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5. シンガポール

5.3 シンガポール税関における運用実態

5.3.1.4 税関の権限

5.3.1.4.1 知的財産権侵害品の捜査権限の内容

1. 上述した通り、シンガポール税関は、知的財産法の下、独立した立場で(例えば、知的財産権の 所有者、権利者又はライセンシーの書面通知無しで)商品を差止できる。著作権及び商標法の下、

税関職員は 、差止、捜査、令状なく侵害品であると合理的な疑いがある場合、輸送機関に乗り込 み、そして、侵害品を差止める権限を有する。税関職員はまた、上述の規定を条件に、侵害して いる著作物の複製品又は模倣品であると疑う商品を留置することができる。

2. 商品が税関によって差止された後、刑事訴訟を起こさなければならないという必要はない。

3. 政府により刑事訴訟が起こされた場合、権利者は訴訟費用を負担する必要はない。刑事訴訟が 権利者により起こされた場合、権利者は権利者自身の費用を負担しなければならない。

完全を期するために、権利者が民事侵害訴訟を起こす場合、権利者が訴訟費用を負担しなけれ ばならない点に留意すべきである。権利者が訴訟に勝訴しなかった場合、権利者はおそらく被告 の訴訟費用も支払わせられるであろう。反対に、権利者が訴訟に勝訴した場合、被告はおそらく 権利者の訴訟費用を支払わせられるであろう。

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4. 裁判費用の支払いを除き、政府が刑事訴訟を起こした場合、権利者は証人として呼ばれるかもし れない。権利者が(刑事又は民事)訴訟を起こした当事者である場合、権利者は訴訟を進行する 責任を負い、このことにより生じる義務を遵守しなければならないであろう。義務には、弁護士を雇 い、訴訟手続の間に要求される供述書を作成して宣誓し、指示を弁護士に与え、そして、証人と して出廷しなければならない。

5.3.1.4.2 知的財産権侵害品であると判断された場合の税関または検察庁の措置内容等

侵害訴訟で、審尋により問題となっている商品が侵害していると判断された場合、裁判所は、侵害品 を権利者にまで届ける旨の命令、または侵害品が政府に没収される旨の命令のいずれかを発するで あろう。商品が政府に没収される旨の命令が発せられた場合、商品は政府によって処分される。

5.3.1.5

税関の知的財産権侵害品にかかる取締に資する情報

シンガポール税関が知的財産権侵害品を検出する公式識別判定マニュアルを使用しているか否か不明であ るが、知的財産権者がシンガポール税関と協同し、税関職員に対して侵害品を検出するための研修を行うこと ができる。これが、知的財産権者達の知的財産を侵害する商品の取引から先制して自己を守る最善の方法で ある。知的財産権者はまた、できる限り、侵害品が輸入されたときの情報を得て、著作権法 140B 条又は商標 法83条による書面通知によってシンガポール税関に当該情報を与えようとする。

同様に、シンガポール税関は、ホワイトリストやブラックリストを有しているかは不明である。

5.3.1.6

知的財産権侵害品の差止事例

事例 1

シン ガポ ール高等裁判所の最近の判決、Louis Vuitton Malletier v Megastar Shipping Pte Ltd (PT Alvenindo Sukses Ekspress, third party) [2017] SGHC 305において、侵害品を発送した運送業者が商標法 の侵害規定の下で”輸入業者”であるとみなされず、従って商標権を侵害していない旨、判決された。

本件では、コンテナ2台分の積荷の模倣品が、インドネシアのバタム(Batam)に向けて発送されるために、シン ガポールに輸送された。模倣品はLouis Vuitton、Gucci、Hermes 等の有名高級ブランドに関するもので、被 告に対して侵害訴訟を起こした。差止の前に、Louis Vuittonは、商標法82条により、シンガポール税関に所 定の書面通知を送付した。他の模倣品は、前記書面通知が他の原告等に送付されたので、商標法 93A 条に 従って差止された。

本件では、輸送業者は輸送している商品が侵害している又は模倣品であることを知っているという証拠がなか った点が重要である。さらに、輸送業者は物理的に所有することもなく、または商品を見ることもなく、輸送業者 の役割は単に情報をシンガポール港湾庁(PSA: Port of Singapore Authority)のシステムに入力することであ る。そして、シンガポール港湾庁はコンテナの積卸し等の必要な措置を取るであろう。

知的財産権者は被告である輸送業者に対する侵害訴訟において勝訴しなかったけれども、それにもかかわら ず、差止められた商品は侵害品であったので破棄された。本件は、例え商品の侵害者がいない場合でも、商 標法の下、商品が差止められ、留置され、廃棄されるということを示した点で重要である。この点はまた、商標 法の条項についてかなり掘り下げた議論がある。

事例 2

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次の事例、Public Prosecutor v Li Na [2015] SGDC 260は、個人が自分の店で模倣品を販売する目的で当 該模倣品をシンガポールに持ち込むものである。本件では、容疑者は、入出国管理局(ICA: Immigration and Checkpoint Authority)によって空港でとめられ、所有物中の商品が模倣品であると疑い、それらを差止める税 関職員に向けられた。容疑者は、自分の所有物の中に、約 500 点の模倣品を持っていた。さらに、警察は容 疑者の店及び車を捜索し、さらに約400点の模倣品を発見した。

捜査の過程で、模倣品によって自己の商標が侵害された会社の代表者に連絡された。これらの代理人はこれ らの商品を模倣品であるとして認定した。

容疑者は 6 月間と 2 週間の懲役が宣告された。本件は、いくつかの点で重要である。第一に、権利者がシン ガポール税関と協同し、税関職員に模倣品を識別できるように研修を行うことが重要であることを示している。

第二に、本件では 3 機関(入出国管理局、シンガポール税関、シンガポール警察)もの当局によって取られた”

政府全体の(whole-of-government)”アプローチが必要であることを示している。第三に、権利者が積極的に 公的な捜査で意見を求められることを示している。第四に、本件において処せられた禁固刑により、知的財産 権者に向けて、シンガポールは厳しい措置を取ることを示している。

事例 3

3番目の事例、Pasupthi Nair A/L Balakrishnan v Public Prosecutor [2002] SGDC 251は、容疑者が5,581 枚のコンパクトビデオディスク(VCD: Video Compact Discs)と、6,622枚のCD-ROMと、462枚のDVD-ROM をシンガポールに持ち込もうとしたものである。容疑者は、コンパクトビデオディス、CD-ROM、DVD-ROM を発 見し、押収した税関職員によって止められた。

多くのCD-ROMは、 (いくつかの著作権者は、Adobe、Symantec、Microsoftである) 著作権を侵害する複製

品であった。著作権者の代理人は、捜査に協力し、当該 CD-ROM を著作権者の著作権を侵害する複製品で ある認定した。当該著作権者の多くの代理人は、様々な会社の代理人、または著作権者が加盟する団体の代 理人である。これらの会社又は団体には、ビジネス・ソフトウェア・アライアンス

(Business Software Alliance)、インタラクティブ・デジタルソフトウェア協会(Interactive Digital Software Association)を含む。

容疑者には、33 月の懲役と43,987シンガポールドルの罰金という刑が申し渡された。本件は、知的財産権者 に向けて、シンガポール当局が講じる厳しい基準を再度示している。捜査手続はまた、著作権者が自分の著 作権をより行使し易くなるので、著作権者にとって会社または他の著作権者との団体に入ることを助長させると いうことを表している。

他の事例

知的財産に関する税関の強制措置の公表された統計は存在しないけれども、シンガポール税関が知的財産 に関する強制措置にかなり積極的なアプローチをとっていることは明らかである。

2017年だけで 、シンガポール税関は以下の事件について報告している。89

a. 店頭価格で合計 1,478,479 シンガポールドルの携帯電話及び構成部品を含む 10,660 個の商標権 侵害商品の差止と、その商品の販売で容疑を掛けられた8人の逮捕。90

89 強制措置に関するシンガポール税関により解放されたすべてのメディアは、次のURLで見られる。

https://www.customs.gov.sg/news-and-media/media-releases.

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b. シンガポール税関による、200 個のバッグ及び旅行鞄の差止。これに続いて、摘発を行う警察によっ て捜査された。店頭価格で合計11,680シンガポールドルの合計318個のバッグが差止められた。91 c. シンガポール税関による、180 個の携帯電話の模倣品の差止。これに続いて、摘発を行う警察によっ て捜査された。捜査で 4 人が逮捕され、店頭価格で合計 288,000 シンガポールドルの 288 個の携 帯電話の模倣品が差止された。92

5.3.2 知的財産権の事前登録

上述した通り、シンガポール税関には知的財産権の事前登録制度は存在しない。そのため、商標権者が税関 の強制措置手続を利用するために、商標権者が自己の商標をシンガポール知的財産庁(IPOS: Intellectual Property Office of Singapore)に登録しなければならない(但し、著作権はシンガポールでは登録されない)。

5.3.3 税関における運用実態の問題点

1. 日系企業が特に知的財産権の行使の税関手続に関して留意すべき点はない。

2. 上述した通り、改善要求は直接、オンラインフィードバックフォーム又は電話会話のいずれかを介して 税関に行うことができる。問題が法律自身に関連する場合(例えば、法律が十分に権利者を保護して いないことが懸念される場合、または、権利者をより保護する方法についての提案がある場合)、政府 はときおり法律に関して国民の意見の聴取を実施する。提案またはフィードバックは、このような場合、

政府に提出され得る。

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https://www.customs.gov.sg/~/media/cus/files/media-releases/2017/syndicate%20busted%20for%20involvement%20in%20the%20sales%20of%20counterfeit%20mobile%

20phones.pdf (10 January 2018).

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https://www.customs.gov.sg/~/media/cus/files/media-releases/2017/for%20website%20%20singapore%20customs%20media%20release%20-%20011017.pdf (10 January 2018).

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https://www.customs.gov.sg/~/media/cus/files/media-releases/2017/final%20-%20four%20men%20arrested%20for%20possession%20of%20counterfeit%20mobile%20phones%20for%20trade.pdf (10 January 2018).