第 5 章 レーザー冷却 57
5.7 光学系
実際に冷却原子を作るための実験系を説明する.まずは光学系についてである.冷却原子を 作るためにはSlow beam,Trap beam,Repump beamという3つの光が必要となる.これ らの光は図5.13のような光学系を用いて,リング色素レーザーから出た光の周波数を音響光 学変調器を用いてシフトさせることにより作られている.また,対物レンズと凸レンズを置い てビームの直径を広げている.ビームの直径はSlow beamとRepump beamが1.5 cm程度,
Trap beamが2.5 cm程度である.
HWP PBS F 200
Trap beam Slow
beam Repump
beam
downshift 80 MHz upshift 1572 MHz
RDL
AOD AOM AOM
upshift 800 MHz
EOM AOM
E OM downshift
500 MHz
×10
×20
×20
sideband
±1712 MHz
sideband
±1732 MHz
HWP
HWP HWP F 100
F 200 F 50
F 200 F 150
F 100
F 200 HWP
PBS
図5.13 光学系
レーザー冷却を行うためには閉じた遷移が必要となるので,ナトリウムのD2線を用いる.
Slow beam,Trap beam,Repump beamはナトリウムのD2線に図5.14のように共鳴して いる.ここで,νl はレーザーの周波数を表している.RDLの発振波長は589.0 nmに設定し ており,パワーは300 mWである.
1772 MHz 16 MHz 36 MHz 60 MHz
F = 1 F = 2 F’= 0 F’= 1 F’= 2 F’= 3
3S1/2
3P3/2
Slow beam
60 MHz
ν
l20 MHz
Trap beam
Repump beam
図5.14 ナトリウムのD2線のエネルギー準位
ここからはそれぞれの光の役割を説明していく.
5.7.1 Slow beam
1772 MHz 16 MHz 36 MHz 60 MHz
F = 1 F = 2 F’= 0 F’= 1 F’= 2 F’= 3
3S1/2 3P3/2
Slow beam
60 MHz
ν
l ドップラーシフト図5.15 Slow beam RDL から出た光が EOM を通ることにより ±
1712 MHzのサイドバンドが立てられ,その後AOM によって 500 MHz だけ downshift されて,Slow beamとなる.つまりSlow beamは
νslow1 =νl+ 1712−500 =νl+ 1212 [MHz]
νslow2 =νl−500 [MHz]
νslow3 =νl−1712−500 =νl−2212 [MHz]
の3つの周波数成分を持っている.しかし,νslow3
は原子に共鳴しないので,吸収されない.
Slow beam は原子を減速するための光である.
ドップラーシフトを考慮して,低く設定しておく.
図5.15 の点線の部分がドップラーシフトを表して いる.また,νslow1 の周波数成分は Repump光の 役割も担っている.
5.7.2 Trap beam
1772 MHz 16 MHz 36 MHz 60 MHz
F = 1 F = 2 F’= 0 F’= 1 F’= 2 F’= 3
3S1/2
3P3/2
60 MHz
ν
l20 MHz
Trap beam
図5.16 Trap beam RDLから出た光がAODによって80 MHzだけ
downshiftされてTrap beamとなる.つまりTrap beamの周波数は
νtrap=νl−80 [MHz]
である.
Trap beamはF = 2↔F′ = 3 間の共鳴より20 MHz程度レッドシフトしている.F′ = 3 に励起さ れた原子は,
∆F = 0,±1
という遷移選択則があるため,自然放出し必ず F = 2に落ちる.つまり,原子は吸収と自然放出を行い,
F = 2 ↔F′ = 3 間を行き来する.この閉じた遷移 により効率的に磁気光学トラップを働かせることが できる.
5.7.3 Repump beam
1772 MHz 16 MHz 36 MHz 60 MHz
F = 1 F = 2 F’= 0 F’= 1 F’= 2 F’= 3
3S1/2
3P3/2
60 MHz
ν
l20 MHz
Trap beam
Repump beam
図5.17 Repump beam RDLから出た光がAOMによって1572 MHzだ
けupshiftされ,さらにAOMによって80 MHzだ け upshift されて Repump beam となる.つまり Repump beamの周波数は,
νrepump =νl+ 1572 + 80 =νl+ 1652 [MHz]
である.
Trap beam を吸収することにより,ほとんどの
原子は F′ = 3 に励起されるが,中にはF = 2 → F′ = 2 の遷移をする原子もある.すると,F′ = 2 の原子は自然放出して,F = 1 にも落ちる.一度 F = 1 にも落ちてしまうと,Trap beam と相互作 用しなくなり,トラップから漏れていってしまう.
そこで,Repump beamを用いて,再び F = 2 に ポンプする必要がある.