第 3 章 光情報記録 33
3.2 光情報記録
前節のEITを応用することで,光情報記録を行なうことができる.具体的にはprobe光と coupling光をパルスにしてΛ 型3準位系を持つ原子に入射する.ここで重要なのはprobe光 とcoupling光の周波数を2光子共鳴条件 ωp−ωc =ω21 を満たすように固定していることで ある.光情報記録には書き込み,保存,読み出しの3つの段階がある.ここでパルスを役割に 応じて,Writeパルス,Dataパルス,Readパルスと呼ぶことにする.
Coupling Probe
Coupling
Probe
Signal
ω
cω
pω
pWrite Read
Data
ω
21Λဳ3Ḱ♽
∆t
ᦠ䈐ㄟ䉂
ሽ
⺒䉂䈚
1㪕
2㪕 3㪕
図3.3 Λ型3準位系とパルスタイミング
3.2.1 書き込み
Coupling Probe
ρ
12Λဳ3Ḱ♽
1㪕
2㪕 3㪕
図3.4 書き込み
probe光と coupling光は2 光子共鳴条件を満た しているので,図3.4のように基底準位間にサブレ ベルコヒーレンスρ12 が作られる.ここで2つの光 の情報がサブレベルコヒーレンスとして原子に書き 込まれたことになる.2つの光を入射して十分時間 が経過すると,原子は Dark stateにトラップされ て光と相互作用しなくなる.このDark stateは
|DS〉= 1 q
Ω2p+ Ω2c
(Ωc|1〉 −Ωp|2〉) (3.21)
と表される.この時,サブレベルコヒーレンスは ρ12 =− ΩcΩp
Ω2p+ Ω2c (3.22)
で与えられ,Ωp = Ωc の時に最大値 ρ12 =−1/2 をとる.
3.2.2 保存
ρ
12Λဳ3Ḱ♽
1㪕
2㪕 3㪕
図3.5 保存
probe光とcoupling光を同時に切った時刻から保 存が始まる.2つの光を切ってもサブレベルコヒー レンスはしばらくの間保持される.そして,Read パルスを入れるまでの時間 ∆t が保存時間になる.
probe 光とcoupling光は 2光子共鳴条件を満た しており,保存の段階では光は入射していないので,
δp −δc = 0,Ωp = 0,Ωc = 0 である.式より,
˙
ρ12 =−γsρ12
となる.ρ12(∆t = 0) =ρ0 とすると,
ρ12(∆t) =ρ0e−γs∆t =ρ0e−τsub1 ∆t (3.23)
が得られる.ここで,τsub はサブレベルコヒーレンスの寿命である.
3.2.3 読み出し
Coupling Signal
ρ
12Λဳ3Ḱ♽
1㪕
2㪕 3㪕
図3.6 読み出し サ ブ レ ベ ル コ ヒ ー レ ン ス が 残 っ て い る 状 態 で
Read パルスとして coupling 光を入射すると,保 存したDataパルスをSignalパルスとして得ること ができる.読み出されるSignal パルスの時間変化 を調べるためにはρ13(t)を求めればよい.ここでは t= 0 がReadパルスを入れた時刻を表している.
では,実際にLiouville方程式を解いて ρ13(t) を 求めていく.読み出しの段階では,probe光と cou-pling光は 2光子共鳴条件を満たしており,probe 光は入射していないので,δp −δc = 0,Ωp = 0, δp = 0である.また,読み出し期間に対して,サブ レベルコヒーレンスの寿命は十分に長いと仮定する と,γs = 0なので,
˙
ρ13 =−iΩc
2 ρ12−γρ13 (3.24)
˙
ρ12 =−iΩc
2 ρ13 (3.25)
となる. の両辺を微分すると,
¨
ρ13 =−i Ωc
2 ρ˙12 −γρ˙13
=−Ω2c
4 ρ13−γρ˙13 (3.26)
となる.ここからは微分方程式
¨
ρ13+γρ˙13+ Ω2c
4 ρ13 = 0 (3.27)
を解いていく.解を求めるために ρ13 =Ceλt とおくと,
λ2+γλ+ Ω2c 4 = 0 が得られる.解の公式を用いると,
λ = −γ±p
γ2−Ω2c 2
= −γ±β 2
³
β ≡p
γ2−Ω2c
´
となる.ただし,ここでは γ >Ωc つまり β >0 とすると,微分方程式(3.27)の解は
ρ13(t) =C1e−γ+β2 t+C2e−γ2−β t (3.28) とおくことができる.ここで,C1,C2 は定数である.初期条件として ρ13(t = 0) = 0, ρ12(t = 0) =ρ12(∆t) を考える.すると,(3.28)より,
ρ13(t = 0) =C1+C2 = 0 となり,
C2 =−C1 (3.29)
が得られる.一方,(3.28)の両辺を微分し,(3.24)を用いると,
˙
ρ13 = −γ+β
2 C1e−γ+β2 t− −γ −β
2 C2e−γ2−βt =−i Ωc
2 ρ12−γρ13 (3.30) となる.t = 0 の時,(3.30)は
−γ+β
2 C1+ −γ−β
2 C2 =−i Ωc
2 ρ12(t = 0) +γρ13(t = 0)
=−i Ωc
2 ρ12(∆t)
となり,(3.29)を用いると,
C1 =−iΩc
2β ρ12(∆t) (3.31)
C2 = iΩc
2β ρ12(∆t) (3.32)
が得られる.よって,
ρ13(t) =−iΩc
2β ρ12(∆t)e−γ2 t
³
eβ2 t−e−β2t
´
=−iΩc
2β ρ0e−τsub1 ∆te−γ2tsinh µβ
2 t
¶
(3.33)
となる.実際に観測されるSignal光の強度 Isig は ρ13 の絶対値の2乗に比例するので,
Isig(t)∝ |ρ13(t)|2
= Ω2c
4β2 ρ20e−τsub2 ∆te−γtsinh2 µβ
2 t
¶
(3.34) となる.Isig(t) をプロットすると,図3.7のようにReadパルスを入射した瞬間に急に立ち上 がり,その後減衰していくような信号が得られると予想される.
0 t
Coupling Write
∆ t
ReadI
sig( t )
図3.7 読み出される信号
パルスの減衰時間 S を実験から求めることによって,サブレベルコヒーレンスの寿 命を見積もることができる.Isig は保存時間 ∆t の関数として次のように書ける.
Isig(∆t) =I0e−TS1 ∆t ∝e−τsub2 ∆t (3.35) したがって,サブレベルコヒーレンスの寿命は
τsub= 2TS (3.36)
である.