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.地域福祉の必要性

地域社会の中で生活を送る者の実態に目を向けると、高齢化の進行、家族規模の縮小に 伴い、多くの住民が自分自身あるいはその家族が何らかの病気や障害、さらには介護問題 という生活上の諸困難を抱えながら、生きていくリスクが高まっていくことが予想される。

このことは、福祉に関する課題を特定の者に限定した課題としてとらえるのではなく、

大部分の者が将来いつかは経験することとしてとらえ、共通の課題として認識する視点が 必要であることを意味する。

前章で述べたコミュニティやまちづくりとの関係で見るならば、社会福祉を地域全体の 課題としてとらえ、地域社会全体でその解決に取り組む機運を醸成し、あるいは必然的に まちづくりの1つのテーマとして取り込まれなければならない。これは、社会的弱者にと って生活しやすい地域社会を構築するということは、そこで生活するすべての住民にとっ て住みやすい地域社会を築くことになるという考えに立脚するものである。

1.「地域福祉理論」登場の背景

21 世紀は「地域福祉の時代」であるともいわれる。これは「社会福祉事業法」が改正さ れ、2000 年6月に新しく「社会福祉法」が成立し施行されたが、その中に「地域福祉」が はじめて明文化されたことによる。「社会福祉法」は、第1条に、法の目的の1つとして、

「地域における社会福祉=地域福祉の推進」を位置づけ、第4条に「地域福祉の推進」の 定義を記し、地域福祉を推進する主体に地域住民を位置づけている。この法改正によって、

地域福祉が社会福祉共通の展開方向であることが明らかにされ、その内容、推進方法が明 確になったとされる反面(和田 2004:41)、「社会福祉とは何か」について、明確な概念 提起がなされておらず、必ずしも、すべての人が共通認識をもって議論することが可能に なったわけではないという声も聞かれる(藤松 2006)。

筆者自身、「地域福祉と何か」と問われて、明確に答えることはできない。地域福祉を単 純に地域における福祉ととらえるなら、高齢者福祉、児童福祉、障害者福祉等の社会福祉 の1分野になるが、それでよいのだろうか。

わが国において「地域福祉」に対する着目は、2000 年の社会福祉法施行に伴って始まっ たのではなく、1970 年代から継続していてこれまで 35 年余りが経過している。そもそも 社会福祉において地域福祉の志向が現れてきたのは第2次大戦後のことである。戦前は、

地域社会で助け合うような共同体的基盤が根強く存在しており、それが地域支配と密接に 結びついていた。戦後になり 1951 年に、社会福祉協議会(以下、社協)が創設され、社協 中心に地域福祉志向が発展していったが、この時点での地域福祉の意味は「地域社会(住 民)の福祉増進」というほどの理念であり、それを達成する方法としてコミュニティ・オ ーガニゼーション(地域組織化)がアメリカから導入された。1960 年代後半になると、社 協、民生委員、行政サイドにおいて在宅福祉サービスないしコミュニティ・ケアの提起が なされ、新たな構成要素として加えられるようになった(井岡 1991:14-15)。

1960 年代半ば以降から地域福祉の課題が広がり、その概念の形成が図られ、地域福祉政 策が成立してくるが、その背景は既に述べたように「コミュニティ」、「まちづくり」とい う概念がわが国の政策に導入されるようになったのと同様の理由によるものである。つま

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り、1960 年代の半ばには、高度経済成長の展開に伴って、インフレ・物価高・公害・都市 問題・地方の過疎化等の矛盾が拡大し、住民の日常生活は危機にさらされ、生活福祉上の 諸困難が累積していった。1970 年前後にこれらの問題はピークに達し、地域再編政策とし て、様々な要素を含むコミュニティ政策が提起され17、生活福祉上の諸困難解決への具体 的取り組みとして、まちづくりという言葉が生まれ、各地で多種多様な実践が行われるよ うになったことと結び付けられる。

したがって改めて強調する必要もないが、地域福祉政策は、コミュニティ政策とセット で登場し、自治、分権化、住民参加、コミュニティ形成とコミュニティ・ケアの実現、入 所施設中心主義から在宅福祉への転換を目指すものであった。他方で 1973 年のオイルショ ックを契機として、日本経済の高度成長は終末を迎え低成長へ急転したことにより、従来 の福祉政策は方向転換を余儀なくされ、急激な高齢化に伴う福祉ニーズの広がりを前提と する必要も出てきたこともあり、社会福祉財政の抑制と、福祉機能の担い手を家族から地 域住民やボランティアへと求めるようになった。この2つの側面は、「複雑に絡まりあって 地域福祉の全体構造をつくってゆくことになり、政策対立から地域における葛藤まで、様々 なレベルで矛盾をはらみながら展開することになった」とされる(永岡 2006:53)。

2.地域福祉の概念に関する先行研究

ここでは、1970 年代から活発に論じられようになった地域福祉について、代表的な2分 法分析を用いながら、その概念に関する主要な先行研究を検証してみることとする。

地域福祉の概念規定は多様な側面から行われているが、牧里毎治は構造的概念と機能的 概念による2分法分析により大別している(表3-1)。

表3-1 牧里毎治による地域福祉概念

まず、構造的概念は、地域福祉を政策的にとらえるところに特徴があり、①社会問題対 策としての地域政策として規定され、②貧困問題を核とする生活問題を対象とし、③地域 における生活水準の向上を支える公的施策であり、④社会運動を媒介として決定され、⑤ 公的責任に基づいて行われる政策であるとする。さらに、構造的概念には、2つのアプロ ーチがあるとされるが、1つは制度政策論的アプローチで、地域社会を媒介に政策と制度 をとらえるもので、代表的論者として右田紀久恵や井岡勉等をあげ、もう1つは運動論的 アプローチで、地域福祉を地域社会の産業構造の改編まで含めた幅広いものととらえ、運 動的要素を重視するものであり、真田是等が該当する(牧里 1986:153‐156)。

制度政策論的アプローチから最初に地域福祉を定義した右田紀久恵によると、地域福祉 とは、「生活権と生活圏を基盤とする一定の地域社会において、経済社会条件に規定されて 地域住民が担わされてきた生活問題を、生活原則・権利原則・住民主体原則に立脚して軽

制度政策論的アプローチ 構造的概念

運動論的アプローチ 主体論的アプローチ 機能的概念

資源論的アプローチ

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減・除去し、または発生を予防し、労働者・地域住民の主体的生活全般にかかわる水準を 保障し、より高めるための社会的施策と方法の総体であって、具体的には労働者・地域住 民の生活権保障と、個としての社会的自己実現を目的とする公私の制度・サービス体系と 地域福祉計画・地域組織化・住民運動を基礎要件とする」と規定している(右田 1984:6)。

この定義は、住民主体を原点に置いて、生活問題全般に対する包括的な対策を明確にし、

地域福祉を単なるサービス体系でなく権利体系としてとらえている点が特徴的である。

次は、井岡勉による定義であるが、「地域福祉は、資本の運動法則によって必然的に生み 出された住民(労働者、勤労住民)の地域生活条件をめぐる不備・欠落や悪化・破壊が進 行するなかで、これに抵抗する社会運動を媒介に社会問題として提起された地域生活問題 に対する社会的対策の一翼である」としている(井岡 1980:272)。ここでの地域福祉とは、

貧困や低所得者層の地域における生活問題対策であり、すべての問題に対応するものとは なっていない。

運動論的アプローチの代表的地域福祉論としては、真田是が代表的であるとされるが、

それによると広義の地域福祉が対象とする課題は、①産業政策をとおして地域の経済的基 盤を強め、住民の生活の基礎を発展させること、②過密・過疎問題にみられるような生活 の社会的・共同的な再生産の部分の遅れやゆがみを正すこと、③これらの措置を住民の自 主的な参加=運動の支えによって行っていくことであり、狭義の地域福祉は、②を中心と する「生活の共同的維持・再生産の地域的システム」としている(真田 1973:36)。この 定義は、②に地域福祉の本質を求めながら運動的要素を重要視している点に特徴があるも のの、狭義の地域福祉の本質性が必ずしも明確にされていない。さらに、地域の基盤整備 に重点が置かれているが、狭義の地域福祉が広義の地域福祉をどのように補完するかが不 明確であるという課題が指摘される(牧里 1984:61)。

以上を踏まえ、構造的概念の特徴は、「まず第1に地域福祉は、国家独占資本主義段階に おける政府・自治体が講ずる社会問題対策のひとつである地域政策と規定する点である。

したがって、第2に、地域福祉は、資本主義社会の産み出す貧困問題を核とした生活問題 を対象とし、おおむね貧困・低所得階層に対応した政策ということになる。それゆえ、第 3に、地域福祉は、最低生活保障を基点としながら地域における生活水準の向上を底辺か ら支える公的施策であると性格づけられる。第4に、地域福祉施策の内容は、多かれ少な かれ住民運動と社会運動を媒介にして規定されるものと考えられている。第5に、公的責 任に基づいて行われる政策ということから、貧困・低所得階層を対象とするため、受益者 負担は軽減されるべきであり、無料原則を追求する。」と概括できる(牧里 2006:12-13)。

次に、機能的概念であるが、地域福祉の働きを、社会的ニーズを充足する社会的サービ スや資源の供給システムとみなすような機能的枠組みに重きを置いたアプローチであるが、

構造的概念と同様に2つのアプローチがある。1つは、ニーズの主体者たる市民・住民に 着目して地域福祉の体系を構想する主体論的アプローチで、岡村重夫がその最初であると される。岡村は、地域福祉概念は、次の3要素で構成すると論じている(岡村 1974:62)。

すなわち、①もっとも直接的、具体的援助活動としてのコミュニティ・ケア、②コミュニ ティ・ケアを可能にする前提条件づくりとしての地域組織化活動、③福祉問題の発生を予 防する予防的社会福祉、というものである。このアプローチは、一定の地域社会内で発生 する福祉問題の解決は、可能な限り地域住民の主体的参加に基づく組織において図ってい

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