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直交ゲートナノワイヤ共振器

第 3 章 素子の作製 21

3.3 直交ゲートナノワイヤ共振器

3.3.1 素子の概要

本研究の作製手法における独自性は、液滴を用いることによりナノワイヤの高精度な位 置制御が可能となる点である。しかしながら前項で作製したバックゲート電極のみのナノ ワイヤ機械共振器は、異なる作製手法でも実現例がすでに報告されている。そこで本研究 の作製手法の特色を活かし、これまでに報告の無い直交ゲートナノワイヤ機械共振器の作 製を試みた。その模式図を図3.14に示す。

3.14 直交ゲートナノワイヤ機械共振器の模式図

この機械共振器ではナノワイヤ直下のバックゲート電極に加え、その側面にサイドゲー ト電極も有している。この2つの直交する電極を用いることで、ナノワイヤにおける2方 向の振動モードを個別に制御することが可能となる。すでに述べたようにナノワイヤは直 交する2つの振動モードを持つが、昨今このような異なる2モードの相互作用を利用した 研究が広く行われており、センサー応用や振動モード転送による振動の高速制御などの技 術が提案されている。これまでの報告例ではこのような2つのモードを有する構造とし て、結合した2つの両持ち梁を用いる例が報告されているが、直交するゲート電極を用い てナノワイヤの2つのモードを個別に制御した研究は未だ報告されていない。その理由 は、直交ゲート構造を実現するための作製手法が確立されていないからである。本研究で 用いた液滴を用いた架橋構造作製手法は、このような新しいナノワイヤ素子技術を開発す るうえでの大きなブレークスルーになることが期待される。その一例として、今回直交す る2つのゲート電極を有する、ナノワイヤを用いた架橋構造型の機械共振器の作製を試 みた。

3.3 直交ゲートナノワイヤ共振器 33

3.3.2 素子の材料

今回このデバイスにはInAs/InP がコアシェル構造になっているナノワイヤを用いた。

結晶成長の際に最初にInAsナノワイヤを成長させた後、その外側を覆うようにInPを成 長させたものである。純粋なInAsナノワイヤと比べてオーミックコンタクトを取りづら いと思われる反面、電気伝導を担うInAsの表面を保護できるというメリットがある。後 の章で述べるが、実際にこのデバイスでも良好なオーミックコンタクトを得られたため、

今回特段デメリットは無いと考えることができる。成長はInAsナノワイヤの時と同様に 減圧横型のMOCVD装置において、n-InP(111)B基板上に直径 40 nmの金コロイド溶液 を塗布し金微粒子を触媒とした VLS成長法で行った。詳細な成長条件は以下の通りであ る。

コア( InAs )の成長条件

• 全圧 7.6 Torr

全水素流量 約2.5 SLM

• TMIn (trimethyl indium) 3.6µmol/min.

• TBAs (tertiary butyl arsine) 44.6µmol/min.

• TBCl (tertiary butyl chloride) 20.0µmol/min.

• 成長温度410℃、成長時間25分 シェル( InP )の成長条件

全圧 76 Torr

• 全水素流量 約2.5 SLM

• TMIn (trimethyl indium) 3.78µmol/min.

• TBP (tertiary butyl phosphide) 2.0mmol/min.

• 成長温度410℃、成長時間30秒

図3.15のようにナノワイヤが基板上に成長できている。ワイヤの長さはInAsの時とほ ぼ同様に5µm〜20µm程度、直径は100 nm〜400 nm程度であった。

3.15 結晶成長させたInAs/InPコアシェル型ナノワイヤのSEM画像

3.3.3 作製の手順

基本的な工程の流れは前項で説明したバックゲート電極のみのナノワイヤ機械共振器と 同じである。ここでは共通する部分の説明は省略し、新たに付け加えたプロセスについて 詳しく説明を行うこととする。

壁構造の作製

バックゲート電極のみの素子作製時の工程ではCHF3 ガスによるドライエッチングで 溝の作製のみを行ったが、今回はサイドゲート電極をとりつけるために図3.16 左に示し た3つの異なる高さの領域を有する構造を作製する必要がある。そのためパターン描画と SiO2 層のドライエッチングを二度繰り返し、基準面並びに溝部分の二つの異なる深さの 領域を形成した。またサイドゲート電極の間隔をサブミクロン程度にまで近接させるた め、フォトリソグラフィではなくより精度の高い電子ビームによるリソグラフィを行っ た。図3.16 右の壁と基準面の間には高さ300 nmの段差が形成されている。詳細は後述 するが、この段差はナノワイヤの水平方向(図3.16 右の上下方向)の位置を固定するた めの「壁」の役割を果たすことになる。二度のドライエッチングにより図3.16 の構造を 作製した後、単一電極のナノワイヤ架橋構造素子の場合と同様の工程により、黄色破線で 示した領域にバックゲート電極を蒸着した。

3.3 直交ゲートナノワイヤ共振器 35

3.16 ()壁構造を模式的に示した図。()この基板を真上から見た図。壁の部分 は全くエッチングを行わない元の基板表面の領域である。基準面は基板全体を広範囲

300 nmの深さだけ削った領域であり、ナノワイヤの高さ位置の基準となる。また基

準面からさらに300 nm削った領域が溝の役割を果たし、その内部にはバックゲート電 極を作製する。

ナノワイヤの基板上への転写と正確な位置制御

次にナノワイヤの転写を行う。ナノワイヤを含む溶液を滴下し、その液滴中のナノワイ ヤをマニピュレータを用いて液滴ごと移動させるという基本的な手順は同じである。ただ し、今回は作製した壁を活かしてサイドゲート電極に対するナノワイヤの位置決めを精密 に行うため、図3.17に示したように「壁」の切れ目を抜けて溝の上に流れ出る方向に液滴 を動かす。するとブチルカルビトールの液滴は犠牲層として用いているレジストのPMGI の領域に触れたとき、その方向へ強く引き寄せられていく。これは図3.18 のようにブチ ルカルビトールはSiO2 表面とPMGI表面で濡れ性が異なるためである。

3.17 壁の存在によるナノワイヤの正確な配置手法を示した模式図

3.18 ブチルカルビトールのSiO2表面とPMGI表面に対する濡れ性の違い

ブチルカルビトールの液滴と同時に液滴中のナノワイヤも下方向へ引っ張られるように 動いて行くが、予め作製した壁がちょうどナノワイヤの動きを阻み、その結果ナノワイヤ が溝に対して正確な垂直位置に配置される。このときナノワイヤは壁にピッタリと寄って いるため、その下端の位置は図3.19 で示したように作製した壁の位置とほとんど一致し ていると言える。これはすなわちナノワイヤの配置において非常に高い位置精度の達成を 意味し、光学顕微鏡などを用いて観察することなくナノワイヤの位置を確定させることが できるため、サイドゲート電極との間隔を精密に制御することが可能となる。

3.19 3.17を真上から見た図。液滴に引っ張られたナノワイヤが壁でせき止められ、

高い位置精度を実現している。

サイドゲート電極の作製

次に、図3.19で示した位置にサイドゲート電極を作製する。これはナノワイヤ両端に ソースドレイン電極を作製するプロセスと同時に行う。すなわちサイドゲート電極は厚さ

10 nmTiと厚さ200 nmAuで構成されている。ナノワイヤの下端とサイドゲート電

極の蒸着開始面の高さは全く同じであり、また一般にナノワイヤの直径は200 nm程度で

3.4 ナノワイヤ転写工程の効率化 37

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