第 5 章 レーザー冷却 57
5.9 真空ポンプ
5.9.1 ロータリーポンプ
ロータリーポンプ(油回転ポンプ)は図5.19 (a)のように偏心した回転軸を持つローター,
可動仕切で構成されている.このローターの動力はモーターである.また,密閉性を高めるた めに油が入れられている.用途としては大気圧から作動させられるため超高真空が必要な際の 初期粗引きとして用いられる.到達圧力は 10−1 Pa程度で,本実験ではターボ分子ポンプの 一段目排気装置としての役割を担っている.
ローター
吸入口 排出口
油 可動仕切
(a) (b) (c)
圧縮
図5.19 ロータリーポンプの原理
ロータリーポンプの原理を説明する.図5.19 (a)の状態からからローターが回転すると,可 動仕切が下がっていく.この可動仕切がローターの動きに合わせて動くことによって,常に吸 入口側と排出口側が分離される.そしてローターが油面に達すると,逃げ場がなくなるため空 気が圧縮される(図5.19 (b)).さらにローターが回転すると,徐々に空気の圧力が高くなっ ていく.そして,外気の1気圧よりも高くなると,排出口の弁が開き,空気が外に排出される
(図5.19 (c)).排出口には弁があるため,排出時に空気が逆流することはない.
油を用いるため,注意しなければならない点がある.それは油が蒸発して真空容器側に流れ 込んでしまうということである.これを避けるために,フィルタがポンプと真空容器の間に挿 入されることが多い.最近では油を使用しないポンプも開発されている.そして,凝縮性の高 い蒸気を吸入すると,油の中に混入して性能が低下してしまう.また,使用期間が長くなるに つれても性能が低下していくので,定期的な油の交換が必要である.
5.9.2 ターボ分子ポンプ
ターボ分子ポンプ(Turbo Molecular Pump : TMP)は図5.20のような複雑な構造をして いる.原理としては,金属製のタービン翼を持った回転体であるロータが高速回転し,気体分 子を弾き飛ばすことによりガスを排気するポンプである.高速回転するため,振動が大きく,
取り付けには注意を要する.到達圧力は 10−6 Paオーダーで,ロータリーポンプなどの一段 目排気装置が必要である.
また,ターボ分子ポンプにはロータの支え方により,ピボット軸受型と磁気浮上型の2種類 がある.ピボット軸受型は安価ではあるが,取り付け方向は一方向に限られる.一方,磁気浮 上型は完全オイルフリーであるためにクリーンな真空が得られ,取り付け方向の自由度が高い という利点がある.
図5.20 ULVAC社製
ピボット軸受型TMP
േ⠢
േ⠢
㕒⠢
㕒⠢
ๆ
ឃ᳇
図5.21 ターボ分子ポンプの原理
吸入口から入ってきた気体分子は,図5.21のように数万回転/分で回転する動翼で弾かれ,
静翼に当たって次の動翼へ順に送られる.そしてこれを繰り返すことで,最終的に排気側へ押 しやられる.動翼と静翼は逆向きになっており,分子が逆戻りしにくい構造になっている.
5.9.3 イオンポンプ
スパッタイオンポンプはロータリーポンプやターボ分子ポンプと違って可動部分がないた め,機械的な振動や騒音がないのが特徴である.また,気体の種類を選ばずに排気することが できるという利点もある.到達圧力は 10−8 Paオーダーであり,超高真空状態を作ることが できる,構造としては図5.22のように,真空容器内に円筒型のアノード(A),平板のチタン 製のカソード(C),外側に強力なマグネット(N, S)が取り付けられている.
N S
- G
T
I
A
C A C
- G
-I
G G T G G
-G I T
電子 気体分子 イオン チタン原子
図5.22 イオンポンプの原理
まず,アノード(陽極)とカソード(陰極)の間に高電圧を印加すると,カソードから電子 が飛び出す.電子はマグネットによって作られた磁場により螺旋運動をする.そして,この電 子が気体分子と衝突すると,イオンと電子を生成する.発生したイオンはカソードに衝突して チタン原子をスパッタし,これがアノードとカソードに堆積してチタン膜が作られる.チタン は化学的に活性であるため,水素,酸素,窒素などの活性ガスを吸着するという性質がある
(これをゲッター作用という).また,ヘリウムなどの不活性ガスも電子との衝突によりイオン 化して陰極に捕らえられ,その上にチタンが堆積するので,陰極の内部に閉じ込められる.つ まり,活性,不活性によらず気体分子が排除されるため,結果的に容器内の真空度が上がるこ とになる.