地域福祉を効果的に推進、実現していくために、地方自治体において具体的にどのよう な施策が講じられるかという点について、本章では千葉県市川市おける「地域福祉システ ム」の事例をとおして明らかにしていく。
市川市では、自治体の範囲を1つの福祉圏域とし、その内部に小域福祉圏を設定して、
各々の小域圏域の特性と実情に応じ、各種福祉活動を組織的に実施するために、全市的に
「地域ケアシステム」を構築しようとしている。
また、市民団体による活動の活性化等を目的とした「市民活動団体支援条例」が制定さ れているが、この条例による補助金を活用した福祉活動にも着目し、地域福祉のあり方に ついて論述していくこととする。
1.研究対象地域の概観
市川市は、千葉県北西部にあって東京都に隣接する東西 8.2km、南北 13.4km、面積 57.4 ㎞2の都市である。都心まで 20km 圏内に位置し、都心部と県内各地域を結ぶ広域交通 網の集中する位置にあり、市内には東京に向けて7路線の鉄道(17 駅)が整備され、約 30 分と極めて利便性が高い。
市川市の地域条件を概観すると、人口は 472,273 人(2008 年5月末現在)で、千葉市、
船橋市、松戸市に次いで千葉県4番目、世帯数は約 21 万 3 千世帯で、千葉市、船橋市に次 いで県内3番目の都市である。典型的な首都圏のベッドタウンとして発展し、人口密度は 8,230 人/㎞2である。市の西部は江戸川を隔てて東京都江戸川区、北部は千葉県松戸市、
東部は船橋市、鎌ヶ谷市、南部は浦安市、東京湾に接している。南部は東京湾に臨み京葉 工業地帯の一翼を担うとともに、海抜2m 程度の平野で住宅地として開け新しい高層住宅 群が形成されており、北部は標高約 20m のなだらかな台地となっていて豊かな自然や斜面 林が残り、梨栽培などの農業が盛んで屋敷林等の緑も多く、一方で学園も多い文教・住宅 都市でもある。
住民の所得水準は高く、市民税や固定資産税による歳入が多いため財政は豊かで、地方 交付税のうち財源不足の自治体に交付される普通交付税については、不交付団体となって いる。
1997 年から行政サービス向上の一環として、住民票等の各種証明書の電子交付サービス を全国で初めて導入している。このサービスは、あらかじめ市役所に申請をしておき、最 寄りの公共施設や駅構内、またはその周辺に設置してある自動交付機によって、各種証明 書等が電子交付されるというもので、申請については電子申請も可能となっている。
また、幅広い市民の声を集めて市政に反映していくことを目的として、インターネット を活用した登録制アンケート制度である市川市e-モニター制度を市が運営するなどIT の活用が活発である20。
地方自治法第 252 条の 22 第 1 項に定める中核市になる要件を満たしているが、現時点で 中核市にはなっておらず、 2007 年 2 月に議会で「政令指定都市検討促進決議」がなされ、
4月からは「4市政令指定都市研究会」を船橋市、松戸市、鎌ヶ谷市と4市で持ち、将来 の移行を視野に2年間で課題研究をするとしているが、これは合併を前提としたものでは
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なく、市民が合併や政令指定都市を考えるための材料を、随時公表するためのものとされ ている。
2.地域ケアシステムの必要性
人口、世帯数ともに増加を続けており、国勢調査による数値を見てみると 2000 年調査時 の世帯数 193,582、人口 448,642 人に対して、2005 年はそれぞれ 239,659 世帯、466,608 人となっており、人口増加率は 4.0%である。人口増加率についてはわが国の 0.7%、千葉 県の 2.2% を上回る。高齢化率は 2000 年が 11.5%、2005 年は 14.1%となっていて 2.6 ポイント増加しているが、全国の高齢化率は 20.0%なのでそれより約6ポイント低い。
ただし、全国平均より低いものの高齢化は確実に進行し、高齢単身者数については 1995 年から 10 年間でほぼ倍増しており、一方で少子化・核家族化の進行やライフスタイルの多 様化等もあり、地域社会における人間関係の希薄化が危惧されるようになってきた。
地域社会の中で生活を営む社会的弱者や、核家族化により祖父母と同居しない子育て世 帯が日常生活において種々の問題を自らの内側に抱え込んで、孤立している状況が見受け られることがある。これは、身近なところに相談機関が整備されていなかったり、仮にあ ったとしてもその存在を知らなかったり、あるいは何らかの理由があって利用しづらいと いった状況によるものである。また、「遠くの親戚より近くの他人」、「向こう三件両隣」と いう言葉が示すような、従来いざというとき頼りになっていた近隣住民との人間関係が、
生活様態の変化等に伴い希薄になっているという現状があり、住民の福祉は地域社会の有 する条件や環境によって大きく左右されるといえるだろう。
こうした状況に伴い、ノーマライゼーションの理念に基づく障害者への対応、子育てと 高齢者介護の社会化等を図るために、行政は、住民に最も身近な地域社会において、当事 者だけでなく、住民同士が互いに支え合う体制の整備を政策的課題として位置付けること となった。
この課題に対処するために、市川市では、誰もが住みなれた地域で安心して暮らせる「温 もりのある社会」の実現を目指し、地域住民、社協、関係機関、行政の協働による独自の
「地域ケアシステム」の構築に着手することとなった21。
3.市川市地域ケアシステムの基本的な考え方
市川市における地域ケアシステムは、市社協の支部単位で分けた 14 地区22を基礎的単位 とし、①地域での支え合い活動(温もりのある社会づくり)、②身近な場所での相談活動(拠 点整備)、③行政の組織的な受け皿体制(相談体制の確立)を大きな柱としている(図4-
1)。
具体的には、各支部に地域住民の相談受付、地域の福祉活動やボランティア情報、市及 び関係機関の情報収集と発信機能を有する「活動拠点」を設置し、組織としては、自治会 長、民生委員・児童委員、地域ケアシステム相談員、在宅介護支援センター、市社協、行 政の担当者等、地域福祉の担い手で構成する「地域ケアシステム推進連絡会」を発足させ 各地区において地域特性に応じた福祉活動を展開しようとしている。
各地区における地域ケアシステムの担い手は、まず自治会、子ども会、高齢者団体、障 害者の当事者団体と家族会、子育てサークル、ボランティア・NPO等の既存団体が想定
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されているが、これらをいかに有機的に結びつけてネットワーク化を図るかが、その後の 活動の定着と展開を左右することとなる。さらに従来は、このような活動に関与してこな かった機関や組織、住民等の参加を促す仕組みをつくりだし、多様な関係性を構築するこ とにより、地域福祉との関わりを持たせ、主体的担い手として育成を図ろうとしている。
図4-1 地域ケアシステムの概要図
出所:市川市地域福祉支援課作成資料「市川市地域ケアシステム」を参考に作成。
4.地域ケアシステムの実践
市川市において地域ケアシステムの検討は 1999 年度に開始されているが、その背景には 介護保険法の施行が翌年度に控えていたことがあげられる。介護保険法によって提供され るサービスの隙間を埋めていくことがこのシステムに求めていることはいうまでもない。
さらに、子育て、障害者福祉等の抱える課題を身近な地域で補完するためのインフォーマ ル・サービスを含む地域福祉の達成を目的として、自治会連合会、民生委員・児童委員の 会議、市社協の支部代表者会議等の場で、システムの趣旨や内容に関する説明会を実施し、
行政と社協が連携を図りながら、地域福祉を実践していく地区を募集した。結果 2001 年度 に国府台と八幡の2地区に拠点が整備され、その後市内全域への展開を推進しているが、
地域ケアシステム
誰もが住み慣れた家庭や地域で安心して暮らせる地域社会の構築
1 地域での支え合い
市民の福祉に対する意識の醸成、相互の支え合いや助け合い活動の具現化 2 身近な場所での相談
相談員を配置した拠点整備、公的相談支援機関との連携による相談支援の仕組みづくり 3 行政の組織的な受け皿体制
地域における相談や市民相互の支え合い、助け合い活動の支援 基本的考え方
・地域ケア推進連絡会 地域課題の検討
・活動拠点
相談、地域情報の収集・発信
社協支部単位(14 地区)で、2001年度から実施
2007年3月現在、12 地区に設置(国府台、八幡、真間、南行徳、曽谷、国分、
市川第二、市川第一、宮久保・下貝塚、信篤・二俣、菅野・須和田、行徳)