本章ではモータの高速回転化に伴う高調波鉄損の増加に着目して,弱め磁束制御時に発生する鉄損抑制 方法を提案した。提案手法は多相駆動の自由度を利用した方法であり,下記の事項を明らかにした。
• 弱め磁束制御時に発生する高調波鉄損を抑制する制御方法を提案し,ティースの磁束密度の高調波 成分を減少できることを明らかにした。それに伴う鉄損,特に高調波渦電流損を大幅に減少できる ことを明確化した。
• 提案手法は高調波電流を重畳するため,速度に応じて銅損の増加率と鉄損の減少率の割合が変化 する。原理検証機の場合約5000min−1 以上の回転数で効率改善に効果的であることを明らかに した。
• 提案手法は印加電圧の高調波成分も減少できることから,駆動領域が拡大も期待できることが明ら かとなった。
• 電流正弦波と電圧正弦波を提案する磁束正弦波を比較すると,銅損と鉄損のバランスから最も効率 が高いことが明らかとなった。
• 今後の課題として,現在P制御を行い試行錯誤的にゲインを決めている高調波制御に関して,さ らに高速回転した際の制御性能向上に向けた検討を行う必要がある。
第 6 章
提案法の効率比較
本章では第4章および第5章で提案した制御法の効率を従来法である正弦波電流通電時との比較を行 う。比較のためDCバス電圧を60 Vとして効率算出を行い,図6.1には各制御の銅損の結果を,図6.2 には鉄損の結果をそれぞれまとめる。銅損に着目すると,図6.1(b)に示したトルク増加制御時が最も低 銅損でトルクを出力でき,図6.2(c)に示した鉄損抑制制御時が最も銅損が高い方法であると言える。鉄 損に着目すると,図6.2(b)に示したトルク増加制御時が最も多くの鉄損が発生しており,反対に図6.2(c) では鉄損が最も少ないことがわかる。磁束密度の高調波成分を出力トルクとして利用するトルク増加制御 は低速回転に向いており,磁束密度の高調波成分を打ち消す鉄損抑制制御は高速回転に適していると言え
0 5 10 15 20 25
0 2000 4000 6000 8000
Torque [Nm]
Speed [min-1]
400
300
200
100
0
Copper loss [W]
400 300 200 100
(a)従来法
0 5 10 15 20 25
0 2000 4000 6000 8000
Torque [Nm]
Speed [min-1]
400
300
200
100
0
Copper loss [W]
400 300 200 100
(b)トルク増加制御
0 5 10 15 20 25
0 2000 4000 6000 8000
Torque [Nm]
Speed [min-1]
400
300
200
100
0
Copper loss [W]
400 300 200 100
(c)鉄損抑制制御 図6.1 3種類の制御によるの銅損比較
0 5 10 15 20 25
0 2000 4000 6000 8000
Torque [Nm]
Speed [min-1]
200
150
100
50
0
Iron loss [W]
50 100
150
(a)従来法
0 5 10 15 20 25
0 2000 4000 6000 8000
Torque [Nm]
Speed [min-1]
200
150
100
50
0
Iron loss [W]
50 100
150
(b)トルク増加制御
0 5 10 15 20 25
0 2000 4000 6000 8000
Torque [Nm]
Speed [min-1]
200
150
100
50
0
Iron loss [W]
50 25
75
(c)鉄損抑制制御 図6.2 3種類の制御による鉄損比較
0 5 10 15 20 25
0 2000 4000 6000 8000
Torque [Nm]
Speed [min-1]
98 96 94 92 90 88 86 84 82 80
Efficiency [%]
Max. 94.5 % 94 92 90 88
(a)従来法
0 5 10 15 20 25
0 2000 4000 6000 8000
Torque [Nm]
Speed [min-1]
98 96 94 92 90 88 86 84 82 80
Efficiency [%]
Max. 94.9 % 94 92 90 88
(b)トルク増加制御
0 5 10 15 20 25
0 2000 4000 6000 8000
Torque [Nm]
Speed [min-1]
98 96 94 92 90 88 86 84 82 80
Efficiency [%]
Max. 94.5 % 94 92 90 88
(c)鉄損抑制制御 図6.3 3種類の制御の効率比較
0 5 10 15 20 25
0 2000 4000 6000 8000
Torque [Nm]
Speed [min-1]
98 96 94 92 90 88 86 84 82 80
Efficiency [%]
(II) (III)
(I)
94 92 90 88
(a) 3種類の最高効率を組み合わせた効率特性 0 5 10 15 20 25
0 2000 4000 6000 8000
Torque [Nm]
Speed [min-1]
4.0
3.0
2.0
1.0
0
Efficiency [%]
(II) (III)
(I)
1.0 2.0
1.0 3.0
4.0
(b)従来法に対する効率改善の割合
図6.4 従来法に対する効率の変化
る。図6.4には3種類の制御を行った際の効率特性を示す。最高効率はすべて94 % 台であり大差ないも のの,分布が大きく変化していることがわかる。図6.3(a)に示す従来法と比較して,図6.3(b)に示すト ルク増加制御時では約4000 min−1 以下の領域で非常に高い効率で駆動できることがわかる。一方の約
4000 min−1以上の領域では前述した高速回転時の鉄損が原因となり,効率が低くなっていることが確認
できる。また銅損が多く発生する鉄損抑制制御時では効率が94 %台の領域が他の制御法に比べて狭いこ とがわかる。これは原理検証機の全損失は銅損が支配的なことが理由として挙げられる。
3種類の制御の最高効率を組み合わせた効率特性を図6.4(a)に示し,従来法と比較した効率改善の割合 を図6.4(b)に示す。破線で示した範囲は(I),(II),(III)の3種類の領域に分けることができ,それぞれ (I):従来法,(II):トルク増加制御,(III)鉄損抑制制御とする。図6.4(b)の結果より低速高トルク域お よび高速低トルク域での効率改善が確認できる。動作点に応じた制御を行うことで最高約5 %程度の効 率改善が明らかとなった。したがって原理検証機の場合(I),(II),(III)の領域のように制御方法を切り 替えることで,最も効率の良い駆動を実現できることが明らかとなった。