第5章 メディア・リテラシー教育のカリキュラム開発
5.5. 本章の成果と課題
本章では,本研究の3点目の課題である「メディア・リテラシー教育の具体的展開で求 められる内容」の 検討を行ってきた。これまで初等教育におけるメディア・リテラシー教 育は,独立した教科ではなかったため,現代社会で求められているメディア・リテラシー を子どもたちに育てることは難しかった。メディア・リテラシー教育の普及に向けて新教 科「MC」のカリキュラム開発での成果と課題について論じる。
5.5.1. 研究の成果 (1) カリキュラムの開発
メディア・リテラシーを育てる教育を行うに当たって,教科を新設するのではなく,各 教科の中でメディア・リテラシーを育てる教育を教科横断的に行うという考え方もあるが,
教育実践がまとまりのないものになってしまうことが多い。また,新教科を開発する中で,
教科の目標で評価できることから,1章で課題として残っていた評価の二重性についても クリアすることができる。そのような中で,本研究で,メディア・リテラシーを育てる新 教科の開発ができたことは大きな成果である。本研究で明らかになった現代社会に求めら れているメディア・リテラシ ーの3つの構成要素,「受け手の批判的思考力」「送り手の批
133
判的思考力」「メディアと関わる知識と技能」を分析の視点とし,本章で行った新教科「M C」の学習指導要領(試案)の作成と,各学年の学習単元をまとめたカリキュラムの設計 を行うことができた。また, 新教科「MC」では,「関心・意欲・態度」「思考・判断・表 現」「知識・理解・技能」の3観点での学習評価を提案し,「評価規準表」を示すことがで きた。評価の方法については,メディア・リテラシー教育に適している パフォーマンス評 価やポートフォリオ評価,授業後の子どもたちの自己評 価やアンケート調査の結果をもと に形成的に評価を 行うことができた。
(2) 体系的なカリキュラムの提示
体 系的 な カ リ キュ ラ ム を 開発 す る た めに , ア ク ショ ン ・ リ サー チ 法 で , 2011 年 度か ら 3年間で開発,そして試行・分析・改善を図ってきた。カリキュラムの改善において,以 下の3点の検討に基づき変更を行った。
1点目は,「学びの系統性」を検討した結果による変更である。例えば,4つのメディ ア 形態の(3)動画・音声系において,3年で「 BGM でつたえよう」を新設した。この変更は,
2年の効果音の学習から3年の BGM の学習につなげ,4年のプレゼンテーションにつなげ たいという系統性の検討から行われたものである。また,同じ学年内で,1年間の学びの 連続性を検討し,改善を図った。4年では「目指せ!調べる達人」「目指せ!プレゼンテー ションの達人」「目指せ!プレゼンテーションの達人(録画)」の「達人シリーズ」に全面 改訂した。これは,いろいろな角度から情報の受け手と送り手の活動を行うよりも,調べ ることからプレゼンテーションを行うという1年間の学習の流れに一貫性をもたせるため である。5年の単元も同じ考え方のもと,「問答」の連続で批判的思 考力を育成できるよう な構成に改訂した。
2点目は,「1学年 35 時間の配当を大切につかうため」の変更である。「MC」では,
1学年 35 時間の配当を大切につかうため,例えば 2 年では「めざせ! スピーチ名人」は 廃止した。配当時間は限られており, 2011 年度は「めざせ! スピーチ名人」「見て! さ わって! 調べて!」「効果音を使って場面の様子を伝えよう」「みんなにみてもらおう!紙 しばい」の4つの単元を開発したが,1つの単元内容を充実したものにするために, 1 学 年の単元数を3つに限定した。その検討の中で,スピー チは 1 年でも行う学習内容である ので,2年では廃止することにした。
3点目は,「メディアへの焦点化による単元名」の変更である。「MC」の学習内容は変
134
更しないが,「MC」としてのメディアの系統性に焦点を当てようということになり,単元 名の変更を行った。例えば, 2012 年度の1年の「くふうして つたえよう」は,2013 年度 で「メディアをつかってつたえよう」に変更した。また6年は,2012 年度の「体験したこ とを伝えよう~臨海学習~」は,2013 年度には「つゆくさネットワーク〜校内 LAN でつた えよう〜」に変更した。
このようにして,アクション・リサーチで改善したMCのカリキュラムには,2013 年に は各学年3個ずつ 18 個のメディア・リテラシーを系統的に育成する単元ができた。
(3) 学習の深化
「MC」という教科の枠組で,継続的にまた系統的に実践した結果,「学習の深化」が得 られた。例えば,1年の「MC」のスピーチの学習は,教員に指示された準備物によるも のから,話の内容によって子どもたちが何を活用すれば話がクラスの子どもたちに伝わり やすいかを考えるものになっていった。
2011 年度の1年の「もっとしりたい みんなのこと」という「MC」の学習単元は,メ ディア形態(1)対面系でのスピーチの単元である。1年でのスピーチのメディアは,子ど もが話す言葉のみで行われた。送り手としては,相手のことを考えて,どのような声の大 きさや話し方をすれば,よく伝わるかを考えて話すことをねらいとしていた。また,受け 手としては,送り手がどのような内容を伝えるのかを聞き取ることをねらいとする学習内 容であった。2012 年度の1年のスピーチは,実物を伴うものになった。実物があることに よっ て ,話 の 内容 が 相 手に 伝 わり や す くな る だろ う とい う 子 ども の 考え に よる も の であ っ た。2013 年度の1年のスピーチは,写真を書画カメラに映して行うものとなった。内容に 対応したメディアを使いたいという子どもたちからの要望で,スピーチの時間にはどのよ うなメディアを用意しても良いことになった。
「MC」の学習は,教員に指示された準備物によるものから,話の内容によって子ども たちが何を使えば話がクラスの子どもたちに伝わりやすいかを考えるものになっていった。
1 年の子どもたちが情報の受け手のことを考えて様々なメディアを活用する選択肢が増え たこ と は, 今 後 の彼 ら の「 M C」 の 学 習や 人 生に と っ て 意 味 のあ る こと で ある 。 こ れは,
「MC」という教科の枠組で継続的に実践したからこそ得られた成果である。メディアが あるから使うのではなく,伝えたいことがあるからこのメディアを選ぶという子どもが育 ったと言えるであろう。
135
5.5.2. 今後の課題
小学校においてメディア・リテラシーを育成する新教科「MC」のカリキュラムが開発 できたことは,大きな成果であるが,まだ3年間しか経っていないので,子どもたちの批 判的思考力の育成の検討や,より系統性を考えたカリキュラムへの改善が十分でない。本 校に入学して 1 年で「MC」と出会った子どもたちが6年間の「MC」の学習を経て,ど のように力がついていったのかという経年調査そして学習評価を続けていきたいと考えて いる。また,3年間という期限の中では,「真正の評価モデル」を示すまでには至らなかっ た。
京都教育大学附属桃山小学校は,申請により平成 30 年度まで国立教育政策研究所による 教育課程のプロジェクト研究で,教科としての取り組みを許可された。残りの期間で,よ り系統性を考えたカリキュラムに改善していきたいと考えている。
本校では,「MC」と内容的に重なりのある他教科との関係を検討してきた 。けれども,
「MC」と各教科のメディア・リテラシーを育てる要素を比較した教育内容の比較一覧表 をまとめるまでには至っていない。
以上,本章では,本研究の3点目の課題で, メディア・リテラシー教育の具体的展開で 求められる内容を具体的に 検討してきた。小学校教員がメディア・リテラシー教育を具体 的に展開していく時に,どのような内容を,どのような方法で行っていけばよいのか,実 践的に検討し,明らかにすることによって,現在の日本でのメディア・リテラシー教育の 課題に応えられると考えた。そこで,本章では,メディア・リテラシーに ついて教える新 教科として,「МC」のカリキュラムをどんな点に留意し,どのような経過で,どのような 方法で開発したか具体的に実践事例を交えて述べた。終章では,本章を踏まえて,本研究 全体の成果と課題,そして展望について述べ,まとめとしたい。
136
終章 研究の成果と今後の課題
日本の現代社会では,子どもたちは生まれた時から様々なメディアに囲まれ,便利に暮 らしている。しかし,同時に子どもたちがメディアに関する問題の当事者にもなりうる。
本研究では,近年重要性が増しているメディア・リテラシー,とりわけ小学生 にメディア・
リテラシーを育成するための新教科のカリキュラム開発に焦点を当てて取組んできた。
終章では,本研究の成果をまとめ,本研究の限界と今後の課題について述べる。そして,
最後に,小学校におけるメディア・リテラシー教育の今後の展望を論じる。