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研究手法

ドキュメント内 著者 趙 立翠 (ページ 45-49)

1. はじめに

1.3. 研究手法

1.3.1. 脳活動計測のメカニズムおよび手法

脳活動を測定する手法には, 頭部を開頭し, センサーを脳内に埋め込む侵襲的な方法と, 頭の外から大脳反応の信号を取る非侵襲的な手法がある。言語処理研究で非侵襲的な手法 が主に使用されている。

非侵襲脳機能計測とは, 脳に不可逆的な変化を与えずに脳内信号を計測して, その信号 の空間的・時間的パターンから, 神経活動が生じた脳の部位及び時間を推定し, 用いた刺 激・タスクの特性や参加者の行動との対応関係から, その部位の機能や精神活動との対応を 調べる計測方法である(宮内, 2013)。

図 1- 6脳活動計測法の原理および分類(宮内, 2013より)

非侵襲脳機能計測のメカニズムは大まかに以下のようなものである。人が何らかの認知 活動を行う際, それぞれの認知活動に対応する脳内領域の神経細胞が活動することにより 電気的変化が発生する。そして神経細胞はエネルギーを消費するため酸素を必要とする(梁,

2009)。したがって, 神経活動に伴って酸素代謝が生じる。酸素は脳内にほとんど貯蔵され

ていないので, 活動した神経細胞に酸素を供給するために, 局所脳血流が増大する (Raichle

& Mintun, 2006)。 すなわち, 神経活動に伴って代謝活動が生じると共に血流が増大する(宮

内, 2013)。これら, 神経電位変化, 代謝活動, 血流変化はそれぞれ一次信号, 二次信号, 三次

信号と呼ばれる。一次信号を計測する手法には, 脳波計測法(EEG)や脳磁図計測法(MEG)な どの脳内細胞の電磁気現象を直接計測する方法がある。代謝活動を計測する手法にはポジ トロン画像法(PET)やMRS(Magnetic Resonance Spectroscopy, 磁気共鳴分光法)がある。三次 信号を計測する手法には, 機能的磁気共鳴画像法(fMRI), 機能的近赤外分光法(functional near-infrared spectrophotometry, fNIRS)などがある(図1-6)。

本研究で用いられるfNIRS装置は, 光トポグラフィー装置とも呼ばれている。これは, 頭 皮上から近赤外光を当てて, 脳活動に伴う大脳皮質の血流内のヘモグロビン濃度変化を測 定する装置である。近赤外光は生体組織を透過しやすい性質を持っている。ヘモグロビン は脳血流内に含まれているので, その濃度変化は局所的な脳血流量変化と関連している。ヘ モグロビンは近赤外光を吸収する性質があるので, ヘモグロビンの光学的な性質(吸収スペ クトル)を利用すれば, ヘモグロビン濃度変化を近赤外光で測定できる。具体的には, もし脳 活動によって脳内の局所的な血液量(すなわち組織中のヘモグロビン濃度)が増加したら, 増 えたヘモグロビンによって吸収されてしまう近赤外光も増加する。その結果, 検出される光

,

(oxyhemoglobulin, 以下, oxy-Hb), 脱酸化ヘモグロビン(deoxyhemoglobin, 以下, deoxy-Hb)と 総ヘモグロビン(total hemoglobin, 以下, total-Hb)を計測することができる。

本研究で使用したfNIRSには, fMRIやMEGなどの手法と比べていくつかの利点がある。

それは, ①大がかりな設備が不要で実用的であること。②調査参加者への拘束性が低いこと。

③実際の言語使用環境に比較的近い状態で測定できることなどである(木下, 2011)。

言語研究でよく用いられるEEG, fMRI や fNIRSを例に具体的に説明すると, fNIRS と fMRIは共に, 脳内血流変化を測定する道具であるが, fMRIよりポータブルであるという利 点がある。fNIRSは深層部位の脳活動を計測することができないが, 表層部位の脳活動の計 測において局部脳血流測定の結果がfNIRS とfMRIは一致している(Mehta & Parasuraman, 2013; Quaresima et al., 2012; Lloyd-Fox et al., 2010)。

EEGは時間解像度が高いため, 脳活動の時系列関係を調べる研究ではEEGがよく利用さ れてきた。しかし, それらの研究では単語ごとの処理に対応する脳波を取得できるように, 文を一単語ずつ継時的に呈示する方法がよく用いられている。この呈示方法は, ワーキング メモリに負担をかける可能性が高く, 日常的な読み活動とはかけ離れている。そして, ERP 信号を得るために, 同じ条件の試行を何十回も行う必要がある。さらに, EEGは体動やまば たきに敏感であるため, 参加者への拘束時間が長い。それに対し, fNIRSは, 文をそのまま呈 示し, 実際の言語使用環境に比較的近い状態で測定できるという利点がある(木下, 2011)。ま た, 頭皮上の局所脳血流変化を計測する手段として, fNIRSは, 体動等から受ける影響が比 較的少なく発話時の脳活動を計測して分析できるなどの利点がある。

1.3.2. 言語処理に関わる大脳領域

大脳は灰白質と白質とから成り, その表面の灰白質部分は大脳皮質と呼ばれている。また, 大脳は左半球と右半球に分けられる。以下左半球を例に説明する。灰白質はさらに前頭葉 (frontal lobe), 側頭葉(temporal lobe), 頭頂葉(porietal lobe), 後頭葉(occipital lobe)の 4つの大 きな領域に分けられる。 皮質が隆起したところが脳回と呼ばれ, 内部に入り込んでいる部 分は脳溝と呼ばれている。 本研究で使用したfNIRS装置は大脳深層の活動を計測できない

ため, 本研究では主に脳回の活動を分析することになる。脳回も前頭回(frontal gyrus), 側頭 回(temporal gyrus), 頭頂小葉(porietal lobule), 後頭回(occipital gyrus)などの領域がある。上下 位置によって前頭回はさらに下前頭回(inferior frontal gyrus), 中前頭回(middle frontal gyrus), 上前頭回(superior frontal gyrus)に, 側頭回はさらに下側頭回(inferior temporal gyrus), 中側頭 回(middle temporal gyrus), 上側頭回(superior temporal gyrus)に, 頭頂小葉はさらに上頭頂小葉 (superior parietal lobule) と 下 頭 頂 小 葉 (inferior parietal lobule) に, 頭 頂 間 溝(intraparietal sulcus)な ど の 領 域 に 細 分 類 さ れ る 。 下 頭 頂 小 葉 に は さ ら に 角 回(angular gyrus), 縁 上 回 (supramarginal gyrus)を含んでいる。

大脳皮質には, 思考, 言語や様々な運動と関連した機能の局在化が見られる。言語処理機 能に関して, 統語処理は主に大脳の左半球の下前頭回(LIFG)と関わっており (Caplan, Alpert,

& Waters, 1998; Dapretto & Bookheimer, 1999; Embick, Marantz, Miyashita, O’Neil, & Sakai, 2000;

Just, Carpenter, Keller, Eddy, & Thulborn, 1996; Ni et al., 2000; Stromswold, Caplan, Alpert, &

Rauch, 1996, Wang et al., 2008; Rodd, Vitello, Woollams, & Adank, 2015), 意味処理は左半球の 側 頭 葉 と 頭 頂 小 葉 と 関 わ っ て い る (Bookheimer, 2002; Friederici, Rüschemeyer, Hahne, &

Fiebach, 2003; Kuperberg et al., 2000; Ni et al., 2000; Humphries, Binder, Medler, & Liebenthal,

2006) ことが多くの先行研究によって報告されている。なお, 統語処理と意味処理は主に左

半球の下前頭回と側頭回, 頭頂葉に関わっているが, 右半球の対応する部位が関与する場 合もある。例えば, 統語処理によって両側の下前頭回の賦活が引き起こされることもしばし ば報告されている(例, Ni et al., 2000)。意味予測は, 左半球の側頭回と頭頂葉とのみではなら ず, 右半球のこれらの部位とも関与することが報告されている(Bonhage, Mueller, Friederici,

& Fiebach, 2015)。

ドキュメント内 著者 趙 立翠 (ページ 45-49)