3. 1. はじめに
前章では, スギ品種の晩材率, 容積密度数, 仮道管の形態などの基礎的な性 質は, 品種間で大きく異なること, この品種聞に認められた違いは, 少なくと も遺伝的な要因を意識しなければならないことが明らかになった. この章では,
生育林分の相違を要因にしたときの, 基礎的性質のバラツキに関する基礎的知 識を得ることを目的にしている. すなわち, アヤスギ, クモトオシ, メアサ,
ヤブクグリの4品種を対象に, 比較的環境条件の等しい同一林分内で生育した 場合, 異なる林分で生育した場合, しかも同一の施業条件下で生育したときの 容積密度数, 晩材仮道管長, および圧縮強さの品種内バラツキを検討した.
3. 2. 実験材料と方法
3. 2. 1. 試験木
この研究で対象とした試験木は, 愛媛大学米々野演習林, 九州大学福岡演習 林, 日田林工高校三花演習林, 九州大学宮崎演習林, 宮崎大学田野演習林, 鹿 児島大学高限演習林の共同スギ品種試験地(木梨ら, 1973)の第I試験地に植 裁されている20年生のアヤスギ, クモトオシ, メアサ, ヤブクグリの4品種 である. 第I試験地は, 同一の実験計画によって設定された試験地であり, そ こにはいずれの品種もクローンを同じくする苗木が植裁されているので, それ
ぞれの品種の遺伝特性は同じであるとみなせる. なお, 各試験地および各品種 ともに, 植裁後の保育はほぼ同一条件で行われている.
各演習林からそれぞれの品種ごとに3本づっ選び試験木とした. なお, 九州 大学宮崎演習林でメアサを採取でミきなかったのでメアサの試験木数は15本で あった. 各試験木の胸高直径を測定した後, 胸高部位から2cm 厚円板と10cm
厚円板を採取し, 以後の実験に供した. 表3.1に各品種の試験木数および胸高 直径の平均値を示している.
3. 2. 2. 基礎的性質の測定
2 cm厚円板からは,髄を頂点にした扇形試験片(中心角3 00 )を切り出し,
さらに髄から5年輪ごとに分割した. この5年輸を含む試験片の容積密度数,
平均年輪幅,平均晩材率を測定した. また髄から5年輪目, 10年輪目の晩材部 の仮道管長を測定した. なお, 1年輪につき 50本の仮道管を測定し, 平均値 をもってその年輪の晩材仮道管長とした.
3. 2. 3. 縦圧縮試験
10cm厚円板の横断面で,互いに直交して髄を通る面で四つ制りにした試験片 を作った. その4試験片のうち, 節などの欠点が少ないものを2個選んで長さ 8cmに鋸断した後, 強さへの含水率の影響をなくすために飽水状態で縦圧縮試 験をおこなった. 試験後, 試験片の容積密度数を測定した.
26
表3.1 各生育地における試験木数と平均胸高直径
品 種 九州大学 愛媛大学日田林工高校九州大学宮崎大学鹿児島大学
福岡 米野々 三花 宮崎 田野 高限
アヤスギ 25 + 3 3 3 3 3 3
11 11 11.5 9.9 10.9 10.9 10.8
(2.8)
クモトオシ 26 十 3 3 3 3 3 3
16 15.7 10.1 15.2 13.7 12.1
(2.9)
メアサ 25 + 3 3 3 3 3
11 13.4 10.9 13.3 11.2
(2.8)
ヤプクグリ 25 + 3 3 3 3 3 3
13 13.3 10.4 11.5 12 11.8
(2.6)
上段:試験木数;下段:平均胸高直径;
o内:福岡演習林から得られた試験木の胸高直径の標準偏差
3. 3. 結果と考察
3. 3. ,. 容積密度数のバラツキ
同一林分内および生育地を異にするときの, 各品種の容積密度数の平均値,
標準偏差, 変動係数を, 樹幹横断面内の部位ごとに表3.2に示す. 一般に, ス ギ樹幹横断面内では, 容積密度数は髄付近で高いと報告されている(渡辺ら,
1939) (加納, 1960) (見尾ら, 1985). 表 3.2 に示すように, 4品種ともに同 様の結果が得られ, いずれのスギ材にも認められる一般的な傾向であるといえ よう. 一方, 変動係数の値には, 樹幹横断面内の各部位聞に大きな違いが認め られなかった. そこで, 扇形試験片で得られた値, すなわち樹幹横断面全体の 平均容積密度数の値について検討を進める.
同一林分内では, 容積密度数の平均値は品種によって異なり, アヤスギ, ヤ ブクグリで高く, クモトオシ, メアサで低い. 一方, バラツキの程度を表す変 動係数は, クモトオシが他の3品種に比べてやや小さい値を示しているものの,
品種間に著しい差があるとはいえず, 3'"'-'6%の範囲であった. 小田ら(1988) は, 同一林分で生育した25年生のヒゴメアサ, ホンスギ, アヤスギ, ヤブク グリのスギ4品種に対象に胸高部位容積密度数の品種内バラツキを調べ, 各品 種の変動係数値に 6'"'-'9%の値を得ている. この値と今回の実験で得られた各品 種の変動係数値から判断すると, 生育の環境条件差が少ないとみなされる同一 林分内では, 品種内の容積密度数の変動係数に品種間に著しい違いを認めず,
その値は10%以下であると推定される. ところで, 品種を分けずに4品種を一 括して求めた容積密度数の値は, 325kg/m3であり, その変動係数値は9%であ った. すなわち, 品種内での容積密度数のバラツキに比べて大きなバラツキを 示した. このことから, スギ材の性質のバラツキが問題となる際, 生育の環境
28
表3.2 同一林分および異なる林分で生育したスギ品種の容積密度数のバラツキ
同一林分 異なる林分
品 種 部 位 平均値標準偏差変動係数 平均値標準偏差変動係数 (1沼1m3) (1沼1m3) (%) (l沼1m3) (l沼1m3) (%)
アヤスギ 1'"'-'5年輪 370 28 7.6 374 36 9.6
6'"'-' 10年輪 347 28 8.0 365 30 8.1
11 '"'-'最外年輪 334 22 6.5 366 12 3.2
樹幹横断面 345 15 4.3 345 26 7.1 クモトオシ1'"'-'5年輪 324 12 3.9 330 19 5.8
6'"'-' 10年輪 290 13 4.6 293 14 4.7
11 '"'-'最外年輪 278 11 4.1 292 19 6.6
樹幹横断面 293 10 3.3 299 13 4.4
メアサ 1'"'-'5年輪 312 25 8.0 327 25 7.7
6'"'-' 10年輪 290 30 10.2 300 29 9.6
11 '"'-'最外年輪 295 25 8.5 322 45 13.3
樹幹横断面 297 16 5.3 313 28 8.8 ヤブクグリ1'"'-'5年輪 391 32 8.3 389 27 7.1
6'"'-' 10年輪 335 19 5.8 343 17 4.8
11 '"'-'最外年輪 310 26 8.5 332 28 8.3
樹幹横断面 345 20 5.9 351 22 6.3
4品種 1'"'-'5年輪 349 38 10.8 356 39 10.9
6'"'-' 10年輪 317 32 10.0 326 38 11.6
11 '"'-'最外年輪 307 30 9.8 329 44 13.2
樹幹横断面 325 30 9.1 333 36 10.7
条件差が少ないとみなされる同一林分であっても, 品種を考慮することによっ て, そのバラツキを小さくすることができると考えられる.
次に品種は同じだが生育地が異なるときの容積密度数について検討した. そ の結果, 同一林分内で得た結果と同じように, アヤスギ, ヤブクグリの容積密 度数は高く, メアサ, クモトオシのそれは低い値を示し, 品種特有の容積密度 数を持っていると考えられる. 6林分を一括するときの各品種の変動係数はク モトオシでやや小さい値を得たが, 品種間に著しい違いはみられず, 4�9%の 範囲であった. つまり, 生育地が異なっても各品種の変動係数は10%以下であ った. 品種を分けずに4品種を一括して求めた容積密度数の値は, 333kg/m3で あり, その変動係数値は11 %であった. すなわち, 品種内での容積密度数のバ ラツキに比べて大きなバラツキを示した.
ここで, 同一林分内の結果と生育地が異なるときの結果とを比較すると, 各 品種の平均容積密度数に大差が認められなかった. 他方, 変動係数では生育地 の異なる6林分を一括して求めた容積密度数の変動係数がわず、かに大きい値 を得た. そこで, 生育地の違いが容積密度数に与える影響を検討するために,
生育地問の分散分析をおこなってみた. その結果, アヤスギ, クモトオシ, ヤ ブクグリでは生育地問で容積密度数に大きな違いが認められなかったが, メア サでは生育地聞に1%水準で有意な差が認められ, 鹿児島大学と宮崎大学から 得られた材が仙の地域からの材に比べわずかに高い値を示した. メアサは, 鹿 児島から熊本にかけての南九州における代表的な品種であり, 他の品種にくら べいくつかの形質の変異l隔がやや大きいとされる(宮島, 1989). 木材の性質 についてもメアサは若干変異が大きいのかもしれない. 品種によって生育段階 での環境因子の影響の受け方に違いがあるかもしれないので この点に視点を あてた詳細な研究を進める必要があろう.
以上のように, 品種および施業条件が同じであるならば, 生育地が異なって
30
も, 容積密度数が大きなバラツキを示す傾向はないと推定される. 品種あるい は遺伝性を考慮したスギ材のバラツキ管理を考えるうえで, 極めて興味深い結 果である.
3. 3. 2. 容積密度数のバラツキの原因
品種内の容積密度数のバラツキの原因を検討するために, 前章で容積密度数 と晩材率との聞に密綾な関係が認められたので, 晩材率との関係を, それぞれ の品種の横断面内の各部位ごとに検討し, 図3.1に示している. いずれの品種 にも5%水準で、有意な正の相関関係が認められ, U_fu材率が高くなるにつれて容 積密度数は高くなっている. すなわち, 前述した品種内の容積密度数のバラツ キには, Iぬ材率の違いが関与していることは明らかである.
ところで, 前章において品種が混在した状態での年輪幅と容積密度数には相 関関係がみとめられなかった. しかし, 肥大生長の速さが密度(比重)になん らかの影響を及ぼす, という古くからの考え方が全面的に否定されているわけ ではないので, 各品種の容積密度数のバラツキを肥大生長の速さと関連づける ために, 次の検討を試みた. 試験木の樹齢はすべて同じであるので, 胸高直径 を肥大生長の速さの指標として用い, 図3.2は品種ごとに胸高直径と樹幹横断 面の平均容積密度数との関係を示している. アヤスギとヤブクグリでは1%水 準で有意な負の相関関係が認められたが, クモトオシとメアサでは相関関係が 認められなかった. 小田ら(1989)と堤ら(1989)は, スギ品種に容積密度数 が肥大生長の速さの影響を受ける品種とほとんど受けない品種の存在の可能 性を示唆している. また, black spruceによる研究においても, 材の密度と肥大 成長との関係は品種によって異なるという報告がある( Zhangら, 1995)
( Zhangら, 1996). この研究では, 樹幹横断面の平均容積密度数への肥大生
メアサr=0.74 400
300
• . . ___.
. .�珂,
一 . �・
. -�___. .�
� .-"
'EEA ・n・hu牛T・マ八nuhr・一一 7JFI
Er nHU nHU
SH-300ト
..L.
200 10
0 町、υ nHU
ィグて〆
什川J-vn・ぺu h/可ihリ,,
.・nHU可J''一一品y・FiEr nHU nHU ,“.
300ト
HHu -Eaa 20 200 0
30 20
特々_..,_-Fhd 、リJFhdふA・
'hlnHU 王L=hリJFAlr nHu nHU
SA-300ト
(百\凶ぷ)訴Mmmw海側
30
..L.
20
-L..
200 10 0 30
..L.
20
-L..
200 10 0
l免材率(%)
晩材率と容積密度数との関係
32
図3. 1