• 検索結果がありません。

COLLECTION DISTRICTS

5. シンガポール

5.2 シンガポールにおける知的財産関連法規と税関

5.2.1 税関差止制度の概要

5.2.1.1

国境措置の根拠法令

知的財産に関して国境取締措置の根拠となる法令は、知的財産のそれぞれの法令において設定されている。

従って、国境取締措置の法律は、著作権法(第 63 章) 85及び商標法(第 332 章) 86に規定されている。留意す べき点として、特許、意匠、地理的表示、回路設計等の他の知的財産に関しては、国境取締措置が規定され てない。

上述の主要な法律に加えて、国境措置に関する補助法も存在しない。著作権法は、著作権(国境措置)規則

(第 63 章規則 5)(以下、"著作権(国境措置)規則"という。) 87によって補われ、商標法は商標(国境措置)規則

(第332章規則2)(以下、”商標(国境措置)規則”という。)88によって補われている。

5.2.1.2

税関差止の対象となる知的財産権及びその法的根拠

84 すべての執行データは、https://www.customs.gov.sg/news-and-media/publications/statistics (2018年1月10 日現在)で確認することができる。

85 https://sso.agc.gov.sg/Act/CA1987.

86 https://sso.agc.gov.sg/Act/TMA1998.

87 https://sso.agc.gov.sg/SL/CA1987-RG5?DocDate=20090331.

88 https://sso.agc.gov.sg/SL/TMA1998-R2?DocDate=20010131.

64

上述した通り、(商品の留置又は差止を含む)国境取締措置により保護される 2 種類の知的財産権は、著作権 と商標権である。

シンガポール税関によって商品を差止又は留置し得る法的根拠は以下に順に述べられる。

著作権

著作権法では、シンガポール税関によって商品を差止又は留置し得る3種類の方法がある。

1に、138条(2)の下、税関職員は、令状なしで次の行為を行える。

a. 著作物を侵害する複製物又は他の題材が中にあると自己が合理的に疑う輸送機関を、強制的若しく は他の方法で、停止する、捜索する及び乗り込むこと;及び

b. 著作物を侵害する複製物を差止、除去、又は留置すること。

本条には、押収時に、商品が輸入向け、輸出向け、又は通過中であるとに関わらず、制限はない。

2に、 140B条には、所有者又は著作権のライセンシーが、シンガポール税関の長官(以下、”長官”という。)

に、次のことを記載する書面通知を行うことができる。

a. 自分が著作物の著作権の所有者又は当該著作権のライセンシーである旨を当局に述べ、その通知 を送付し;

b. 著作物を侵害する複製品が輸入されるおそれがある旨を述べ; c. 次のために、十分な情報を提供し、

著作物の複製物を特定し;

当該複製物が輸入されるおそれがある時期及び場所を長官が確定できるようにし;

当該複製物が複製物を侵害していると長官を認めさせ;及び d. 自己が当該輸入行為に反対することを記載すること。

書面の形式は、著作権(国境措置)規則の表の中に定められている。

書面が送付されると、税関職員は著作物の複製品を差止めることができる。しかしながら、複製物が輸送中の 商品(一時的にシンガポールに輸入されるが、他国に輸送される商品を意味する)の場合、税関職員は本方法 で差止できない。税関職員は、商品が次の目的で輸入される場合のみ差止できる。

a. 複製物を、販売し、賃貸し、又は、取引によって、販売若しくは賃貸の申出をし、若しくはその販売若 しくは賃貸のための陳列をすること;

b. 取引の目的で複製品を流通させること;

c. 著作物の著作権の所有者を害する程度に、他の目的で複製品を流通させること; 又は d. 取引によって、公衆に複製品を展示すること。

3 に、140LA 条の下、税関職員が複製物が著作物の著作権を侵害すると合理的な疑いがある場合、税関 職員は、シンガポールに輸入され、又はシンガポールから輸出される著作物の複製物を留置することができる。

これには、シンガポールに商業的・物理的に存在する人に引き渡される通過中の商品も含む。

商標権

同様に、商標法でも、シンガポール税関によって商品を差止又は留置し得る3種類の方法がある。

65

1に 、53A条(2)の下、税関職員は令状なしで次の行為を行える。

a. 登録商標が不正に適用された商品がその中にあると自己が合理的に疑う輸送機関を、強制的若しく は他の方法で、停止する、捜索する及び乗り込むこと;及び

b. 侵害する商品を差止、除去、又は留置すること。

2 に、82 条の下、登録商標の所有者又は使用権者は、長官に対して、次のことを記載する書面通知を行う ことができる。

a. 自己が登録商標の所有者、又は、登録商標の使用権者であり、当該通知を行う権利を有する者であ ることを述べ;

b. 登録商標に関連して侵害にあたる商品である商品が輸入されることが予期されることを述べ;

c. 次のために、十分な情報を提供し、

当該商品を特定し;

当該商品が輸入されるおそれがある時期及び場所を長官が確定できるようにし;

当該商品が侵害商品であることを長官に認めさせ;及び d. 自己が当該輸入行為に反対することを記載すること。

書面の形式は、商標(国境措置)規則の表の中に定められている。

書面が送付されると、税関職員の意見で当該商品に登録商標と同一又は類似の標章が付されているならば、

税関職員は当該商品を差止めることができる。商品が輸入されている場合、商品は差止のみ行われる。本条 では、通過中の商品は差止されない。

3 に、93A 条の下、税関職員が登録商標との関連において合理的な疑いがある商品が模倣品である場合、

税関職員は当該商品を留置することができる。模倣品とは、商標を侵害する商品をいい、欺すことを意図して、

商品に登録商標と同一の又は酷似する標章を有する。本条の下、商品がシンガポールに輸入され、又はシン ガポールから輸出される場合、商品は留置される。これには、シンガポールに商業的・物理的に存在する人に 引き渡される通過中の商品も含む。

5.2.1.3

税関差止対象の貨物種別

上述した通り、税関によって差止される対象である貨物の種別は、差止される品目を規定する条項に従う。著 作権法138条(2)及び商標法53A条(2)に規定されたすべての品目は差止される。著作権法140B条及び商 標法 82 条に規定された輸入される品目のみが差止される。最終的には、著作権法 140LA 条及び商標法 93A 条に規定された品目は、当該品目が輸入され、又はシンガポールから輸出することが意図されている場 合、留置される。これには、シンガポールに商業的・物理的に存在する人に引き渡される通過中の商品も含む。

5.2.2 知的財産権の事前登録制度概要

5.2.2.1

事前登録制度の有無

侵害品の輸入を回避するために、知的財産権者が自己の知的財産権をシンガポール税関に登録する制度を 設けていないという意味で、シンガポールには事前登録制度は存在しない(我々の理解では米国及び中国等 の他の地域では事前登録制度を有しているということである)。上述した通り、(著作権又は商標権のいずれか の)知的財産権者に対する主な理由は、侵害品が輸入されることが意図される書面通知を長官に送付するから である。

66

5.2.3 税関における知的財産関連法規の問題点

1. 上述した通り、シンガポールにおける知的財産関連法規における著しい弱点は、シンガポール税関 が著作権法及び商標法の下、差止及び留置する権限を有するのみであるということである。これは、

特許権、意匠権、そして他の知的財産権には適用されないという意味である。

他の問題は、事前登録制度が存在しないため、知的財産権者は侵害品が輸入されないようにするた めにより積極的にならなければならないということである。知的財産権者は積極的に、輸入貨物を監視 し、侵害品が輸入されたと知的財産権者が疑う場合、長官に書面通知を送付する。このことは、知的 財産権者にさらなる負担を与える。しかしながら、それでも、知的財産権者は、例えば知的財産権者 が税関職員に模倣品の識別方法を教える研修会を設ける等、侵害品の輸入を回避することに関して シンガポール税関と協力することに留意すべきである。このような研修会は過去に開催されていた。

2. 改善要求は直接、オンラインフィードバックフォーム又は電話会話のいずれかを介して税関に行うこと ができる。問題が法律自身に関連する場合(例えば、法律が十分に権利者を保護していないことが懸 念される場合、または、権利者をより保護する方法についての提案がある場合)、政府はときおり法律 に関して国民の意見の聴取を実施する。提案またはフィードバックは、このような場合、政府に提出さ れる。