• 検索結果がありません。

研修員報告 〈陸上競技 今井 美希〉

平成

[平成26年]

Ⅳ.研修概要

(1)研修題目の細目

 日本の走高跳は2000年代中頃まで男女とも世界大会に出場するレベルまで上がって いたが、その後女子においては低迷し続けている。現在とても厳しいものとなってお り、2000年のシドニーオリンピック以降出場出来ていない。ユース・ジュニア・シニ

期間 帯同・個人 場所 内容(サポート内容)

8/9〜8/ 18 個人行動 Moscow(海外) 世界選手権

8/ 30 〜9/1 クラブ帯同 Borås(国内) スウェーデン選手権

9/7〜9/8 個人行動 Stockholm(国内) Finnkampen(スウェーデン・

フィンランド対抗試合)

9/8〜9/ 10 個人行動 Göteborg(国内) エルグリーテIS(クラブチー ム)視察

9/ 17 〜 18 陸上高校帯同 Kåranäs(国内) アクティビティ合宿

11 /8〜 10 クラブ帯同 Falun(国内) European  Horizontal  Jumps  and Hurdles Symposium

11/29〜12/1 Småland 地方陸協帯同 Växjö

Småland(地方)の15〜19歳対 象陸上合宿

最終日の走幅跳・三段跳の指導

期間 帯同・個人 場所 内容(サポート内容)

1/19 クラブスタッフ Växjö 審判・選手指導

1/24〜2/17 日本陸連要請

Czech国内 1/27 Ostrava 2/1 Hustepece 2/16 Prague

選手帯同・指導(日本陸連で 派遣された選手の海外室内遠 征3試合)

3/5〜9 個人 Poland 世界室内選手権観戦・桐生選

手取材

3/14〜16 個人 Germany PoleVault&HighJump Symposium

4/18〜25 FIG帯同 Spain FIG合宿

4/9 Ingela氏に帯同 Strömsnäsbruk Småland地方の小学生の授業

(走高跳指導)

5/29 クラブチーム帯同 Norrköping スウェーデン国内クラブチーム 2部男子クラブチーム対抗戦 5/30〜6/5 スウェーデン跳躍合宿

帯同 Spain スウェーデン若手の跳躍合宿

と試合

6/6 試合帯同 Skara ハ ン デ ィ ー キ ャ ッ プ の 選 手 Niklasの試合

6/27〜6/28 クラブチーム帯同 Göteborg

Världsungdomsspelen( 国 際 大 会  年 齢 別 に な っ て お り、

12歳からシニアまで)

平成 25   年度・短期派遣︵陸上競技︶

ア全ての記録が低迷しており、世界大会に出られる選手あるいは世界で活躍できる選 手が育成されていない。この現状を打破すべく、走高跳王国と言っても過言ではない スウェーデンにて研修を行うこととした。

 スウェーデンは男子走高跳のパトリック・ショーベリー選手が1987年2m42cmを 樹立し、世界歴代2位(2014年7月1日時点)である。近年で言えばカイサ・ベリー クヴィスト選手(女子)とステファン・ホルム選手(男子)である。この2選手は走 高跳選手として背は高くないが世界トップレベルの記録である。世界トップ選手を生 み出す技術、そして次々と後継者を育成できる発掘・育成システムなどスウェーデン で学べるものは多いと考えた。

(参照)

カイサ・ベリークヴィスト選手(身長174cm) 自己ベスト記録2m08cm(Indoor)

ステファン・ホルム選手   (身長181cm) 自己ベスト記録2m40cm(Indoor)

 研修の目的としては主に以下の通りである。

①ジュニアのトレーニング法や指導方法を学ぶ

 平成24年度の研修員として、スウェーデン(ヨーテボリ)にて杉林孝法さんが「エ ルグリーテIS」(世界トップレベル選手を多く育成しているクラブチーム)で研修を 行い、シニアにおけるトレーニング方法・指導方法を中心に研修を行った。情報共 有できる環境にいる為、私はスウェーデンのジュニアに対するトレーニング方法や 指導方法を学びたい。チャンスがあれば、所属チームの選手を指導できればと思っ ている。言葉の壁を乗り越え、たった1年だが現場で直接指導することにより、学 び得るものは多い。

②走高跳における世界トップレベル選手育成・環境システムを学ぶ

[近年における世界大会におけるメダリスト]

・カイサ・ベリークヴィスト選手/エマ・トレガロ選手(女走高跳)

・ステファン・ホルム選手(男走高跳)

・クリスチャン・オルソン選手(男三段)

・カロリナ・クリュフト選手(女混成)

(↑彼女は2012に引退したがIFK Växjö出身者である)

 跳躍を中心に世界トップ選手がいる。走高跳女子では若手選手エバ・ジュンマル ク選手など途絶えることなく育成されている。次々と輩出される世界トップレベル 選手の発掘方法・育成方法・環境システム(学校・クラブチームシステム・施設環 境)を学ぶ。

③スウェーデンの陸上連盟やコーチとの人脈作り・日本選手の為のコーディネート  多くの大会やシンポジウムに出向き、スウェーデンの走高跳のコーチや関係者と のネットワークを深める。今後、日本の選手が試合や合宿をする時のコーディネー トが出来るようコネクションを強める。

④男女平等の国スウェーデンでの女性指導者の立場

 今後指導者をしていく上で永遠の課題となるが、陸上競技で世界のトップ選手を 指導している指導者の大半は男性である。これは単純に女性の指導者率が低いだけ ではないと考える。もっと他に要因があるとするならば、日本だけではなく世界の 指導者を観察することにより解決の糸口になるのではないかと考える。世界に通用 する選手を指導できるのは本当に男性指導者のみなのか。女性の社会進出が多いス ウェーデンの女性指導者はどのような立場に居て、どのような考えをもっているの か。多くの機会を得てスウェーデンの女性指導者を観察し、果たして女性指導者が 多くの世界トップ選手を育成することは可能なのか、解明するヒントを得たい。

(2)研修方法

 基本的にはIngela氏の下でアシスタントコーチとしてIFK  VäxjöやFIG  Växjöのサ ポートをし、機会があれば、ジャンプシンポジウムなどに参加する。あるいは世界大 会があれば視察をおこなった。

(3)研修報告

①ジュニアのトレーニング法や指導方法を学ぶ

 FIG Växjöのトレーニングについて詳しく説明する。

【年間計画】

 16〜18歳の年間トレーニングは以上のようになっていた。欧州では一般的な2 シーズン制(年二重周期)になっている。スウェーデンの指導者の中には日本のよ うな長い1シーズンの方がいいという意見もあった。そして18歳くらいまでは技術 よりも基礎体力をつけさせたいが室内練習場という良い環境がある為、1年中跳べ る環境にいることが故障者を多くしている原因と言っていた。基礎体力をつけさせ たいが技術練習に偏ってしまう選手が多い為、辛い基礎体力のトレーニングをしな い選手が多く、伸び悩む選手が多い。室内練習場(常備された室内競技場)は身体

  =試合期    =準備期

期分け トレーニング 内容

6月 屋外試合期② 試合期②

◆ほぼ毎週試合を行う。試合が練習となっている。

7月 8月

9月 移行期 ◆レジャースポーツなど

10月

準備期① 一般的準備期 ◆サーキットトレーニング

(W‑upなどに取り入れて必ず毎日行う)

11月

12月 専門的準備期 ◆サーキットトレーニング+専門的トレーニング 1月 室内試合期① 試合期① ◆ほぼ毎週試合を行う。試合が練習となっている。

2月 3月

準備期② 一般的準備期 ◆サーキットトレーニング

(W‑upなどに取り入れて必ず毎日行う)

4月

5月 専門的準備期 ◆サーキットトレーニング+専門的トレーニング

平成 25   年度・短期派遣︵陸上競技︶

の出来上がったシニア選手にとっては技術を洗練する為にとても良い環境である。

 試合期になるとほぼ毎週試合に出ている。試合を練習のように行っていたのがと ても印象的である。日本のようにわざわざ調整などせずに行うのが通常である。

 シーズンインとオフの切り替えがしっかりしていた。移行期にはレジャー合宿を 組むなど、この時期にしっかりと陸上から離れさせて心身共にリフレッシュさせて いた。9月は新学期が始まる時期でもあり、来シーズンの目標に向けて冬期トレー ニングをどうするか、毎年行われている4月の合宿は必要かなどを話し合うミー ティング時間を合宿中に設けていた。

レジャー合宿の様子(吹き矢・エアガン・ボート・

ゼグウェイ)、ミーティングの様子

【週間計画】

 選手の生活は下宿者が多く、一人暮らしや選手同士のルームシェアをしている。

週末は全員各実家に戻り、地元のクラブチームでトレーニングをしている。地元の クラブチームにホームコーチがいない場合はほとんどの選手が親をコーチにしてい る。FIG Växjöのコーチ達はホームコーチの代役を務める役目となっていた。

 週間トレーニングは主にサーキットをW‑upに取り入れ、メイントレーニングに 取り入れるなど基礎体力向上・体幹強化を目的としたトレーニングを多く行ってい た。指導者も体幹強化は一番必要なのでサーキットトレーニングを重要視している と言っていた。この形はほぼ年間変わらないスタイルで行っていた。

 そして、心のケアをする担当者がおり、定期的に選手とミーティングを行ってい た。ミーティングした後は各担当コーチに選手の状況を報告し合うなど、指導者側 ともしっかりコミュニケーションをとり、組織として選手・指導者・心のケア担当 者がバランスよく成り立っていた。日本に比べて精神面のサポートが充実しており、

常にストレスフルな状況下にいる選手をあらゆる面からサポートしている。

【スウェーデンで気になった主なこと】

  ◆=メイントレーニングメニュー  WT=ウエイトトレーニング

曜日 トレーニング内容

W‑up(サーキットトレーニング20分間)

◆スプリント系

W‑up(通常のジョギング)

◆サーキットトレーニング1〜 1.5時間 W‑up(サーキットトレーニング20分間)

◆専門的トレーニング

<どちらかを選択>

◆6:30 〜プールトレーニング(怪我人・希望者のみ)

◆WT

実家に帰宅(各自地元のクラブチームに戻り、トレーニングや休養)

方法 スウェーデン

トレーニング

◆体幹強化

 (年間通してサーキットトレーニング中心)

◆練習量が少ない。

◆技術強化がシンプル

  (室内試合がある為、12月から技術練習が徐々に導入されるが細かい指示はせ ず、同じことを繰り返し行う。選手も飽きずに従い、行う。)

◆走り込み練習をあまり行わない。

◆ストレッチが動的

指導

◆長所を褒めて伸ばす指導

◆マンツーマン指導が可能(指導者一人に対し、選手が4〜5人)

◆心のケア担当者が定期的に選手とミーティングを行っていた。