にとって魅力的であるの かを明らかにした取り組みで、あったとも言える。しかし、第6章で指摘したように、旅行 者の満足を理解する上では、観光資源に対する評価を明らかにするだけでは十分とはいえ ない。観光資源に対する評価は、あくまでも観光地の環境やそこで提供されたサーピスに 対する評価であり、旅行先での経験の質に対する評価どは異なるものである。旅行者の満 足を包括的に捉えるためには、旅行先で見たもの、感じたこと、経験したことに対して、
本人がどのような意味や価値を見出したのかについても吟味する必要があるだろう。その ため、観光地での経験を旅行者自身がどのように評価し、満足に歪るのかという視点、から の研究が必要だといえる。このような考えは、消費経験論の立場にもとづいた観光研究に もみられる。たとえば、 Hosany& Witham(201I)は、 f教背的経験J
r
現実逃避的経験Jr
娯 楽的経験Jr
審美的経験jとしづ経験価値(Pine& Gilmore, 1998)の4因子を観光経験とし て捉え、クルーズ客船の乗客を対象とした調査を実施した。そして、経験価値と全体的満 足と紹介意向の関連を検討した結果、それぞれ船内での「娯楽的経験j と船内のデザイン に対する f審美的経験jが満足と紹介意向に影響することを示した。また、 Williams&Soutar(2009)は、冒険的旅行の消費価値について検討し、「機能的儲鍍J
r
金銭的価値Jr
情7章 観光経験に対する辞値が版行満足に与える影響
緒的価値J
r
社会的価値Jr
新奇的価値jのうち f社会的価値jを除く 4つの価値が旅行満 足に正の影響を与えることを示した。他に、 Hosany& Gillbert(2010)や Neal,Sirgy &Uysal(999)の研究も観光地での主観的経験から旅行満足を説明しようとしている点で、
類似の研究といえるだろう。
(2)新尺度の作成
旅行者の経験評価を測定するにあたっては、第6章で作成した機能的評価尺度と情緒的 評価尺度を統合した新尺度を用いる。第6章では、観光経験に対する評価を情緒的評価と 機能的評価に区別し、それらを個別の概念として扱った。しかし、これら概念掲の関係、を 考えると、情緒的評価をもとにして機能的評価が形成されると考えられる。より具体的に は、旅先で fのんびりできたJ
r
リラックスできたjとしづ情緒的評価が高まることで、機 能的評価の健康回復が高まることや、 fドキドキしたJr
興奮した」という鵠緒的評価によ って新奇体験の評価が高まるということが考えられる。そのため、第6輩で見出された情 緒的評価の4困子を機能的評価に包含させた新尺度を作成し、経験評価全般について検討 する必要があるだろう。また、第6章では、当初想定した新奇体験の悶子が見出されなか ったことや、佐々木(2000)の f関係強化jの一部分しか因子に反映されなかったことを課 題として指摘した。これについては、第6章の分析が国内旅行の経験評価に限られていた ことが一因であると考えられる。そのため、海外旅行も含めた上で、経験評価の構造につ いても再度検討する必要があるだろう。そこで、本研究では、第6章で見出された機能的 評価の4因子(r自己拡大Jr関係強化Jr知識獲得Jr健康回復J)に、第2章で見出された の f刺激性Jr自然体感Jr現地交流Jに対応する評価次元(仮にゆIj激体験Jr自然満喫Jf関係形成Jとする)を加えた 7因子構造を想定して、新尺度を作成する。
(3)因果モデル
本研究では、構造方程式モデリングによって、モデ ルの妥当性について検討する。旅行 満足に影響を及ぼす概念間の関係については、以下のように考えた(図7・1)。
旅行満足に直接影響を及ぼす要国については、 Pearce(1988)の旅行キャリアの 5段階に それぞれ該当する健康回復、関係強化、新奇体験、知識獲得、自己拡大の経験評価を想定 した。これら 5次元の経験評価は、いずれも心理的な効用を含む特性であるため、旅行満 足に直接影響を及ぼすと考えられる。さらに、健康回復と自己拡大の 2因子に関しては、
自然満喫と関係形成よりも高次の概念として設定した。自然満喫に関しては、自然体験に は疲労回復の効果があるため、自然を満喫できた経験が健康回復をもたらすと考えられる
からである。また、関係形成に関しては、旅先で新しい人と出会い関係を形成することは、
新しい自分を知るきっかけとなるため、自己拡大をもたらすと考えられるからである。次 に、新奇体験が旅行満足だけでなく、健康回復と自己拡大にも影響を及ぼすと考えた環自 について述べる。新奇性欲求は、旅の最も基本的な動機であることが多くの研究者によっ て指摘されている(Crompton,1979; Iso・Ahola,1982; Lee & Crompton, 1992)。新奇的な 経験を求める旅行者は、次の 2つのタイプに分けることができる。 1つは、環境を変える ことによって日常性から脱却し、リフレッシュを求めるタイプである。もう 1つは、新し い経験を通して成長を遂げることを求めるタイプである。このようなタイプのために、新 奇的な体験についての評価は、旅行満足に痕接的に影響するだけでなく、健康回復や自己 拡大の評価も高めるのだと考えられる。
図7・1.経験評儒と旅行満足に関する仮説モデル
上記の因果モデルの検討に加えて、本研究では、旅行満足を規定する要因の個人差につ いても検証する。個人差要因としては、過去の旅行経験数を取り上げる。観光旅行の大衆 化によって、旅行をする人びとの層が拡大する一方で、頻繁に旅行をする人とそうではな い人の差が拡がりはじめている。そのため、偲人の観光行動を理解する上では、過去の旅 行経験数という個人差要因が今まで、以上に有効になってくると考えられる。
7章 観光経験に対する評備が旅行満足に与える影響
第2節 方 法
(1 )調査対象者
調査協力者は593名であり、性別構成は、男性310名(52.3%)、女性283名(47.7%)であ った。年齢構成は、 20代111名(18.7%)、30代114名(19.2%)、40代 122名(20.6%)、50 代120名(20.2%)、60代126名(21.2%)であり、平均年齢は44.92才(8])=13.45)であった。
(2)踊査手続き
株式会社クロス・マーケティングのモニターの中から性別と年代によって層化抽出を行 い、インターネット調査法で調査を実施した。観光旅行関連の質問の前に、この調査での 旅行とは、楽しまfことを目的とした泊まりがけの旅行のことであり、出張・業務、帰省、
留学などを目的とした旅行は除くことを明記した。調査時期は2011年 10月で、あった。
(3) 調査内容
1).観光動機に臆する質問項目
第2章の観光動機尺度をもとに 30項目の尺度を作成した。この尺度は海外旅行者の観 光動機を測定する目的で作成されたものである。本研究では、閣内旅行、海外旅行の区別 なく観光旅行一般に対する動機を尋ねるために、尺度の項自を一部改変したものを用いた。
呉体的には、 f以下の項目は、あなたが旅行にtiiかけるときの気持ちにどの程度当てはまり ますかjとの教示を与え、 f普段とは違う環境で新しい経験をしてみたしリ「現地の歴史や 伝統についてよく知りたしリなどの項自に対して、「まったく当てはまらない(1点)J ,....,
r
非 常に当てはまる(5点)Jの5件法で回答を求めた。2).底近旅行の内容に関する質問項目
1.旅行の目的地(国内旅行の場合は都道府県名を、海外旅行の場合は国名を記入)、 2.旅 行を実施した年月、 3.出発から帰宅までの旅行日数、 4.同行者
( r
配偶者Jr
恋人Jr
子どもjf親J
r
親せきJr
友人Jr
職場・学校などの団体Jr
ひとり旅Jr
その他jの中から複数選択)、5.旅行形態(rパッケージツアーJ
r
手配旅行Jr
自由旅行jの中から 1つ選択)、 6.旅行中 の活動内容(r自然の風景を眺める Jr
土地の美味しいものを食べるjなど22項目の中から 複数選択)。3).直近旅行の経験評価に関する質問項目
第6章で用いた情緒的評価と機能的評価を測定する尺度項目をもとに 35項目の尺度を 新たに作成した。具体的には、 fその旅行で経験したことに対して、あなたが今どのように 感じているかについてお聞きします。以下の項自はあなたの考えにどの程度当てはまりま すかjとの教示を与え、 f告然との一体感をもつことができたJ
r
普段とは違う緊張感をあ じわうことができたjなどの項目に対して、「まったく当てはまらない(I点)J "‑'r
非常に 当てはまる(5点)Jの5件法で回答を求めた。4 ) .
直近旅行の満足に関する質問項目第6章で用いた旅行満足を測定する尺度項目をもとに 7項目の尺度を作成した。具体的 には、 f以下の項目は、その旅行に対するあなたの考えに、どの程度あてはまりますかjと の教示を与え、 fその旅行をしたことにとても満足しているJ
r
その旅行は自分にとって価 値のある経験だったjなどの項目に対して、「まったく当てはまらない(I点)J "‑'r
非常に当てはまる(5点)Jの5件法で回答を求めた。
5).過去の旅行経験数に関する質照項呂
これまで国内旅行で訪れた都道府県の数、これまで海外旅行で訪れた国の数、それぞれ について具体的な数値を記入するように求めた。
第3節 結 果
過去3年以内に旅行を実施した452名〈男性222名、女性230名)のデータを用いた。
何観光動機の因子分析
観光動機に関する震問項目に対して、最尤法・プロマックス回転での因子分析を実施し た。間有値の減表状況から 6因子構造を採用した結果が表7・1である。
第1因子は、日常生活での疲労やストレス解消を求める 8項目が高い負荷量を示したこ とから f緊張解消j と解釈した。第2図子は、旅行先で出会う人々との交流を求める4項 目が高い負荷量を示したことから f現地交流jと解釈した。第3因子は、旅行先での経験 を通して自己変革を遂げようとする 7項目が高い負荷量を示したことから「自己拡大jと 解釈した。第4因子は、主に旅行先の文化や歴史に対する興味に関する 4項目が高い負荷 量を示したことから f文化見開jと解釈した。第5因子は、自然との交感を求める 4項目