5-1.議事次第
第 3 回 エピジェネティクス調査委員会 議事次第
開催日時: 平成 19 年 12 月 12 日(水)13:30-17:30
開催場所: NEDO 1901 会議室(川崎市幸区大宮町 1310 番 ミューザ川崎 19 階)
議事次第:
1. はじめに
・ 第 2 回委員会議事録の確認 ・ 配布資料確認
・ 第 4 回以降の方向性について
2. エピジェネティクス研究開発動向等発表
(1) 「精神発達障害とエピジェネティクス」
山梨大学大学院 医学工学総合研究部 環境遺伝医学講座 教授 久保田 健夫 氏
(2) 「ゲノム刷り込み異常とヒト疾患群」
佐賀大学医学部 分子生命科学講座 分子遺伝学分野 教授 副島 英伸 氏
(3) 「再生医療とエピジェネティクス」
国立成育医療センター研究所 生殖医療研究部長 梅澤 明弘 氏
(4) 「免疫の可塑性とエピジェネティクス」
京都大学ウイルス研究所 生体応答学研究部門 生体防御研究分野 教授 生田 宏一 氏
教授 三村 俊英 氏
(6) 「メタボリックシンドロームとエピジェネティクス」
東京医科歯科大学 難治疾患研究所 分子代謝医学分野 教授 小川 佳宏 氏
3. 質疑応答、まとめ
4. その他
・ スケジュールの確認
以上
5-2.発表記録
1)精神発達障害とエピジェネティクス
講師: 山梨大学大学院 医学工学総合研究部 環境遺伝医学講座 教授 久保田 健夫 氏
1.はじめに
私はエピジェネティクス研究を行っている小児科医である。以前は、先天的にエピジェネティク スに異常のあるものに携わってきたが、現在、後天的にエピジェネティクス異常を起こしてくる ような子供の病気(精神発達障害)を対象に研究を行っている。
エピジェネティクスに係わる病気としてがんが有名であるが、それ以外の疾患にもエピジェネテ ィックの概念を適用しようという動きがある。神経疾患は、長年原因が不明で、近年のゲノムプ ロジェクトで解明された疾患分野であるが、精神疾患や精神発達障害は今でも原因が不明な最後 に残された砦といわれている。そこで、精神疾患や精神発達障害に対しエピジェネティクスの立 場からアプローチしようという動きがでてきた。本日は、「エピジェネティクスと精神発達障害」
というタイトルでお話ししたい。後天性要因すなわち環境がエピジェネティクスを介して遺伝子 にどのような影響を与えているかについても興味を持っており、この点についても触れようと思 う。
遺伝子の異常というと普通は構造の異常、すなわち遺伝子変異と理解されているが、機能の異常 もまた遺伝子異常ということができる。そのメカニズムとして「遺伝子のプロモータの不活化」
がある。これは、「メチル化」ということが起こって、不活化されるメカニズムである。これを「エ ピジェネティクス異常」と呼んでいる。
遺伝子異常
変異 欠失 重複
不活化 転座
ACGT→ACCT C
構造異常 X
機能異常
エピジェネティクス異常
機能の異常、具体的に言えばプロモータがメチル化されてオフになる。これはがんでよく見られ
はこの異常なオンの方で、こちらのメカニズムも重要だと思っている。
蛋白質
できない
off
エピジェネティクス病
Gene
異常な
on 時期や場所がまちがっている
Gene Gene
機能異常
↓ 精神神経疾患
さらに詳細に遺伝子の模式図で示す。
(1)まず転写因子が結合して発現している。(2)ついでプロモータ領域がメチル化され、(3)あ る種のタンパク質が結合し、さらには他のタンパク質あるいは染色体がリクルートされて凝集し、
(4)最終的に転写因子が結合できなくなり発現パターンがオフになる。
エピジェネティクス(詳細)
Step 2 蛋白質の結合
Step 1 DNAのメチル化
Step 4 遺伝子のOFF
Step 3 染色体の凝集
これらのそれぞれのステップに対応する分子が欠損するという先天異常が近年リストアップされ てきた。例えば最初のステップである DNA のメチル化。すなわちメチル化させる酵素に異常が起 きた場合 ICF 症候群という非常に稀な病気が起こる。
DNMT3B
MeCP2
ATRX CBP RST2 NSD1
SNRPN UBE3A
ICF 症候群
Rett 症候群
ATR-X 症候群 Rubinstein-Taybi 症候群
Coffin-Lowry 症候群 Sotos 症候群
Prader-Willi 症候群 Angelman 症候群 Abnormal X-inactivation
エピジェネティックな精神発達障害疾患
Step 2 蛋白質の結合
Step 1 DNAのメチル化
Step 4 遺伝子のOFF
Step 3 染色体の凝集
これはメチル化酵素の遺伝子変化によるもので、特徴的な顔つきを持つのであるが、本来メチル 化されて安定化している染色体領域がメチル化酵素の欠損により脱メチル化されて脆弱になって 伸びてたり、ちぎれてお互いにくっつきあったりして花びら状になる。ICF 症候群では、このよ うな染色体所見が認められる。臨床的に重要な点は免疫不全を起こすことであるが、この脱メチ ル化と免疫不全の関係は完全にはまだ解明されていない。こういった脱メチル化の経過による先 天異常が存在する。
ICF 症候群
免疫不全
低メチル化による染色体脆弱
DMNT3B酵素変異 DMNT3B酵素変異
Shirohzu, Sasaki. Am J Med Genet2002;Kubota, Sasaki, Am J Med Genet2004
このほかの例で、遺伝子のエピジェネティックのパターンというものが正常なパターンが形成さ れて来るべきものが、先天的に異なるパターンで生まれてきてしまう。そのような疾患にゲノム 刷込み疾患というものがある。
そのひとつである肥満の病気、これには 2 つの遺伝的タイプがある。ひとつは染色体の欠失、も うひとつはきわめて稀なことであるが、一対の染色体がいずれも母方から来てしまうものである。
これら 2 つのタイプに共通しているものは、父由来の染色体のある場所がないことである。具体 的には物理的に欠落しているか、存在はするが母由来になっていて機能的に父由来でなくなって いる。共通して何が起こっているか、というところから発見されたのが、父由来でのみ働く遺伝 子、すなわちゲノム刷込み遺伝子である。
父方 染色体欠失
母方 片親性ダイソミー
70% 30%
父方染色体の一部の(物理的、機能的)喪失 プラダー
ウィリ
症候群 共通の異常は?
父由来でのみ働く遺伝子
Kubota et al., Am J Med Genet1996
ゲノム刷込み疾患
ゲノム刷込みの異常はヒトで最初に見いだされたエピジェネティクス異常で、がんに先駆けて、
先天異常で発見された。父方が発現していて母方が発現していなかった片親の刷込みパターンが プロモーター(遺伝子のスイッチ)のメチル化であるということがわかり、メチル化に基づいた 遺伝子診断法がちょうど 10 年前に確立した。
通 常
母方刷込み ( 抑制 ) メカニズム
遺伝子スイッチDNAのメチル化
ゲノム刷込み
Kubota et al., Nat Genet1997
最初に判明したエピジェネティクス病は精神発達障害疾患であった
先ほどの例は遺伝子レベルでの不活化であったが、染色体レベルで不活化されることも起こる。
これは X 染色体、性染色体で起こる現象で、X 染色体の不活化と呼ばれている。
X染色体不活化
ゲノム刷込み X不活化
男性が XY、女性が XX ということで、Y 染色体は小さいので女性のほうが染色体量が多い、このア ンバランスを制するということで女性では X 染色体の一方は不活化されている。つまり、ここに 乗っている遺伝子は殆ど抑制されている。機能的に 2 本が 1 本になって男性の場合との均衡を保 っているわけである。
XY XX
男 女
X=2 X=1
X染色体不活化
X=2→1
XY XX
X=1
男女差の補正
男 女
X染色体不活化
X 染色体が多い方はまれにいるわけであるが、3 本ある人はそのうちの 2 本は不活化されていて、
4 本ある人は 3 本不活化されている。このように 1 本のみが活性化されていて、他のものは本来 不活化されないといけないわけであるが、不活化が起きないとどういうことになるのかというと 重篤な精神障害になる。ターナー女性という比較的患者さんの多い先天的な染色体の異常の方が ある。これは X 染色体が 1 本しかないという方であるがこれらの人は精神発達、つまり知能は正 常である。ところが、仮に小さくても X 染色体がもう 1 本存在してそれが活性を持ってしまった 場合、つまり X 不活化がおきないと、重篤な精神発達障害を引き起こす。このようなことから、
エピジェネティックな遺伝子の調節というのは、精神発達に影響を与える重要なメカニズムとい える。
X染色体不活化解析
Kubota et al. Cytogenet Genome Res 2002 正常X
活性X 不活化X
1本のみ活性化
母 環状X 正常X
活性X 不活化X
2本とも活性化 正常な精神発達 重度の精神発達障害
ターナー女性 環状X不活化異常症候群
先ほどの表の 2 番目にあるメチル化された DNA に結合するタンパク質の異常によって生ずる自閉 症疾患がある。これを Rett 症候群という。
この病気の男性は生まれてこれなくて、女性だけがなる X 連鎖優性遺伝病といわれる疾患の 1 つ である。X 染色体上にある MeCP2 遺伝子の変異で起こるものであるということがわかっている。