6-1.議事次第
第 4 回 エピジェネティクス調査委員会 議事次第
開催日時: 平成 20 年 1 月 16 日(水)13:30-17:30 開催場所: NEDO 1901 会議室
(川崎市幸区大宮町 1310 番 ミューザ川崎セントラルタワー19 階)
議事次第:
1.はじめに
・ 第 3 回委員会議事録の確認 ・ 配布資料確認
・ 第 5 回の方向性について
2.エピジェネティクス研究開発動向等発表
(1)「DNA メチル化を検出するための化学反応の紹介」
理化学研究所 フロンティア研究システム 岡本独立主幹研究ユニット 独立主幹研究員 岡本 晃充 氏
(2)「エピゲノム解析:手法とその応用」
東京大学 先端科学技術研究センター 教授 油谷 浩幸 氏
(3)「内視鏡の先端光診断技術の現状と将来」
オリンパス株式会社 研究開発センター
研究開発本部 基礎技術部分子診断技術グループ グループリーダー 長谷川 晃 氏
(4)「セミインタクト細胞可視化アッセイ:新しいエピジェネティクス研究システムへの可能性」
東京大学大学院 総合文化研究科
広域科学専攻 生命環境科学系 教授 村田 昌之 氏
3.質疑応答、まとめ
4.成果報告書の作成について
5.その他
・ スケジュールの確認
6-2.発表記録
1)DNA メチル化を検出するための化学反応
講師: 理化学研究所 フロンティア研究システム 独立主幹研究員 岡本 晃充 氏
1.化学的メチル化解析法の紹介
・ 本日は、DNA メチル化を検出するための化学反応について紹介する。
1) メチル化解析の方法
・ 解析のターゲットはメチルシトシン(5-Methylcytosine)であり、メチルシトシンとシトシン を区別することが重要である。化学反応としてはチャレンジングな課題であり、たとえば分子 認識を用いてメチル基を検出するのは容易ではないので、化学的に面白い研究対象である。
・ メチル化の解析法としては、大きくは 3 つの方法論に分けられる。
① メチル基を 1 つの突起物として捉えて、メチル基があるかないかにより、それが邪魔に なるかどうかを分子認識によって捉えるのが 1 つの方法である
② そのメチル基は反応性がもともと低いが、それでも化学反応させてメチル基があるかな いかを検出するのが 2 つ目の方法である。
③ 3 つ目は、メチル基が付加している C-C 二重結合の反応性の違いを使う方法である。
図 1.メチルシトシンとシトシン
2) 従来の方法
(1)制限酵素法:
・ メチル基があるかないかを化学的方法で調べるのはたいへん難しいので、制限酵素を使う方法 が用いられてきた。分子構造で見てもメチル基が付加しているかどうかの識別は難しいが、酵 素だとこれを認識できる。
・ この方法だと、大量のサンプルが必要で、膨大な電気泳動解析の切断断片データが出てくるの で、どう解析するかは課題となる。
N
N NH2
O
Me
N
N NH2
O
5-Methylcytosine Cytosine
・ 制限酵素法は課題が多いので、最近良く使われているのが亜硫酸水素塩法(Bisulfite assay)
である。
・ この方法は、メチル基が付加している C-C 二重結合の反応性の違いを使う方法であり、シト シンへの亜硫酸水素塩の付加反応により、シトシンはウラシルに変換されるが、メチルシトシ ンはそのままであることを利用する。
・ この反応では PCR が利用できるので、サンプルは少量で済む。
図 2.制限酵素法と亜硫酸水素塩法
・ この方法は 1970 年に、岡山大学におられた早津彦哉教授らのグループによって見つけられた 反応であるが、もともとは核酸塩基もしくはヌクレオチドでの塩基選択的な反応として研究さ れた。従って、DNA に対する方法として開発されたものではない。DNA のメチル化解析に使う 流れは、その後に海外の研究者らによって確立された。
非メチル化
メチル化 制限酵素法
亜硫酸水素塩法
- DNA切断酵素を使用
(メチルシトシンでは切断されにくい)
-解析可能な配列が制限される
-電気泳動解析(膨大な切断断片データ)
-多量のゲノムサンプル要
-シトシンへの亜硫酸水素塩の付加反応 -シトシンはウラシルへ変換される -メチルシトシンはそのまま
- MSP法(メチル化特異的増幅法)
C-selective deamination with bisulfite salt PCR using a set of primers specific for the converted sequence
original C T after PCR, original M C after PCR
AGMGTCCTAAMGACTCATA AGCGTCCTAACGACTCATA
AGMGTUUTAAMGAUTUATA AGCGTTTTAACGATTTATA
Bisulfite PCR
N N NH2
O
N N NH2
O Me
N N NH2
O
NH N O
O HO3S
HSO3
-HO3S
NH N O
O NH
N O
O HSO3- Me
slow pH 5
pH >13
(Hayatsu, 1970)
・ Bisulfite 法には、以下に示すようないろいろな問題もあった。私たちは、なぜそのような問 題点が生じるのか速度論的に検討し、Bisulfite 法によって生じる DNA 分解のメカニズムにつ いて 2007 年に発表した。反応試薬存在下 16 時間の加熱によって 99.9%の DNA(100 塩基長の 場合)に損傷が生じる。
【Bisulfite 法の問題点】
¾ 反応時間が長い
図 4.Bisulfite 法の問題点としての反応時間の長さ
¾ ゲノムサンプルの 99.9%以上で、副反応による分解が起こる。
¾ 人によって結果が違ったりするのでハイレベルなトレーニングが必要
¾ ハイスループット・スクリーニングが困難
¾ 定量解析における信頼性が低い。
図 5.Bisulfite 法の副反応としての DNA の分解
Bioorg. Med. Chem. Lett. 2007, 17, 1912-1915.
N N NH2
O
N N NH2
O HO3S
NH N O
O HO3S
NH N O
O
NH N O
O HO3S
NH N O
O
Depyrimidination
O O P O
O O
O -OH
kCS kCH kUS
kTS
kTD kUD
1.6 ×10-2 s-1 2.5 ×10-4 s-1 0.8 ×10-2 s-1
4.1 ×10-6 s-1
2.4 ×10-6 s-1
0.9 ×10-4 s-1
NaHSO
3NaOH 50 ˚C, 16 h
N N NH2
O N
NH O
O
Deamination with bisulfite salt
3) その他の化学的方法
(1)京都大学田邉博士、西本教授らの方法:
・ DNA の中にナフトキノン誘導体を付けておいて、これに対する光照射によってメチルシトシン から水素原子を引き抜く。この反応によってホルミルシトシンが生じ、アルカリ処理で切断し た後、インベーダー法によって解析する。
・ 光反応を使うが、波長の短い光であり、DNA の損傷が起こることや反応の収率が低いという問 題点がある。
図 6.最近発表された京都大学田邉博士、西本教授らの方法
(2)Carell 教授らの方法:
・ メチルシトシンを過ヨウ素酸ナトリウムで処理することによって、水酸化または臭素化する方 法であり、論文を見る限りはきれいな方法である。ただし、反応生成物の解析手法に乏しい。
・ 反応後はアルカリ処理してゲル電気泳動等で解析する。
図 7.最近発表された Carell 教授らの方法
H-abstraction from methyl group
Tanabe & Nishimoto 2007
O
O HN
N O O
DNA OH DNAO
N N NH2
O DNA
"Naphthoquinone"
312 nm hν pH = 7
N N NH2
CHO O
DNA
- Photooxidation at the methyl group of methylcytosine - Low yield and many side reactions
Oxidative degradation of pyrimidine Carell 2007
N N NH2
O
DNA
N N DNA NH2
O
X X
X = Br or OH NaIO4
LiBr pH = 5
- Methylcytosine-selective reaction
- Necessary to decompose the DNA stand by alkaline treatment
2.われわれの研究成果の例
1) 反応の原理
・ われわれの開発した方法も Bisulfite 法と同様に、メチル基が付いている C-C 二重結合に対 する反応性の違いを利用するものである。
・ シトシンとメチル化シトシンの二重結合は、二置換オレフィンと三置換で酸化反応の反応性が 異なることは教科書的にも知られている。
・ 反応のスキームを以下に示す。この反応は、ノーベル賞学者 Sharpless 教授が開発した不斉ジ ヒドロキシル化反応の方法を安定に錯体が取れる方法へ実験試薬の組み合わせを改良してい る。
図 8.反応のスキーム
2) 反応の実施例
・ この試薬を用いた反応の実施例を以下に示す。
・ 二本鎖になっていないメチルシトシンにだけニックが入る。シトシンとメチルシトシンで 400 倍以上の反応の差があるので、反応時間と温度をコントロールすれば完全に区別ができる。
・ ただし、この反応はチミンとも反応するので、チミンとメチルシトシンを区別する必要性はあ る。
図 9.Osmium complexation 法の実施例
N N H
2N
O O
Os
O N
N O
O N
N H
2N
O
M
K2OsO4
K3Fe(CN)6 Bipyridine Tris-HCl (pH 7.7)
N NH2
O N O O O P O
O O
Me
Fe3+,BPy Os
O O HO HO
OH OH 2
N NH2
O N Me O Os
O O N O N
Os O NO N
O O
ds ss
M C M C
Condition: 100 mM Tris-HCl (pH 7.7) 5 mM K2OsO4, 100 mM bipyridine, 10% MeCN at 0 ˚C incubated for 5 min.
For cleavage, hot piperidine (at 90 ˚C, 20 min)
5’-AAAAAAG[C/M]GAAAAAA-3’
(+ 5’-TTTTTTCGCTTTTTT-3’)
Methylcytosine in a single-stranded DNA was oxidized.
k(C)= 2.51 ×10-5s-1 k(M)= 1.11 ×10-2 s-1
Org. Biomol. Chem. 2006, 1638-1640.
Reaction rate: T > M >> C> G,A Reaction rate: T > M >> C> G,A
3) 特定のターゲットでの反応
・ ガイド DNA を作って利用すると、1 塩基だけはみ出した部分(1 塩基バルジ構造)では反応す るが、二本鎖領域では反応しないので、特定のターゲットでだけ反応を引き起こすことができ る。
図 10.特定のターゲットの検出
4) ミスマッチ DNA を使った例
・ 3)と同様にミスマッチ DNA を利用することもできる。
Use of a one-base bulge structure The target base is forced out of a duplex using a “guide DNA”.
5'-TACTGGGAXGGAACAGCTTTGAGGTGXGTGTTTGT-3' p53
Target 1 Target 2
3'-ATGACCCTGCCTTGTCGAAACTCCACGCACAAACA-5' p53 exon 8 codons 264-275
Full-matched
3'-ATGACCCT_CCTTGTCGAAACTCCACGCACAAACA-5' 3'-ATGACCCTGCCTTGTCGAAACTCCAC_CACAAACA-5' Guide1
Guide2
X= M or C
G+A
Guide1 Full
C M
Guide2 C M C M
Target 1
Target 2
Condition: 5 mM K2OsO4, 100 mM K3Fe(CN)6, 100 mM bipyridine, 100 mM Tris-HCl (pH 7.7), 1 mM EDTA, 10% MeCN at 0 ˚C for 5 mi n.
N N N
N N N
N N
O H
H H
H
A C / M
H or Me
5'-32P-AAAAGAANGAGAAAA-3' 3'-TTTTCTTN'CTCTTTT-5'
1 2 3 4 5 6
Lanes
C M C M C M
G+A ss ds
G A
DNA1(N) DNA1'(N')
N N'
N
J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 14511-14517.
Condition: 100 mM Tris-HCl (pH 7.7) 5 mM K2OsO4, 100 mM bipyridine, 10% MeCN at 0 ˚C i ncubated for 5 min.
For cleavage, hot piperidine (at 90 ˚C, 20 min)
5) 得られる錯体化合物
・ メチルシトシンに対して生成した錯体は、加熱条件でも比較的長時間安定に存在できる。この 錯体の構造は、比較的単結晶構造が得られやすい下図のヌクレオシド構造へ分解して X 線結晶 構造解析を行い確認された。
図 12.得られる錯体化合物
6) 簡便な検出系の開発
(1)蛍光消光:
・ 錯体は、蛍光色素プロダンの蛍光を消光した。したがって標的のシトシンのそばにプロダンを 置くようなプローブを設計することによって、メチルシトシン上に形成された錯体を蛍光消光 によって検出することができる。
(2)リガンドの改良:
・ 配位子であるビピリジンに修飾を付ける。この場合、パラ位に置換基を付けるのが錯体形成を 阻害しないことが分かった。伸ばした側鎖の末端にアミノ基を付けておき、更にシグナルを出 すものをカルボン酸を介して導入する。
・ 例えば、錯体形成を介してメチルシトシンに色素が付けられるが、シトシンには錯体を形成し ないのでこの色素は付かない。
・ 酸化還元系の物質を導入すれば、電気シグナルとして検出ができる。
・ 錯体形成した後に S1 ヌクレアーゼで処理して不必要な一本鎖領域を削ると、調べたい領域の みを残すことができる。錯体に対してビオチン-アビジン結合でペルオキシダーゼを付け、そ の酵素反応を利用して生じた不溶性物質の吸着を金基板上で Nyquist plot により解析する方 法もできる。
NH O
O N Me O Os
O O N O N
O OH HO
5R 6S
Pyrimidine Glycol-Osmate-Bipyridine Ternary Complex 5R,6S/ 5S,6R= 4 : 1
N NH2
O N Me O Os
O O N O N
O O O DNA
DNA
Enzymatic digestion Acidic hydrolysis
X-ray
Org. Biomol. Chem. 2008, 6, 269-271.