第5章 メディア・リテラシー教育のカリキュラム開発
6.1. 研究の成果
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終章 研究の成果と今後の課題
日本の現代社会では,子どもたちは生まれた時から様々なメディアに囲まれ,便利に暮 らしている。しかし,同時に子どもたちがメディアに関する問題の当事者にもなりうる。
本研究では,近年重要性が増しているメディア・リテラシー,とりわけ小学生 にメディア・
リテラシーを育成するための新教科のカリキュラム開発に焦点を当てて取組んできた。
終章では,本研究の成果をまとめ,本研究の限界と今後の課題について述べる。そして,
最後に,小学校におけるメディア・リテラシー教育の今後の展望を論じる。
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6.1.1. 成果のまとめ
(1)現代の日本でのメディア・リテラシーの捉え方( 1 章)
日本の初等教育では,これまで 放送・視聴覚教育と社会学,そして教育工学等 多様な研 究領域でメディア・リテラシーについて研究が行われてきた。それ故,メディア・リテラ シーについても様々な捉え方がなされている。そこで,まずそれらの系譜を整理し,図式 化を行った。次に,メディア・リテラシー 教育における「批判的思考」について検討した。
森本が言うように,メディア・リテラシー教育の理論的要素の中で,中核となるのは「批 判的な視点」(森本 ,2014,p.248)であり,メディア・リテラシー教育は「批判的思考」に 重点を当てて実践されていることが多い。本研究では,メディア・リテラシー 教育におけ る「批判的思考」 は「否定的にではなく,メディアの意図を深く読み解いたり,多様な視 点で客観的に分析したり,解釈したりして思考(内省)するということである」と,捉え た。そして,多様な先行研究の知見や日本の主な定義を俯瞰す ることによって明らかにな った現代のメディア・リテラシーを,中橋の定義に則り,「メディアの意味と特性を理解し た上で,受け手として情報を読み解き,送り手として情報を表現・発信するとともに,メ ディアのあり方を考え,行動していくことができる能力のことである」(中橋 ,2014,p.3)
と考えた。そして,メディア・リテラシーの構成要素についての先行研究の知見を包括的 に受け継ぎつつ,現代の日本の新しいメディア環境に対応できるメディア・リテラシーの 構成要素を整理した。本研究におけるメディア・リテラシーの構成要素は,「受け手 の批判 的思考力」「送り手の批判的思考力」「メディアと関わる知識と技能」の3つとし,分析の 視点として研究を進めた。
(2) メディア・リテラシー教育の学校教育での普及についての検討 (2章・3章・4章 )
2点目の課題は,メディア・リテラシー教育の学校教育での普及についての検討である。現代の日本の学校教育,とりわけ小学校では,その重要性にも関わらず,メディア・リテ ラシー教育が十分実践され,普及しているという状況には至っていない。それは,学習指 導要領に「メディア・リテラシー」という文言が使われていないために,社 会や教員に認 知されていないからである。そこで,本研究では,日本の小学校でメディア・リテラシー を育成するための教科を新設し,「メディア・リテラシー」に関する学習指導要領を作成す
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ると,公教育でメディア・リテラシー教育を今以上に普及させることができると考えた。
そこで,まず2章で,公教育で行うメディア・リテラシー教育のカリキュラムを開発す る際の留意点を得るために,海外での先行研究の検討を行った。 メディア・リテラシー教 育を公教育にカリキュラムとして正式に位置づけ,実践を行っているイギリスとカナダ,
そしてオーストラ リアのメディア・リテラシー教育のカリキュラムを比較し,日本のメデ ィア・リテラシー教育のカリキュラムを開発する上での留意点について検討した。イギリ スはナショナル・カリキュラム・ BFI(British Film Institute 英国映画協会)について , カナダはオンタリオ州のカリキュラムについて,そしてオーストラリアは西オーストラリ ア州 の カリ キ ュ ラム に つい て 分析 し た 。そ れ ぞれ の カリ キ ュ ラム に つい て 「導 入 の 経緯」
「指導者」「指導学年」「カリキュラムの内容」「優れている点(日本で生かせる部分)と課 題」の5つの観点 から整理した。海外のメディア・リテラシー教育のカリキュラム比較か ら,カリキュラム開発の留意点は,「長期的であること」,「批判的思考を系統的に教えるこ と」,「母国語の教科(国語)を中心に教科横断的に教えること」,「教員養成や教員研修を 推進すること」の4点であることがわかった。この留意点をもとに,現代の小学校におけ るメディア・リテラシー教育の現状を検討した結果,現在の日本の小学校で,メディア・
リテラシー教育を普及させるためには,「1年から6年までの長期的で,批判的思考を系統 的に教える」メディア・リテラシーを育成 するためのカリキュラムを開発することが必要 であることが分かった。
3章では, メディア・リテラシー教育の学校教育での普及についての2つ目の検討を行 った。現代の学校教育でのメディア・リテラシー教育への理解や支援の不足から,日本の 小学校教員がメディア・リテラシー教育を実践しようとする時に,独学で実践せざるをえ なくなっている。これが,メディア・リテラシー教育が学校教育で普及しない理由の2つ 目である。そこで,日本の小学校教員が独学でメディア・リテラシー教育を実践する時に,
手にするであろう メディア・リテラシーに関する 書籍が実践報告を通じて伝えているメデ ィア・リテラシーのイメージの範囲を明らかにすることによって,日本のメディア・リテ ラシー教育の実践の現状を検討 した。対象とした実践報告に対し,(1)単元の内容は発達段 階ごとに特徴があるか,(2)実践数は発達段階ごとに特徴があるか, (3)実施教科・領域に はどのような特徴があるか, (4)どのような能力を育もうとしているか, (5)能力項目ごと の活動数の割合に特徴があるか,について分析を行った。その結果,単元,実践数,実施 教科・領域等に関わる特徴を明らかにできた。また,実践報告を「 活動」の単位で細分化
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して活動ごとに育まれる能力項目にラベルを付与し,それらの関連を検討してカテゴリー を生成した結果,[内容を理解する能力][表現の意図を読み解く能力][表現の工夫に気付 く能力][感想をもつ能力][企画・進行する能力][取材・調査能力][ 表現・制作・発 表・
発信する能力][自分の作品を評価する能力][機器・ソフトの操作能力][メディアの特性 に気付く能力][メディアとの関わりを意識する能力]といった 11 のラベルと3つのカテ ゴリー「受け手の思考力」「送り手の思考力」「メディアと関わる知識と技能」を抽 出でき た。対象とした書籍に掲載されている実践事例を参考にした場合に,このような枠組の範 囲内でメディア・リテラシーのイメージが形成される可能性があることがわかった。1章 で,本研究のメディア・リテラシーの構成要素を「受け手の批判的思考力」「送り手の批 判 的思考力」「メディアと関わる知識と技能」とした。その3つの構成要素が,3章におけ る 書籍に掲載されている実践事例を参考にした場合のメディア・リテラシーのイメージのカ テゴリーと捉え方が適合しており,構成要素を分析の視点として,5章でカリキュラムを 開発することとした。
続いて,メディア・リテラシー教育の学校教育での普及についての3つ目の検討として,
現行の学習指導要領に「メディア・リテラシー」という文言がないため,学校教育でメデ ィア・リテラシー教育を十分行えていない日本の現状から,4章では,メディア・リテラ シーの要素について,3つの構成要素を視点として,現行の学習指導要領を検討・整理し た。これは,教員がメディア・リテラシー教育を学校教育で実践する際の参考となり,メ ディア・リテラシー教育が学校教育で普及する一助となるものである。そこで,2008 年度 に改訂された小学校の学習指 導要領の各教科の目標について,メディア・リテラシーを育 成できる要素を検討し,教科ごとに表に整理した。学習指導要領の各教科の目標を本研究 のメディア・リテラシーの3つの構成要素「受け手の批判的思考力」「送り手の批判的思考 力」「メディアと関わる知識と技能」で整理したところ,多くのメディア・リテラシーを 育 成できる要素があることが明らかになった。また,小学校と接合している幼稚園の教育要 領及び中学校の学習指導要領についても,メディア・リテラシーの要素について同様に検 討・整理した。すると,幼稚園及び中学校でも,メディア・ リテラシーは現代社会で求め られる大切なコミュニケーション能力であるので,多くのメディア・リテラシーを育成で きる要素があることが明らかになった。この整理によって学習指導要領に記載されている メディア・リテラシーの要素は,各教科でメディア・リテラシーをどの単元でどのように 育成できるかを教員が意識でき,カリキュラム開発の時に参考となった。これは,現行の