4-1.議事次第
第 2 回 エピジェネティクス調査委員会 議事次第
開催日時: 平成 19 年 11 月 14 日(水)13:30-18:00 開催場所: 国立がんセンター研究所 1 階 セミナールーム
議事次第:
1. はじめに
・ 第 1 回委員会議事録の確認 ・ 配布資料確認
2. 第 3 回以降の方向性について
3. エピジェネティクス研究開発動向等発表
(1) エピジェネティクスによる医学・生命科学と産業の接点 熊本大学発生医学研究センター
再建医学部門器官制御分野(大学院医学教育部) 教授 中尾 光善 氏
(2) エピジェネティック治療の現状と課題
国立がんセンター中央病院 血液内科 医長 小林 幸夫 氏
(3) がんにおけるエピジェネティクス研究の新展開‐分子機構と臨床応用‐
札幌医科大学内科学第一講座 講師 豊田 実 氏
(4) エピジェネティクスを指標とする発がんリスク診断とがんの個性診断 国立がんセンター研究所 病理部 部長 金井 弥栄 氏
(5) 立体構造からのアプローチ:エピジェネティクスの制御にむけて 理化学研究所 ゲノム科学総合研究センター
タンパク質基盤研究グループ 上級研究員 梅原 崇史 氏
4. 質疑応答、まとめ
・ 第 3 回以降の講師について
5. その他
・ スケジュールの確認
4-2.発表記録
1)エピジェネティクスによる医学・生命科学と産業の接点
講師: 熊本大学発生医学研究センター 教授 中尾 光善 氏
1.はじめに
エピジェネティクスに関する我々の研究成果に基づき、基礎研究とその応用としての産業化とい う観点から今回の講演を行う。
エピジェネティックな生命現象の基本的な概念として、ひとつの個体内では、多種多様に分化し た体細胞、未分化な幹細胞、異常な場合のがん細胞などは基本的に同一のゲノムを有しているが、
その形態や機能は驚くほどに異なっている。同じゲノムに存在する遺伝子発現のパターンが違う のである。発生の過程を見ると、受精卵が増殖分化することでさまざまな細胞・組織・器官、そ して個体を形成する。個体は時間とともに成長し、そして老化し、時にはがんのような病気を患 う。がんや組織の損傷が起こったとしても、医療や自然に元通りに再生されることがある。また、
個体は次の世代に生殖細胞を介してゲノム情報を伝えるという遺伝という現象がある。これらは すべて、同じゲノムをもつ細胞が質的に異なる細胞に変化するエピジェネティックな生命現象で あると考えられる。
細胞の個性は、エピジェネティクス機構によるゲノム上の遺伝子の選択的活用機構による遺伝子 発現パターンで決まる。通常、分化した細胞群では、全ての遺伝子の 30%程度が発現しているの みであり、残りの発現しない遺伝子は選択的に抑制されている。このような遺伝情報の制御は、
以下に述べるエピジェネティクス機構によってなされており、国際的にエピジェネティクス研究
発生
組織・器官形成 細胞増殖・分化
がん 生活習慣病 老化 再生
エピジェネティックな生命現象
遺伝
受精卵
2.エピジェネティクスの制御システム
エピジェネティックスの制御システムについては、2000 年頃から現在に至るまで、新しい分子や 複合体の発見が相次いでなされている。かなり多様な要素から構成される複雑なシステムではあ るが、大きく 4 つのグループに分けて考えることができる。すなわち、DNA メチル化とその認識 に関わる因子群、クロマチン形成と変換に関わる因子群、ヒストンなどのタンパク質の翻訳後修 飾に関わる因子群、遺伝子の転写調節に関わる因子群が含まれる。これらの因子群が有機的に連 携することで、遺伝情報の制御およびエピジェネティックな生命現象を司る細胞制御がなりたっ ている。
① DNA メチル化:DNA のメチル化は、正常細胞では外来 DNA、X 染色体の不活性化、クロマチン構 造の変化などに関係する。一方、がん細胞では DNA のメチル化は、がん抑制遺伝子の不活性化、
ゲノム全体の低メチル化、遺伝子の突然変異の三つの変化に関係する。しかし DNA メチル化だ けで働いているわけではなく、メチル化 DNA 結合タンパク質が認識することで遺伝子抑制とク ロマチン形成を行う。
② メチル化 DNA 結合タンパク質:メチル化 DNA に特異的にタンパク質が結合して、転写不活性な クロマチンを形成する。我々が見出したメチル化 DNA 結合タンパク質 MBD1 はヒストン脱アセ チル化酵素とヒストンメチル化酵素(SETDB1-MCAF1)をリクルートする。その他、クロマチン 構造に関わる因子として、ヘテロクロマチンタンパク質、HMG タンパク質、ヒストンおよびリ ンカーヒストン等が知られている。MCAF1 が広くがん細胞で高発現する広域腫瘍マーカーとし て注目される。
③ High Mobility Group A(HMGA)タンパク質:細胞のがん化で高発現する HMGA タンパク質が悪 性形質(転移・浸潤)に関わることに注目している。本因子は非ヒストン性の構造的クロマチ ン因子と呼ばれて、HMGA1 および HMGA2 の 2 種類が知られている。HMGA1 は未分化細胞に広く
PM Lボ ディ 転写調節因子
アセチル化・
脱アセチル化 酵素
ヘテ ロクロマチン タンパク質
タンパク 質 メチル化 ・ 脱メチル化酵 素
Ac Ac
Ub Ub
P P
Pol II 基本 転写因子
ヌクレオソーム アセ ンブリー因子
ユビ キチン化・
脱ユ ビキチン化 酵素
HMG タン パク質 mC
メ チル化DNA結合 タ ンパク質
クロ マチン リモデリング因 子 DNAメチル化
酵素
エピジェネティクスの制御シス テム
リン酸化・
脱リン酸化 酵素
m C
mH mH
SUMO化・
脱SUMO化 酵素
S S
S
? DNAメチル化
? クロマチン
? タンパク質の修飾
? 転写調節因子
ポ リコーム・
ト ライソラックス 複合体
ポリ(ADP-リボー ス) ポリメラーゼ
インス レーター
RB
リン カーヒストン
メディエーター
機 能的 R NA
エピジェネティクス機構 による遺伝情報制御
R NA プ ロセ シン グ因 子 DNA修復・
組 換え因子
が、がん細胞で再発現し、種々の腫瘍組織で遺伝子転座等の変化が認められている。HMGA タ ンパク質を用いた新しいがん診断と治療薬の開発が注目される。
④ クロマチンインスレーター(ゲノムの境界):ヒトを含む哺乳類のゲノムには 3 万個程度の遺 伝子が存在するが、それらはすべて無意味に散在しているのではなく、ある特定の遺伝子群は 共通の制御機構により発現調節を受ける“染色体ドメイン”を形成して存在する。この機能ド メインの境界はインスレーター配列によって規定され、ドメイン内の遺伝子が周りの影響を受 けず独立に遺伝子発現制御がなされるようになっている。エンハンサーとプロモーターの間に インスレーターが存在する場合は、そのエンハンサーはプロモーターを活性化することはない。
これをエンハンサー遮断効果と呼ぶ。またヘテロクロマチン領域の境界にあるインスレーター は、ヘテロクロマチンの拡大を防ぐバリヤー効果を示す。インスレーターは発生・分化、がん 化などエピジェネティックな生命現象における個々の遺伝子の独立した制御を行う重要な役 割を果たしている。インスレーターを用いた治療・産業用のベクター開発が注目される。
HMGA1
109 ATフ ック
I II III
HMGA2
High Mobility Group A(HMGA)タンパク質
非ヒストン性の構造的クロマチン因子
107 酸性 ア ミノ 酸領 域
胎 生 期の 発現 全 胚 葉の 未分 化細 胞で高発 現 間 葉 系の 未分 化細 胞で高発 現
ノックア ウトマウス 脂 肪 組織 の低 形成
p igmy p he notyp e 糖 尿 病、心肥 大
造 血 系悪 性腫 瘍(リ ンパ 腫、白血 病)
過剰 発 現 マウス
副 腎 髄質 、膵 ラ氏島 細胞 の過 形成
下 垂 体腺 腫、リンパ 腫 副 腎 髄質 、膵 ラ氏島 細胞 の過 形成
下 垂 体腺 腫、リン パ腫 gi ant ph en otype 癌 細胞(甲状 腺癌 、乳 癌 、リン パ腫 、膵 癌、胃癌 、
結 直 腸癌 など )で発現 浸 潤 ・転移 の悪 性度に関与 腫 瘍と の 関連性
癌 細 胞で 発現
脂 肪 腫、横紋 筋腫で遺伝 子転 座 細 胞 増殖に関与
HMGA1 HMGA2
エンハンサー
エンハンサー遮断活性
インスレーター
位置効果の防御活性 (A)
(B)
インスレーターの2つの活性
クロマチンインスレーター(境界)
エンハンサー遮断効果
バリアー効果
プロモーター エンハンサー
インスレーター
エン ハ ンサー やプ ロモーター を直接 に阻害 しな い
3.細胞核構造とその機能
細胞核内にはさまざまな核内構造が存在し、高度に区画化されている。染色体は転写活性や細胞 環境に応じて核内の特定の場に配置され、世代を超えて継承される。核内構造体の同定が進み、
その構成タンパク質や複合体解析から、転写調節における役割が明らかとなってきた。これによ りクロマチン構造よりもさらに高次元レベルでの核内構造による転写制御機構の存在することが 証明されてきている。いくつかの核内構造体タンパク質の変異はヒト疾患・病態をもたらし、そ の分子機構が注目されている。
エピジェネティクス制御システムの因子群は、基本的に細胞核内に位置している。ヘテロクロマ チン部とユークロマチン部からなる染色体テリトリー、染色体間スペースとして、PML ボディー、
カハールボディー、核スペックル(クロマチン間顆粒群)などが知られている。現在未知の核内 構造体も数多く存在するものと推測されている。がん、神経疾患、感染症、発生異常、早老症で は、細胞核構造の変化を認めるとともに、核構造タンパク質をコードする遺伝子に変異が認めら れている。細胞核構造は疾患の診断や予後判定に新たな道を開くものである。
4.PML タンパク質と核内ボディー形成
転写調節センターである PML ボディーの中核を占める PML タンパク質は RING、B1、B2、Coiled-coil の各ドメインから成り立つ。このタンパクは以下のような機能を有することが明らかになってい る。
① 急性前骨髄性白血病のがん抑制タンパク質である
② 細胞応答(ウイルス、インターフェロン、重金属、ストレス)に関わる
③ 細胞の増殖分化、アポトーシスに関与する
④ PML ボディーの形成(PML タンパク質の SUMO 修飾)で特徴づけられる
核 膜孔 複合 体 核 ラミナ
核スペッ クル
(クロマ チン 間顆粒群)
染色 体 テリ トリ ー
PMLボ ディ ー ジ ェム
核 小体 傍 核小体コンパートメ ント
( PN C)
ク ロマチン間領域
Sam68
カハー ルボディ
(ヘ テロクロマチン部)
(ユ ークロマチン部)
核マ トリクス
核膜
セント ロソー ム
細胞核構造
がん、神経筋疾患、感染症、発生異常、早老症と関連