本研究の成果として、第 1 章で述べたサブシディアリーリサーチクエスションに 対して明らかになったことを以下にまとめる。
最初に、「①エンジニアリング過程でのリスクマネジメントにおいて必要なものと は何か」に対するソリューションについて解説する。
プロジェクトマネジャが過去に実行してきたリスクマネジメントの知識と経験を もとにリスクの特定と分類を行い、管理の対象となるリスクをプロジェクトリスク定 義書としてまとめた。
実際には、過去の事例でリスク管理の対象となったリスク事象と影響の実態調査を もとに普遍的なリスク事象を抽出し、カテゴリー別に分類されたプロジェクトリスク 定義書となっている。特にプラント事業における代表的なリスクのカテゴリーとして
「契約仕様書」に関するリスクと「プロジェクト環境」に関するリスクに分類されて いる。このプロジェクトリスク定義書からプロジェクトマネジャの知識と経験をもと にリスク事象のドライバーと影響のドライバーを明らかにすることで定量的リスク 分析を行い、リスク事象の発生頻度と影響の発生頻度を決定した。さらに、リスク事 象のドライバーと影響のドライバーに対するリスク対策の具体策を挙げ、その実行可 能性を示すことで管理すべきリスク評価指標を定め、リスク評価を実施することが、
リスクマネジメントには必要である。
次に、「②現地のプラント再立上げ時でのリスクマネジメントに必要なものとは何 か」に対するソリューションについて解説する。
現地リスクを評価する場合、リスク因子と経路をいち早く発見し、どう対処するこ とができるかその要素を評価に組み込むことが重要であり、リスク検知・回避の可能 性を評価することでリスクを検知し、問題発生に繋がらないようにコントロールする ことができれば、リスクの発生を未然に防ぐことが可能となる。
さらに、リスクの連鎖を考えた場合、結果の重大性によってはリスクの影響そのも のが新たなリスク因子となる可能性があることから、結果の重大性を軽減することで リスク因子の発生を抑えることができる。しかも、リスク因子や経路の特定が難しい リスク事象ではリスク検知・回避の可能性は極めて低いため、結果の重大性を軽減す ることがリスクの抑制に繋がる。
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以上のことから、リスク発生の可能性と結果の重大性に加えてリスク検知・回避の 可能性と結果の重大性を軽減する可能性を組み合わせた現地リスク評価モデルを適 用し、既設プラント更新の国際プロジェクトにおけるプラント再立上げ時の評価指標 を定め、リスク評価を実施することが現地でのリスクマネジメントには必要である。
最後に、「③プロジェクトマネジャの経験を有効活用できるリスクマネジメントと は何か」に対するソリューションについて解説する。
現地リスクの特定と分類において、プロジェクトマネジャの知識は有効である。
その理由は、プロジェクトマネジャの持つ顧客情報や機械メーカ情報などの知識、お よび現地での環境やプラントの特異性などのプロジェクト情報から現地でのリスク 事象を特定でき、プロジェクトで未然に防ぐことが可能なリスクと困難なリスクとに 分類することが可能となるからである。
内的リスクに関するリスク事象の場合、契約機器の到着遅延、機器やシステムの 仕様不備、契約者側のヒューマンリソースやシステム固有の問題など基本的にある程 度のプロジェクト情報やプラント知識があれば、比較的容易にリスク因子や経路が特 定でき、契約機器の紛失・盗難・破損、現場でのコミュニケーション不足など十分に 現場経験や海外プラントのプロジェクト経験があり、現地の環境を熟知した人であれ ば、リスク因子や経路を予測することが可能である。
そして、特定されたリスク因子と経路を使ってリスク事象発生の可能性を導き出 すことができ、リスクを未然に防ぐためのリスク因子と経路に対する具体的な対処方 法を抽出することでリスク検知・回避の可能性を導き出すことができる。このことか ら現地でのリスク事象を分析、評価する上でプロジェクトマネジャの経験は有効に活 用されるものであると考えられ、現地リスクマネジメントを実行するのに十分役立つ と考えられる。
以上のことから、第 1 章で述べたメジャーリサーチクエスション「プロジェクト を成功に導くためのリスクマネジメントとは何か」に対して、明らかになったことを 以下にまとめる。
既設プラント更新の国際プロジェクトにおいてプロジェクトリスクを抑え、プロ ジェクトを成功に導くためのリスクマネジメントを提案するために、リスク対策を組 み合わせたモデルや現地リスク評価モデルを適用し、新しいリスク評価指標を定め、
これまでのリスクマネジメント手法について改善提案を行った。
最初に、エンジニアリング過程でのプロジェクトリスク管理の改善提案として、
リスクの特定と分類、リスクの定量的分析、リスク対策の立案、リスク評価などの管 理手法においてプロジェクトマネジャの知識や経験を活用して、リスク分析手法の標 準化や具体的なリスク対策の抽出、リスク評価指標の決定などを行うリスクマネジメ ント手法を提案した。
具体的にはプロジェクトマネジャの持ついくつかの知識や経験からプロジェクト に存在するリスク事象と影響を明らかにし、リスク分析手法を用いてリスク事象の発 生頻度、影響の発生頻度を決定する。そして、プロジェクトマネジャが過去の知識や 経験などをもとにリスク事象のドライバーに対する回避策や予防策、影響のドライバ ーに対する不測事態対応策を挙げ、リスク対策の具体策が実行可能かどうかを判断し、
リスク対策の実行可能性を決定する。最終的にはリスク事象の発生頻度、影響の発生 頻度、リスク対策の実行可能性を使って改善損失を求め、プロジェクトリスクの評価 指標としてリスクの監視コントロールを実行する。
次に、現地リスクのマネジメント手法の新規提案として、現地リスクの特定と分類、
定量的分析、現地リスクへの対応策、現地リスクの定量的評価などのマネジメント手 法においてプロジェクトマネジャの知識や過去の事例を参考に現地リスクの定量的 分析・評価を行い、リスク検知・回避の可能性や結果の重大性を軽減する可能性を現 地リスク評価に組み込んだマネジメント手法を提案した。
最後に、プロジェクトリスク管理の改善と現地リスクのマネジメント手法の提案を 組み合わせることで見積から現地調整完了に至るまでの総合的リスクマネジメント 体系を構築し、設計から現場、現場から設計へと繋がるリスクマネジメントについて のフレームワークを完成させ、現地リスクを含むプロジェクトリスクを総合的にマネ ジメントする手法を提案することで、プロジェクトを成功に導くためのリスクマネジ メントの基本を明らかにした。
ここで、プロジェクトリスク管理と現地リスクマネジメント手法の共通点と相違点 を簡単に表35にまとめておく。
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表35 プロジェクトリスクと現地リスクのマネジメント手法の比較表 プロジェクトリスクマネジメント手法 現地リスクマネジメント手法
相 違 点
<リスクの特定>
見積から機器出荷までのプロジェクト 全体に関連し、影響範囲はコスト主体。
<リスク分析手法>
リスク事象と影響がそれぞれ独立して いて、各々のドライバーから発生頻度 が導かれる。
<リスク対策と評価>
リスク事象と影響の各ドライバーから 導き出される具体的対策と期待効果に よってリスク評価指標が決まる。
<リスク監視>
各フェーズでリスク評価を行い、管理 目標との差異を監視する。
<リスクの特定>
現地工事、現地調整に限定され、影 響範囲は定修工事工程のみ。
<リスク分析手法>
リスク発生の可能性は、リスク因子 と経路の相互関係から導き出され る。又すべてに対してリスク因子と 経路が明らかなわけではない。
<リスク対策と評価>
リスク因子と経路から導き出される リスク対策と検知・防御の可能性、
及び結果の重大性軽減策とその可能 性によってリスク評価指標が決ま る。
<リスク監視>
工事開始前に現地工程の各フェーズ でのリスク評価を行い、工事開始後 にリスク連鎖を考えた上で、各フェ ーズのリスク再評価を行う。
共 通 点
リスクマネジメントプロセスについては同じプロセスであり、どちらも
PMBOK Guideに示されているリスクマネジメントプロセスモデルを踏襲し
ている。また、リスクの分析方法として、どちらも重み付きによる簡易的な 方法を取り入れている。