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スポーツ指導をおこなうボランティアに対する

知的障害者の保護者の意識

- 67 - 第一節 目的

QOL(生活の質:Quality Of Life)の高い状態で日々を過ごすというのはすべての人に とって重要な視点であり、それは当然障害者にとっても同様である。これまでの日本の福 祉は「生きる」ということに関する保障に力を注いでいたが、その後「よりよく生きる」

ための支援にも関与するようになってきた(草野,2004.)。今やっと、「どうすれば障害者も 生活することができるか」ではなく「障害者もよりよく生活できるにはどうすればよいか」、

つまりADL(日常生活動作:Activities of daily living)からQOLへと、社会の意識が変 容してきているといえる。

QOLを高めるため、余暇の充実のための手段として、スポーツ活動は有効である。障害 者のスポーツ活動は、元々医学的リハビリテーションとして、障害された運動器官の機能 回復や残存機能の向上、身体の機能的予備力の向上により、日常の身体活動の拡大および 確立、社会生活への適応養成などを目的として取り組まれた(陶山,2006)。しかし現在で は、「障害者白書」の中で「スポーツ・文化芸術活動の推進」という項目が、日々の暮らし の基盤づくりという章の中に盛り込まれているように、障害のある人にとっての自立・社 会参加に繋がる大きな要因であることが窺える。「障害者プラン~ノーマライゼーション 7 か年戦略~」においても、ソフト面・ハード面ともに整備し障害者スポーツの振興を図る ことが明記され、2002年に策定された「重点施策実施5か年計画」においても、生活支援 という括りの中でスポーツ活動の振興が謳われている。

しかし、スポーツ活動に取り組むことの意義は認められながらも、「障害者がスポーツに 親しみ、喜び楽しむ」ことの権利の享受に対する社会的認知や理解は歴史的にも浅く、支 援体制や受け皿がまだまだ少ないのが現状である(渡邊,2006.)。実際、我が国の知的障害 者の余暇の傾向としては、多くはテレビ観賞や音楽鑑賞など室内で過ごしており、運動・

スポーツ活動の機会が多くない現状にあることが報告されている(高畑・武蔵,1997、石黒 ら,1999、中山,2000)。特に知的障害者にとっては、これまで身体障害者スポーツに比べて 目を向けられてこなかったという社会的な背景と、それによる制度の不備からくる経済的 要因・物的環境要因・人的環境要因によってスポーツ活動への参加が阻害され(望月,2007)、

余暇活動としてスポーツ活動を積極的に選択することが難しい状況に置かれている。

このような社会背景から、これまでは、知的障害者のスポーツ活動は民間やボランティ アによって支えられてきた。近年は、地域のスポーツクラブや団体におけるボランティア の重要性が取りざたされており、我が国の代表的なスポーツ組織・団体の半数がボランテ ィアを活用している現状があるという(仲澤, 2002)。ボランティアが果たすことのできる 役割は大きく幅の広い活躍が期待されており(野村, 2002)、特に非営利のスポーツ組織に とっては、価値ある人的資源を有効に使うことが、組織の成功への 1 つの鍵となっている

(松岡・小笠原,2002)。元来ボランィアによって支えられてきた知的障害者のスポーツ活 動においては、一層ボランティアの活躍に期待する傾向が強い。

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また、知的障害者がスポーツ活動に参加したいと考えた時、ボランティアによるサポー トも必要となるだろうが、何よりも保護者のサポートというものは決して無視できない。

知的障害者がスポーツ活動に参加する際、「活動先を見つける」「用具などの準備をする」

「(参加費が必要な場合)参加費を支払う」「会場に向かう」「会場から帰る」といったこと を、全て自分ひとりで達成できるケースは決して多くないだろう。特に障害の程度が重い ほど、年齢が低いほど、その困難性は増す。石黒ら(1999)は、知的障害者の保護者を対 象に、知的障害者の余暇生活行動について調査を行ったが、兄弟や祖父母が同居していて も母親との関わりがほとんどであるケースが確認されており、その場合単独行動が可能で ない限り必然的に母親への負担が大きくなっている可能性を指摘している。また、送迎が 必要な場合は、母親の体調によって参加不参加が決定してしまうことも報告されており、

家庭環境も余暇活動行動を規定する一要因であることが示されている。於保(2004)の10 代の知的障害児をもつ親に対する調査でも、余暇活動について困っていることとしては、

親以外の付き添い・送迎が欲しいという回答が最も多かった。やはり、保護者による引率 や、金銭面の援助が求められるため、保護者自身も魅力的であると認識できなければ、ス ポーツ活動への参加は果たされないことになるだろう。これらの点から、ボランティアの 充足を目指すことは必要であるが、同時に、保護者のスポーツ活動に対するニーズや、ス ポーツ指導をおこなうボランティアに対する意識についても検討する必要があると考える。

スポーツ活動には怪我などの危険が伴う場合が多い。わが子がスポーツ活動を実施するに あたり、その指導を一般のボランティアがおこなうことについて、保護者はどのような意 識をもっているのか。また、指導者にはどのような素養を求めているのか。保護者が抱え る、スポーツ活動や指導者に対する期待や不安について把握することができれば、スポー ツ活動を提供する組織はより魅力的な活動の提供を可能とし、結果、知的障害者がスポー ツ活動へ参加する機会が増えることにつながるのではないかと考える。

本研究は、スポーツ活動に参加している知的障害者の保護者の、スポーツ活動・スポー ツ指導者に対するニーズ及び、ボランティアに対する意識を確認することから、知的障害 者のスポーツ活動におけるボランティアの効果的な活用方法について検討することを目的 とする。

- 69 - 第二節 方法

第一項 調査対象

調査は、知的障害者にスポーツ活動を提供している「スペシャルオリンピックス日本・

青森(以下SON・青森)」の協力を得て、実施した。SOは、知的障害者に年間を通じたス ポーツ活動の機会を提供する国際的なスポーツ組織であり、日本でも47都道府県で活動が 展開されている(スペシャルオリンピックス,2010)。SON・青森は、日本におけるSO活 動を統轄しているSO日本の認可する、青森県における地区組織である。SOの運営は市民 のボランティアの手によっておこなわれており、SON・青森においても同様である。今回 は、SON・青森の活動に子どもが選手として参加している保護者3名を抽出した。

SOの運営は有志のボランティアによっておこなわれているが、SO活動の趣旨や理念に 精通した者の指導のもと、SO日本事務局の承認を受けて始めてSO活動が可能であり、実 施されているスポーツも原則的には各競技の国際ルールに則って行われている。つまり、

継続的で適切なスポーツ活動の提供が可能と判断されて初めて、スポーツプログラムを開 催することができるので、スポーツ活動の内容においては一定の信頼がおけるものと判断 できる。

調査対象のプロフィールは表5-1の通りである。ボランティアメンバーに対する意識につ いても回答を得るため、データの妥当性を考慮し、ある程度の頻度当該活動へ子どもが参 加しており、保護者自身も見学・応援するなどして活動内容について理解していることを 条件とした。毎回活動場所に足を運んでいても、子どもの送り迎えをしているのみである ケースは除外した。調査協力者の抽出には、参加状況を把握しているSON・青森の事務担 当、ボランティアリーダーの協力を得た。

Holroyd and McArthur(1976)によると、ダウン症児の母親よりも、自閉症児の母親の 方が、子どものハンディの状態や家族の統合の不足などの点でストレス度が高い状態にあ った。よって、障害の診断名、年代、参加歴、子どもの年齢によって偏りが生じないよう に抽出した。プロフィールはインタビュー時のものである。

調査対象 性別 年代 活動参加歴 子どもの性別 子どもの年齢 子どもの障害(知的水準)

N 女性 40 代 5 年目 男性 16 自閉症(中度)

K 男性 60 代 7 年目 女性 31 ダウン症(中度)

M 女性 30 代 2 年目 女性 8 知的障害(軽度)

表 5-1 調査対象のプロフィール

- 70 - 第二項 方法と採択理由

方法としては、1対1の半構造化インタビュー調査を行った。本研究では、知的障害者の 保護者は大学生ボランティアについてどのような認識をもっており、それゆえどのような 問題が生じ得るのかについての仮説形成を目指すものである。そのため、調査方法と結果 の関係性は、問題発掘的な、帰納的なものになるため、質的研究法を採択した。

また、調査内容は、わが子に関すること、保護者個人の考え方や他者に対する意見など も含まれるので、聞き手と調査対象の信頼関係が十分に構築できていることが前提となる。

筆者自身も2004年よりSON・青森の活動に携わっており、SON・青森の保護者たちとの 付き合いが長く、スポーツ活動場面以外の場でも、食事やレクリエーションなどで家族ぐ るみの付き合いがある。調査に先立って、SON・青森の発足当時からの会員である保護者 にアドバイスを求めたところ、「本心を外に出す機会がないので、皆話したいことはかなり あるだろう」としながらも、「基本的には外から研究として依頼があっても、敷居が高くて 協力的になれないだろうし、(日頃SO活動に携わっていない人には)本心までは理解され ないと、深い話はしてくれないだろう」と話していた。「(筆者)あなたの頼みであれば非 協力的な人はいないだろうし、むしろ一度話をゆっくり聞いてほしいという人の方が多い のでは」との言葉を頂戴した。よりリアリティのある良質なデータを得ることができるこ とが予想されたことも、質的研究法を採択した理由である。

インタビューの場所は、調査対象の居住地域との距離や駐車場の有無、調査対象にとっ て不慣れでない場所であることを念頭に置き、3者とも近隣の社会福祉センターの会議室を 利用した。実施にあたっては、大まかな質問項目は設定したが、一問一答ではなく日常で の会話の体でなるべく自由に話してもらった。不明瞭な点があれば、話の妨げにならない よう配慮しながら確認した。インタビューの時間は、ひとり100分~150分程度であった。

調査期間は2010年10月~11月である。

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