• 検索結果がありません。

本章の研究の結果と考察

ドキュメント内 学位授与機関 関西大学 (ページ 98-138)

第5章 メディア・リテラシー教育のカリキュラム開発

5.4. 本章の研究の結果と考察

本節では,カリキュラム開発のうちの「カリキュラムの設計」から始め,「学習指導要領

(試案)」を作成し,実践した様子と振り返りまでについて述べる。

5.4.1. カリキュラムの設計 (1) 先行研究の共通理解

本校では,本研究を始めるまでは,メディアを活用する教育活動は行っていたが,メデ ィアの意味や特性を考えさせる教育活動は行っていなかった。そこで,校長と全教員とで メディア・リテラシーについての先行研究の共通理解を図るために研修会を行った。まず,

教員は校長である筆者からメディア・リテラシー教育の歴史(市川 ,1997;佐賀,1998 等)

について学んだ。その源流はイギリスのメディア教育(小柳ら ,2002;村上,2008)で,メ ディア・リテラシー教育を世界中に広めたのはユネスコ である(木原,1995)ことも学んだ。

教員相互で,その他の先行研究(水越伸 ,1999;菅谷,2000;鈴木,2001;堀田,2004 等)に も当たり,メディア・リテラシーについての共通理解を図った。

(2) 研究体制の整備と研究委員会の役割

研究委員会を,各学年2クラスで2名の担任から1名の教員,校長,副校長,教頭,教 務主任,研究主任で,図5-2のように構成し,研究の方向性や内容の議論,そして新教 科「MC」の目標の設定,さらに「MC」のカリキュラムの開発・運営にあたった。

研究委員会では,まず,現在のメディアを巡る社会情勢と本校児童の実態や次代を生き る子どもたちに必要な力を検討し,研究の方向性について議論した。そして,授業実践を 行うための新教科「MC」の目標を設定し,その内容を提示している学習指導要領(試案)

の作成を行った。さらに,授業実践を日々続ける中で,各学年で設計された学習単元の内 容の検討,そしてそれらをもとに設計したカリキュラムの内容や系統性について議論や検 討を重ねた。その議論を通して,「子どもたちにつけたい 力」や「 学ぶべ き事項」の整理 ・ 検討を行い,「MC」の目標や内容,そして学習指導要領(試案)の検討等を行った。

授業研究会は,1か月に1回程度, 研究委員会のメンバーと共に全教員,外部講師で行 い,各学年で設計した学習単元をもとに授業提案を行い,授業での子どもたちの様子や学 習単元の内容について,PDCA サイクルで検討し,分析を行った。そして,各学年の設計し た学習単元を合わせた「MC」のカリキュラム案を設計した。

新教科の開発を行うに当たって,校内の研究体制を図5-2のように整えた。

93

研究委員会 校 長

副校長 教 頭 教務主任 研究主任

授業実践・授業評価

図5−2 「MC」研究委員会の組織

(3) 「MC」の目標

2011 年の4月当初,図5—2に示した研究委員会のメンバーで,「MC」の目標を検討し た。まず,本校の児童の状況や実態を研究委員会で出し合った。

子どもたちを取り巻くメディア社会の状況は,

・社会全体がネットワークで結ばれ,情報を簡単に送受信できる

・家庭はメディアに囲まれ,便利な生活を営んでいる

・不適切な情報通信や悪意のある情報がある 等である。

また,本校の児童 は,以下のような実態であることが分かった。

・校区が広く携帯電話所持率が 60%以上と高い(低学年でも半数以上の児童が自分用の携 帯電話を持っている)

・ICT を活用した授業が多く行われているので,児童の ICT スキルが高い

年 研 究 担 当

2 年 研 究 担 当

3 年 研 究 担 当

4 年 研 究 担 当

1 年 担 任

3 年 担 任 2

年 担 任

4 年 担 任

5 年 担 任

6 年 担 任 5

年 研 究 担 当

94

・子どもらしく素直である

こうした実態から,不適切な情報通信や悪意のある情報を読み解くことができるように,

また適切な情報発信ができるように,批判的に思考することが本校児童には必要になるこ とが明らかになった。

次に,研究委員会では,次代を担う子どもたちにとってどのような学びが必要であるの か,情報社会を生きるために必要な力とは何かについて議論した。 SNS 等の新しいメディ アの出現によって,次代を担う子どもたちに必要とされる力も変化してきているからであ る。その結果,研究委員会では,以下の5点が子どもたちにつけたい力であると考えた。

①相手を意識する力 → 相手の存在を意識し,その立場や状況を考える力

②メディアや情報を選ぶ力 → メディアのもつ特性を理解し,必要に応じて得られ た情報を取捨選択する力

③批判的に思考する力 → 批判的に情報を読み解き ,分析的に思考する力

④目的に合わせてメディアを活用する力 → 情報を整理し,目的に応じて正しくメ ディアを活用する力

⑤責任をもって発信する力 → メディアや情報が社会に与える影響を理解し,責任 をもって適切な発信表現ができる力

さらに,これらの5点の子どもたちにつけたい力をもとに,1章で検討したメディア・

リテラシーの捉え方である3つの構成要素「受け手の批判的思考力」「送り手の批判的思考 力」「メディアと関わる知識と技能」とどのように関連しているかに ついて検討した。

以上の 検討を もとに 研 究委員 会では ,新教 科 「MC 」の目 標を以 下 の よ う に 設 定 し た 。 「社会生活の中から生まれる疑問や課題に対し,メディアの特性を理解したうえで情報を 収集し,批判的に読み解き,整理しながら自らの考えを構築し,相手を意識しながら発信 できる能力と,考えを伝えあい・深めあおうとする態度を育てる」

(4) 新教科の評価の観点

評価の観点については,他の教科とは異なる設定を行った。他の教科では,本カリキュ ラムの3つ目の観点,「知識・理解・技能」を「知識・理解」と「技能」に分けており,「 関 心・意欲・態度」「技能」「思考・判断・表現」「知識・理解」の4観点となっている。しか

95

し,「MC」においては,メディアを活用する時に,「知識・理解」と「技能」の両方がな いと評価ができないので,合わせて3つ目の観点とし,「関心・意欲・態度」「 思考・判断 ・ 表現」「知識・理解・技能」の3観点とした。

表5―1は,目標をもとに検討した学習評価の観点及びその趣旨である。

表5—1 学習評価の観点及びその趣旨

(京都教育大学附属桃山小学校 ,2013)

観点 趣旨

メ デ ィ ア 活 用 へ の 関心・意欲・態度

メディアの特長や役割に関心を持ち,社会生活の中から生まれる疑 問や課題を解決するためにすすんでメディアを活用し,互いの考え を伝えあい,深めあおうとする。

メ デ ィ ア 活 用 の 思 考・判断・表現

社会生活の中から疑問や課題を見いだし,メディアを活用して調べ たり,批判的に読み解いたりしながら,自らの考えを構築するとと もに,メディアの特性と伝える相手を意識し,メディアを選択・活 用して適切に表現している。

メ デ ィ ア 活 用 に 関 する知識・理解・技 能

メディアの長短所を理解し,活用するために必要な基礎的な知識と 技能を身に付けている。また,メディアが 社会や相手に与える影響 を理解し,情報をやり取りする上での基本的なルールやマナーを身 に付けている。

なお , 他 教科 同 様,「 思考 ・ 判 断」 の 観点 は ,目 に 見 えな い 子ど も の「 思 考 」を 扱 うこ ととなり,単純にプリントや発言で見取ることは非常に困難である。そのため,「思考」し

「判断」した結果が「表現」されるという立場に立ち,表現されたものを見ながらも,そ の過程における子どもたちの「学びの姿」を捉え,評価することとした。

「MC」の評価において注意すべき点は,メディアを活用して自らの考えを「表現」し ていくためには,そのメディアを活用していくための基本的な「技能」や社会のルールと いった「知識」が求められるという点である。そのため,「思考し,判断した結果として現 れる表現(物)」については「メディア活用についての思考・判断・表現」で,それに伴っ て必要と考えられるメディア操作の技能については「メディア活用に関する知識・理解・

技能」で評価することとする。なお,メディアに関する知識や操作技能は,情報を集めた り,自らの考えを表現したりするための必要な手段でしかなく,機器操作のみで完結する ものではない。そのため,「評価の観点及びその趣旨」に示す観点については一体的に指導 されるものであるという点に留意した。

96

「MC」では,子どもたちの学びの実態を,授業実践を通して教員が観察すると共に,

パフォーマンスやポートフォリオで評価し,さらに授業後の子どもたちの自己評価やアン ケー ト 調 査の 結 果 を形 成的 に 評 価し て い く。 パフ ォ ー マン ス 評 価は ,文 部 科 学省が 2010 年 5 月に改訂した指導要録で推奨している評価法で,「学び得たことを様々なメディアを使 って表現させる方式を採る」(田中 ,2011,p.14)というメディアを通じてのパフォーマンス によって学びを評価するもの である。この評価は,「『目標に準拠した評価』の中で,主張 された」(田中 ,2011,p.9)ものである。また,「ポートフォリオ評価法は,子どもが学習 の過程で生み出す作品を系統的または長期的に収集することによって,子どもの自己評価 を促すもの」(西岡,1999,p.48)で,子どもの理解を深く評価できる評価法である。自己評 価は,「子どもたちが自分で自分の人となりや学習の状態を評価し,それによって得た情報 によって自分を確認し今後の学習や行動を調整する」(田中 ,2008,p.125)ことであり,学 習の改善に役立つ評価 法である。これらは,メディア・リテラシーを育成するという目標 について,メディアを通じて評価するので,新教科の評価には適している。

また研究方法は,授業実践を通して,授業で子どもたちが分かったことを明らかにしな がら,アンケート調査の結果と合わせて考察する方法をとることにした。

(5) 教育課程表

新教科を開発する際に,各学年週 1 時間ずつの 35 時間で教育課程を設定した(1年は 34 時間)。なぜなら,学習指導要領の教育課程では年間 35 時間の倍数で教科の時数が設定 されることが多く,新教科をこれまでの教育課程に入れ込 むには,年間 35 時間の倍数で設 定するとスムーズに計画が進むからである。もちろん,学習指導要領では,「時間の弾力的 運用」が認められているので,45 分の1単位時間をいくつかのモジュールに分けて再構成 することも可能であり,連続2時間授業を行い翌週は行わないということもできる。週2 時間の各学年 70 時間で教育課程を計画するという考え方もあったが,他教科を削減するこ と等が難しく,設定上負担がかかることにもなるため,本研究では年間 35 時間で教育課程 を組むことにした。

次に掲げた(表5—2)ように,「MC」では,低学年 (1,2年)は内容が似ていて時 間数の多い「国語」から,中学年(3,4年)は内容が似ている「総合的な学習の時間」か ら時間を振り替えている。高学年 (5,6年)は週 28 時間を 35 週行うのが標準であるが,

週あたりの時間数を1時間純増した。

ドキュメント内 学位授与機関 関西大学 (ページ 98-138)

関連したドキュメント