第 2 章 曲線 21
2.3 空間曲線
平面曲線と同様に空間曲線に対しても弧長パラメータを定義できる。この弧長 パラメータを利用して空間曲線の曲率と捩率を定義しその基本的性質を調べる。
空間曲線のパラメータ表示が
c(t) = (x(t), y(t), z(t)) によって与えられているとする。c0(t)6= 0と仮定する。
c0(t) = (x0(t), y0(t), z0(t))
を速度ベクトルとも呼ぶことにする。運動する点の時刻tのときの位置がc(t)であ ると考えると、c(t)は空間の点の移動の軌跡を表わし、c0(t)はその移動の速度ベ クトルとみなせる。速度ベクトルの長さは
|c0(t)|=p
x0(t)2+y0(t)2+z0(t)2
で与えられる。パラメータがaからb(a≤b)まで動くときの曲線の長さは Z b
a
|c0(t)|dt
で与えられる。始点をt=aとしてここからパラメータtまでの曲線の長さをsで 表わすことにすると、
s= Z t
a
|c0(t)|dt, ds dt = d
dt Z t
a
|c0(t)|dt=|c0(t)|>0
が成り立つ。最後の不等式はc0(t)6= 0という仮定からわかる。sはtに関して単調 増加になり、逆関数が存在する。つまり、tをsの関数としてt=t(s)を考えるこ ともできる。これを元の曲線に代入し(x(t(s)), y(t(s)))とすると、sは曲線のパラ メータになる。このパラメータsを曲線の弧長パラメータと呼ぶ。幾何学的な意 味を考えると弧長パラメータsに関する速度ベクトルは単位ベクトルになること がわかるが、次のように計算して速度の長さが1になることを確かめることもで きる。 d
ds(x(t(s)), y(t(s)), z(t(s))) = (x0(t), y0(t), z0(t))dt
ds =c0(t)dt ds となり、逆関数の関係から
dt ds = 1
Áds
dt = 1
|c0(t)|. したがって、
d
ds(x(t(s)), y(t(s)), z(t(s))) = c0(t)
|c0(t)|
となり、弧長パラメータsに関する速度ベクトルは単位ベクトルになることがわ かる。平面曲線の場合と同様に、空間曲線に対しても弧長パラメータは平行移動 と向きを逆にすることを除けば一意的に定まる。そのため空間曲線の一般論を展 開する際にも、弧長パラメータは使い易いパラメータである。そこで、空間曲線 の弧長パラメータsを使って空間曲線の曲率と捩率を定義し、その基本的性質を 調べることにする。空間曲線の弧長パラメータsによる微分e1 =dc/dsの変化を 見ることで空間曲線の曲り方を調べる。e1は単位ベクトルだからhe1,e1i = 1と なっている。これをsで微分すると
0 =
¿ d dse1,e1
À +
¿ e1, d
dse1 À
= 2
¿ d dse1,e1
À .
これより d
dse1はe1に直交する。平面曲線の場合と異なり、空間曲線の単位速度 ベクトルe1に直交する法ベクトルを標準的に定めることはできない。そこで、空 間曲線の場合は d
dse1の長さを曲率と呼ぶことにする。曲率は κ=
¯¯
¯¯ d dse1
¯¯
¯¯
で表わす。すると、曲線のパラメータの向きを逆にしても、曲率は変らない。κ(s)6= 0のときは、
e2(s) = 1 κ(s)
d dse1(s)
によって単位法ベクトルe2(s)を定めることができる。このとき、
d
dse1(s) =κe2
が成り立つ。そこで以下ではκ(s) 6= 0の場合を考えることにする。e1とe2から ベクトル積によって、e3 =e1 ×e2を定める。各sに対してe1(s),e2(s),e3(s)は R3の正規直交基底になる。e2を主法線ベクトルと呼び、e3を従法線ベクトルと 呼ぶ。Kroneckerデルタδijを
δij =
( 1 (i=j) 0 (i6=j)
によって定める。1 ≤i, j ≤3について、hei,eji=δij となっている。これをsで 微分すると
(∗)
¿ d dsei,ej
À +
¿ ei, d
dsej À
= 0.
i=jとすると、
2
¿ d dsei,ei
À
= 0 となり、d
dseiはeiに直交する。特に d
dse2はe2に直交する。(∗)においてi= 1, j = 2とすると
0 =
¿ d dse1,e2
À +
¿ e1, d
dse2 À
=κ+
¿ e1, d
dse2 À
.
これより ¿
e1, d dse2
À
=−κ となり、
d
dse2 =−κe1+
¿ d dse2,e3
À e3. そこで、
τ =
¿ d dse2,e3
À
とおくと、
d
dse2 =−κe1+τe3
が成り立つ。τを曲線の捩率と呼ぶ。(∗)においてi= 1, j = 3とすると、
0 =
¿ d dse1,e3
À +
¿ e1, d
dse3 À
=hκe2,e3i+
¿ e1, d
dse3 À
=
¿ e1, d
dse3 À
となり、 d
dse3はe1に直交する。(∗)においてi= 2, j = 3とすると、
0 =
¿ d dse2,e3
À +
¿ e2, d
dse3 À
=h−κe1+τe3,e3i+
¿ e2, d
dse3 À
= τ +
¿ e2, d
dse3
À .
さらに、 d
dse3はe3に直交する。したがって、
d
dse3 =−τe2 を得る。以上をまとめると次の定理になる。
定理 2.3.1 空間曲線の単位速度ベクトルをe1で表わし、 d
dse1 6= 0と仮定する。
d
dse1の方向の単位ベクルをe2で表わし、e3 =e1×e2によってe3を定める。曲 率をκ、捩率をτで表わす。e1, e2, e3の弧長パラメータsに関する微分は次の等 式を満たす。
d
dse1 =κe2, d
dse2 =−κe1 +τe3, d
dse3 =−τe2. 注意 2.3.2 上の定理の等式をFrenet-Serretの公式という。
例 2.3.3 平面の場合と同様に空間曲線のもっとも簡単な例は直線である。直線は 定ベクトルpと単位ベクトルeによって
c(s) =p+se と表わすことができる。
dc(s) ds =e
は単位ベクトルなので、sはこの直線の弧長パラメータであることがわかる。さら にこれは一定のベクトルになっているので、sで微分すると0になり、曲率も0に なる。
例 2.3.4 空間曲線c(s)がある平面に含まれている場合を考える。sは弧長パラメー タとする。平面は単位ベクトルeと定数aによって
{x∈R3 | he, xi=a}
と表わすことができる。この平面に曲線c(s)が含まれていると仮定する。
he, c(s)i=a が成り立つ。sで微分すると
¿ e, d
dsc(s) À
= 0 となるので、単位速度ベクトル e1 = dsdc(s)は
he,e1i= 0
を満たす。よって、e1はeに直交する。さらにsで微分すると
¿ e, d
dse1 À
= 0 と なる。曲率κは
κ=
¯¯
¯¯ d dse1
¯¯
¯¯ で与えられる。κ6= 0と仮定すると
d
dse1 =κe2 となるように主法線ベクトルe2が定まる。
0 =
¿ e, d
dse1 À
=he, κe2i=κhe,e2i
となり、κ 6= 0だからe2もeに直交する。従法線ベクトルe3はe3 = e1 ×e2に よって定めるので、e3 =±eが成り立つ。以上より捩率τは
τ =
¿ d dse2,e3
À
=±
¿ d dse2,e
À
=± d
dshe2,ei= 0.
例 2.3.5 実数a >0とb 6= 0に対して
c(t) = (acost, asint, bt)
によって常螺旋を定義する。この常螺旋の曲率と捩率を求める。
d
dt(acost, asint, bt) = (−asint, acost, b) となるので、弧長パラメータsは
s= Z t
0
|(−asint, acost, b)|dt=√
a2+b2t.
よって、t =s/√
a2+b2となり、
µ
acos s
√a2+b2, asin s
√a2+b2, bs
√a2+b2
¶
が常螺旋の弧長パラメータによる表示になる。これをsで微分すると e1 = 1
√a2 +b2 µ
−asin s
√a2 +b2, acos s
√a2+b2, b
¶ . e1をsで微分すると
d
dse1 = 1 a2+b2
µ
−acos s
√a2+b2,−asin s
√a2+b2,0
¶ . これの長さが曲率κになる。
κ= a
a2+b2. 主法線ベクトルe2は
e2 = 1 κ
d dse1 =
µ
−cos s
√a2+b2,−sin s
√a2+b2,0
¶
となり、従法線ベクトルe3は e3 =e1×e2 = 1
√a2+b2 µ
bsin s
√a2+b2,−bcos s
√a2+b2, a
¶ . これらより
d
dse2 = 1
√a2+b2 µ
sin s
√a2+b2,−cos s
√a2+b2,0
¶
となり、捩率τは
τ = b
a2+b2. 以上より常螺旋の曲率と捩率は
κ= a
a2+b2, τ = b a2+b2 となり、特にどちらも定数である。
曲率と捩率は空間曲線の曲り方と捩れ方を表わしている。さらに曲率と捩率は 空間曲線の形を決定していることが、次の定理からわかる。
定理 2.3.6 cと¯cを空間曲線とする。どちらも単位速度ベクトルの微分が0にはな らないと仮定する。これら二曲線の曲率と捩率が一致するための必要十分条件は、
回転と平行移動によってcは¯cに重なることである。
証明 cとc¯の曲率と捩率をκとκ、τ¯ とτ¯でそれぞれ表わすことにする。
回転と平行移動によってcは¯cに重なると仮定する。回転を回転行列Aで表わ し平行移動をベクトルaで表わす。R3のベクトルは縦ベクトルで表わし、回転行 列は縦ベクトルに左からかけて回転させるものとする。sをcの弧長パラメータと する。Ac(s) +aは¯cに重なり、
d
ds(Ac(s) +a) =Adc(s) ds
は単位ベクトルになるので、sは¯cの弧長パラメータにもなる。
e1 = dc(s)
ds , ¯e1 = d¯c(s) ds とおくと、上の計算よりe¯1 =Ae1が成り立つ。d
dse1と d
dse¯1方向の単位ベクトル をそれぞれe2とe¯2とおく。
¯
κ¯e2 = d
ds¯e1 = d
dsAe1 =A d
dse1 =Aκe2 =κAe2
となる。κ,κ >¯ 0であり、¯e2, Ae2は単位ベクトルだから、κ= ¯κかつe¯2 =Ae2が 成り立つ。さらに、
e3 =e1×e2, ¯e3 = ¯e1×e¯2 とおく。Aは回転行列だからベクトル積を保ち
¯
e3 = ¯e1ׯe2 = (Ae1)×(Ae2) = A(e1×e2) =Ae3 が成り立つ。したがって、
¯ τ =
¿ d dse¯2,e¯3
À
=
¿ d
dsAe2, Ae3 À
=
¿ A d
dse2, Ae3 À
=
¿ d dse2,e3
À
=τ.
逆にcとc¯の曲率と捩率が一致すると仮定する。cと¯cの弧長パラメータの始点 はともに0になるようにしておく。証明の前半と同様にe1,e2,e3とe¯1,¯e2,¯e3を定 める。Frenet-Serretの公式(定理2.3.1)より
d
dse1 =κe2, d
dse2 =−κe1+τe3, d
dse3 =−τe2. これを行列でまとめて表現すると次のようになる。
d
ds[e1 e2 e3] = [e1 e2 e3]
0 −κ 0 κ 0 −τ
0 τ 0
.
[e1 e2 e3]は回転行列になる。同様に次の等式が成り立つ。
d
ds[¯e1 ¯e2 ¯e3] = [¯e1 e¯2 e¯3]
0 −κ 0 κ 0 −τ
0 τ 0
.
[¯e1 e¯2 e¯3]も回転行列になる。行列Xの転置行列をX∗で表わすと、
d
ds([¯e1 e¯2 e¯3][e1 e2 e3]∗)
= µ d
ds[¯e1 e¯2 e¯3]
¶
[e1 e2 e3]∗+ [¯e1 e¯2 e¯3] d
ds[e1 e2 e3]∗
= µ d
ds[¯e1 e¯2 e¯3]
¶
[e1 e2 e3]∗+ [¯e1 e¯2 e¯3] µ d
ds[e1 e2 e3]
¶∗
= [¯e1 e¯2 e¯3]
0 −κ 0 κ 0 −τ
0 τ 0
[e1 e2 e3]∗
+[¯e1 e¯2 e¯3]
[e1 e2 e3]
0 −κ 0 κ 0 −τ
0 τ 0
∗
= [¯e1 e¯2 e¯3]
0 −κ 0 κ 0 −τ
0 τ 0
[e1 e2 e3]∗
+[¯e1 e¯2 e¯3]
0 κ 0
−κ 0 τ 0 −τ 0
[e1 e2 e3]∗
= [¯e1 e¯2 e¯3]
0 −κ 0 κ 0 −τ
0 τ 0
+
0 κ 0
−κ 0 τ 0 −τ 0
[e1 e2 e3]∗
= 0.
[e1 e2 e3]と[¯e1 e¯2 ¯e3]は回転行列だから、[¯e1 e¯2 e¯3][e1 e2 e3]∗も回転行列にな り、上の計算より一定の回転行列になる。その一定の回転行列をAで表わすと、
[¯e1 e¯2 e¯3] =A[e1 e2 e3] が成り立つ。特にe¯1 =Ae1となり、
¯
c(s)−¯c(0) = Z s
0
¯ e1ds =
Z s 0
Ae1ds=A Z s
0
e1ds=A(c(s)−c(0)).
よって
¯
c(s) = Ac(s) + ¯c(0)−Ac(0)
となり、回転と平行移動によってcは¯cに重なることがわかった。
系 2.3.7 空間曲線の曲率が0であるための必要十分条件は、直線の一部になるこ とである。空間曲線の曲率は0ではなく捩率が定まるとき、捩率が0であるため の必要十分条件は、曲線が平面曲線になることであり、曲率と捩率がともに一定 値であるための必要十分条件は、常螺旋の一部になることである。
証明 例2.3.3より直線の曲率は0である。逆に曲率が0の曲線は単位速度ベク
トルが変化しないことになり、直線の一部になる。
例2.3.4より平面曲線の捩率は0になる。逆に捩率0の空間曲線に対して、定理
2.2.12より同じ曲率を持つ平面曲線が存在する。さらに、定理2.3.6より問題の空
間曲線はこの平面曲線に回転と平行移動によって重なる。よって、問題の空間曲 線自身も平面曲線になる。
例2.3.5より常螺旋の曲率と捩率はともに一定値になる。逆に曲率と捩率がとも
に一定値になる空間曲線に対して、定理2.3.6より回転と平行移動によって常螺旋 の一部に重なるので、この曲線自身が常螺旋の一部になる。
定理2.3.6は空間曲線は曲率と捩率でその形が決まってしまうということを主張
している。これをさらに進めて、与えられた二つの関数を曲率と捩率として持つ 空間曲線がただ一つ存在することもわかる。
定理 2.3.8 (空間曲線の基本定理) 実数の区間で定義された滑らかな正の関数κと 同じ区間で定義された滑らかな関数τに対して、sを弧長パラメータとしκ(s)を 曲率、τ(s)を捩率として持つ空間曲線c(s)が存在する。さらにこのような空間曲 線は回転と平衡移動で重なり合うものを除いて一意的である。
証明 三次の実正方行列に値を持つ関数X(s)を未知関数とする常微分方程式
(∗) d
dsX(s) = X(s)
0 −κ 0 κ 0 −τ
0 τ 0
.
について考える。これは線形常微分方程式なので、係数κ, τ の定義されている同 じ区間において解が存在し、さらに、初期条件に対して解は一意的になる。初期 条件は回転行列にとる。
d
ds (X(s)X(s)∗)
= µ d
dsX(s)
¶
X(s)∗+X(s)d dsX(s)∗
= µ d
dsX(s)
¶
X(s)∗+X(s) µ d
dsX(s)
¶∗
= X(s)
0 −κ 0 κ 0 −τ
0 τ 0
X(s)∗+X(s)
X(s)
0 −κ 0 κ 0 −τ
0 τ 0
∗
= X(s)
0 −κ 0 κ 0 −τ
0 τ 0
+
0 −κ 0 κ 0 −τ
0 τ 0
∗
X(s)∗
= 0.
これよりX(s)X(s)∗ は一定の行列になる。X(s)の初期条件は回転行列だから、
X(s)X(s)∗の初期条件は単位行列1になり、すべてのsについてX(s)X(s)∗ = 1が 成り立つ。よって、X(s)は直交行列になる。X(s)の初期条件は回転行列だから、
すべてのsについてX(s)は回転行列になる。そこでX(s) = [e1 e2 e3] とおくと、
e1, e2, e3はR3の正規直交基底になり、e3 =e1 ×e2が成り立つ。関数κとτ の 定義域のaを一つとる。
c(s) = Z s
a
e1(t)dt によってc(s)を定める。
d
dsc(s) =e1(s)
となり、これは単位ベクトルだから、sは曲線c(s)の弧長パラメータになる。X(s) が(∗)を満たすことから、
d
dse1(s) =κ(s)e2(s), d
dse2(s) = −κ(s)e1(s) +τ(s)e3(s) が成り立つ。κ(s)>0より
¯¯
¯¯ d dse1(s)
¯¯
¯¯=|κ(s)e2(s)|=κ(s) となり、c(s)の曲率はκ(s)になる。さらに
¿ d
dse2(s),e3(s) À
=τ(s)
となるので、c(s)の捩率はτ(s)になる。このような曲線の一意性は定理2.3.6から わかる。
平面曲線の場合と同様、弧長パラメータは理論的には便利であるが、具体的な 曲線の弧長パラメータは求めやすいとは限らない。そこで、一般のパラメータで 表示されている空間曲線の曲率と捩率の計算方法も示す。
命題 2.3.9 空間曲線の弧長パラメータとは限らない一般のパラメータ表示c(t)に 対する曲率と捩率は次の式で与えられる。
κ(t) = |c0(t)×c00(t)|
|c0(t)|3 , τ(t) = det(c0(t)c00(t)c000(t))
|c0(t)×c00(t)|2 .