第 1 章、 第 2 章と同様、次の基準に基づ、き解析を行った。サイズについては、
オサムシ亜科 2 種(ヤコンオサムシとオオクロンガオサムシ)を含め、大型種 ( 5 種)と日本固有種 ( 4 種)が最も多く、南方系種 ( 2 種,スジアオゴミムシ
とトゲアトキリゴミムシ)が確認されている。また、 2 番目に種数の多かった泉 ケ丘緑地(地点 20 , 26 種)では、ツヤヒラタゴミムシ属の種数と密度がともに 最も大きいなどの特徴があり、オサムシ亜科の 1 種(ヤコンオサムシ)を含め、
4 種の大型種、 2 種の日本固有種が認められた。種数で第 3 位の黒鳥山公園では (地点 1 8 , 24 種)では、大型種 ( 4 種)や日本固有種 ( 2 種)、南方系種 ( 2 種) が多く、オサムシ亜科(ヤコンオサムシ)の密度が最も高いなど、特徴的であ った。
一方、内陸の都市公園で、種数の少なかった上記の 5地点では、大型種を欠く
という共通性があり、地点 1 3 (大浜公園)と地点 1 7 (白鷺公園)ではツヤヒラ
タゴミムシ属、地点 2 1 (茶山公園)で、はマルガタゴミムシ属を欠くという特徴
が認められた。日本固有種については、地点 1 5 (浜寺公園)で、小型種のニッコ ウヒメナガゴミムシ、地点 2 2 (庭代公園)で同種および中型種のオオホシボシ ゴミムシの 2 種が認められた。南方系種については、地点 1 3と 1 5でトゲアト キリゴミムシ記録されたのみで、あった。
このように市街地の都市公園において、地表性甲虫類の種数や密度に差異が 生じる要因として、公園の密度や開設後の経過年数があると考え、第 1 章の研 究で調査した 3 ヶ所の都市緑地(大仙公園,大泉緑地,大阪府立大学キャンパ ス)を加えて、種数、個体数、密度、種多様度と緑地の面積および開設後の経 過年数との関係を解析した。その結果、種多様度 ( 1 ‑ " l , H ' ) と緑地の面積と の聞に有意な正の相関関係が認められた ( T a b l e3 ‑ 5 ) 。都市緑地における見虫 類の群集構造の研究は いくつかの分類群で、行われている。例えば、地表性甲 虫類のように歩行性であるアリ類の研究では、市街地内の孤立林におけるアリ の種数は孤立林面積などのマクロな要因より、微小生息場所の多様性が大きな 影響を及ぼすことが指摘されている(由井ら, 200 1)。また、今井・夏原(1 9 9 6 ) は、大阪の都市緑地のチョウ類群集をさまざまな観点から解析し、チョウ類の 種数 S は緑地面積 d と正の相関を示すが、そればかりでなく、山からの距離 D
も重要であり (5 = 9.32 logA ‑ 0.457D + 1 1 . 2 ) で説明できるとしている。
これは都市緑地を島、山を供給地と見たてて島の生物地理学的な観点から考察 したものであるが、実際、大阪都心の長居公園では次々と公圏外からのチョウ が確認されている ( I s h i i ,1 9 9 6 ) 。養父ら ( 2 0 0 1)も、都心部からの距離が離 れるにしたがってバッタ類の単位面積あたりの捕獲数が指数関数的に増加する
ことを指摘している。しかし、本研究でも同様の解析を行ったが、地表性甲虫 類では山からの距離と種数との関係は明確で、はなかった。
頭山・中越 ( 1 9 9 4 ) は、都市緑地におけるアリ類が森林型の都市緑地に多く、
アリの種多様性は環境の多様性に左右されることを指摘している。本章の調査
結果についても、草地・森林的環境がともに存在する公園では地表性甲虫類の
種数が多い傾向があった。例えば、地点 1 6 、 1 8 、 1 9 、 20 、 2 3 には、すべて樹林
と池の両方が存在し、地点 1 6 を除く 4 地点では樹林の林床にネザサ群落が認め
られた。このことは、地表性甲虫相の豊かな上記の公園は、かつてこの地域に
広範に存在した里山林やため池を含む「広義の里山 J (石井, 200 1)の景観要素
を引き継し、でいることを意味する。第 1 章から本章までの調査地点(合計 23 地
点)の中で、地表性甲虫類の種数は、大型種や日本固有種を含め、第 1 章の里
山林が最も多かった ( 4 7 種)。このことから、本章で調査対象とした都市公園で
は、造成以前の里山的環境を多く内包しているほど、地表性甲虫相が豊かだと
考えることができるだろう。
総合考察
本研究ではまず、都市縁地における地表性甲虫類の概要を把握するために分 析を行い(第 l 章)、河川敷における地表性甲虫類の変化(第 2 章)を明らかに し、さらに、面積、開設後の年数などが異なる都市公園の地表性甲虫類の特徴 ( 第 3 章)について検討した。その結果、 2 3 ヶ所の調査地点から合計 7 2 種の地 表性甲虫類(オサムシ科とホソクピゴミムシ科)が記録され、保田ら ( 1 9 9 1 ) 、 I s h i i e t a 1 . ( 1 9 9 6 ) 、大阪府 ( 2 0 0 0 ) 、安井ら ( 2 0 0 8 ) と合わせると、南大阪 地域の地表性甲虫類は 1 6 9 種になった。本研究では、日本のこの分類群の研究 では初めて分布型や体サイズによる解析を行い、都市緑地の地表性甲虫相は、
分布型では温帯広域種と北方系種(合計 8 割以上)、体サイズでは中型種と小型 種(合計 9割近く)と優勢であることが明らかになった。日本固有種と南方系 種は、それぞれ合計 8 種 、 7 種、大型種は合計 9 種が確認されたのみだ、った。ま た、調査対象とした南大阪の都市緑地では、森林性種や草地性スペシャリスト が少ないことも示された ( T a b l e1 ‑ 1 , F i g . 1 ‑ 3 ) 。
さまざまなタイプの都市緑地に成立する地表性甲虫群集の概要を種構成の観 点から把握するために、第 1 章の 6 ヶ所の都市緑地、第 2 章の 5 ヶ所の河川敷、
第 3 章の 1 2 ヶ所の都市公園、合計 2 3 ヶ所の地表性甲虫類群集相互の類似度 ( Q S J
を算出し、クラスター解析を行った ( F i g . 4 ‑ 1)。その結果、 QS=0.45レベルで
河川敷(地点 1 , 7 , 8 , 9 , 1 0 , 1 1)、里山林(地点 6 ) 、水田(地点 5 ) 、大学キ
ャンパス(地点 4 ) 、一部の都市公園(地点 2 , 3 , 1 2 , 1 6 , 1 8 , 2 0 , 2 3 ) の 1 6
地点の群集からなるクラスター(以下,クラスターA ) 、湾岸の都市公園(地点
1 3 , 1 4 , 1 5 ) と白鷺公園(地点 1 7 ) の 4 地点の群集からなるクラスター(クラ
スター B ) 、南東部の 3 ヶ所の都市公園(地点 1 9 , 2 1 , 2 2 ) の群集からなるクラ
スター(クラスター C ) の 3 つのクラスターが識別できた。クラスター A は種数
が多く、ゴモクムシ属の優占とマルガタゴミムシ属の存在、大型種や日本固有
種の豊富さで特徴づけられた ( F i g . 4 ‑ 2 , 4 ‑ 3 ) 0 一方、クラスター B と C は比較
的種数が少なく、大型種や日本固有種も乏しく、クラスターC ではツヤヒラタゴ ミムシ属とナガゴミムシ属が存在するのに対して、クラスター B ではこの 2 属が 不在か少ないことで特徴づけられた。
クラスター A は、さらに QS=0.55 レベルで、柏原の砂磯河原(地点 9 ) の群集 のみからなるクラスター(以下クラスター A l)、それ以外の大和川河川敷(地点 1 , 7 , 8 , 1 0 , 1 1 ) と「海とのふれあい広場 J (地点 1 2 ) の 6 地点の群集からな るクラスター(クラスター A 2 ) 、里山林(地点 6 ) 、水田(地点 5 ) 、大学キャン パス(地点 4 ) 、一部の都市公園(地点 2 , 3 , 1 2 , 1 6 , 1 8 , 2 0 , 2 3 ) の 9 地点の 群集からなるクラスター(クラスター A 3 ) の 3 つのクラスターに分離すること ができた。クラスター A 1 はカワチマルクピゴミムシやオオアオミズギワゴミム シなどの砂磯河原性の種で特徴づけられるのに対して、クラスター A2 はナガゴ ミムシ属とマルガタゴミムシ属の 2 属が、クラスター A3 はツヤヒラタゴミムシ 属が、それぞれ全地点で認められるとし寸特徴があった。「海とのふれあい広場」
が、開設後わずか 9 年で、沿岸の埋立地に位置するにもかかわらず、 3 0 種もの 地表性甲虫類が記録され、大和川河川敷の各地点の群集と同じクラスター A2 に 含まれたことは興味深い。この公園は、大和川の河口部に位置することから、
大和川河川敷の生息場所の一部として機能しているものと考えられる。
南大阪のさまざまなタイプの都市緑地に成立する地表性甲虫群集を体サイズ の観点から解析した。その結果、クラスター A では、中型種と小型種を主体に、
大型種も鈴の宮公園(地点 1 6 ) の群集を除き必ず出現するのに対して、クラス ター B と C では、大型種は荒山公園(地点 1 9 ) の群集以外で不在であるばかり でなく、中型種が少ないことが明らかになった ( F i g . 4 ‑ 3 a )
0同様に、分布型 については、クラスター A では北方系と温帯広域系を主体に、日本固有種が全地 点の群集で認められ、南方系種も松原 B (地点 1 1 ) の群集以外では確認された ( F i g . 4 ‑ 3 b ) 。一方、クラスター B と C では、 A と比較して、北方系と温帯広域 系の種が少なく、日本固有種と南方系種も一部の地点の群集でしか認められな かった。
このように、本研究で、調査を行ったさまざまなタイプの都市緑地の地表性甲
虫群集は、種数や種構成などの点で、多様であった。その要因として、第 3 章で は都市緑地の面積や緑地内の自然環境の重要性を指摘したが、浜寺公園(地点 1 5 ) のように面積が大きくても地表性甲虫類の種数が少ない緑地もあれば、泉 が正緑地(地点 2 0 ) や黒鳥山公園(地点 1 8 ) のように小さくても相の豊かな緑 地も存在する。 I s h ii e t a 1 . ( 1 9 9 6 ) は、大和川河川敷の地表性甲虫群集の種 多様性について調査と解析を行い、高水敷の植生などの堤外地の自然環境ばか りでなく、堤内地の土地利用(農耕地,市街地など)も種多様性に影響を及ぼ すことを指摘した。そこで、本研究で、調査を行った都市緑地のうち、市街地内 に立地する 1 5ヶ所を対象として、 2 0 0 1 年国土地理院発行の 1 / 5 0 0 0 数値地図を もとに、各緑地の縁から 500m 圏内の土地利用について解析を行った。その際、
土地利用を森林、田、畑、市街地、空地、道路、公園緑地、河川、海、その他 の 1 0 項目に分類し、 AdobePhotoshop 7 . 0 を用いて、それぞれの項目のピクセ ル数を計量し、 500m 圏内の全ヒ。クセル数に対する割合を算出した ( T a b l e4 ‑ 1 , Fig 4 ‑ 6 a ‑ e ) 。
解析対象とした 1 5 ヶ所の都市緑地周辺の土地利用状況をみると、例えば、田 が占める面積は地点 3 ( 4 3 . 6 h a ) 、地点 1 9( 2 5 . 5 h a ) などで大きく、地点 1 6 ( 3 . 9 h a ) 、 地点 2 ( 1 . 3 h a ) などで汁、さし、かった。また、森林が占める面積は地点 2 3( 4 3 . 8 h a ) 、 地点 1 8 ( 2 8 . 4 h a ) などで大きく、地点 2 2 ( 8 . 9 h a ) 、地点 1 6 ( 2 h a ) などで小さ いかった。同様に、緑地周辺の公園緑地の占める面積は地点 2 ( 6 9 . l h a ) 、地点 4 ( 3 2 . 8 h a ) などで大きく、地点 1 6 ( 3 . 0 h a ) 、地点 1 4 ( 2 . 5 h a ) などで小さし、か った。一方、地表性甲虫群集に負の影響を及ぼすと考えられる市街地の占める 面積は、地点 1 5 ( 1 7 9 . 2 h a ) 、地点 2 3( 1 6 7 . 4 h a )などで大きく、地点 1 8( 4 9 . 2 h a ) 、 地点 1 2 ( 2 . 6 h a ) などで小さし、かった。また、道路の占める面積は、地点 1 5( 3 1 . 9 h a ) 、 地点 2 3 ( 2 9 . 2 h a ) などで大きく、地点 1 4 ( 7 . 9 h a ) 、地点 1 8 ( 4 . 7 h a ) などで小
さし、かった ( T a b l e4‑ 1 ) 。
相関分析を行ったところ、各地点の地表性甲虫群集の平均密度については、
どの土地利用項目の面積との聞にも有意な相関は認められなかったが、合計種
数については畑、水系(河川,池)や空地の面積との聞に、種多様度 ( H ' ) は
田の面積との聞に、それぞれ有意な正の相闘が認められた ( T a b l e4 ‑ 2 ) 。また、
緑地の面積、開設後の経過年数、周辺の土地利用項目の面積についてみると、
面積については温帯広域種の種数との聞に有意な正の相闘が認められた。また、
緑地周辺の森林と畑の面積は、大型種と日本固有種の種数および密度との聞に 正の相関が認められた。さらに、緑地周辺の水系(河川,池)の面積は、大型 種の種数と密度、日本固有種の種数との聞に正の相闘が認められた。緑地周辺 の空地の面積は、北方系種と南方系種の種数と温帯広域種の密度との聞に正の 相闘が認められた。一方、緑地周辺の市街地の面積については、中型種の密度
との聞に負の相闘が認められた。
次に、 1 5 ヶ所の都市緑地周辺の土地利用状況が地表性甲虫群集に及ぼす複合 的な影響を評価するために、重回帰分析を行った。その結果、種数(5')と種多 様度 ( H ' ) と周辺の土地利用項目の面積との聞に、次式のような有意な重回帰 式が得られた。
s = O . 18A+0. 22B+0. 24C‑0. 12E ( R
2= 0.59 , F = 3 . 5 3 , P く 0 . 0 5 ) H ' = O . 02A+0. 01B+0. 06D‑0. 002E‑0. 02F ( R
2= O . 7 2 , F= 4.69 , P く 0 . 0 5 )
ただし、 A は対象とする緑地の面積 (ha) 、 B、じ~ D 、 E 、 F はそれぞれ、当該緑 地の縁から 500m 以内の範囲に含まれる公園緑地、田、畑、市街地、道路の占め る面積 ( h a ) を表す。
この結果は、市街地にある都市緑地の地表性甲虫類の種数は、緑地自体の面
積および緑地周辺の公園緑地と田の占める面積が大きいほど多く、逆に、緑地
周辺の市街地の占める面積が大きいほど少ないことを示している。同様に、種
多様度についても、緑地自体の面積および周辺の公園緑地と畑の占める面積が
大きいほど多く、緑地周辺の市街地と道路の占める面積が大きいほど少ないこ
とを示している。すなわち、この解析により、「都市化」による環境変化の中で
地表性甲虫群集にとくに大きな影響を及ぼす要因は、緑地面積の縮小および緑
地周辺の市街地と道路の占める面積の増加であることが明らか l こなった。
そこで、本研究で調査対象とした各都市緑地における地表性甲虫群集の種多 様度 ( 1 ‑A) と種数との関係を F i g . 4‑4 に示した。全体的な傾向として、種多 様度と種数がともに大きな値を示すのは、里山林(地点 6 ) 、水田(地点 5 ) 、河 川敷(地点 1 ,7 , 8 , 1 0 , 1 1 ) 、大型都市公園(地点 2 ,3 , 2 3 ) 、大学キャンパ ス(地点 4 )など、広がりのある緑地あるいは大きな緑地だ、った。興味深いのは、
「海とのふれあい広場 J (地点 1 2 ) で、面積が小さいにもかかわらず種数と種多 様度が比較的大きな値を示した。これは、前述のように、この公園が大和川の 河口部に位置していることによると考えられる。
一方、小型の緑地は種数または種多様度、あるいはその両方が低い値を示し た。例外的なのは浜寺公園(地点 1 5 ) で、面積が大きいにもかかわらず、種数 が少なかった。この要因として、この公園周辺の緑地面積が小さいことが考え られる。また、河川敷にもかかわらず、柏原の砂磯河原(地点 9 ) の群集も比較 的種数と種多様度が小さな値を示した。これは、この地点が山間部にあって川 幅が狭く、増水しやすいため植生遷移が進まず、主として「砂磯河原性スペシ ャリスト」的な種が生息できるためと考えられる。これらのことから、都市緑 地に成立する地表性甲虫群集の種多様性は、基本的には緑地そのものの面積あ るいは広がりが大きいほど高いが、その緑地の立地や内部環境、周辺の市街化 の状況により影響を受けることが明らかになった。
最後に、本研究で確認された 7 2 種の地表性甲虫類の各地点における分布状況 について、平均多様度 ( H ' ) を用いて解析を行った。この解析では H ' の値を「ニ ッチ幅」とみなし、 H ' > 2.5 (ほぼ全地点で確認)の種を「生息地ジェネラリ スト」、 H ' く1. 0 (特定の地点でのみ確認)の種を「生息地スペシャリスト」、
1 . 0 豆 H' く 2.5 の種を「生息地準ジェネラリスト」と定義した。このように定
ドキュメント内
都市緑地における地表性甲虫類の群集生態学的研究
(ページ 50-60)