知的障害者のスポーツ活動における
ボランティアの継続参加の実態
- 45 - 第一節 目的
知的障害者のスポーツ活動においてはマンパワーが必要とされるため、ボランティアの 継続的な参加が重要となる。継続的な参加をしているボランティアの負担感には、どのよ うな構造があり、継続意欲にどう影響を与えているのかについて第一章で検討したが、本 章ではボランティアの継続参加の実態に焦点をあて、議論していきたい。
ボランティアを十分に確保し、継続的な参加を促すためには、ボランティアの実態につ いて把握する必要があるだろう。例えばボランティアをマネジメントする立場の者が、ボ ランティアの動機を理解しそれぞれの動機に対して適切に対処できれば、ボランティアの やる気を喚起させ、活動の活性化を図ることを可能とする報告がある(松岡・小笠原,2002)。
また、田引(2008)は、障害者スポーツを支えるボランティアの参加動機について、当初 は社会への貢献といった利他的な動機であったものが、活動期間が長くなるにつれてスポ ーツ活動を意識したものへと、その意識が変容していくことを示唆している。このことか らも、活動参加から継続に至るそのプロセスを明らかにすることによって、継続参加を促 す知見が得られるのではないかと考える。
よって本研究では、知的障害者のスポーツ活動におけるボランティアの、継続参加に至 るプロセスについて分析し、マンパワーの安定供給のための知見を得ることを目的とする。
- 46 - 第二節 方法
第一項 方法と採用理由
本研究では、ボランティアとして継続的にスポーツ指導をおこなうボランティアの継続 参加に至るプロセスを説明するため、質的研究法を選択し、継続的なスポーツ指導をして いるボランティア 8 名を対象に半構造化のインタビューを行った。具体的には「スペシャ ルオリンピックス日本・青森」に参加しているボランティアを対象とした。
分析については木下(2003)による「修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以
下M-GTA)」を採用した。M-GTAは、社会的相互作用に関係する人間行動の説明力に優れ、
特にヒューマンサービス領域において、研究対象とする現象にプロセス的性格がある場合 に説明力をもつ研究法とされている(木下,2003)。本研究は、「知的障害者のスポーツ活動」
というヒューマンサービス領域で、ボランティアの「継続参加のプロセス」を明らかにす ることを試みるものであるので、M-GTAを採用することとした。
また、研究の対象となる「継続参加しているボランティア」が、量的調査では信頼性の ある結果を得るための十分な人数が確認できなかったことも採用の理由として挙げられる。
加えて、調査協力者となるボランティアは、日頃著者とともにSO活動に取り組んでおり、
日常生活でも余暇を共に過ごすことも多く、すでにインタビューにおける聞き手と話し手 の信頼関係は十分に構築されていると判断できたことも、積極的に質的研究法を採用した 理由として挙げる。インタビューにおいて言葉を取り繕わず話し手自身の言葉で(普段通 りの様子で)データを得ることができると予想されたので、データの切片化を行わず文脈 を大事にしてまとめることができるM-GTAが適合していると判断した。
- 47 - 第二項 調査協力者の抽出
本研究においては、調査対象となるボランティアに、分析結果の現実への適合性について や、データの解釈に齟齬がないかを確認してもらったりするなど、データ収集後も協力を 依頼していることから、調査対象を「調査協力者」と標記する。今回は、知的障害者に年 間を通してスポーツ活動を提供しているボランティア団体「スペシャルオリンピックス日 本・青森(以下SON・青森)」に、継続的な参加をしているボランティア会員を調査協力者 とした。協力調査協力者のプロフィールを表4-1に示す。調査協力者の抽出にあたっては、
経験年数や役職経験など偏りがないよう配慮した。また、SO活動におけるボランティアの 役割としては事務作業や広報、財務など様々なものがあるが、データの妥当性を考慮し「直 接的なスポーツ指導を継続的に行っているボランティア(=コーチ)」であることを条件と した。
※調査協力者のプロフィールはインタビュー時のもの
※再度インタビューを行ったもののプロフィールは スラッシュを挟み(1 回目/2 回目)と表記している
※個人が特定されないよう、役職の具体的な競技名などは記載しない
調査協力者の抽出にはボランティアの登録状況を把握しているSON・青森の事務担当の 方の協力を得たが、SOのボランティアとしての登録年数は長くても実際にはほとんど活動 に参加していない場合や、一時期は継続的に参加していたが現在は登録しているだけで 1 度も活動に参加していない場合なども考えられた。したがって、単純な登録の年数ではな く、実際のスポーツプログラムへの出席状況も判断材料として抽出をおこなった。具体的 には、各スポーツプログラムで設定されているスポーツ活動実施日の 8 割以上に参加して いる者を対象とし、最終的に8名を調査協力者として抽出した。経験年数が1 年の者も継 続参加しているとするには違和感があると判断されるかもしれないが、SON・青森は毎週 日曜日にスポーツプログラムを開催しており、スポーツプログラムがない期間であっても
調査協力者 性別 活動継続年数 役職経験
Info.1 男 4年 ボランティアリーダー
Info.2 女 3年/4年 主任コーチ/副主任コーチ
Info.3 女 2年 副主任コーチ
Info.4 女 2年/3年 副主任コーチ/副主任コーチ
Info.5 女 2年/3年 なし/ボランティアリーダー
Info.6 女 1年/2年 なし/副主任コーチ
Info.7 男 1年 なし
Info.8 男 1年 なし
表 4-1 調査協力者のプロフィール
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イベントや食事会など様々な催しが設定されている。1年間少しの期間も離脱せずに、ほぼ 毎週活動に参加することを考えると、十分に継続参加していると認められるだろう。
インタビューの際、日頃プライベートでもかかわりのある調査協力者の場合、普段と違 う極端にフォーマルな印象を与えてしまうと、言葉選びを慎重にしすぎ、生き生きとした データを得られなくなる可能性が憂慮される。そのため面接場所は、調査協力者が話しや すいよう、生き慣れた場所や居住地から近い場所など、インタビューが適切に行える環境 で調査協力者が心身ともに負担なく足を運べる場所を選んだ。インタビューの時間は、ひ とり90分~150分であった。8名うち協力の同意を得た4名(Info.2,4,5,6)については1 年 5 カ月後に再度インタビューを実施し、得られた追加データも分析に含めた。データの 収集期間は2009年5月から2010年10月までである。
- 49 - 第三項 調査内容と手続き
主な調査内容は、継続参加の理由や、参加動機、継続意欲、その他現在の組織や参加者 に対する意識などであり、なるべく自由に話してもらった。不明瞭な点があれば、話の妨 げにならないよう配慮しながら確認したが、インタビュアーからの質問は最小限にとどめ るように努めた。
分析にあたっては、まず、テーマを「知的障害者のスポーツ活動に参加するボランティ アの継続参加に至るプロセス」と設定した。続いて、最も情報量の豊富な調査協力者のイ ンタビューデータに着目し、テーマに照らして重要と思われた部分の意味を検討し、理論 構成の最小単位となる概念を生成した。概念を分析ワークシートに記載し、2 例目以降は、
1例目との類似例や対極例を意識しながら、新たな概念を生成していった(分析ワークシー トは資料参照)。次に、概念間の関係性を吟味することから、複数の概念を説明するより抽 象度の高いまとまりであるカテゴリーを生成した。カテゴリーが生成された段階で、カテ ゴリー同士、またはカテゴリーと概念との関係性や時系列について解釈を行い、結果図と してまとめた。また、留意する点としては、今回の調査対象としたSON・青森においては、
継続参加しているボランティアとして該当する者全員が大学生であったことが挙げられる。
得られた結果からも一部この点が影響していると考えられる部分があったため、考察の視 点に含める必要があると考えられた。
倫理的な配慮として、調査協力者にはプライバシーの厳守及び、研究の趣旨、録音・フ ィールドノートの作成・分析手順・結果の公開といったデータの扱いについて説明し、す べての事項に同意する意思の確認を行い、研究協力への了承を得た。