第3章 文献レビュー
3.1 知識と経験の活用に関る先行研究文献
3.1.3. 知識移転の促進要因と阻害要因
知識移転の5つのカテゴリー
Dixon(2000)は、知識の受け手として誰を想定しているか、業務の性質、移転される知識 のタイプという基準を使って、知識移転の5つのカテゴリーを提案している。そのカテゴ リーを表 3-2に整理する。
表 3-2 知識移転の5つのカテゴリー
連続移転 近接移転 遠隔移転 戦略的移転 専門知移転
定義 チームが業務の中で 学習した知識を、同 じチームが同じ業務を 異なった状況で⾏う 次 の 機 会 で 活 ⽤ す る。
チームが頻繁かつ繰り 返しなされる業務から 獲得した形式知を、
ほぼ同じ業務をこな す他のチームで活⽤
する。
チームが非定型的業 務をこなす過程で獲 得した暗黙知を、類 似の業務を⾏ってい る他のチームで活⽤
する。
組織全体にとって極 めて重要な戦略的業 務を成し遂げるのに 必要な集合知(暗黙 知+形式知)を組織 的にコストをかけて移 転する。基本的な形 は遠隔移転と同じだ が、戦略的重要性の 違いで設計が異なる ため区別する。
既存の知識を超える 専 門的 な 問 題 に 直
⾯しているチームが、
組織内の他の⼈たち の 専 門 的 知 識 を ⼊
⼿する。ここで移転さ れる知識は、遠隔移 転や戦略的移転と異 なり、解釈上の曖昧 性が⽣じない形式知 である。
本論文で検討するシニア人材の活用は、上述した知識移転のカテゴリーにおいて、主に、
専門知移転のカテゴリーに位置づくと考える。
表 3-3 組織内における知識移転の阻害要因
タイプ 具体的要因 説明
移 転 す る 知 識の特 性
因果の不明瞭性 因果関係が曖昧であれば知識移転は困難となる。
未証明性 知識が実証されていなければ知識移転は困難となる。
送り⼿の特性 モチベーションの⽋如 送り⼿の動機が⽋如していれば知識移転は困難となる。
信頼の⽋如 送り⼿が受け⼿に信頼されていなければ知識移転は困難となる。
受け⼿の特性 モチベーションの⽋如 受け⼿の動機が⽋如していれば知識移転は困難となる。
吸収能⼒の⽋如 受け⼿の吸収能⼒が⽋如していれば知識移転は困難となる。
保持能⼒の⽋如 受け⼿が知識の保持能⼒が⽋如していれば知識移転は困難となる。
コンテクストの特性 不⽑なコンテクスト 知識移転を容易にするようなコンテクストがなければ知識移転は困難と なる。
困難な関係 送り⼿と受け⼿の間の関係性が困難であれば知識移転は困難となる。
Davenport(1998)は、ナレッジ・プロジェクトの成功要因として次の9つの要因を取り上
げている。その要因について表 3-4に整理する。
表 3-4 ナレッジ・プロジェクトの成功要因
要因分類 要因説明
知識志向の⽂化 知識に親しみを持つ⽂化は、成功に導く重要な条件である。
技術的・組織的インフラストラクチャー 技術的なインフラと組織的なインフラの両⽅が利⽤できるとき、成功の確率が
⾼くなる。
経営上層部のサポート 経営上層部の⽀援が成功に重要となる。
経済性と産業価値とのつながり 経済的な便益あるいは、産業的な成功と結びついていなければならない。
少しのプロセス志向 プロセスアプローチ(組織内の仕事の流れをプロセスという仕事の単位で管理 する⽅法)が有効となる場合がある。
ビジョンと⾔語の明確さ 目的と⽤語の明確さは、重要となる。
動機づけのための重要なインセンティブ 動機づけるものやインセンティブがつまらないものであってはならない。
ある程度の知識構造 ある程度の、しかし多すぎない程度の知識構造は便益をもたらす。
複数の知識移転チャネル 知識が複数のチャネルを通じて移転し、それらのチャネルが互いの効果を強め 合う。
Jeffrey(2003)は、研究開発の知識移転において、知識移転を成功をさせる9つの要因に
関して、R&Dマネージャへのアンケートを通じて効果を調査・分析している。
9つの要因として、「知識の埋込み度(embeddedness)」、「知識の明瞭性(Articulability)」
「組織的な距離(Organizational distance)」、「物理的な距離(Physical distance)」「知識的な
距離(Knowledge distance)」、「規範的な距離(Norm distance)」、「プロジェクト優先度 (Project priority)」、「学習する文化(Learning culture)」、「移転活動(Transfer activities)」
を提示している(表 3-5参照)。
そして、69人の研究開発マネージャへのアンケート結果から、知識移転の成功には、「知 識の埋込み度(embeddedness)」、「知識の明瞭性(Articulability)」、「知識的距離(Knowledge
distance)」、「規範的な距離(Norm distance)」「移転活動(Transfer activities)」が成功の要
因として影響をあたえていることを示した。
表 3-5 研究開発における知識移転の成功要因
分類 成功要因 説明
送り⼿の要因 知識の埋込み度(Embeddedness) 知識の組込み度が⾼まると、知識移転の成功数は低下す る。
知識の明瞭性 (Articulability)
知識の明瞭性が⾼まると、知識移転の成功数は増加する。
送 り ⼿ と 受 け
⼿との関係によ る要因
組織的な距離
(Organizational distance)
送り⼿と受け⼿と間の組織的な距離が増加すると、知識移 転の成功数は低下する。
物理的な距離 (Physical distance)
送り⼿と受け⼿と間の物理的な距離が増加すると、知識移 転の成功数は低下する。
知識的な距離
(Knowledge distance)
送り⼿と受け⼿と間の知識的な距離が増加すると、知識移 転の成功数は低下する。ただし、関係は逆U字カーブ的であ る。(知識的な距離が近すぎても知識移転の成功数は低下 する)
規範的な距離 (Norm distance)
送り⼿と受け⼿との間の規範・価値感(組織内⽂化、組織 内システムなど)の距離が離れると知識移転の成功数は低下 する。
受け⼿の要因 プロジェクトの優先度 (Project priority)
プロジェクトの優先度、重要度が⾼まると、知識移転の成功 数は増加する。
学習する⽂化 (Learning culture)
学習する⽂化が⾼まると、知識移転の成功数は増加する。
活 動 に お け る 要因
移転活動
(Transfer activities)
知識移転活動の数が増加すると、知識移転の成功数は増 加となる。
Leonard(2005)は、ディープスマートの知識移転の障害と促進要因として次の6つの要因 を取り上げている。その要因について表 3-6に整理する。
表 3-6 知識移転の障害と促進要因
要因分類 要因説明
送り⼿と受け⼿の合意 目指す⽅向について両者の合意ができていなければ取り組みはうまくいかない可能性が
⼤きい。
埋もれた知識 知識のありかがわからないことも、知識を移転する妨げになる。問題の原因のような知識 は、問題の解決の過程ではじめて明らかになることが多い。
暗黙の知識 移転しようとする知識の暗黙度が⾼いと成功の妨げになる。
認知的境界線 専門分野の異同も知識移転の障壁になったり、促進要因になったりすることがある。ま た、思考様式の違いも知識移転の妨げになりうる。
専門知識のレベルの近さ 専門知識のギャップが⼤きければ⼤きいほど、指導のレベルを調整する必要性が⼤きく なる。
モチベーションと能⼒ 学ぼうという意欲がなかったり、⾃分との相性が悪かったりするとそれは阻害要因となる。