B. Income tax
4. 主要歳出分野における国・県・地方政府の役割分担の現状
4.1 社会保険・医療
4.1.1
国民年金(老齢年金)(根拠法令)
デンマークの年金制度の体系は、一階部分の国民老齢年金、労働市場付加年金(
ATP:
Labor Market Supplementary Pension
)、特別貯蓄制度(SP: Special Pension
)、二階部分の 公務員年金、職業年金制度、さらに三階部分として、個人年金の各制度がある。一階部分にあたる国民老齢年金は、社会年金法27(
Social Pensions Act
)を実施根拠と する制度で、資産や退職前の就労状況、所得に関係なく、全ての国民が基礎年金を受給 できる権利が保障されている。また、1964
年には国民老齢年金に上乗せする付加年金 として被雇用者を対象とする労働市場付加年金及び特別貯蓄制度が導入されている。(実施主体)
国民老齢年金の設置・運営主体は国(社会福祉省
Ministry of Social Affairs
)で、老 齢年金受給に係る事務は、市において実施されている。他方、労働市場付加年金は、雇用主・被雇用者によって運営される年金基金団体(
Labor-Market Supplementary Pension Institution
)が実施している。(内容)
国民老齢年金28は、全額を国庫が負担する税方式の制度である。この国民老齢年金の給付 要件は、デンマーク国内に居住する者で、15歳から
65
歳までの間に、3年間デンマーク に居住することである。基礎年金(満額)を獲得するためには、デンマーク国内に40
年間 居住することが求められる。また、外国人の場合には、給付を受ける直前の5年間を含む27 以下を参照。http://eng.social.dk/index.aspx?id=f5afe72c-8ff2-45bb-8eee-dcd0da758199
28 以下、岩間大和子(2004)「諸外国の二階建て年金制度の構造と改革の動向」『レファレンス』平成16 年1月号、朝野他(2005)「デンマークのユーザー・デモクラシー」pp.186-187、The Ministry of Social Affairs
(2002) “Social Policy in Denmark”, Ministry of Social Affairs(2002)”National Strategy report on the Danish Pension System” より。
10
年間居住することが要件となる。給付開始年齢は、1998
年12
月の法改正により2004
年 から、67歳から65
歳へと引き下げられている。国民老齢年金の給付額は、満額要件を満たしている場合、単身者で月額(
2002
年現在)、基礎額
DKK52,524
、補足給付額DKK52,872
で、計DKK105,396
である。夫婦の場合は、一人当たり基礎額
DKK52,524
、補足給付額DKK24,672
、計DKK77,196
である。給付額は課税対象である。年金基礎額(満額)は、居住年数、所得に応じて減額され る。その他、ニーズ調査に基づく暖房手当及び個人手当等も加算される。また、年金給 付額は賃金上昇率をベースにスライドされる仕組みになっている。
他方、労働市場付加年金は、社会保険方式の年金である。拠出金は、労働時間に応じ て
3
段階が設定されており、給与の一定額について、67%
を雇用主が負担し、残る33%
を被雇用者が負担している。フルタイムの従業員で年間最高
DKK894
の負担が求めら れている(事業主は2
倍のDKK1,788
を負担)。この労働市場付加年金は、週9
時間以 上労働する全ての被雇用者について加入が義務付けられている。自営業者も任意で加 入できるが、その場合、保険料は全額本人負担となる。なお、1999
年に導入された積 立方式の特別貯蓄制度も全ての被雇用者に加入義務があり、所得の1%の拠出が求め
られ、給付は65
歳から10
年間である。労働市場付加年金の給付額は、制度の創設時(
1964
年)から継続してこの制度に加 入している場合には、年間DKK21,024
である。(財源)
老齢基礎年金の財源は全て税(国税)である。一方、社会保険方式の労働市場付加 年金は、雇用主、被雇用者の保険料を財源にしている。
図表9-48 老齢基礎年金における国と地方の財源分担
主体
制度 国 県 市 その他
老齢基礎年金 100%
(出所)The Ministry of Social Affairs(2002) “Social Policy in Denmark”より
図表9-49 労働市場付加年金における国と地方の財源分担
主体
制度 国 県 市 その他
労働市場付加年金 雇用主保険料
67% 被雇用者保険料
33%
(出所)The Ministry of Social Affairs(2002) “Social Policy in Denmark”より
4.1.2
早期年金(障害者年金)29(根拠法令)
デンマークの早期年金(障害年金)は、社会年金法30(
Social Pensions Act
)を実施 根拠としている。(実施主体)
早期年金に係るサービスは、同法に基づいて市が実施している。
市は、早期年金申請者ごとに「教育」「労働経験」「興味」「社会的能力」「柔軟性・
適応性」「学習能力」「仕事に関する希望」「労働能力に対する期待」「労働に関する意 識」「住宅・経済状況」「社会的ネットワークの有無」「健康に関する総合評価」を記載 する『能力プロフィール』を作成することで、アセスメント及び判定を行っている31。
(内容)
早期年金は、身体的、精神的、社会的な理由により労働能力が低下した者に対して給付 される現金給付で、給付の対象は、18歳から
66
歳で、給付要件は、15歳を過ぎて10
年 以上デンマーク国内に居住していることが求められる。図表9-50 デンマークの早期年金の体系
(出典)The Ministry of Social Affairs(2002) “Social Policy in Denmark”より
給付内容・額は、給付を申請する者の状況に応じて、上級早期年金(Highest Amount of
Anticipatory Pension)、中級早期年金(Intermediate Amount of Anticipatory Pension)、増額早
29 The Ministry of Social Affairs(2002)“Social Policy in Denmark”より。
30 以下を参照。http://eng.social.dk/index.aspx?id=f5afe72c-8ff2-45bb-8eee-dcd0da758199
31 厚生労働省(2003)「世界の厚生労働2003」より。
標準早期年金 増額早期年金 中級早期年金 上級早期年金
失業加算
障害加算
付加年金
基礎額 基礎額
付加年金 障害加算
基礎額 付加年金 早期加算
基礎額 付加年金
期年金(Increased Amount of Anticipatory Pension)、標準早期年金(Ordinary Amount of
Anticipatory Pension)に分かれる。2003
年以降は、「労働能力の損失」ではなく、「残存す る労働能力」を基準として給付の要否及び内容(額)が決定されており、給付申請の際に は『労働能力が低下したことの証明』及び『労働能力の低下により、自己扶養能力が欠け ることの証明』の提出が求められる。図表9-51 デンマークの早期年金の給付額(2002年)
区分 給付額
上級早期年金 中級早期年金に下記を加算 失業加算
: DKK 2,939
(非課税)中級早期年金 増額年金に下記を加算
障害加算: DKK 2,129(非課税)
増額早期年金 標準早期年金に下記を加算 早期加算
: DKK 1,113
(非課税)標準早期年金 基礎額:月額4,377DKK
付加年金(単身者): DKK 4,406、年金加算(同居): DKK 2,056
(出典)The Ministry of Social Affairs(2002)“Social Policy in Denmark”より
(財源)
早期年金の財源は、国(
35%
)と市(65%
)が分担しており、国は支出実績に応じ て返済金(Reimbursement
)32を市に支出している。図表9-52 早期年金における国と地方の財源分担
主体
制度 国 県 市 その他
早期年金 35% 65%
(出所)The Ministry of Social Affairs(2002) “Social Policy in Denmark”より
32 年金のように市が給付総額をコントロールできないものについては全額国庫が負担している。他方、
地方自治体の裁量によって給付総額をコンロールできるものについては、返済金及び包括補助金(一般 補助金)を通じて財源が手当てされている。The Ministry of Social Affairs(2002) “Social Policy in Denmark”
p.17より。
4.1.3
医療(根拠法令)33
デンマークの医療は、国家医療保障法(National Health Security Act)を実施根拠と しており、同法及び病院法(
Hospital Act
)、公衆衛生法(Piblic Health Service Act
)等 の関連法により一次医療(Primary Sector
)、二次医療(Hospital Sector
)における国と 地方の役割分担が整理されている。(実施主体)
医療サービスは、県を通じて実施されている。市は、訪問看護、公衆衛生活動及び 学校保健(歯科保健を含む)を所管している34。
図表9-53 医療サービスにおける主な役割分担の内容
国 県 市
・ 医療政策、目標の設定
・ ガイドラインの施行
・ 医師免許交付35
・ コーディネーション
・ 調査研究
・ 病院医療(一次医療、二次 医療)
・ 保健医療計画の策定
・ 訪問看護
・ 公衆衛生活動
・ 保健婦による訪問指導
・ 高齢者福祉サービス
・ 学校保健(歯科保健を含)
(出所)Health Care in Denmark より
(内容)
デンマークの医療サービスは、税を主たる財源とする無料サービスである点が特徴 である36。以下、県が所管する病院医療と市が所管する事業のうち訪問看護の内容を 整理する。
■病院医療(県)
一次医療は、全ての人にアクセスが認められている初期医療や健康問題に関するサ ービスを提供する役割を果たしている。これは、主にかかりつけ医37(
GP: General
Practitioners
)を通じてサービスが提供される。デンマークでは、医療サービスを受ける際、まず、このかかりつけ医の診療を受けなければならない仕組みになっており、
33 ヒアリングより。
34 県の人口は、約30万から50万人である。市の人口は平均すると1.9万人である。
35 医師免許の交付は国が行っており、それを通じて医療費の支出の一部をコントロールしている。WHO
(2001)“Health Care Systems in Transition Denmark ”より。
36 薬剤費に関しては一部自己負担が求められる。
37 かかりつけ医は全国で約3,400名、各医師は約1,6000名の患者を抱えている。
かかりつけ医の診察を経て、専門医38や病院での治療が受けられる仕組みになってい る。このかかりつけ医制度(健康保障制度)は、GP1と
GP2
に区分されている。GP1 は、本人が居住する地区内で特定のかかりつけ医を指定・登録することが求められる が、診療は無料である。一方、GP2
は、診療や処方に対する自己負担(診断1
回NOK100
、処方一通
NOK80
)を支払う代わりに、どこでも自由に診療が受けられるが、国民の大半は
GP1
を選択しているのが実態である(約97.6%, Health Care in Denmark
より)。な お、病院医療は、GP1
とGP2
に関らず、無料であるが、薬剤費39や理学療法40などは 一部自己負担が求められる。また、歯科診療41については、18
歳以上の成人は有料で、治療費のうちの
75%が患者負担で、残る 25%は健康保障制度による公費負担になって
いる。18
歳未満及び65
歳以上の歯科診療では自己負担がかからない。図表9-54 患者の視点から見たデンマークにおける医療実施体制イメージ
(出所)Health Care in Denmarkより
一方、二次医療は、医学的な治療や手術、集中治療などを提供する役割を果たして いる他、病院においては医療関係者の養成や実習などの役割も果たしている。
1982
年 の医療法の改正により民間病院の設立が認められるようになっているが、大半は県が38 専門医は全国で約1,200名いる。
39 薬剤費の自己負担額(割合)は、当人の投薬履歴(負担総額)に応じて決定する仕組みになっている。
年間DKK515までは全額自己負担で、それ以上の額については一定割合(50〜85%)について健康保険
制度により返済される。(内務保健省資料より)
40 理学療法士は、全国で約2,700名いる。
41 歯科医師は全国で約2,700名いる。