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目的

ドキュメント内 著者 趙 立翠 (ページ 51-54)

2. 中国語母語話者と日本語母語話者の日本語文処理に関する言語認知脳科学的研究

2.1. 実験 1-1 黙読課題時における統語処理と意味処理の関係に関する研究

2.1.1. 目的

言語心理学では, 統語範疇などの統語処理が意味統合処理より優先的に行われるかどう か, つまり統語処理に優位性があるかどうかはよく議論されるテーマの一つになっている (Li, 1996; Kim & Osterhout, 2005; Ye, Luo, Friederici, & Zhou, 2006; Friederici & Weissenborn 2007; Yu & Zhang, 2008)。系列モデル(Frazier, 1987; Frazier & Fodor, 1978; Friederici, 1995)や神 経認知モデル(Friederici, 2002)などのモデルは, 統語処理がうまく行われないと意味処理が 阻害されるが, 意味処理が正しく行われなくとも統語処理は影響されないと主張している (趙・小島, 2018; Zhao, Yasunaga, Irie, Kojima, in revision)。一方, 並列モデル(Marslen-Wilson &

Tyler, 1980; McClelland & Rumelhart, 1981) や 制 約 依 存 モ デ ル(constraint-based model) (MacDonald, Pearlmutter, & Seidenberg, 1994) などのモデルは, 統語処理がうまく行われなく とも意味処理は影響されないと主張している。

しかしながら, 統語処理優位仮説は, ドイツ語などのインドヨーロッパ言語を対象とし た 研 究 に 基 づ い て お り(Friederici, Steinhouer, & Frisch, 1999; Hahne & Friederici, 2002;

Friederici, Gunter, Hahne, & Mauth, 2004; but see Demiral, Schlesewsky, &

25本研究の内容はZhao, L., Yasunaga, D., Irie, K., & Kojima, H. (in revision). Cortical activation corresponding to the primacy of syntactic over semantic processing: A research using functional near-infrared spectroscopy (fNIRS).にまとめられた。

Bornkessel-Schlesewsky, 2008; Wolff, Schlesewsky, Hirotani, & Bornkessel-Schlesewsky, 2008), ほかの言語に注目した研究, 例えば, 中国語を対象とした研究では, 相反する結果が得られ て い る(Ye et al., 2006; Yu & Zhang, 2008; Liu, Li, Shu, Zhang, & Chen, 2010; Zhang, Yu, &

Boland, 2010; Zhang et al., 2013, Wang, Mo, Xiang, Xu, & Chen, 2013; Yang, Wu, & Zhou, 2015;

Zeng, Mao, & Lu, 2016; but see Ye, Zhan, & Zhou, 2007)。

中国語とドイツ語を対象とする研究結果の不一致の原因としては, 以下の2点が考えら れる。一つ目の可能性は, 中国語では統語的な特徴を形態で示すことが少ないことによると 考えられる(Yu & Zhang, 2008; Liu et al., 2010; Zhang et al., 2010; Zhang et al., 2013; Yang, Wang,

Chen, & Rayner, 2009)。ドイツ語を代表とするインドヨーロッパ言語には, 性, 数, 格などの

形態的な屈折変化によって統語情報を示しているのに対し, 中国語ではそれらの形態的な 屈折変化によって統語情報を示すことはあまりない。このため, 中国語母語の読者は, 形態 的な情報に基づいて文における単語の統語的役割を決める習慣が身についている可能性が 低い。二つ目の可能性は, 中国語とドイツ語の文字体系の違いによると考えられる。ドイツ 語では, 音声を表しているアルファベット文字が利用されている。中国語では, 意味を表し ている漢字が利用されている。先行研究によると, アルファベット文字と非アルファベット 文字を利用する人は異なる方法で言語処理をしているとある(例, Chen, Vaid, Bortfeld, &

Boas, 2008)。このように, 形態統語面からも文字体系からも中国語とドイツ語は大きく異な

る言語の特徴を有している。統語処理優位であるかどうかが言語の特徴の違いによるもの だとしたら, ドイツ語, 中国語以外の言語からより多くの実証データを集める必要がある。

日本語は研究対象とすべき一つの有力な言語候補となる。その理由としては, 以下の2点 が考えられる。一つ目は, ドイツ語と同じように, 日本語も形態統語的な特徴が顕著な言語

おり, ドイツ語とは異なり中国語と同じく非アルファベット言語である。日本語は「両極端」

といえる中国語とドイツ語の類似する点と相違する点があるため,「統語処理優位であるか どうかは言語によって異なるのではないか」という疑問の答えを探す良き道具になると考 えられ, 日本語を研究対象とすることにより言語処理の普遍性や特異性を探ることもでき る。

統語処理優位性に関する検討は, EEG計測のような電気生理学的手法がよく利用されて きた。これらの研究では, 単語ごとの処理に対応する脳波を取得できるように, 文を一単語 ずつ継時的に呈示する方法がよく用いられている。例えば, Friederici et al. (1999)は「Das(The, この) Haus(house, 家) wurde(was, は) bald(soon, すぐに) gebaut(built, 建てられた)」を一単語 ずつ呈示した。この呈示方法は, ワーキングメモリに負担をかける可能性が高く, 日常的な 読み活動とはかけ離れている。本研究はEEGではなく, 機能的近赤外分光法 (fNIRS)という 脳機能イメージング手法を用いる。fNIRSは, 頭皮上の局所脳血流変化を計測する手段で, 非侵襲的で体動等より受ける影響が少ないなどの利点がある。木下(2011)によると, fNIRS は文をそのまま呈示し, 実際の言語使用環境に比較的近い状態で脳活動を測定できるとい う利点がある。

さらに, fNIRS の空間解像度はEEGより高く (Mehta & Parasuraman, 2013), 時間解像度は fMRIよ り高 い (Boas, Elwell, Ferrari, & Taga, 2014; Cutini, Scatturin, Moro, & Zorzi, 2014)。

fNIRS は脳の表層部分の脳血流変化しか測定できず, 深層部位まで測定できないが, 局所

脳血流変化を計測する際には, fMRI データと高い相関性を示している(Strangman, Boas, &

Sutton, 2002; Strangman, Culver, Thompson, & Boas, 2002)。本研究ではfNIRSを利用し, 統語 処理と意味処理にかかわる典型的な大脳部位の賦活状況を計測することによって, 日本語 において統語処理が優位であるかどうかについて探求する。

統語処理が失敗しても意味処理が行われるかどうかは, 統語処理優位であるかどうかを 決める決定的な要因である(Friederici et al., 1999)。本研究は彼らの論理に基づき日本語文処 理過程において, 統語処理が意味処理より優先的に行われるかどうかを検証する。

本研究では, 正しい文(CON), 意味逸脱文 (V-SEM), および統語逸脱文 (V-SYN)を用意し (刺激材料の項を参照), 3条件の刺激材料を読む際の脳活動を計測し分析することによって, 日本語が統語処理優位性をもつかどうかを探る。

ドキュメント内 著者 趙 立翠 (ページ 51-54)