性及び生態系サービスの評価における課題」の2つに分け、整理した。
第1節 生物多様性の保全と持続可能な利用の実現に向けた 課題
我々日本人は、豊かな恵みをもたらす一方で、時として荒々しい脅威となる自然と対立 するのではなく、自然に対する畏敬の念を持ち、自然に順応し、自然と共生する知恵や自 然観をつちかってきた。そして、2011年3月に発生した東日本大震災を経験し、改めて自 然とともに生きていくこと、さらには地域や人と人とのつながりの重要性を改めて認識す るにあたり、今後の自然共生社会の実現に向けて以下のとおり課題を整理した。
(1) 生物多様性に関する理解と行動
2014
年の内閣府世論調査では、「生物多様性」の言葉の認知度は46.4%であった。
一方、近年では自然体験の機会は減少し、自然と触れ合う機会を日常的に持たない子 どもや若者が増えている。また、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する取組を 実施しているか、実施する方向で検討している事業者の割合は
2013
年時点で57.2%に
留まっており、生物多様性保全の取組は、社会で一般化する状況には至っていない。こうした現状から、実体験を通じた生物多様性への理解を進め、生物多様性の保全 と持続可能な利用に向けた取組を国民運動として展開し、生物多様性に配慮した社会 システムやライフスタイルへの転換を図っていく「生物多様性の主流化」が課題であ る。
(2) 担い手と連携の確保
生物多様性の保全や持続可能な利用に向けた動きは各地で進展しつつあるものの、
個々の地域での点的な取組や個別の主体の取組にとどまっており、面的にも分野的に も横断的な取組を進めていくことが今後の課題である。また、個人や特定の団体の努 力に頼った活動では、取組を継続していくことが困難な場合もあり、各主体間の連携 や協働による地域社会での取組体制の構築や全国的なネットワークの形成など、取組 を継続していくための仕組みづくりも重要な課題である。
同時に、地域で生物多様性の保全や関連する教育、調査研究等を担う人材が不足し ていることも課題である。
(3) 生態系サービスでつながる「自然共生圏」の認識
東日本大震災では、エネルギーや物資の生産・流通が一極集中した社会経済システ ムの脆弱性があらわになり、それぞれの地域が自立した分散型の社会システムの良さ が認識された。
生態系サービスは、豊かな自然を有する地方が主な供給源となっているが、その恩 恵は都市も含めた広域で享受している。本評価でも明らかになった通り、流域の上流
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で適切に管理された森林によって、下流では土砂流出の防止や水源の涵養といった生 態系サービスを享受できてきたが、森林は管理の担い手の不足等、様々な人為的資本 の不足によってその機能が低下し、得られるサービスが低下傾向にある生態系サービ スも存在する。しかしながら、これまで多くの場合、都市は森林管理等においてかか るコストに対する十分な負担をしてこなかった。今後はこうした関係を見直し、都市 に存在する資金や人材、情報等を地方に提供し、支えあう仕組みの構築が重要な課題 であり、生物多様性及び生態系サービスの持続的利用と管理を支援するメカニズムの 必要性は多くの研究者からも課題として認識されている1), 2)。生物多様性国家戦略
2012-2020
においても、このような、生態系サービスの需給でつながる地域を「自然共生圏」として一体でとらえている。
この考えは、供給サービス、調整サービス、文化サービスのいずれについても重要 である。供給サービスに関しては、海外も含めて資源等生産地に対し、持続可能な生 産のための適切なコスト負担が重要な課題である。調整サービスについては、例えば 洪水調節や土砂流出防止等、流域の下流域は上流域の生態系サービスに支えられてお り、生態系管理のためのコスト負担が重要な課題である。文化的サービスについては、
都市住民が日常的に自然と触れ合う機会を減らすとともに、自然の豊かな地域にふれ あいの場を求めている現状を鑑みると、この場合においても自然資源を豊かに維持す るための適切なコストを負担する仕組みづくりが課題と考えられる。
(4) 人口減少等を踏まえた国土の保全管理
2012
年1月に公表された日本の将来推計人口では、2060 年の人口が8,674
万人に なると予測されているように、人口の減少により国土の利用に余裕を見いだせるこれ からの時代は、人と国土の適切なあり方を再構築する好機でもある。こうした中で、例えば、管理が行き届かなくなる土地については、安全・安心等の観点から可能な場 合には、自然の遷移にまかせて森林に移行させていく、あるいは里地里山についても 特定の場所を重点的に保全するなど、総合的な判断も含めて国土の将来あるべき姿を 描いていくことが必要である。同時に、この生態系サービスを賢く活用するため、生 態系サービスを活用した防災減災(Eco-DRR)を推進し、気候・生態系変動へのレジ リエンスを強化することも課題の一つと言える1),2)。
しかし、都市域への人口集中を緩和し、地域への移住を増加させるためには、地域 において、希望する仕事を確保できる環境が整備される3)必要がある。一部では、地域 おこし協力隊のような、地域力の維持・強化を図る取組も実施されているが、このよ うな取組のさらなる推進も課題の一つと考えられる。
(5) 科学的知見の充実及び伝統知に根差した生態系の利用・管理
全国レベルでの生物多様性に関する情報については、
1973
年から実施している自然 環境保全基礎調査を中心に継続的な調査が行われているが、時系列の変化をとらえる ためには、こうした調査を同じ手法で継続して実施していくことが重要である。また、国、地方自治体、研究機関、博物館、NGO・NPO、専門家、市民等のさまざまな主体 が、生物多様性に関するさまざまな情報を保有している。いきものログ等の既存のデ ータベースを通じ、こうした情報を互いにより使いやすい形で提供・共有すること、
さらにはそうしたデータや学術的知見を活用して国の施策や各主体の取組につなげて いける、政策側・実務側の人員・能力体制の拡充も求められる。
生態系の管理は古くから行われてきたものであり、この手法は地域に脈々と受け継 がれてきた知識として存在している。これは地域における自然とのつながりの中で受 け継がれてきたものであるが、本評価でも明らかになったように、近年では自然との
145
つながりが希薄化してきており、多くの研究者が課題と認識2)していることからも、
伝統知の維持も念頭に、積極的に伝統知を活用した生態系の利用・管理とガバナンス の組み込み1)を促進することが課題と認識される。
(6) 計画的かつバランスのとれた国内資源の利用の推進
主に供給サービスに関して、これまでの評価の中で、生態系サービスによってオー バーユースになっているものもあれば、アンダーユースになっているものもあること が明らかとなった。
このうち、オーバーユースの可能性があると評価された水産物等については、資源 量を適切に管理し、資源を目減りさせないよう持続可能な生産を実現する必要がある。
一方、アンダーユースとなっていると考えられる林産物や農産物については、一部の 品目において海外への依存が高く、海外の生物多様性への影響が生じている可能性が 示唆された。このような品目に関しては、国内の資源のオーバーユースや周辺も含め た生態系の損失要因とならないことにも配慮しつつ、計画的かつバランスのとれた国 内資源の利用を推進することが課題と考えられる。
また、これを実現するためには、国内での生態系サービスの供給ポテンシャルを化 学的かつ定量的に把握し、資源管理等に活用する必要がある。
(7) 持続可能な消費の推進
市場において、適切な購買活動がなされなければ、事業者等が持続可能な生産の取 組を継続することは困難である。そのため、持続可能な方法で生産された財は、その コストを含めた価格で市場において取り扱われることが望ましい。
例えば、本評価でオーバーユースと評価された水産物の場合、持続可能な方法で漁 獲された水産物については、そうでない水産物に対して追加的なコストが発生や漁獲 量の減少を招く場合がある。この場合、社会において正当な評価を受け、他の水産物 と比べて高い価格で取引されるような社会的支援が必要である。環境・生態系への負 荷が小さい生産・消費パターンへの移行は、伝統知と同様に多くの研究者に課題と認 識されており、重要な課題の一つである2)。
ただし、このような倫理的消費を実現するためには、消費者の購買行動における意 思決定要素の優先順位を根本的に変化させる必要があり、事業者や行政等が連携しな がら消費者教育等を進めていくことが重要である。
(8) 健康増進への生態系サービスの効果的な活用
本評価でも明らかになったとおり、生物多様性はレクリエーションや景観の価値を 高め、私たちの精神的な充足に貢献するとともに、医薬品の開発に重要な役割を果た している。しかしながら、オーバーユースにならないよう留意は必要であるものの、
より活用の余地があると考えられる。
そのため、私たちの健康増進のため生態系サービスを賢く利用するため、生物多様 性が私たちの健康に貢献することを分かりやすく国民に伝えるとともに、これに寄与 しうる豊かな自然を確保するため、生物多様性を保全し、ふれあう機会を提供してい くことが課題である。
なお、この取組によって疾病への罹患率を低下させられることができれば、この治 療に要する社会的コストを低下させられる可能性もある。