高度経済成長期を挟んだ 70 年代以降に、コミュニティ研究は社会福祉分野とも交差する 形で広がりを見せるようになり、全国各地のコミュニティ形成・まちづくり運動の経験に 学びながら、コミュニティ活動の現実化が図られた経緯がある(奥田 2003:2)。また、
北欧で誕生したノーマライゼーション思想がわが国に導入され、地域福祉の重要性が求め られるようになったのもこの時期であった。
一方で、福祉問題は、社会や経済、政治構造の問題を色濃く反映しているということに ついてはこれまでも指摘されてきたところであるが、80 年代以降は、特に地方分権化、規 制緩和、市場化、民営化への動きが活発になり、福祉に関してもその枠組みや制度・政策 の抜本的見直しが強力に進められるようになった。社会保障政策と完全雇用政策によって、
国民の最低生活を保障してきた「福祉国家」は、福祉の供給者を国家以外にも求める「福 祉ミックス」、あるいは自助・共助・公助の組み合わせによって生活の内実化を図っていく
「福祉社会」への転換が図られ、多様な主体によって支援を必要とする人たちを支えてい くことが求められてきている。
これらのことから、本稿の目的とする安定的な地域福祉政策を確立する方策を考察した 場合、それは「福祉コミュニティ」の形成に帰結する。
以上を踏まえ、本章では、先行研究の理論によって「福祉コミュニティ」の概念を整理 し、これを「新たな共同社会」としてとらえていくために、その範囲と機能を明らかにし たうえで、担い手となりうる組織や人材、実現に向けた具体的施策について論じていくこ ととする。
1.福祉コミュニティの概念
「福祉コミュニティ」とは理想的な形態であり、現実に実在しているというものではな く、今日の地域社会における努力目標として設定されたものであり、その具体的な性格や 機能は、それぞれの地域社会における各種社会資源によって多様である(佐藤 1996:4)。
したがって、福祉コミュニティ概念の解釈も様々であり、立場が異なれば理解や使用も まったく違ったものになり、福祉行政に力を入れる地方自治体を指したり、意図的か否か は別として、当初の福祉コミュニティの意味とは全く異なった内容で各種の調査報告書等 に記されたりしている。何となく魅力的な響きがあることもあって、多くの人々によって この言葉が用いられるようになり、常識として扱われている感もある。
しかしながら、ここでは改めて、これまで研究されてきた代表的な「福祉コミュニティ 論」について検討を加え、その後筆者の求める「福祉コミュニティ」のあり方を追求して いくこととする。
福祉コミュニティの概念は、岡村重夫の『地域福祉論』によって提起された。第3章で 既に述べたように、この中で岡村は、地域福祉概念の構成要素として、①コミュニティ・
ケア、②地域組織化活動、③予防的社会福祉の3要素を掲げている。このうち、②の地域 組織化活動は、コミュニティ型地域社会の実現を目指す「一般的地域組織化活動」と、地 域福祉に直接的関連を持つコミュニティづくりである「福祉組織化活動」によって構成さ れるとしたうえで、「福祉組織化活動」の目標を「福祉コミュニティづくり」としている。
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さらに、岡村による福祉コミュニティを整理していくと次のようになる(岡村 1974:
65-87)。
(1) 1つの地域社会の中に、各々に関心や問題意識をもつ多種多様なコミュニティ集団 の存在を認め、個々のコミュニティ集団を下位コミュニティ(sub-community)とし、
その集合体を、地域社会の望ましい類型としての「地域コミュニティ」とする。
(2) 共通の福祉関心を中心として「同一の感情」に基づく結合による特別なコミュニテ ィ集団を「福祉コミュニティ」とすれば、「地域コミュニティ」の下位コミュニティ
として存在することになり、両者の間には密接な協力関係のあることが望ましい。
(3) 福祉コミュニティの構成員は、第1に生活困難な当事者(サービス受給者や対象者)
であり、これらと同じ立場に立つ同調者や利害を代弁する代弁者、各種サービスを提 供する機関・団体・施設が続く。福祉コミュニティはこれらの者の共同討議の場であ り、地域社会における種々の制度改善を指摘し、要求する場でもある。また、公共機 関が実施しない福祉サービスを一時的に実施することも求められる。
(4) 地域コミュニティは、「普遍的人権意識」のもと成立しており、特殊条件をもち社 会福祉の対象となる少数者を対等の仲間、隣人として受容することができるものであ るが、社会福祉的援助までを期待するものではない。地域コミュニティは、社会福祉 にとっての資源であり、効果を増強する前提条件ではあるが、問題解決の主体にはな
りえない。
(5) また、地域社会が「地域コミュニティ」として成立しておらず、それ以外の3類型、
つまり奥田モデルによる「地域共同体」、「伝統的アノミー」、「個我」という類型に属 している状況であっても59、社会福祉の対象者への支援は当然必要であるし、むしろ そのような地域社会状況においてこそ、福祉コミュニティが求められる。
(6) 地域コミュニティが成立している場合と、それがまだ成立していない地域社会状況 とでは、福祉コミュニティづくりの方法や運営の手続きが異なることはいうまでもな い。
(7) したがって、福祉コミュニティは、地域コミュニティに存在する多様なコミュニテ ィの1つに過ぎず、福祉コミュニティづくりと一般的なコミュニティづくりは区別し ておかなければならない。
このように、岡村は社会福祉の観点から地域社会をとらえ、社会福祉と地域社会との関 係を示す中で、望ましい地域社会として、「地域主体的態度」と「普遍主義的権利意識」を 特色とする、新しいコミュニティとしての「地域コミュニティ」の存在をあげている。こ の点において、現代における地域社会の意義が明らかにされ、そこには一定の重要性が認 められる。しかし、これによって福祉的課題のすべてが解決されることとはならない。そ こで、多数の地域住民の共通関心や問題意識による「地域コミュニティ」に対して、生活 困難な当事者等、少数者の問題解決を目指す「福祉コミュニティ」が求められるとしたの である。「地域コミュニティ」の内部に存在する「福祉コミュニティ」によって、現代社会 の抱える福祉課題に対応し、実践していこうとするものであり、「社会福祉のための地域社 会論」(平川 2004:210)といえる。
また、1970 年代後半は、在宅福祉サービスや住民福祉活動によって地域福祉が実体化の
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段階へ進んでいく時期となったが、全国社会福祉協議会の『在宅福祉サービスの戦略』
(1979)によると、在宅福祉サービスの目標達成には、地域住民によるサービスの支持、
協力と参加が不可欠であると指摘し、その条件を備えるものを福祉コミュニティとしてい る60。その後の『在宅福祉サービス組織化の手引』(1980)では、地域福祉の構成要件を① 在宅福祉サービス、②環境改善サービス、③組織化活動とし、③の組織化活動(地域組織 化、福祉組織化)のうち、地域組織化を「住民の福祉への参加・協力、意識、態度の変容 をはかり福祉コミュニティづくりをすすめる」ための活動としている(稲葉 2005:139)。
ここでは、一般コミュニティから福祉コミュニティへの転換を進めるとともに、その中 で、福祉的支援を必要とする者の受け入れや援助体制を整備するために、地域住民の連帯 を求め、在宅福祉サービスと住民参加を中心としてシステムを築くことを目指している。
この点において、当事者を中心とする岡村の福祉コミュニティとは一線を画していると考 える。岡村による当事者中心の機能的コミュニティとしての「福祉コミュニティ」は、当 初の内容とは異なり、地域福祉や地域組織化の目標とされるようになっていったのである。
この後の展開を稲葉は2つの系譜に整理している(稲葉 2005:140-141)。1 つは社会 学的コミュニティ論の延長線上での展開で、これは都市社会学者を典型とする。このうち 奥田は、「福祉コミュニティのあり方は、コミュニティ自体のあり方でもある。逆に言えば、
福祉コミュニティの発想を欠くコミュニティは、コミュニティの内実に値しないことにな る」とし、「コミュニティ(the Community)の定義と福祉コミュニティのそれとは相互交 換的」であるとする(奥田 2003:3)。ここでは、コミュニティの延長線上に、福祉コミ ュニティがあるとし、従来の枠組みとは異なる考え方が示されている。
いま 1 つは、社会福祉や地域・住民の役割を強調する政策概念である。1993 年に初めて、
福祉コミュニティが政策概念として登場したが61、それによると、福祉コミュニティを地 域社会の様々な構成員の相互扶助と交流による福祉マインドに基づくコミュニティである として、その形成を目指そうとしている。さらに、「ボランティアの今日的意義」の中で、
福祉社会の基礎として、福祉コミュニティの形成を掲げている62。
このようにして、社会福祉の政策概念においては、住民の主体的参加による役割分担と 連携、福祉という価値観を共有するボランティアの支えあいによる、福祉コミュニティが 取り入れられようとした。従来は福祉サービスの対象、あるいは受益者としてとらえられ てきた地域住民が地域福祉の担い手にもなるといった、今日的地域福祉のあり方が強く指 向されるようになったといえる。
筆者は、ここに取り上げた理論のいずれかを取り上げて、それを福祉コミュニティとし て限定するのではなく、むしろそれらの組み合わせによって、今後の地域社会、とりわけ 財政的に厳しく、過疎・少子高齢化が進行する地方の小規模自治体において必要とされる
「福祉コミュニティ」を明らかにしていきたい。
2.福祉コミュニティの範囲とスケール
次に、種々の福祉サービスの総合的提供や地域住民間の支えあいによって、誰もが安心 して暮らしていける地域福祉の実現に向けて、「福祉コミュニティ」を可能な限り実体化し ていくこととする。
現行の様々な福祉制度を見てみると福祉コミュニティの範囲は、まず地方自治体として