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章 考察

ドキュメント内 博士論文 (ページ 61-67)

第 4 章

大腸菌の大量発現・精製系により調製したVGLUT2をリポソームに再構成し

たVGLUT2は内側が正の膜電位差の駆動力をかけると、有意なグルタミン酸輸

送活性を示した(43.3±1.08 nmol/mg protein)(図8)。また、これまでの報告と 同濃度の阻害薬によりこの輸送活性は完全に阻害された(図8)(40)。一方で、

バキュロウイルス・昆虫細胞の大量発現・精製系により調製したVGLUT2をリ ポソームに再構成した場合の 100 M グルタミン酸の輸送活性は 11.0±0.50

nmol/mg proteinと報告されている(40)。本研究において、大腸菌の大量発現・

精製系により調製したVGLUT2は昆虫細胞の大量発現・精製系により調製した

VGLUT2 と比較して約 4 倍の輸送活性を有していた。したがって、大腸菌から

調製した VGLUT2 は昆虫細胞から調製した VGLUT2 よりも高い輸送活性を保

持していることが示された。これは大腸菌の大量発現・精製系が昆虫細胞のもの よりも精製度が高いタンパク質を得られるためであると考えられる。一方で、精 製したタンパク質のうち輸送活性を有しているタンパク質の割合を解析するこ とは今後の課題であり、まずはサイズ排除クロマトグラフィーにより精製タン パク質の凝集体の有無を確認することを考えている。

精製したトランスポーターを様々な条件で質量分析し、質量分析用のサンプ ル調製法を確立することに至った。精製したトランスポーターを MS で解析す ると、理論値と小さな誤差で目的のm/zの位置にピークを検出した(図9A、12A、 13A)。ターゲットプレートの各スポットの結晶状態によってはタンパク質由来 のピークの m/z の値にばらつきが見られた。これは実験する上で各スポットで の結晶が不均一になることが原因だと考えられる。注意深くサンプル調製し、実 験回数を増やすことで、この問題を改善することができた。MALDI法は matrix と試料の均一な結晶を作製することが良質なピークを得るためには重要である と考える。

一般的な消化酵素であるトリプシンは、トリプシン:タンパク質=1:20~100

(w/w)の比率で加え、1~24時間反応させることが推奨されている。以前の報 告でCoxらは、トリプシン:タンパク質=1:20(w/w)の比率で16時間反応さ せていた(57)。これらの条件を踏まえて、初めにトリプシンの反応量と反応時 間を検討した。トランスポーターは疎水性が高い性質を持つことから、推奨プロ トコルよりも小さな比率でトリプシンを反応させる必要があるのではないかと 考え、トリプシン:タンパク質=1:20 、1:10、1:5(w/w)の3つの比率を試

した。いずれの場合も、PMF解析により得たカバー率に大きな差はなかった(デ ータは示していない)。しかし、トリプシン:タンパク質=1:20 の場合のみ、

十分な有意差の上、タンパク質を同定することができたため、トリプシン:タン パク質=1:20が適切であると判断した。また、反応時間について、Coxらの方 法である16時間と推奨プロトコルの最長の24時間の二つの条件を検討したが、

どちらも同様の結果であった。十分に消化するために24時間の反応時間を選択 した(データは示していない)。トリプシン以外のAsp-Nやキモトリプシンの条 件も同様に検討し、選択した。過剰の酵素量は自己消化物の混入が大きく生じて しまうため、あらかじめ適切な比率および反応時間を検討することが重要であ ると考える。

Cox らのサンプルの前処理方法は、TCA 沈殿による脱塩後の有機溶媒による 洗浄作業がトリプシン消化前の 1 回のみであった(57)。この方法に準じて

VGLUT2 の溶液内トリプシン消化したものを MS により解析した結果、カバー

率は55%であった(表1、図10、青字表記)。そこで前処理方法のうち、還元ア

ルキル化前にTCA処理と洗浄作業を2回、トリプシン消化前の洗浄作業を2回 追加し、洗浄作業を合計5回にした。その結果、VGLUT2のカバー率は 70%ま で上昇し、主に疎水性の高い膜貫通領域である TMD2 と TMD12 を含む領域の ペプチド断片を新たに検出することができた(図 10、-表記)。このことから、

イオン化を阻害する界面活性剤や塩などを十分に除去することにより、疎水性 が高い性質のペプチド断片も検出することが可能であると考えられる。また、

PMF 解析において検索パラメーターの生物種を All entries に設定した場合、

VGLUT2、VEAT、VAChTの3つのトランスポーターに共通してヒットしたタン

パク質はなく、それぞれ有意に各トランスポーターを検出していた。このことか ら、測定に用いた精製したトランスポーターは純度が高いと考えられる。

さらに、LCを用いて 0.1% TFA/アセトニトリルの組成を98/2から 48 分間で 2/98溶出させることによりペプチド断片を96分画した。LC/MSによる解析の結 果、VGLUT2のカバー率は87%であった(図10、+表記)。LCを用いてあらか じめ分画することにより、MSにより検出することができなかった疎水性の高い ペプチド断片も感度良く検出することが可能になった。

膜タンパク質であるトランスポーターを質量分析法により検出するにあたり、

コントロールとして可溶性タンパク質である BSA も同様に MS および LC/MS により解析した。その結果、MS と LC/MS によりそれぞれ、76%、87%の BSA

由来のアミノ酸残基を検出した。MS と LC/MS により解析した結果を合わせる

と93%のカバー率であった(図11)。BSAのN末端側の24個のアミノ酸残基が

検出されていないことが 100%に近いカバー率を得られなかった要因だと考え られるが、その原因は不明である。この領域において、トリプシン消化により生 じるペプチド断片の m/z のうち、MALDI-TOF/MS の検出範囲 m/z は 300~6000 であり、理論的に生じる検出範囲外のペプチド断片は、アミノ酸残基の番号1-2 の[M + H]+ = 278および、アミノ酸残基の番号24 の[M + H]+ = 175の3つのアミ ノ酸残基のみである(未検出のため表5、6には記載していない)。その領域はト リプシン以外の消化酵素、例えばキモトリプシンの切断部位のうち Phe(F)残 基、Leu(L)残基、Tyr(Y)残基を有しているため(図11)、キモトリプシンを 用いることも考えられるが、検出範囲外の小さなペプチド断片を生じ、MSによ り検出することが困難であると考えられるため、本研究では検証していない。

この結果から、質量分析法において容易にイオン化されると言われている可 溶性タンパク質のBSAをMSで検出する場合でも、約90%のカバー率が限界で あることが示唆された。本研究では、MS および LC/MS による解析により、

VGLUT2は88%、VEATおよびVAChTはそれぞれ90%、91%のカバー率を得る

ことができているため、疎水性の高いトランスポーターをBSAと同程度の高い カバー率で検出することができた(表17)。これまでの消化酵素の組み合わせで は約 90%のカバー率が質量分析法の限界点であると考えられるが、輸送活性を 保持したトランスポーターを可溶性タンパク質と同程度の高いカバー率で質量 分析により検出したことは大きな進歩であると考える。

トリプシン消化物のVGLUT2 は MS と LC/MS により 88%という高いカバー 率で検出したが、その他のトランスポーターのトリプシン消化物はVEATで58%、

VAChT で64%となり、十分なカバー率を得たとは言い難かった。トリプシンは

塩基性アミノ酸であるLys残基と Arg残基のC 末端側のペプチド結合を選択的 に加水分解する消化酵素である。VGLUT2 のアミノ酸配列において、トリプシ ン消化により生じるペプチド断片は最も分子量の大きいもので [M + H]+ = 6343 である。この測定モードでのMALDI-TOF/MSの検出範囲m/zは300~6000であ り、理論的に生じる検出限界以上の[M + H]+ = 6343のペプチド断片を検出する ことは不可能であった。一方、VEATにおいては、理論上、検出限界以上のトリ プシン消化物は [M + H]+ = 6859、8093の2つのペプチド断片である。検出範囲

外の分子量が大きなペプチド断片の検出は難しいため、VEAT のカバー率が

VGLUT2 のカバー率と比較して不十分であったと考えられた。つまり、高いカ

バー率を得るためには検出範囲内の適切な大きさにタンパク質をペプチド断片 化する必要があるが、トランスポーターのアミノ酸配列によってはトリプシン 消化のみでは不十分であると考えられる。

そこで、VEATおよびVAChTにおいてVGLUT2と同程度の高いカバー率を得

るために、トリプシン以外の消化酵素を用いて検証した。その結果、キモトリプ シン単独、トリプシン消化後さらに Asp-N 消化するトリプシン+ Asp-N を追加 することにより、トリプシン消化では未検出であった領域を検出し、カバー率を 向上させることに成功した(表17)。つまり、様々な消化酵素を組み合わせるこ とでカバー率をより向上できることを見出した。消化酵素はその他にも、Asp残 基とGlu残基のC 末端側のペプチド結合を切断するGlu-Cなどもある。目的の トランスポーターがトリプシン消化のみでは 90%程度の高いカバー率を得られ ない場合は、トランスポーターのアミノ酸配列の特性に応じて消化酵素を使い 分けることにより、カバー率を向上できることが強く示唆された。

また、本研究においてトリプシン消化したVGLUT2は質量分析により88%の カバー率を得られているが、検出されていないTMD5およびTMD6の領域には キモトリプシン切断部位があるため(図10)、キモトリプシン消化によりその領 域のペプチド断片を新たに検出する可能性もある。今後、MSによりVGLUTsの 塩化物イオン結合部位を探索するにあたり、DIDSが結合したペプチド断片を検 出できなかった場合は、トリプシン消化ではカバーされていない領域にDIDSの 結合部位がある可能性を考え、VGLUT2 のキモトリプシン消化も検討する必要 があるだろう。

消化酵素の他にも、化学的開裂方法によりタンパク質のペプチド結合を開裂 させる臭化シアンがよく使われる(65-67)。臭化シアンは、Met残基のC末端側 のペプチド結合を切断する無機化合物であり、トランスポーターの膜貫通領域 には Met 残基が多いという特徴から、トランスポーターをペプチド断片化する 有効な試薬であった。しかし、シアン化物イオン(CN-)は、経口、経皮および 経気道により生体内に入り、細胞のミトコンドリアの酸化型シトクロム c オキ シダーゼ(Fe3+)と結合し、シトクロムcオキシダーゼを不活性化するため、細 胞内呼吸を阻害する(68)。そのため、重症の場合は中枢麻痺や呼吸麻痺により 死に至る危険性がある。つまり、臭化シアンは極力、使用を避けたい試薬である。

ドキュメント内 博士論文 (ページ 61-67)

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