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スポーツ指導をおこなうボランティアに対する

知的障害者の意識

- 89 - 第一節 目的

一般的に子どもにとって充実した余暇生活を送ることは、充実した健全な人間形成に 大きく影響するものであり、生活の質を高めることにもつながる。それは障害者において も同様である。石黒ら(1999)は、保護者による調査から余暇活動に参加した知的障害児 が「自立の意識」「対人関係」の向上など、プラスの要素としての効果が現れていることを 示した。充実した余暇活動は生活になくてはならないものであるといえる。特に、スポー ツ活動は、自己の体調管理が困難である知的障害者にとって、充実した余暇を過ごすため の手段としてだけでなく、肥満対策や健康維持の手段としても重要な役割を果たす、有意 義な活動である。また、陶山(2006)は、障害者のスポーツ活動について、今や医療の手 段、リハビリテーションであるとともに、生涯スポーツ、レクリエーション、パラリンピ ックのようなエリートのスポーツとしての側面をもっているとし、生涯を通じたスポーツ の振興が大切であるとした。「障害者白書」の中でも、毎年、「スポーツ・文化芸術活動」

という項目が日々の暮らしの基盤づくりという章の中に盛り込まれていることからも、障 害者にとっての身体活動は単なるレクリエーションという枠を超え、自立・社会参加に繋 がる大きな要因であることが窺える(平成19年度版障害者白書110頁)。

しかし、スポーツ活動に取り組むことの意義は認められながらも、「障害者がスポーツに 親しみ、喜び楽しむ」ことの権利の享受に対する社会的認知や理解は歴史的にも浅く、支 援体制や受け皿がまだまだ少ないのが現状である(渡邊,2006.)。実際、我が国の知的障害 者の余暇の傾向としては、多くはテレビ観賞や音楽鑑賞など室内で過ごしており、運動・

スポーツ活動の機会が多くない現状にあることが報告されている(高畑・武蔵,1997、石黒 ら,1999、中山,2000)。特に、知的障害者は収入が少ないなどの経済的要因、会場の設備が 整っていないなどの物的環境要因、指導者がいないなどの人的環境要因などから、スポー ツ活動への参加が制限されている現状がある(望月,2007)。

このような社会背景から、これまでは、知的障害者のスポーツ活動は民間やボランティ アによって支えられてきた。近年は、地域のスポーツクラブや団体におけるボランティア の重要性が取りざたされており、我が国の代表的なスポーツ組織・団体の半数がボランテ ィアを活用している現状があるという(仲澤, 2002)。ボランティアが果たすことのできる 役割は大きく幅の広い活躍が期待されており(野村, 2002)、特に非営利のスポーツ組織に とっては、価値ある人的資源を有効に使うことが、組織の成功への 1 つの鍵となっている

(松岡・小笠原,2002)。元来ボランィアによって支えられてきた知的障害者のスポーツ活 動においては、一層ボランティアの活躍に期待する傾向が強い。

スポーツ活動を実施するため、ボランティアをいかに確保していくかという視点で、ボ ランティアの参加動機や継続意欲については、その実態を把握すべく研究がすすめられて きた。しかし、知的障害者のスポーツ活動において、実際にボランティアが知的障害者本 人からどのような認識をされているのか、またそれ故にどのような行動をすることが、よ り円滑なスポーツ活動の実施につながるのかということは実践的に明らかにはされていな

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い。ボランティアメンバーは一般市民の有志者によって構成されることが多いため、必ず しも全員がスポーツ活動に造詣が深いということは保証されていない。いくら余暇の充 実・肥満対策などの効果が期待できる活動であったとしても、知的障害者本人が、ボラン ティアという必ずしも専門性を備えているとは言い難い対象からスポーツ指導を受けるこ とに不都合を生じさせていないのか、この点を検討する必要があると考える。

よって本研究は、知的障害者のスポーツ活動において、知的障害者とボランティアとの 相互作用から、ボランティアは知的障害者からどのような認識をされているのかを明らか にし、ボランティアの効果的な活用方法について検討することを目的とする。

- 91 - 第二節 方法

第一項 研究方法と採択理由

本研究では、知的障害者がボランティアにどのような認識を持っているかを把握するた め、知的障害者とボランティアの接触場面を観察した。今回、スポーツ活動場面における 知的障害者とボランティアの相互作用を観察するため、知的障害者に年間を通じてスポー ツ活動を提供するボランティア団体である「スペシャルオリンピックス日本・青森(以下

SON・青森)」の協力を得た。観察の方法としては、観察者がフィールドとの関わりをもち

ながらデータを取る、参与観察法を採用した。理由としては、質問紙調査やインタビュー 調査では、調査対象の言語能力やその日の気分などによって、意見を十分に表現しきれな いことが考えられたことが挙げられる。また、見知らぬ人物があらたまって観察に来る場 合、少なからず視線を意識してしまったり、見られていることで緊張してしまったりと、

普段とは違った様子を見せてしまう可能性があることが懸念される。しかし、筆者は日頃 SO活動にボランティアとして参加しているため、行為者としても観察者としても、フィー ルドにいることが何ら違和感を与えるものではなく、むしろ、普段のようにスポーツ指導 を行わずに、観察に徹している方が、周囲からの注意を引いてしまうと考えられた。よっ て、普段のありのままの様子を観察するため、参与観察を採用した。

観察の期間は2008年1月から2009年9月までで、SON・青森での活動場面は41回で あった。具体的な場面としてはアルペンスキープログラム14回、バスケットボールプログ ラム13回、陸上競技プログラム6回、フットサル体験プログラム5回、食事会2回、レク リエーション1回である。スポーツ活動は全て1回の活動時間は2時間前後であり、トレ ーニング開始までの準備時間や、休憩時間、終了後の後片付けや雑談の時間における相互 作用についても観察の対象とした。

- 92 - 第二項 観察の対象と視点、及び分析

観察は、主に知的障害者とボランティアの相互作用場面についておこなった。観察及び 記述の基本的視点として、相互作用場面を可能な限り詳細にノートに記録することに留意 した。その際、知的障害者へのスポーツ指導、スポーツプログラムの進行を最優先し、ノ ートへの記録はプログラム終了後に行った。また、電子機器があると、観察対象の余計な 興味を引いてしまったり、緊張感を与えてしまうことが予想されたため、ビデオカメラや ICレコーダーなどの機器は用いなかった。

今回対象とした知的障害者は4名、ボランティアは5名である(図6-1)。

分析は、観察から得られた知的障害者と学生ボランティアとの相互作用場面の記述から、

特徴的なエピソードを抽出し、それぞれに解釈や検討を行った。観察対象の行動で確認が 必要と思われるものについては、保護者や他のボランティアに対して聞き取りを行った。

また、観察は、SON・青森、該当するスポーツプログラムの責任者、知的障害者の保護 者に対して許可を得ておこない、データの信頼性を確保するため、参与観察の際、誘導的 になってしまわないように通常通りスポーツ指導をするよう努めた。

図 6-1 抽出した対象者

- 93 - 第三節 結果と考察

第一項 ボランティアに対する個別評価の存在

観察から得られた知的障害者とボランティアとの相互作用場面の記述から、特徴的なエ ピソードを抽出し、それぞれに解釈や検討を行った。

その結果、スポーツプログラム中の知的障害者と大学生ボランティアとの相互作用のな かで、知的障害者が、指示を出した相手によって接し方や態度を変えているという場面が 観察できた。具体的には以下のような場面である。

エピソード①において C は、再三にわたるⓋY の指示には従わなかったのに対し、ⓋM からの指示にはすぐに従った。ここには明らかな違いが生じている。なぜC はⓋYの指示 に従わず、ⓋMの指示には従ったのだろうか。これに関しては、まずCはそもそもチェス トパスができないことやⓋYの指示が理解できていなかったことなどが考えられる。しかし、

エピソード①の前回のバスケットボールプログラム(2008年5月25 日)やエピソード① 以降もチェストパスができていたことが確認できている。また、Cは言語でのコミュニケー ションにおいては若干の吃音が有る程度で、理解については大きな困難はないこと、またC の力を考慮してパスの距離も無理のない範囲で設定していたことから、能力的なこととは 別の要因が考えられた。保護者によると、最近お気に入りのアニメキャラクターの影響を 受けているということであったが、C がその素振りを見せたのはこの 2 回目のプログラム のみであった。これは、Cの中でのボランティアへ対する意識の違い、つまり、そのボラン ティアが指示に従うべき対象なのかどうかというような、ボランティアへの個別評価が存 在したことが推測できる。

エピソード②では、ボランティアに評価の差が生じていることを、知的障害者本人の話 す内容から確認できる。

【エピソード①】

バスケットボールプログラムの最中、ボランティアが向かい合ってのパス練習の場面。胸も とから押し出すように相手へパスをする「チェストパス」の練習であるが、C はプログラムリ ーダーの指示を聞こうとはせず、アニメのキャラクターの必殺技を真似るようにパスを出す。

C:「かーめーはーめー波ー。」と、両の手のひらで腰からボールを押し出すような形でボー ルをパス。相手まで届かずに、転がっている。

ⓋY:「(笑いながら)ちょっと、みんなと違うんじゃない。こうだよこう。」と手本を見せながら ボールを返す。

C:「いくよ。かーめーはーめー波ー。」と、先ほどと同様にパス。

ⓋY:「今はこのパスの練習だよ。いい、いくよ。えい。」と、手本を見せながら返球。

C:「んふふ。かーめーはーめー波ー。」ボールが狙いのⓋYよりもかなり右に外れ、隣でパス をしているペアのところへと転がる。

ⓋY:「ほら、周りのみんなにも迷惑かけちゃうよ。ちゃんとやろうね。」

と、少し強めに注意するがCはやめない。結局、チェストパスは10往復×2セットであったが、

1セット目は1度もチェストパスをしなかった。2セット目の1本目のパスでも修正がみられな かった。

ⓋM:「C、できることはちゃんとやろや。ええか。」

注意を受けたCは少しうつむいたが、それ以降はしっかりメニューをこなした。

≪200861日≫

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