本節の目的は、オークション理論と用語の基本的な紹介である。また、実際のオークションに 近い、いくつかのバリエーションを紹介する。(たとえば、電力部門で用いられている)複数単 位(multi-unit)オークションや、(たとえば、木材入札で用いられている)転売(resale)オー クションのバリエーションは、仮定のささいな相違が、重大な結果の相違を導く可能性があるこ とを示す。本節は、本稿における二つの政策志向部分の背景をなすものである。
オークションの種類
オークションには、四つの標準的な類型がある。
・競り上げ(ascending)、すなわちイングリッシュ・オークション(English auction)では、
価格が入札者が一人になるまで引き上げられる。この種類のオークションは、たとえば、美 術品を対象として用いられる。この種類のオークションは、これまで最も一般的であったが
(Milgrom, 1989)、インターネットの普及でもはやそうではなくなっている。
・競り下げオークション(descending auction)では、価格は入札者が応答するまで引き下げ られ、最終価格で落札される。この種類のオークションはオランダにおける花卉売買に用い られており、経済学者はダッチ・オークションと呼んでいる。
・1位価格封印オークション(first-price sealed-bid auction)では、各入札者が他の入札額を 知らないまま入札し、最高額の入札者が落札し、入札額を支払うことになる。これは政府事 業の調達・払い下げでもっとも一般的である(Milgrom, 1989)。
・2位価格封印オークション(second-price sealed-bid auction)では、ある入札者が、他の 入札額を知らずに入札し、最高額の入札者が落札するが、彼は二番目の入札額を支払うとい うものである。この種のオークションは、William Vickery の名にちなんで、ビッカリー・
オークションと呼ばれている。
これらの標準的なオークションはさまざまな長所と欠点を持っている。それらは効率性や競争 に関心を抱く政策立案者にとって重要であり、とりわけ共謀や参加者の問題が懸念される。
こうしたオークションのバリエーションとして、留保価格、入札額の刻み制限、入札タイミン グの制限などが導入されている。さらに複数の財が販売される場合、特にその財が代替財か補完 財である場合や入札者が互いにいくつかのオークションで互いに競合する場合には、入札は複雑
になる。アングロ・ダッチ・オークション(Anglo-Dutch auction)では、競り上げオークショ ンが残り二人になるまで行われ、この二人で封印入札をして、最高額の入札者が落札し、その入 札額を支払う。
評価値、シグナル、私的価値と共通価値
情報は、オークションを理解するうえで重要である。実際、効率的なオークションは、入札者 が対象物件について自分の評価値を正直に表明し、入札時に入札者が利用できる情報を最大限利 用できるように設計されている。
「価値評価(valuation)」とは、オークションの対象物件に入札者が設ける価値に関連する 用語である。これは、必ずしも、入札額や支払い必要額ではない。これに対し、「シグナル
(signal)」とは、オークションの対象物件について入札者が持っている情報に関連する用語で ある。それは、たとえば油田の地震探査といったものである。本稿では、共謀の議論で用いら れる「シグナリング(signaling)」という用語との混同を避けるため、オークションの文献が
「シグナル」と記している場合には、この用語をそのまま「表示(indication)」方式としている⑴。
入札者は、各入札者が対象物件について自分の評価値を知っており、ライバルの評価値を知っ たとしても、自分の評価値を変えない場合、私的価値(private value)を持つという。私的価値 の例として非耐久消費財がある。ここでは、消費者はその財の自分にとっての評価値を知ってい るが、転売可能性がないため、他人の評価値には影響されないのである⑵。
対照的に、共通価値(common value)の文脈では、各入札者は、ライバルについての情報を 知ると、対象物件の評価値について自分の信念(belief)を変更することになる。「(共通価値と 私的価値との間の)重要な違いは、入札者の私的情報が有する特性に関係している。各入札者の 私的情報が自分の評価値を決める唯一の特有な決定要素になっている場合、入札は私的価値の世 界でなされることになる(Athey & Haile, p. 82)」。当然のことながら、私的価値の文脈におい ても、入札者は、戦略的な理由でライバルの情報を知りたいとは思うが、その情報を知ることで 対象物件の評価値についての信念を変更することはないのである。
共通価値では、対象物件の情報は、入札者間で広まる。一般的に、共通価値では対象物件の評 価値がすべての入札者で必ずしも同一ではない。ただし、共通価値の特殊なケースである純粋共 通価値(pure common value)では、各入札者は対象物件に対して同じ評価値を持つ⑶⑷。 オークションは、共通価値の世界でなされることが多いと思われる。対象物件の評価値が後の 市場条件に依存するような場合、たとえば木材や工芸品が転売されたり、調達に関する事業が後 で行われるような場合には、その入札は共通価値であることを意味する。その理由は、入札者が 対象物件の代替財の将来の需給の見通しについてさまざまな情報を持っていたり、アクセスして
おり、またその情報をさまざまに評価しているからである。そうした状況での入札者は、自分の 価値評価を行うとき、ライバルの情報や評価を有益なものとして活用する可能性がある。
純粋共通価値の世界では、効率性はどの入札者がオークションで勝つかに依存しない。効率性 ゲインは入札者とオークション主催者(auctioneer)の費用を最小化することで得られるのであ り、方針として、売り手にとって最大の収入を引き出すことが志向されていることに注意を要す る。
この私的価値と共通価値の相違に加え、オークション設計を理解するためにはほかにも重要な 区別がある⑸。
入札
本節では、入札者が四つの標準的なオークションでどのように入札するかを述べる。各ケース で、明示的ないし暗黙の共謀などがなく、参入障壁がないことを仮定する。まず、最初の例とし て、独立私的価値を仮定しよう⑹。
・私的評価値の場合の競り上げオークションを検討する。ここでの支配戦略⑺は、価格がその 入札者の評価値になるまで入札を続けることである。二番目に高い評価値を持つ入札者が脱 落した後、残った唯一の入札者は最高額の評価値を持つ入札者であり、彼が二番目に高い評 価値にほぼ等しい価格で落札する⑻。
・私的評価値の場合の2位価格封印オークションを検討する。各入札者の支配戦略は、自分の 評価値を入札することである⑼。このことから、最高評価値を持つ入札者が落札し、二番目 に高い評価値を支払うことになる。
・私的価値の場合の1位価格封印入札を検討する。ナッシュ均衡入札戦略⑽では、入札者が、
入札額を上げると低い価格で入札した場合と比べ、勝率は増加するが、勝ったとしてもその 評価値が上がってしまうというトレードオフを持つ。最高額の入札者が落札し、入札額を支 払うが、彼は必ずしも最高評価値の入札者ではない⑾。彼の入札額は利得を考慮に入れるた め、自分の評価値以下である⑿。(McAfee and McMillan 1987, p.710)
・私的価値の場合の競り下げオークションを検討する。このオークションは、入札者が一位価 格封印入札オークションの場合と同じ戦略を用いるため、それと類似している。いずれの オークションでも入札者は、同一の情報を持ち、同一のトレードオフに直面するからである。
したがって、ナッシュ均衡戦略は、一位価格封印入札オークションのそれと同じである。
ここで私的価値から共通価値の文脈へと条件を変えてみよう。この変更は、入札額が情報的に なることを意味する。入札額は、入札者の価値評価に関する情報を顕示させることになるが、共 通価値においては、この情報は一般的にライバルの価値評価を変更させることになる。他の入札
者の価値評価についての自分の最初の信念(belief)はその後変化する可能性がある。合理性が 仮定されれば、このことは信念がどう変更されるかについて一定の制約を課すことになる。しか し、信念のあいまいさやライバルの価値評価についての信念の変更は、合理的な入札者がどのよ うな入札行動をとるのかを正確に把握するのを困難にし、対称的なオークションにあっても複数 均衡が存在しかねないことになる。さらに、共通価値の世界においては、入札者が勝者の災いを 避けるため、入札額を少し削ることが知られている(後述を参照)。
・共通価値の場合の競り上げオークションにおいて、これを改めて説明してみよう。入札者の ビットはライバルに対し彼の価値評価が少なくともその入札額であることを顕示するもので ある。すると、各ライバルは、その対象物件に対する自分の評価値についての自分の信念を 見直すことになる。このプロセスは、入札の進行につれて続けられ、各入札者は自分の信念 を見直す。入札者は、勝つことによる期待利得がゼロになるときにすなわち、勝った場合の 期待価値評価がちょうど自分の入札額に等しくなるときに、この見直しを止めるのである。
本節では、標準的オークションの入札戦略と結果について述べた。次節では、収入同値定理に よって、ある意味では、これら標準的なオークションはほぼ等しいことを示す。
収入同値定理
オークション理論の最も基本的な成果の一つは、収入同値定理である。この定理は、一定の条 件の下で、それぞれの標準的なオークション(競り上げ、競り下げ、1位価格封印入札および2 位価格封印入札)が同一の期待収入をもたらし、各入札者は指示(indication)機能として同一 の期待支払額を支払うことになる。大まかに言えば、その条件とは、入札者がリスク中立的であ り、表示は独立であり、かつ同一の分布に基づいていることである(これはとりわけ入札者が対 称的であることを意味する。)⒀。この結果は、私的価値にも、表示が独立である場合には共通価 値モデルにも適用できる。ただし、この結果は共通価値オークションには概して適用されないこ とに注意されたい。Klemperer(2004)に、この定理のわかりやすい証明と検討がある。
この結果は、直観に反するように思われる。そもそも、1位価格封印入札オークションの価格 は、どうして2位価格封印入札オークションと同じ価格になるのか?その理由は、入札者がオー クションのタイプに応じ異なる行動をとることにある。例えば、入札者は、1位価格封印入札オー クションでは低い価格で入札するのである。
収入同値にも関わらず、(私的価値における)オークションのタイプは、入札者の入札準備行 動に重大な違いがあることを意味している。競り上げオークションや2位価格封印入札オーク