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目的

ドキュメント内 著者 趙 立翠 (ページ 90-93)

3. 中国語母語話者と日本語母語話者の共起表現の心的処理に関する言語認知脳科学的研究

3.1. 実験 2-1 中国語母語話者と日本語母語話者の共起表現の処理パターンの違いに関する研究

3.1.1. 目的

第2章で日本語文処理における統語処理と意味処理の関係を見た。統語規則によって個々 の単語の概念を組み合わせるだけでは効率的に理解できない文もある。例えば, 「花のよう な笑顔」のような比喩表現, 「お疲れ様です」のような決まり文句, 「猿も木から落ちる」

のような慣用句が含まれる文である。

「猿も木から落ちる」のような慣用句を含む共起表現は全体的に処理されており, 統語規 則によって個々の単語の概念を組み合わせて理解することが求められる「猫も木から落ち る」のような創造的表現とは処理経路が異なると仮定されている(Kempler & Van Lancker, 1993; Kuiper, 2009; Van Lancker Sidtis, 1973, 2004, 2008, 2012; Wray, 2002; Wray & Perkins,

2000)。これは二重ルートモデルと呼ばれている。このモデルは, 共起表現は全体的に処理

され, 創造的表現は分析的に処理されることを仮定している。このことはまた, 共起表現は

処理」であるとの仮定は実証されていない(Siyanova-Chanturia, 2015)。このため, 二重ルート モデルの検証は, 実質的には, 共起表現のほうが創造的表現より処理優位性がある(表現全 体が優先的に理解されるはずだ)との仮定に基づいて行われている。

共起表現には慣用句(例, blow the gaff, 日本語訳:秘密をばらす), 制約的コロケーション (例, blow a fuse, 日本語訳:ヒューズを飛ばす), 自由句(例, blow a trumpet, 日本語訳:トラン ペットを吹く)がある(Howarth, 1998b)。母語話者を対象とする実験においては, 慣用句も自 由句も創造的表現より処理優位性があるという結果が得られている。L2学習者を対象とす る実験においては, 自由句が創造的表現より処理優位性があるのに対し, 慣用句が創造的 表現より処理優位性がないという結果が得られている。L2学習者にとって, 制約的コロケ ーションは習得が難しいと言われている(Nesselhauf, 2005)。中国語をL1とする日本語学習 者も例外ではない(劉, 2018)。しかし, L2学習者が脳内でどのように制約的コロケーション を処理しているか, L2学習者の心的処理過程は母語話者とどのような違いがあるかを解明 する研究は見られていない。

実験2-1では, 日本語の制約的コロケーション(例, 焦点を絞る)に焦点を当てる。日本語 母語話者だけではなく, 中国語母語の日本語学習者も二重ルートモデルが予測していると おりに, 創造的表現より制約的コロケーションを処理するほうが, 処理優位性があるかに ついて検証する。L2学習者の心的処理過程を見ることによって, 彼らにとって制約的コロ ケーションの習得が難しい本質的な原因を究明できる可能性がある。この目的を達成する ために, 課題遂行中の参加者の反応時間と脳活動を測定する。

日本語は典型的なプロドロップ言語(pro-drop language)であり, 主語を省略することは珍 しくない。このため, 本研究のような名詞句と他動詞からなる刺激文は, 主語が省略された 日本語の単文と言える。したがって, これらの刺激文を処理するプロセスは, 普通の日本語 文を処理するプロセスと同じだと考えられる(Yano, Suzuki, & Koizumi, 2018)。よって, 本実 験は, 普通の文理解のメカニズムに基づいて予測を立てる。

Hagoort (2005) によると, 普通の文を理解するためには, 読み手はまずそれぞれの文を構 成する個々の単語の意味を心的辞書から検索し, それからこれらの個々の単語の意味を一 貫した意味に統合する必要がある。この文理解過程では予測が大きな役割を果たしている。

具体的には読み手は常にコンテキストに基づいて, この後に出てくる単語について予測し ているということである。出てくる単語と予測していた単語が一致する場合は意味統合が 容易になり, 出てくる単語と予測していた単語が一致しない場合は意味統合が困難になる と考えられる(Hagoort, Brown, & Osterhout, 1999)。後者の場合, 過剰な意味統合処理過程によ って意味理解する必要がある(Franzmeier, Hutton, & Ferstl, 2012)。

fMRIを用いた脳機能研究では, 前頭-側頭領域の脳活動が意味統合処理に関わっており, 意味統合の程度によって脳活動が変化することが分かっている。具体的には, 語結合の最後 の単語の予測可能性が低い場合, あるいは予測不可能の場合, 意味統合の難易度が高くな り, 脳活動も高まる (Baumgaertner, Weiller, & Büchel, 2002; Hartwigsen et al., 2017; Zhu et al.,

2013)。本実験では, fMRIではなくfNIRSを利用する。fNIRSは, 近赤外線を利用して脳内

血流変化を測定する装置であり, fMRIと比べて皮質表面の測定しか行えないものの, 局部 脳血流測定においてfMRIと一致性を示している(Mehta & Parasuraman, 2013, Quaresima et al., 2012; Lloyd-Fox et al., 2010)。

本実験では, fMRIを用いた先行研究に基づいて意味統合難易度の異なる3条件の刺激文 を用意した。制約的コロケーション, 創造的表現, 意味逸脱句である(刺激材料の項を参照)。 意味統合難易度に比例し, その課題反応時間も制約的コロケーション, 創造的表現, 意味逸

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